陰陽師少女   作:花札

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学校へ辿り着いた麗華……学校周辺には、黄色いテープが貼られ、数人の警察官が見張りその周りには野次馬が群がっていた。


「な、何これ……」

「神崎!」


その声に振り返ると、木刀袋を担いだ大輔が駆け寄ってきた。


「星崎、何で……」

「山本から電話あったんだよ。

それで」
「おい、見ろよ!!

生徒が窓から飛び降りようとしてるぞ!!」


その言葉に、二人はすぐに校舎に目を向けた。窓の縁に足を乗せ飛び降りようとする数人の生徒……


「馬鹿!!五階だぞ!!」

「渚!頼む!」

「分かった!」

「氷鸞もお願い!」


札から麗華は氷鸞を出した。氷鸞が出たと同時に、渚は飛び出し彼と共に校舎へ向かった。


「星崎、雷光と一緒に校舎へ」
「麗華!!」


聞き覚えのある声に、麗華は振り返った。校舎を見ながら駆けてくる真二と緋音、その後ろから龍二の姿があった。


「兄さん、何で」

「たまたま通り掛かったらこの様だ。

一体何が」

「中にいる奴の話だと、妖怪がいるらしいんだ」

「妖怪?!」

「真二!あれ!!」


緋音が指さす方向に、全員が目を向けた。校庭に群がる六匹の妖怪……氷鸞と渚がキャッチした生徒を狙っているかのようにして、上を見上げていた。


「校舎の中にいるんじゃないの?」

「山本に聞いてみる!


もしもし?山本」
「星崎君助けて!!」


携帯から響いた声に、麗華達は耳を向けた。大輔はスピーカーに設定し話を続けた。


「おい、どうした?!」

「中に……妖怪が中に入ってこようと、ドアを体当たりしてくるんだ!

今翼達が抑えてるけど、時間の問題だよ!」

「中にも外にもいるって事?」

「そうなると、結構な数だぞ!」


「麗様!」
「麗!」


落ちようとしていた生徒達を、警官に渡してきた氷鸞と渚が、麗華達の所へ降り立った。


「中にも数多くの妖怪がいます!」

「そんな……」

「……麗華、大輔。

お前等は、校舎の中に入って生徒達の安全を確保しろ」

「え?」

「緋音、真二…お前等二人は、俺と一緒に校庭にいる奴等を倒すぞ」

「応よ!」
「うん!」


そう言うと、龍二は真二に合図を送った。真二は隠し持っていた玉を、地面に投げつけた。玉は煙を放ち、辺りに漂った。

突然現れた煙に、警察官は驚き慌てふためいていた。その隙に、龍二は黄色いテープをくぐり抜け校庭に入った。彼に続いて、真二達も中へ入った。


変わった背中

校庭を走り、攻めてくる妖怪達から逃げる龍二達。

 

 

「こんなところで、高校時代に妖怪の目くらましにと思って作成した煙玉がこんなところで役立つとは」

 

「何作ってんのよ!!アンタは」

 

「つか、警察官がこんなことしていいの?!」

 

「知ったことか!

 

母校が変な妖怪の住み家になってる挙げ句、後輩がそいつの餌食になろうとしてる所を、指を銜えて見てられるか!!」

 

「これが原因で警察官学校退学になったら、どうするんだよ!!」

 

「その時はその時だ!!」

 

「阿呆!!ニートになってみろ!!

 

輝三に言って、その弛んだ根性叩き直させるから!!あと、美幸義姉さんには離婚届出して貰うからね!!」

 

「人のプライベートに、口出しするな!!」

 

「喧嘩する前に、妖怪退治して!!」

 

 

突進してきた妖怪に龍二は、剣を取り出し振り下ろした。怯んだ妖怪に向かって、麗華は彼を飛び越えて薙刀で叩き倒した。

 

 

「おっしゃぁ!」

 

「兄妹で前に出るな!!管!!」

 

 

筒を妖怪に向け、真二は管狐を出した。管狐は妖怪に噛み付き攻撃した。

 

 

緋音は背中に担いでいた袋から、薙刀を取り出し振り回した。

 

 

「大輔!麗華!行け!!」

 

「言われなくても分かってる!」

 

「山本、窓を開けとけ!!」

 

 

大輔はそう言って携帯を切った。傍に来た焔に飛び乗り、彼女に続いて大輔も飛び乗った。

 

窓が開いていた教室に、二人は飛び込み入った。麗華は薙刀を手に、翼達をドアから離れさせた。そして勢いよくドアを開け、入ってこようとした一匹の妖怪を刺し倒した。

 

 

「す、凄ぇ」

 

「さすが神崎だ!」

 

「我等弓道部の女神!」

 

「変なこと言わないで下さい!!

 

星崎、ここを任せる。氷鸞!」

 

 

麗華の呼ぶ声に、外にいた氷鸞は教室へと飛び込んできた。

 

 

「敵がまだいるかもしれない。星崎と一緒にここを任せる」

 

「分かりました」

 

「なぁ、山本。

 

白鳥達がどこにいるかって分かるか?」

 

「分からない。

 

放送が流れて、すぐに先輩達の教室に駆け込んだから」

 

「放送?」

 

「あの化け物が出た瞬間、日本史の……名前何だっけ?あの新人」

 

「鈴村だろ?」

 

「あぁ、そうそう!」

 

「え?あの野郎が?」

 

「鈴村の奴、妖怪が出た瞬間に放送を流したらしい。

 

おかげで、怪我人は無しだ」

 

「……」

 

「そんなのデタラメだな」

 

「?」

 

「あいつに、そんな勇気があるはずない」

 

「……」

 

「そういや、神崎のクラスの担任だよな?鈴村」

 

「あ、はい……一応」

 

「……?」

 

「どうかした?」

 

「……」

 

 

黙り込む二人……その時、どこからか悲鳴が聞こえた。同時に麗華の携帯に杏莉から電話が掛かった。

 

 

「もしもし、白鳥!」

 

「中に……中に妖怪が入ってきた!!

 

男子達が掃除用具で叩いたりして、攻撃してるけど全然怯まない!!」

 

「今からそっちに行くから、場所教えて!」

 

「教室!私達の……キャア!!せ、せせ、攻めて

来るぅ!!」

 

「落ち着け!

 

一旦切るぞ!」

 

「かなりヤバい状況じゃねぇか?神崎のクラス」

 

「とにかく、クラスに行く。焔!」

 

 

外で待機していた焔は人の姿へとなり、麗華の元へ寄った。

 

 

「氷鸞、ここを任せたよ」

 

「はい!麗様、お気を付けて」

 

「あぁ」

 

 

焔に合図を送り、麗華は廊下を走り出した。

 

 

二年B組の教室……中へ入ってきた妖怪は、掃除用具を持つ男子達に攻撃しようとしていた。その時、刺股を持った鈴村が駆け付け妖怪に向かって攻撃した。頭を叩かれた妖怪は、白目を向け仰向けに倒れた。

 

 

「先生!」

「鈴村先生!」

 

「皆、怪我は?」

 

「怪我人はいません。けど、体調不良を訴える子達が」

 

 

その言葉の通り、口を手で抑える者や頭を抱える者、気分が悪く蹲る者がいた。

 

 

「先生、俺達いつ学校から出られるんですか?」

 

「早くここから出たい!」

 

「出したいのは山々なんだが……

 

校内にも校庭にも、似たような妖怪がそこら中に」

 

「そんな……」

 

「外に出た奴等がいたみたいですけど、そいつ等は?」

 

「何て説明すればいいかな……

 

妖怪が助けたって言えばいいのかな?」

 

「妖怪が助けた?」

 

「あぁ。白い髪を伸ばした女性と僧侶の格好をした男が、窓から飛び降りた生徒を助けてたんだ」

 

「……」

 

「……!先生、後ろ!!」

 

 

仰向けに倒れていた妖怪は起き上がり、鈴村に向かって突進してきた。鈴村は生徒達を後ろに、刺股を構えた。

 

迫ってくる妖怪……震える手に力を入れながら、刺股を高く上げた。

 

 

次の瞬間、妖怪の背後から刃物が貫いた。貫いた刃物は抜かれ、出来た傷口から黒い液体を出しながら妖怪は倒れた。動かなくなった妖怪の体に、足を乗せながら麗華は顔に付いた血を腕で拭き取った。

 

 

「麗華!」

 

「怪我は無さそうだね」

 

「ワァーン!怖かったよぉ!」

 

 

泣きながら抱き着いてきた華純を、宥めながら麗華は杏莉達の所へ寄った。

 

 

「どうにかして、ここから出られない?」

 

「そうは言っても、外にもいるしなぁ」

 

「嘘!?」

 

「校舎の中だけじゃなかったの?!」

 

「外いる奴等は、兄貴達が相手してる」

 

 

その時、麗華の携帯が鳴った。彼女は携帯を取り出し画面に表示されている文字を見た。そこに書かれていたのは“神崎龍二だった。嵌めていたグローブのまま、電話に出た。

 

 

「麗華、そっちの状況は?!」

 

「怪我人はいないらしい。けど、体調不良を訴える子達がいる。

 

そっちは?」

 

「倒しても倒しても、まだ出てくる」

 

「一旦、そいつ等を足止めですること出来る?」

 

「あ、あぁ……一応」

 

「氷鸞に校門から玄関までの道に、氷の壁を作らせる。退路が確保できたら、そのまま全員を外に出す。

 

体調不良で動けない奴等は、氷鸞達に運ばせる」

 

「分かった、じゃあ」

「龍二、前!!」

 

「おっと!!

 

その計画でやってくれ!切るぞ!」

 

 

耳から携帯を離した麗華は、再びどこかにかけた。

 

 

「もしも、星崎。

 

そっちに今から雷光を送るから、氷鸞にこっちに来るように言って」

 

「分かった」

 

 

携帯を切ると、麗華はポーチから札を出し投げた。札は煙を上げ、そこから人の姿をした雷光が現れた。

 

 

「……さ、侍?」

 

「……」

 

「四階の教室に、氷鸞がいる。彼と交代して」

 

「はい」

 

 

雷光は窓から四階へと昇っていった。麗華は妖怪の体に刺していた薙刀を抜き取り、ポーチから札を出しそれを教室の壁に貼った。

 

 

「外に出られるの?」

 

「さっき行った通り、氷鸞に壁を作って貰ってこの校舎にいる皆を、外へ出すつもり」

 

「麗華達も?」

 

「いや……私達は、このままここに残って妖怪達を倒す」

 

「大丈夫なの?」

 

「平気」

 

 

杏莉達と話す麗華の姿を、鈴村は見つめていた。彼に映る姿は、いつも独りでいた小学生時代。

 

 

(……理解できる人と、出会えたんだな)

 

「麗様!氷鸞、ただ今戻りました!」

 

「麗!龍達が今、奴等を抑えてる。今がチャンスだ!」

 

「分かった。氷鸞、星崎から話し聞いてるね」

 

「もちろんです」

 

「渚、氷鸞を手伝って」

 

「分かった。氷鸞、行くぞ」

 

「はい」

 

「皆はここにいて」

 

「分かったけど……麗華は?」

 

「中にいる奴等を、倒す」

 

「え?!大丈夫なの?!」

 

「退路を開くだけだ。派手にはやらない」

 

 

そう言うと、麗華は焔と共に廊下へ出た。




※龍二は現在、警察官学校に入学し寮生活をしています。

その為、麗華は実質一人暮らしをしています。けど、一人暮らしを心配した真二と緋音が交代で彼女の面倒を看に家へやってきます。来られない日は、牛鬼の所で夕飯を食べてそのまま泊まったりしています。

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