「なぁ、麗華の奴どうしたんだ?」
「龍と喧嘩した」
「龍二と?何で」
「話せば長くなる」
「……あれ?お前、何で麗華の傍にいるんだ?普通、焔だろ?麗華の傍にいるのって」
「焔は龍の傍にいる。
女同士男同士の方が、気が楽でしょ?」
「まぁ、そうだな」
「それに……焔は、知っているから。
島にいた頃の麗を」
「……」
「まぁ、元を辿れば……お前等が優を殺しさえしなければ、こんな事にはならなかっただろうな」
「っ」
(ご最も)
翌日の午後。
仏間で横になる龍二……眠る彼は夢を見ていた。
心地よい風が吹く中、龍二は幼くなり大きなおなかを擦る優華の膝で眠っていた。
『母さん……何で、兄妹って出来るの?』
『え?どうしたの?いきなり』
『今日、公園で遊んでたら……妹連れた奴が言ってきたんだ。
『俺は妹なんて欲しくなかった!!そんなに欲しいなら、こいつあげる!』って……
怒鳴った瞬間、妹大泣きして……代わりに緋音と真二が、そいつとっちめたけど……
妹出来なかったら、そいつもそんな酷いこと言わないのに、何でそういう奴の所に、妹達が出来るんだ?』
『……そうねぇ…
母さんも父さんも、末っ子だから姉さん達の気持ちは分からない。
けど、輝三義兄さんや美子姉さん見てたら思ったんだ。
芯が強くて優しい子の所に、妹達が産まれるんじゃないかなって』
『強くて、優しい?』
『そう……たぶんその子は、まだそれが育て中で妹にしか目を向けない大人達に反抗してたんじゃないかな?
自分もいるんだ!自分のことも見てくれ!って』
『……』
『けど、その辺は龍二は平気ね!』
『え?』
『だって龍二、この子が出来たって時、泣きもしなかったし赤ちゃん返りもしないで、よく母さんの手伝いしてくれるじゃない。
最近じゃ、簡単な料理も出来るようになったし』
『だって……
そいつ産まれたら……母さん達がいない間、俺が面倒見なきゃいけねぇじゃん。だったら、何でも出来る頼り甲斐のある兄ちゃんになりたいんだ!』
『なれるよ!龍二なら。
もしかしたら、この子お兄ちゃん子になるかも』
お腹を擦り、そして幼い龍二の頭を優華は撫でた。
『龍二』
『?』
『この子を、守ってね』
目を開ける龍二……いつの間にか掛けられていた毛布を退かしながら、目から流れていた涙を拭いた。
(……お袋の夢見るなんて)
「お!やっと起きた」
「?焔……ってか、起こせよ!」
「何か、気持ちよさそうに寝てたからほっといた」
「お前なぁ」
「じゃあ、さっさと麗と仲直りしろ。
そうすりゃ、俺は姉者と交代だ」
「……」
「今回は龍が悪いぞ。
麗は、今回のこと自分で片を付けるって言ってたんだから」
「……
なぁ、焔」
「?」
「……島にいた頃の事、教えてくれねぇか?」
「……」
「俺は一部しか聞いてない。
というより、聞こうとしなかった……麗華とお前のことを考えて。
けど、鈴村……あいつが現れて。どうすればいいか分からなくなった途端、頭が真っ白になって抑えてた何かが爆発して……気が付いたら、殴ってて」
「そんで、あの喧嘩か……
まぁ、龍が思う気持ち分からなくはない。
俺もあいつ見た時、焼き殺そうかと思った」
「よく焼かなかったな」
「焼く前に、麗に言われた。
『合図を出すまで、手を出すな』って。主の命令は絶対だから」
「……」
「さて、話しますか。島のいた頃の事」
焔は龍二の前に座り、話し出した。
外を歩く麗華……
「お兄ちゃん、待ってぇ!」
「早く!置いてくぞ!」
自身を横切る、ランドセルを背負った兄妹が走って行った。
「……渚」
「?」
「兄貴って、私が島にいる間どんな感じだったの?」
「え?」
「昨日あんなに強く言ったけど……私、島にいる頃の兄貴を知らない。いない間、どうしてたのかなぁって」
「……お前が行ってしばらくの間は、ずっと泣きっぱなしだった。
学校が始まるまでの間、ずっと」
「……」
「どうしていいか分からず、私はすぐに緋音と真二に助けを求めた。
だが、二人が来るとあいつはいつもケロッとしていた。目元が真っ赤に腫れ上がっていたのに二人は気付き、気を使い龍に合わせてくれた。
だが、二人が帰った直後再び泣き喚いた」
「……」
「そんな日々がずっと続いていた。
学校にいる間は、全然平気なんだが……一人になった途端泣き出して。いつも慰めていたっけ」
「……兄貴も泣いてたんだ」
「麗もか?」
「うん……一晩中泣いてた。
焔に抱き着いて……多分、酷い夜泣きだったと思うよ」
「……」
その時、携帯が鳴った。麗華はポケットに手を入れ携帯を取り出し、画面を見た。画面には白鳥杏莉と表示されていた。
「白鳥?
どうかし」
「麗華、助けて!!」
数分前……
昼休みを楽しむ生徒達……ふと、ある生徒が何気に外を見た。窓硝子を破り入ってきた六匹の妖怪。生徒は腰を抜かし、そして悲鳴を上げた。
硝子が割れる音と悲鳴に、他の生徒達は動かしていた手や足を止めた。
「な、何?今の音」
「さぁ……」
「……」
「ワァァアアアア!!」
叫び声が校内に響き渡った。その声に、職員室にいた教師は外へ出て廊下を見た。向こうから駆けてくる男子生徒と彼を追い掛けてくる六匹の妖怪……唖然とする教師を退かし、鈴村は外へ出て走ってくる生徒の手を掴み職員室へ連れ込みドアを勢いよく閉めた。
「ハァ……ハァ……
だ、大丈夫?」
「あ、はい……」
「君はここにいて。
剛田先生、校内放送しますので放送室の鍵を!」
「あ、はい!」
「他の先生方は、決して教室から出ないで下さい!」
「わ、分かりました!」
刺股を手に、鈴村は職員室を出て行った。
息を殺しながら、放送室へ向かう鈴村……
(大丈夫……大丈夫。
もう、逃げないって決めたんだ。あの時の自分とは違う)
走馬燈のようにして蘇る過去を、振り払いながら鈴村は放送室へ辿り着き校内放送をした。
「緊急事態が発生しました。
廊下にいる生徒の皆さん、どこでもいいです……すぐに教室へ入って下さい!繰り返します!」
鈴村の震えた声に、ただ事ではないと悟った生徒達はすぐに近くの教室へ入った。生徒全員が教室へ入ったとほぼ同時に、廊下を六匹の妖怪が這いずり回っていた。
生徒達は身を潜め、息を殺しながら教室内に留まった。その中、杏莉は鞄を漁りそして携帯を取り出すと麗華に掛けたのだった。
「麗華、助けて!!早くしないと、皆が!!」
「落ち着いて白鳥!
すぐ、行くから!場所は学校?」
「そうよ!!早く!」
電話を切り、麗華はポケットに携帯をしまうと渚と共に学校へ向かった。
同じ頃、龍二の所へ真二達から電話が掛かっていた。内容は母校の前にパトカーが数台駐まっており、ただ事じゃないと……彼は焔を連れて、学校へ急いだ。