陰陽師少女   作:花札

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ホームルームが終わったB組の生徒達は、自身のクラスで起こった事を他のクラスメイトに話していた。


「神崎さん達、大丈夫かな?」


あれからいなくなった二人の席に、目を向けながら卓也は心配そうに言った。


「凄かったよねぇ、大輔のあの顔」

「麗華も突然体調壊して、教室飛び出した後そのまま保健室だって」

「あらら」

「……あ、星崎君」


後ろのドアから入ってくる大輔に、騒いでいた生徒達は皆声を潜め始めた。彼は自身の鞄と麗華の鞄を持つと、そのまま教室を出て行った。

そんな彼の後を、朝妃達は心配になり追い掛けていった。


保健室に入った大輔は、テーブルの上に鞄を置いた。すると麗華の鞄に付けてあったポーチからシガンが顔を出し、外へ出るとカーテンが閉められていたベッドに登り彼女の膝の上に乗った。麗華は今起きたばかりなのか、ボサボサになった髪を指で梳かしていた。


「具合どうだ?」

「……正直、最悪」

「だろうな」

「鞄、ありがとう」

「どうって事ねぇよ……」

「……あいつは(鈴村)?」

「剛田と一緒に、職員室」

「そう……」


鞄の元へ行こうとベッドから立ち上がろうとしたその時、足がふらつき麗華は倒れかけた。それを大輔は慌てて支えた。


「大丈夫か?」

「……大丈夫。足がふらついただけ」

「お前……震えてるぞ?」

「震えるさ……あいつを滅多刺しにしたんだから」


震える手を見ながら、麗華はそう言った。


その話を、外で盗み聞きしていた杏莉達は口を開けて驚いていた。


「で、あいつはどういう経緯でまた教師を?」

「知らねぇ。聞く前に、思いっ切り殴り飛ばしたから」

「だろうと思った」

「……明日から、どうする?」

「気持ちの整理が付かないと、行けそうにもない。

あの時と同じ感情が、今にも吹き出しそうなんだ……


たぶん、今回吹き出したら殺りかねない」

「……」

「あ~あ、せっかく上手くいってたのに……

皆に妖力のことを話して、受け入れて貰ったばかりなのに……」


シガンの頭を撫でながら、麗華は窓の外をボーッと眺めた。


代償

夜……

月明かりが照らす縁側で、麗華は部屋を暗くして庭を眺めていた。その時、居間に明かりが灯り後ろを振り返った。そこにいたのは、ネクタイを解きながら帰ってきた龍二だった。

 

 

「部屋の明かりも点けないで、何やってんだ?」

 

「……別に」

 

「……」

 

「ねぇ……」

 

「ん?」

 

「……明日から、しばらく学校休んでいい?」

 

 

突然の発言に、龍二は持っていたコップを危うく落としかけた。

 

 

「……学校で何かあったのか?」

 

「別に……」

 

「じゃあ、体の調子が悪いのか?」

 

「違う……ただ、休みたいだけ」

 

「……ダメだ!」

 

「……」

 

「そんな、理由も無しに学校休むなんて。

 

明日は普通に行け」

 

「……嫌だ」

 

「麗華!」

 

「何も知らないくせに、行け行け言うな!!」

 

 

立ち上がった麗華はそう怒鳴りながら、龍二を殴った。殴れた勢いで倒れかけたが何とか持ち堪えた彼は、麗華の顔を見てハッとした。

 

あの日、島へ迎えに行った時と同じ顔の彼女がそこにいた。

 

 

麗華は何も言わずに、部屋へと入り籠もってしまった。

 

 

「どうしたんだ?麗の奴……」

 

「……焔、学校で何かあったのか?」

 

「麗が言わないなら、俺も言わない」

 

 

体を伸ばした焔は、人から鼬へと姿を変え麗華の部屋へ行った。

 

 

「……渚、あれが反抗期というものか?」

 

「知らん」

 

 

 

暗い部屋の中、大輔はソファーに横になっていた。窓からは月明かりが差し込んでいた。

 

 

その時、電話が鳴った。ほっとくと留守電になり声が聞こえてきた。

 

 

 

《父さんだ。

 

二年生になったみたいだな。おめでとう。

 

 

夏休み、話すことがあるからいったん島へ帰ってきてくれ。お金は後で送る》

 

(……話す事なんざ、何もねぇよ)

 

 

そう思いながら起き上がり、大輔は留守電を消去した。

 

 

 

翌日……仕事中、龍二は麗華のことが気になってしまい早退し学校へ行った。

 

 

「お!神崎じゃないか!」

 

 

その声に、龍二は職員室の戸に触れようとしていた手を止め、振り向いた。そこにいたのは、剛田だった。

 

 

「剛田先生!

 

って、俺結婚して今三神なんですけど」

 

「あー!そうだったな!すまんすまん!

 

 

いやぁ、しかしあれだな!制服なんか着て、さすが警察官って感じだな!」

 

「まだまだ、ひよっこですよ!

 

警察官学校に入学したばかり何で」

 

「そうか!ハッハッハッハッハ!

 

そういえば、日野崎と滝沢はどうしてる?」

 

「二人は、まだ大学生ですよ!

 

毎日、勉強で疲れるって言ってました」

 

「そうかそうか!

 

っと、昔話はここまでにして。今日はどうした?学校に来て」

 

「……実は、妹のことで少し話が」

 

「そういや今朝、しばらく休むって連絡あったが……

 

ちょっと、待ってろ」

 

 

職員室に入った剛田は他の先生に何かを伝えると、別室の鍵を手に龍二を連れて行った。就いた部屋は会議室だった。

 

 

「さ、ここだったら俺とお前の二人だけだ。話してくれ」

 

「わざわざすみません。

 

 

昨日の夜、突然しばらく学校を休みたいって言い出して……普段は俺と俺等を担当している医者の判断で休ませているんですが、自分から休むなんて中学以来で」

 

「そうか……」

 

「何かあったのかって聞いても、黙ったままで無理に行かせるのも可哀想ですし……

 

あいつ、小学生の頃酷いいじめを受けていてその傷がまだ完全に癒えてないんです」

 

「そっかぁ……じゃあ、昨日のこと話してないのか」

 

「やっぱり、何かあったんですか?」

 

「お前の妹さんと同じように、休んでる生徒がいるんだ。

 

星崎大輔っていう男子生徒も、今朝電話があってしばらく学校を休むって連絡が」

 

「あぁ、その大輔った奴一時期麗華と同じ小学校に通ってた友達です」

 

「何だ、知ってたのか。

 

じゃあ、話は早いな」

 

「?」

 

「実はな……」

 

 

剛田の話を聞く龍二……一瞬頭が真っ白になった。そしてフツフツと何かが沸騰しそうになっていった。

 

 

話を聞き終え、剛田と一緒に廊下を歩いていた。

 

 

「あれ?剛田先生、その方は?」

 

 

その声に、龍二はスッと目を向けた。

 

自分よりやや低めの男……昨日とは違う青いネクタイを締め、紺色のスーツに身を包み、まだ子供観が残る顔立ちをした鈴村が立っていた。

 

 

その男を見た瞬間、龍二の中で沸騰しそうになっていたものが弾けたような音と共に破裂した。

 

 

「キャァァア!!」

 

 

女子生徒の悲鳴が響いた。手に持っていた荷物を落とし、床に尻をつく鈴村。殴られたのか、抑えていた頬の箇所が見る見るうちに赤くなり口から血が出てきた。

 

 

「……か、神崎!落ち着け!」

 

「……デ」

 

「?」

 

「テメェのせいで、妹がどれだけ傷ついたか分かってんのか!!

 

生徒の心を壊しときながら、よくもまぁまた教職に就こうと思ったな!!」

 

 

胸倉を掴みながら、龍二は怒鳴った。

 

その後、龍二は騒ぎに駆けつけた教師達に抑えられた。




夜……


自身の仕事を抜けてきたた桐島は、案内された会議室へ入った。そこには、離れた箇所に座る龍二と剛田がいた。


「警視の桐島です。


すみません、先生。うちの部下が」

「いえ。我々の方こそ申し訳ありません」

「……」


抑えられた際に出来たのか、頬に伴奏湖を張った龍二の目は未だに怒りの色が見えていた。

その時、会議室の戸が叩かれ外から婦警と麗華が入ってきた。


「神崎」
「麗華ちゃん」


二人は彼女の姿に驚いた。麗華は婦警に礼を言うと、龍二の元へ駆け寄った。


「……殴ったんだって?」

「……」

「庶民の安全を守るはずの警察官が、庶民殴ってどうするの?ケジメがつかないじゃん」

「……お前を苦しめた先公を、殴って何が悪い」

「……」


その言葉に、麗華はキレ龍二の頬を殴った。椅子から崩れ落ちた彼は頬を抑えながら、彼女を睨んだ。


「いちいち人のことで首突っ込まないで!!

これは、私の問題なんだから!!」

「テメェの問題だからこそ、兄である俺が心配なんだろ!!」

「それが余計なお節介なの!!」

「コ、コラ!こんな所で兄妹喧嘩は!!」


激しく喧嘩をする二人を、剛田は仲裁に入るが勢いは止まらなかった。すると鼬姿になっていた焔と渚は人の姿になり、二人を抑えた。


「龍、抑えろ!!大人げないぞ!!」

「……チィ!!」


渚の手を振り払い、龍二は部屋を出て行った。乱暴に戸を閉めた彼に、麗華は深くため息を吐きながら乱れた服の裾を直した。


「全く……

兄の処分、どうなるんですか?」

「一応、形としてしばらくの間は自宅謹慎にしているが。

最悪、学校で軟禁するつもりだ」


「そっちのほうが、兄にはいいと思います。


少し頭冷やさせないと」

「被害者側も、被害届は出さないって言ってた……それに」

「それに?」

「殴られて当然だったから、彼の罪は軽くしてくれって」

「当然って……

誰のせいで……誰のせいで、兄貴がアンタを殴ったと思ってんの!!」

「れ、麗華ちゃん?」

「!……す、すみません。

昨日から、頭の中がゴチャゴチャして」


頭を抑えながら、麗華は部屋を出て言った。残されていた焔と渚は互いを見合うと頷き、彼女の後を渚は追い駆けて行った。

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