陰陽師少女   作:花札

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風呂から上がった杏莉達は、麗華に連れられて布団が敷かれている部屋にいた。


「じゃあ、あの傷は妖怪と戦って出来たんだ」


髪をタオルで拭きながら、杏莉は麗華の話を聞いていた。麗華は自身の髪の毛を乾かした後、前で座る果穂の髪の毛をドライヤーで乾かしていた。


「そう。そんで、あの顔になったの。

警視監になる前は、マル暴の刑事課で刑事課長務めてたし」

「マル暴って?」

「ヤクザとか暴力団、暴走族を担当する刑事のこと」

「へ~」

「今思ったけど、お前(果穂)よくあんなのが傍にいて平気だな」

「私は産まれた時から、ずっとジィジの顔見てたから。

私より凄いのは、お姉ちゃんだよ!」

「え?麗華が?」

「コラ、余計なこと」
「ママから聞いたんだけど、お姉ちゃん初めてジィジに会った時泣きもしなかったんだって!」

「……え!?」

「あの顔だよ!?怖くなかったの!?」

「怖いは余計だ。


まぁ、雰囲気が父さんに似てたから顔見てもそこまで」

「さすが兄弟!」

「ねぇ、麗華さんの父ちゃんってどんな仕事してるの?」

「警察官」

「じゃあ、伯父さんと同じ職?」

「刑事課の警部……


ほら、電気消すよ」


一瞬悲しい顔になった麗華に、杏莉は気になったがそれ以上は聞かず布団に入り眠りについた。


擦れ違った者

早朝……

 

 

「ファァァ、眠い」

 

 

縁側を歩く音とその声に、杏莉は薄らと目を覚ました。隣で寝ていた麗華は、眠い目を擦りながら着替え彼女達を起こさないように部屋を出て行き声がした方へ行った。出て行った彼女を見た杏莉は、再び眠りについた。

 

 

「泰明さん、あんまり騒がないで下さい。

 

果穂達、まだ寝てるんで」

 

「悪い悪い」

 

「そんじゃ、とっとと森の中走ってこい」

 

「は~い」

「へ~い」

 

 

軽く返事をしながら、麗華と泰明は森付近まで来るとそこから走り出した。

 

 

 

数時間後……

 

 

話し声で、杏莉は目を覚ました。体を伸ばすと彼女は枕元に置いていた服に着替え始めた。

 

 

「じゃあ、部屋に荷物置いてきますね!」

 

「はーい!」

 

 

その声と共に、杏莉がいた和室の障子が開いた。開いた音に驚いた杏莉は、手を止め後ろを振り返った。そこにいたのは、彼女の下着姿を見て放心状態になった龍二だった。

 

 

「……き、キャァァァアアアア!!」

「ウワァァァアアアア!!」

 

 

悲鳴に驚いた麗華は、シャワーを止め慌てて杏莉の部屋へ向かった。

 

部屋では悲鳴に驚いた果穂と勇太が飛び起きていた。

 

 

「既婚の警察官卵が、何女子高生の裸見てんだ!!」

 

 

襖前に突っ立っていた龍二に、麗華は訳も聞かずに跳び蹴りを食らわせた。

 

 

 

「先程は失礼しました!」

 

「い、いえ……こひらこひょ(こちらこそ)」

 

 

朝食中、杏莉は赤く腫れた頬になった龍二に土下座しながら謝り彼も同じようにして土下座して謝った。

 

 

「全く、私ならともかく他人の裸見るなんて……

 

美幸義姉さんがいたら、どうなってたことか」

 

「それを言うな……

 

俺だって、まさか麗華のクラスメイトが泊まってるとは思わなかった」

 

「ま、お相子ってことで」

 

「どこがだよ!!」

 

「まぁまぁ、いいじゃねぇか!過ぎたことは!

 

ところで龍二君」

 

「?」

 

「あの女子高生、スタイルどうでしたか?」

 

「ちょっと、泰明さん!」

 

 

嫌らしい目をした泰明の手に、龍二はズボンポケットに入れていた手錠を取り出し掛けた。

 

 

「午前八時十一分、セクハラ行為により現行犯逮捕します」

 

「おいぃぃ!!」

 

「父ちゃん、悪い事したの?」

 

「俺は無実だ!!」

 

「まぁ、これはおもちゃだし遊びですから逮捕はしませんよ。

 

それに、まだ正式に警察官になったわけじゃありませんから」

 

「当たり前だ!!俺は無実なんだから」

 

「何が無実です!!ちゃんと反省して下さい!!」

 

「す、すみません」

 

 

 

朝食後、麗華は杏莉達を連れて宿へ向かった。

 

 

「お兄さん、結構いい人だね。私の親と大違い」

 

「言っとくけど、昔より過保護になったよ」

 

「え?そうなの?」

 

「昔は、夜外に出てもあんまり怒らなかったし……それどころか、一緒に歩いたこともある。

 

六年の時、修学旅行の送りだけでどれだけ心配されたか。下手したらついて行くとか言い出して」

 

「わぁ……それは、ちょっと」

 

「最近じゃ、お節介になって……

 

まぁ、嫌じゃないけど」

 

「鬱陶しくないの?」

 

「別に。それを元に喧嘩を始めるって感じだから」

 

(あぁ、喧嘩はするんだ)

 

「ほら、そろそろ着くよ」

 

 

斜面を下り、森を抜けるとそこは昨日入っていった場所だった。そこから少し歩くと、杏莉達が泊まる宿に辿り着いた。

 

 

「嘘、着いちゃった……

 

私達、ここに着くまでに丸一日かかったのに」

 

「道に迷ってた俺等って、一体……」

 

「だから言ったでしょ?

 

この森は、私達にとっては庭みたいなものだって」

 

(恐るべし、地元人)

 

 

宿の中に入ると、丁度そこへ杏莉の両親が二階の部屋からロビーへ降りてくるところだった。

 

 

「何だ、もう帰ってきたのか。

 

今から迎えに行こうと思ってたんだ」

 

「麗華が送ってくれたの」

 

「そうか……ありがとう、麗華ちゃん」

 

「いえ、私はそんな」

 

「ねぇ、母ちゃんは?」

 

「まだ寝てるよ。

 

夜中、ずっと起きてたみたいでね」

 

「懲りない人」

 

「……話した方がいいかもね」

 

「え?」

 

「ママの家系って、由緒ある資産家のお家だったんだ。けどママが産まれて、跡継ぎがいないって事で終わっちゃったんだ」

 

「パパは継がなかったの?」

 

「パパには今の仕事があったから、継ぐことが出来なくて……

 

それが理由なのかママの家庭内事情なのか……ママのママとパパ、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんがママをいじめるようになったんだ。

 

 

『お前が男で産まれていれば、跡継ぎが出来たのに』

『男を作って、早く男を産め』って……」

 

「お祖母ちゃん達、酷い……」

 

「初めて出来た子供が杏莉だった。ママ、杏莉が産まれてからしばらくの間、病院に入院してたんだ。体を壊して」

 

「……」

 

「歳を重ねていく内に、ママは段々自分を追い詰めていくようになっていった……

 

けど、そんな時勇太が出来たんだ。

 

 

勇太が出来て男だと分かった途端、お祖母ちゃん達の態度が手のひらを返したかのようにして変わって……ママもやっと元気になったんだ」

 

「……何か、元の原因は全て」

 

「祖母ちゃん達だな」

 

「勇太、家帰ったらやること分かる?」

 

「もちろん」

 

「え?パパ、何も分からないんだけど」

 

「安心して!

 

帰ったら、お祖母ちゃん達を思いっきり叱るだけだから!」

 

 

満面な笑みを浮かべながら、杏莉と勇太は言った。麗華は呆れながらも鼻で笑い、父親はアタフタしながら麗華と杏莉達を交互に見た。

 

 

 

帰り道……新幹線を待つ杏莉達。彼女は勇太と一緒に、お土産コーナーでものを買っていた。

 

 

「勇太!そろそろ決めないと、新幹線着いちゃうよ!」

 

「あー、待ってよぉ!

 

これに決めた!」

 

 

決めた商品を手に、勇太はレジに並んでいる杏莉の元へ駆け寄ろうとした時、誰かにぶつかった。ぶつけた箇所を押さえながら、勇太は顔を上げた。ぶつかった先にいたのは、ガラの悪い二人の男だった。

 

 

「おいクソガキ、どこに目ぇ付けてんだ?」

 

「え、えっと……ご、ごめんなさい!」

 

「謝って済む問題じゃねぇんだよ!」

 

 

レジで会計していた杏莉は店員からお釣りを貰うと、急いで勇太の元へ駆け寄った。

 

 

「ちょっと、何ですか!いきなり!」

 

「そのくそガキが、俺達にぶつかってきたんだよ!」

 

「お、俺ちゃんと謝ったよ!!」

 

「姉ちゃん、この僕のお姉さんかい?」

 

「そうですけど……!」

 

 

突然手首を掴まれた杏莉は、離れようと暴れるがビクともしなかった。

 

 

「ちょっと、俺等に付き合ってな。そしたら、許してあげる」

 

「い、嫌です!!ここで、謝って許してください!!」

 

「まぁまぁ、何もしないって!そんじゃ、行こうか」

 

「い、嫌ぁ!」

 

「け、警察呼びますよ!!」

 

 

傍にいた買い物客がそう脅すが、男は客の顔面を殴った。そして怒鳴り散らした。

 

 

「今ここで、警察呼んでみろ!!

 

この姉ちゃんの命、無いぞ?」

 

「っ……」

 

「ね、姉ちゃん!!」

 

 

「なぁ!それ、俺も混ぜてくれ!」

 

 

その声が聞こえ、男は後ろを振り返った。そこには悪戯笑みを浮かべた陽一が立っていた。キョトンとしている男に向かって、陽一は腹を殴った。男は泡を吹いて倒れ込み、杏莉にナイフを突きつけていた男は怯えながらも彼女を人質にナイフを振り回した。

 

 

「そんなナイフ振り回したら、危ないやろ!」

 

 

振り回すナイフを受け止めながら、陽一は杏莉を男から離した。震えだす男に、陽一は顔面に回し蹴りを喰らわせ、伸びた二人を騒ぎで駆け付けた駅員に受け渡した。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「別にええって!

 

ほな、さいなら」

 

 

軽く手を振って、陽一はその場から去って行った。




「麗ぃ!来たでぇ!!」


輝三の家に着いた陽一は大声を出しながら、靴を脱ぎ家の中へ入って行った。その後を美幸と輝一達は慌てて追い駆けて行った。


「お!麗、見っけ!」


庭に置かれていたサンダルを履き、陽一は薙刀を持った麗華の元へ駆け寄った。


「やっと来た。遅い!」

「そう怒るな!駅で、ごたごた片付けたんやから少しは褒めてぇな!」

「ごたごたって?」

「女子高生が危うく連れて行かれそうになったところを、陽一が助けたんや」

「へ~。さっすが」

「へへ!

荷物置いたら、組手の相手頼むわ!」

「いいよ」

「よっしゃぁ!!」


燥ぐ二人の隣、美幸は龍二の元へ駆け寄り抱き着いた。龍二は抱き着いてきた彼女を持ち上げ、一室へ入って行った。その光景を見た陽一と麗華は、互いを見合って笑い合った。

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