陰陽師少女   作:花札

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山道をトボトボと歩く杏莉……彼女の後を、焔は木から木へと移動しながらついて行っていた。

その時、足を踏み外し杏莉は崖下へ落ちた。その瞬間、焔は飛び降り彼女の手を掴み助けた。


「……あ、ありがとう」

「夜の山道は危険だ。あんまり出歩くな」

「……アンタあの焔って犬…狼だよね?」

「そうだが……お前、犬って言い掛けたか?」

「き、気のせい気のせい……ハハハ」

「……」


悩み

別の所を、果穂は優太と歩いていた。二人の後を狼がついて来ていた。

 

 

「なぁ、どこまで行くんだよ……」

 

「お姉ちゃん達捜しに、ここに入ってきたんだよ!二人を捜すの!」

 

「……お前、母ちゃんの言うこと聞かなくてよかったのか?」

 

「いいの。

 

拓海のせいで、いろんなことが禁止されてんだもん。バァバの家に来た時くらい好きにさせてもらいたい」

 

「禁止って?」

 

「プール行っちゃ駄目とか、お祭り行っちゃ駄目とか、ゲームセンター行っちゃ駄目とか……とにかく、何でも駄目駄目なの!!アンタと違って!」

 

「まだいいじゃねぇか(ゲーセンはさすがに駄目だろ)。

 

俺なんて、どっか行こうとするだけで姉ちゃんの帰り待ってろだぜ?ヘタしたら、母ちゃんがついて行くっていう始末だし」

 

「……アンタのママ、心配性なうえに過保護なんだね」

 

「極度な。正直、俺もう嫌なんだ。

 

夏休み、友達から海に行かないかって誘いがあったんだ。母ちゃんに言うとまた何か言われると思って、友達の家に行って来るって嘘吐いて海に行ったんだ。

 

 

けど、海に行って怪我しちまったんだ。腕に軽い切り傷が出来て……結構デカかったから、包帯撒いて家に帰ってきたんだけど……その傷見て母ちゃんが錯乱しちゃって。

 

部活から帰ってきた何の関係も無い姉ちゃんを怒鳴って……父ちゃんが帰って来るまで、本当に大変だった」

 

「それはお気の毒に」

 

「そのせいで、姉ちゃん夏休みが終わるまでずっと家にいたんだ。どっか出掛ける時も、俺を連れて行かなきゃいけなくなったみたいで」

 

「……」

 

「それ以来、母ちゃんと姉ちゃん顔を合わせれば喧嘩バッカするようになったし。

 

今回の旅行、二人を仲直りさせようってことで父ちゃんと考えたんだ。けど初っ端から喧嘩するとは思わなかった……」

 

「フーン……一応、お姉ちゃんに悪いとは思ってるんだ」

 

「当ったり前だろ!!

 

俺のせいで、姉ちゃんいろんなことを我慢してるんだ……」

 

「じゃあママに言えば?もう俺に構うなって」

 

「言ったさ!!けど……」

 

「けど?」

 

「泣き喚かれた」

 

「……」

 

 

 

その頃麗華は、懐中電灯で道を照らしながらムーンと一緒に山の中を歩いていた。

 

 

「さぁて、どこに行ったのやら……」

 

「ウーン!」

 

「どうかしたか?」

 

 

鼻を動かしたムーンは、何かに気付いたのか先を歩き出した。茂みをかき分けながら、歩いて行くとそこには杏莉と焔がいた。

 

 

「麗華」

 

「見っけ。焔、付添ご苦労様」

 

「応」

 

 

人から大狼へと変わると、焔は麗華の傍へ擦り寄った。寄ってきた焔の頬を、麗華は撫でてやった。

 

 

「戻るよ」

 

「……」

 

 

黙り込む杏莉……彼女は、その場に座り込んでしまった。軽くため息を吐いた麗華は、杏莉の隣に座った。焔は彼女達の後ろへムーンは麗華の隣に座り頭を彼女の膝へ乗せた。

 

 

「小学校低学年の頃だった……勇太が産まれたのは」

 

「……」

 

「小さくて、可愛くて……指差し出したら、ギュっ手握ってくれた。弱い力で……

 

 

でも、産まれてから……ううん、産まれる前からママはおかしくなった」

 

「え?」

 

「勇太がまだお腹にいた頃、勝手に友達の家に電話して、誕生会欠席させられたんだ。

 

産まれてからも、いろんなこと我慢させられた。それが原因で……友達は皆、私から離れて行った。どんなに抗議しても、ママは『杏莉はお姉ちゃんなんだから、我慢してね』って言うだけ。

 

 

中学に入ってからは、ママの言いつけ破って部活に入った。部活に新しくできた友達、学校生活……何もかもが楽しかった。だから、家に帰るのがだんだん遅くなってった。

 

帰りが遅くなる度に、ママは私を怒るようになった……私も反攻して、帰りをどんどん遅くしてやった。

 

 

そんな時、大きな事件起きちゃった」

 

「事件?」

 

「事件って言っても、家庭内事件。

 

 

中学の時、演劇部の発表会が近くなって休みに練習が入るようになった。私さ、侍女役で出ることになってて……日曜日だった。朝からあったから、勝手に起きて制服に着替えて荷物持って……出ようと思って部屋を出た時だった」

 

 

『杏莉、こんな朝からどこに行くの?』

 

『部活』

 

『休めない?』

 

『ハァ?!何で?!』

 

『ママ、今日出掛けなきゃいけないの。パパも仕事で出るっていうし……

 

勇太の面倒を見て欲しいの』

 

『ふざけないで!!私休んだら、部活の練習できなくなるから無理!!』

 

『じゃあ勇太の面倒は誰が見るの?』

 

『知らないわよ!!そんなの!!

 

私行くから!』

 

『待って!!

 

行くなら、勇太を連れてって』

 

『何馬鹿なこと言ってんの!?出来るわけないじゃない!!』

 

『じゃあ休んで、勇太の面倒を見てよ!』

 

『だから無理だって言ってるでしょ!!』

 

 

「延々と喧嘩が続いた。

 

 

騒ぎでパパが起きて、お祖母ちゃんを呼ぶからってことでその場は何とか収まった」

 

「……」

 

「同じ様なことが何回もあって……その度に遅刻して……

 

おかげで、私の役は脇役ばかり……下手したら裏方に回された事もあった……

 

主役をやりたかったのに……演技をしたかったのに」

 

「……兄貴も、大変だったのかな」

 

「え?」

 

 

寄ってきた焔の頭を撫でながら、麗華は話し出した。

 

 

「母さんが病院で働いてて、しょっちゅう家を空けてた。

 

母さんが帰ってこない間、ずっと兄貴が傍にいた。それが当たり前だった。

 

学校から帰ってきて、宿題すると私と遊んでくれた……親が帰ってくるまでずっと……

 

 

帰ってこられない日には、ご飯作ってくれてお風呂一緒に入って……私が寝るまで一緒にベッドで横になってくれて。

 

今考えると……兄貴の奴、相当色んな事我慢してたんだな」

 

「……パパは?」

 

「さぁ」

 

「さぁって……」

 

「うち、今は兄貴と私の二人だけだし。

 

親のこと、あんまり考えないようにしてるから」

 

「……何か、酷いことでもされたの?」

 

「別に。

 

さ、戻ろう」

 

 

ムーンの頭を退かしながら、麗華は立ち上がった。焔は身を屈め二人が乗るのを待った。

 

 

「ムーン、案内ありがとう」

 

「ウーン……」

 

「白鳥、乗って」

 

「乗ってって……」

 

「空飛んで直行する。輝三の家に」

 

「……」

 

「ほら、早く」

 

 

差し出してきた麗華の手を、杏莉は握り焔の背に乗った。二人が乗ると、焔は立ち上がり勢い良くジャンプし空へと飛んだ。

 

 

「……綺麗」

 

 

月明かりに照らされた森や輝く満天の星を見ながら、杏莉は言った。その言葉を聞いた麗華は、少し笑みを浮かべながら焔の頭を撫で家へと向かった。




家の近くまで来ると、家の前に赤いランプを光らせたパトカーが一台駐まっていた。


「ゲッ!パトカー……(嫌な予感)」

「焔、近くの茂みに」

「了解」


茂みに降りた焔から、麗華は飛び降り杏莉も彼女に支えられながら地へ降りた。焔は鼬へと姿を変えると、彼女の肩に飛び乗った。


「誰だ!?」

「!!」


懐中電灯を照らしやって来たのは、二人の警官だった。


「君達、名前は?」

「……し」
「神崎麗華……っていえば、分かるかな?」

「か、神崎って……!!し、失礼しました!!」


慌てて敬礼すると、一人の警官が無線で彼女達の事を伝えながら、もう一人の警官と一緒に出口へ向かった。


茂みから出て、輝三の家へ向かうと縁側に頭を抱えた女性と彼女の背中を慰めるようにして擦る男性が座っていた。二人の傍には、輝三が立っており麗華に気付くと彼女の元へ駆け寄った。


「あ、輝三」

「無事に見つかったか……」

「まぁね」


「杏莉!」


彼女の名前を呼びながら、男性が駆け寄ってきた。



「パパ!」

「良かったぁ……無事だったんだ」

「……」

「君が杏莉のお友達かな?」

「あ、ハイ。神崎麗華と言います」

「始めまして。いつも娘がお世話に」

「い、いえ。こちらこそ」

「杏莉、ひとまず中に入って体を温めよう。ね」

「……うん」


父親の上着を掛けさせてもらいながら、杏莉は家へ向かった。


「フゥー」

「随分とお疲れのようだね?」

「当たり前だ。あの女の相手するだけで、どれだけ体力削ったか……あんな妻を持った旦那が大変だ」

「そんなに面倒なの?あの」


その時、パァンと乾いた音が響いた。麗華と輝三は顔を見合わせ、慌てて音の方へ駆け寄った。


真っ赤に腫れ上がった頬を手で抑え、目の前にいる女性を杏莉は睨んでいた。


「散々人を心配させて!!帰って来てって言ったじゃない!!」

「……」

「勇太に何かあったらどうするつもりだったの!!ねぇ!!

あの子がもし、森で怪我したら………あなた責任とれるの!!?」

「……だったら」

「?」

「だったら、アンタが一人で面倒見なさいよ!!

私ばかりに押し付けないで!!そんなに勇太が心配なら、首輪着けとけば?そうすればずっと傍に置けるでしょ?」

「そ、そんな酷い」

「酷いって何!?私の邪魔して!!アンタの方がよっぽど酷いわよ!!

勇太が何かしたいって言っても、アンタは私が一緒じゃなきゃ駄目だとかアンタと一緒じゃなきゃ駄目だとか言って……あれじゃあ、勇太は牢獄の中にいる囚人と同じじゃない!!」

「あなたが一緒で何が悪いの?!だってあなたは」

「好きでお姉ちゃんになったわけじゃない!!」

「……」


息を切らす杏莉……女性は泣き崩れ、その場に座り込んでしまった。

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