陰陽師少女   作:花札

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僕の家は、エリートの家。父は代々続いている病院の院長。母は弁護士。


僕は次男として、この家に生まれた。四歳年上の兄と六歳年下の妹の三人兄妹。


兄がいたせいで、僕と妹には居場所がなかった……父と母は兄に異常な期待をしていた。そのせいか、家は兄中心の生活。


とある記憶

兄は将来のために、色んな習い事をしていた。妹もそこそこさせて貰っていたが、母は迎えに来なかった。代わりにいつも僕が行っていた。それもあった為、僕は習い事が出来なかった。出来て、塾に通う程度……

 

 

やがて兄は名門中学に入学した。二人(父と母)はますます、僕等に目を向けなくなった。

 

妹には寂しい思いはさせないようにと思い、保育園と習い事の送り迎えは全部やった。そのせいか、妹は僕だけにしか懐かなくなった。母が早く帰ってきても、出迎えもせず夕飯の支度をする僕の傍から片時も離れなかった。

 

 

やがて僕は中学生になった。妹は小学生……彼女の世話が出来なくなると思い、僕は公立に行った。その結果二人は僕に愛想を尽かし、ほったらかしにされた。

 

僕はそれでもいいと思った。なぜなら、妹だけが僕の味方だったから。

 

 

中学の先生は、僕の家庭事情を理解してくれていた。だから、私生活はそこそこ楽しかった。妹の運動会や行事にも参加した。妹も妹で凄く楽しそうにして、小学校生活を送っていた。

 

 

時は流れて、僕は高校へ進学した。それを気に、二人が突然手の平を返したかのように変わった。

 

理由は……

 

 

兄が医大に落ちたから。中学二年の時、兄は大学受験で失敗した。けど父も一浪しているから大丈夫だと言って励まし、予備校へ通わせた。

 

その兄が落ちた……二回連続。

 

何にも負けたことのない兄は、落ちたショックで部屋へ引き籠もった。

 

 

途方に暮れていた時、僕に目を付けてきた。母は家に早く帰ってきては、夕飯を作り僕と妹の帰りを待っていた。

 

だが、妹は母のご飯に手を付けることはなかった。当たり前だ……妹はいつも僕が作った料理しか口にしたことがない。母の料理なんて何年振りに見ただろう……

 

 

高校一年の時、妹は俺に言ってきた。

 

 

『全寮制の中学に入る』

 

 

一瞬混乱したが、すぐに理解できた。僕が大学に進学すれば、家を出る……そうなれば、妹は居場所を無くす。

 

 

高校一年になった夏、妹が行こうとしている全寮制の中学の資料を貰い、それを二人に見せた。

 

 

『な、何これ』

 

『全寮制って……家を出るつもりなの?』

 

『……ここにいたって、二人は私のこと見ないじゃん。

 

だったら、いつも私のことを見てくれる人がいる所に行きたいの。だから、早くそこに署名してよ』

 

『待って!お母さん何も』

『母親面しないで!!

 

散々お兄ちゃんと私をほったらかしにしてたくせに!!』

 

『!!』

 

『……僕が二十歳になったら、こいつの親権僕が貰うから』

 

『え?!』

 

『児童相談所に言えるから……僕と妹がこれまで自身に起きたことを話せば、簡単に取れるから』

 

『っ!!』

 

 

それ以降、二人は僕達に話し掛けることはなくなった。妹の勉強と自身の勉強を交互にやっていたせいか、ストレスを感じるようになり、部活で鍛え上げた腕でその辺りに群がっていた不良グループと暴力沙汰を起こしまくった。

 

 

高校一年の秋……僕……

 

俺は不良の中では一躍有名になり、そして頭になった。色んな暴力沙汰のと目に入っては、その団を壊していった。そんなある日、警察に掴まった。

 

 

『お前か、ここいら一帯の頭は』

 

 

目の前にいたのは、少年課の刑事……顔に大きな傷痕がある……明らかにヤクザだろ。

 

 

『ったく、最近大人しくなったかと思えば……

 

家に連絡するから、電話』

『電話したって、誰も迎えに来ねぇよ』

 

『……』

 

『……』

 

『……先輩、こいつ俺が家まで送ります』

 

『あれ?保護者の人との連絡は?』

 

『出ないんで、このまま』

 

『……分かった。

 

気を付けて』

 

『はい』

 

 

俺の事情を察したのか、刑事……オッサンは俺を車に乗せて送ってくれた。

 

 

それから度々、暴力沙汰を起こしてはオッサンに補導された。だが不思議と学校と家には連絡されていなかった。

 

 

高校三年になったある日、三者面談の紙を貰った。先生には二人はどうせ、仕事で行けないと言って面談を断った。

 

 

そして秋頃……先生のお節介により、進路先がバレてしまった。親に何も話して無く、話を聞いて二人は大喜びした。

 

そりゃそうだ……医大を受けると聞けば、誰だって喜ぶ。

 

 

しかし、二人の喜びはその日の内に消えた……

 

 

『医大受けて、医者になっても……

 

俺はアンタの病院は継がない』

 

 

そう言い放った。それ以降、二人は俺に継いで貰いたいのか色々な面倒をみるようになった。

 

ある意味、余計なお世話だ……

 

 

そして冬……

 

 

第一志望の国立医大に、一発合格した。その数日後、妹も中学に受かった。

 

 

俺と妹はすぐに荷物を纏めた。

 

家を出ようとした時、二人に腕を掴まれた。その手を振り払い、俺は妹を後ろに言った。

 

 

『お前等は兄貴の方が可愛いんだろ?

 

だったら、兄貴だけ可愛がってればいいじゃねぇか』

 

『……』

 

『妹の学費は俺が払う。

 

だから、もう俺等に関わるな』

 

『……し』

『気安く人の名前呼ぶな!!』

 

 

そう怒鳴って、俺は妹の手を引き乱暴に家の戸を閉め出て行った。

 

 

医大に入ってからは、お茶を飲む暇がないくらい忙しかった。妹の学費、自分の生活費と稼ぐため、バイトをいくつも掛け持ちしていた。授業料は奨学金で賄えたから、何とかなっていた。

 

しばらくしてから、俺は冷たい目で見られるようになっていた……疑問に思っていた時、掲示板に目を向けて分かった。自身の過去の写真と暴力団の総長だったと言う事が書かれたチラシが貼られていた。

 

そのせいか、俺の所へ病院からの掛け声は掛けられなかった。自分から行っても、落ちるか断られる……

 

 

そんな日々が数年が経ったある日……

 

校内を歩いている時、校長室の前を通った。その時、部屋から小さい子供が出て来た。子供は突然走り出した。

 

 

『あ、危ない!!』

 

 

慌てて子供の後を追い駆け、抱き上げ阻止しようとしたが子供は、鬼ごっこだと思い込み校舎を逃げ回った。その後を俺は追い掛け、何とか捕まえて校長室へ行った。すると、騒ぎに気付いたのか中から綺麗な女性が出て来た。

 

 

『いないと思ったら……龍二!!』

 

『!』

 

 

女性が怒鳴ると、龍二という子供は俺にしがみついた。

 

 

『コラ龍二!!

 

ごめんなさい、うちの息子が』

 

『い、いえ……』

 

『……ねぇ、あなた就職する病院決まってる?』

 

『え?

 

いや、まだ……』

 

『そう……

 

先生!この子、私の病院で採用します!』

 

『え?!』

『は?!』

 

『というわけで、卒業後うちの病院に来なさい』

 

 

そう言いながら、女性は俺に名刺と病院の地図を渡した。

何が何だか分からず、俺は質問した。

 

 

『な、何で俺を?』

 

『何となく!』

 

 

そんな理由で、俺は卒業後その病院へ来た。

 

院長室に行くと、あの女性がいた。ビックリしている俺に彼女は笑いながら言った。

 

 

『今日からよろしくね!少年!』

 

『……ハァ!?』

 

 

俺は何故か院長の下に就くことになった。理由はすぐに分かった……

 

 

『じゃあ、これを毎日朝晩欠かさず飲んで。分かった?』

 

『はぁ……』

 

 

言い終えた瞬間、傍にいた院長はカルテで俺の頭を軽く叩いた。

 

 

『敬語!

 

医者は敬語を使えなきゃプロじゃないのよ!』

 

『はぁ、すんまんせん』

 

『すんまんせんじゃなくて、すみません!!

 

ちゃんと敬語使えないなら、患者は診せられないよ!』

 

 

怒られたのは、初めてだった……別に落ち込んでいたわけでもないのに、何故か目から涙が出た。

 

そんな俺を見て、院長は言った。

 

 

『今晩、うちに来な。

 

夕飯、ご馳走するから!』

 

 

院長の家は、神社だった。鳥居を抜けた先に、大きな平家があった。引き戸を叩くと、中から少し気の弱そうな男と彼に抱かれた龍二君が出て来た。

 

 

『うちの旦那』

 

『あ……

 

は、初めまして!木戸茂と言います!』

 

『そんな固くならなくていいよ』

 

『そうそう!

 

ほら上がって!』

 

『え、けど……』

 

『いいからいいから!』

 

 

背中を押され院長の家へ上がった。二人が夕飯の支度をしている最中、俺はずっと龍二君と遊んでいた。やんちゃで手が付けられず、片時も目が離せないと言っていた。

 

出来上がった夕飯……箸を持ち、手を合わせて言った。そして揚げたての豚カツを口にした。

 

 

『……美味っ』

 

 

ポロッとその言葉が出た。そして、自然に涙が流れた。

 

 

『兄ちゃん、目から水が出てる!』

 

『え、あ……

 

あれ、俺別に悲しく』

『初めてなんでしょ?

 

手料理食べたの』

 

『……何で』

 

『大学であなたのチラシを見た時、何となく分かっちゃったんだ……

 

親に愛されずに、生きてきたんだなぁって』

 

『……』

 

『手料理、食べたこともなくて……

 

いつもいつも、自分で作るかコンビニ弁当。

 

 

でも、今日からは大丈夫。私がしっかりあなたの面倒をみるから!』

 

 

笑顔でそう言った。その瞬間、俺の中で何かが解けた……それと同時に大量の涙を流した。今まで我慢していたものを全て吐き出すようにして。




六年前……


いつものように、院長室で茂は仕事をしていた。


『院長、失礼します』


ドアを叩きながら入ってきたのは看護師だった。


『院長、お客様が』

『お客?今日は誰とも約束は……』

『あ、お名前が確か優子と言って貰えれば分かると』


名前を聞いた瞬間、茂は部屋を飛び出した。外へ出るとそこにいた……長い髪を一つ三つ編みにした女性が。


『久し振り、兄さん』

『……』


院内の人に言い、茂は彼女と一緒に近くの喫茶店へ行った。


『結婚……』

『うん……テレビ局で働いてる人なんだけど……

凄い優しくて、私のこといつも気に掛けてくれて』

『そっか……おめでとう!』

『ありがとう……

今度、兄さんの所に行くね。彼がどうしても挨拶したいって』

『分かった。時間作っとくよ』

『……兄さん』

『?』

『今まで、私のこと育ててくれて本当にありがとう。

兄さんがいなかったら、私どうなってなか……


本当にありがとう』

『いいよ……

結婚おめでとう……幸せになってね』

『うん』


妹を見送った茂……ふと思い出した。彼女が言った言葉を。


『兄さんは、結婚しないの?』

『俺はいいよ……もう、手の掛かる子供が二人いるから』

『子供?』

『前の院長でお世話になった先生の子供。

父親も亡くなってて…近くに面倒をみてくれそうな親戚はいなさそうだからね』

『兄さんって、案外お節介なんだね』

『それはお互い様』


『茂さーん!』


声に気付き、茂は振り返った。手を振りながら自身に駆け寄ってくる龍二と麗華……


(優子……

僕には、もう家族がいるんだよ)


駆け寄ってきた二人の頭を雑に撫でると、茂は一緒に病院へと戻った。

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