陰陽師少女   作:花札

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スキー教室の事件から、ニ週間……


生徒達は皆、何も事も無かったかのように当たり前の生活を送っていた。

だが、麗華のクラスだけは違った……あの日以来優梨愛達グループは来なくなっていた。噂では、夜の繁華街を遊び歩いているという話。教員も会いに行こうと彼等の家に行くが、人がいる気配がないという……


その頃、麗華は未だに退院していなかった。体の傷は既に癒えていた……だが、心の傷は癒えてはいなかった。


迷い道

病院へ来た朝妃達……だが、またしても看護師に麗華と会ってはいけないと言われ、ガッカリした様子で病院を後にした。

 

 

「……やっぱリ気にしてるのか……」

 

 

病院の外にあるベンチに座っていた朝妃は、そう呟いた。

 

 

「気にしなくても……別に、いいのに」

 

「気になるさ。

 

 

霊感があるってだけで、変人扱いだからな」

 

「そんな……」

 

「あれ?翼も、持ってるってこと?霊感」

 

「……まぁな」

 

「翼、小学校の頃霊感で結構皆からからかわれてたから……」

 

「そうだったんだ……」

 

「……あれ?」

 

 

ふと顔を上げた朝妃の目に、大輔の姿が映った。彼は紙袋を手に病院へ入ると受付で何かを話しながら、看護師に紙袋を渡した。すると大輔に続いて、花束を持った牛鬼達が入りその紙袋を貰うと二言彼と話して二階の病室へと上がって行った。

 

 

「え?あいつ等、何?

 

何で、案内されてんの?」

 

「あの人達、どこかで……

 

!」

 

 

自動ドアが開くと、中から大輔が出て来た。

 

 

「大輔!!」

 

「!

 

あれ?お前等」

 

「さっきの人達は何者なの?!

 

何で、あいつ等だけ案内されたの!?それにあの紙袋は何?!」

 

「いっぺんに質問するな!」

 

「杏莉、落ち着いて!

 

じゃあ、まず一つ目……あの人達は、誰?」

 

「神崎の知り合い。

 

蜘蛛の巣っていう、喫茶店経営してる」

 

「し、知り合い……」

 

「んじゃあ、二つ目。何で、あいつ等だけ案内されたの!?私達は駄目だったのに!」

 

「白鳥さん、顔怖いよ?」

 

「お黙り!」

 

「ご、ごめんさない!!」

 

「神崎の兄貴に頼まれたらしい。

 

自分がいけない日の見舞いを」

 

「お兄さんの頼みなら、仕方ないかぁ……」

 

「じゃあ、三つ目!

 

あの紙袋は何?!何が入ってたの?!」

 

「桜雨堂の芋羊羹。

 

神崎の兄貴が買ってやってくれって」

 

「桜雨堂の……」

 

「芋羊羹……」

 

「桜雨堂って、確か凄い有名な和菓子店だよね?

 

雑誌に掲載されてて、お店は全国でたったの五軒だけ。

 

味は格別で、デザインも芸術的って雑誌に書いてあったよ」

 

「何でそこの羊羹を、あの子が食べられるのよぉ!!」

 

「ちょっと杏莉、落ち着いて!」

 

「落ち着いていられるわけないでしょ!!

 

あの桜雨堂よ!!高級和菓子店の羊羹を、麗華は!!」

 

「星崎、何か知ってるか?」

 

「何も。

 

そういや兄貴のコピーした免許証を、店の亭主に見せたら半額で買えたな。芋羊羹」

 

「え?!」

 

「麗華のお兄さんって、何者なの?」

 

「さぁ……」

 

 

 

そんな彼等の様子を、麗華は屋上から眺めていた。長い髪を風に靡かせながら、柵に頬杖しながら少し寂しそうにしていた。

 

 

「やっぱここにいたか」

 

 

屋上のドアが開き、中から牛鬼と安土が入ってきた。

 

 

「麗華ぁ!探したぞぉ!」

 

 

飛び付こうとした安土を、牛鬼は襟を引っ張り阻止した。そんな様子を、麗華は興味なさそうにして見ていた。

 

 

「麗華?」

 

「……」

 

 

安土に紙袋を持たせた牛鬼は、麗華の隣へ行った。

 

 

「……傷は完治してるらしいな」

 

「……」

 

「黙りか……」

 

「……」

 

 

ため息を吐き、牛鬼は安土と共に屋上を後にした。

 

 

「ニ週間、黙りだよ」

 

 

茂の部屋に来た牛鬼は、出された茶を飲みながら彼の話を聞いていた。安土は茶菓子に出された煎餅を口に入れながら聞いた。

 

 

「長野の総合病院から、うちに転院したんだけど……

 

どういう訳か、誰とも話そうとしないんだ。傷が治って歩けるようになったら、ずっと屋上から外を眺める毎日。龍二君が来ても、同じ反応。

 

正直、今回は僕もお手上げ」

 

「それで、俺等を呼んだのか」

 

「そう。

 

君等なら、話すかなと思ったけど……やっぱリ駄目だったね」

 

「……」

 

「何で黙りなんだ?麗華の奴」

 

「煎餅食ってから話せ」

 

「……バレちゃったんだよ。

 

 

彼女が、白い陰陽師だって。恐らくそれが原因で、声が出ないのかも知れないね」

 

「……」

 

「そういや、焔達は?」

 

「あの状態じゃ、傍に置けないってオッサン……いや、麗華ちゃんの伯父さんが言って連れて行っちゃった」

 

「ありゃりゃ」

 

 

 

夜……懐中電灯で学校の中を歩く朝妃と杏莉。

 

 

「もう、こんな夜に呼び出したかと思えば……

 

月曜日の提出物を学校に忘れるなんて」

 

「テヘヘ~、ゴメン」

 

 

舌を出しながら、謝る杏莉に朝妃は軽くため息を吐いた。

 

 

「それにしても、全然教室に着かないね」

 

「結構歩いたと思うけど……」

 

 

“ガサ”

 

 

何かを這う音に二人は、足を止め互いを見合うと恐る恐る後ろを振り返った。

 

円月輪を腰に着けた、蛇の体を持った妖怪が二人を見ていた。

 

 

「……キャァァアアアアア!!」

「キャァァアアアアア!!」

 

 

その悲鳴に別の場所にいた大輔と翼、それに卓也は懐中電灯を手にして、廊下へ出て来た。廊下には朝妃と杏莉が走っていた。

 

 

「白鳥!立花!」

 

 

大輔の声に二人は、差し出してきた彼の手を握り教室の中へ飛び込んだ。大輔はすぐに戸を閉め鍵を閉めた。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

「大丈夫か?怪我ないか?」

 

「平気……何なの、あれ」

 

 

“ドンドン”

 

 

突然、戸が激しく叩かれ大輔は、口に指を当てて静かにするよう杏莉達に合図を送り、戸の近くに行き袋から木刀を取り出し構え、勢い良く鍵を開けた。

 

中に入ってきた者は、転がりキャビネットに背中をぶつけもう一人は教卓に顔面をぶつけた。

 

 

「……大丈夫か?お前等」

 

 

急いで戸を閉め鍵を閉めた大輔は、ぶつけた箇所を手で抑えながら立ち上がった。

 

 

「翼!卓也!」

 

「ヅバザ、顔面思いっ切りぶづげだ」

 

「俺、背中やられた」

 

「何で二人まで……

 

てか、何で皆いるの?」

 

「卓也の奴が、月曜日の提出物を忘れたから付き合って来たんだ」

 

「俺は練習用の木刀忘れたから取りに」

 

 

“バーン”

 

 

戸が壊れ外からあの蛇の体を持った妖怪が、突っ込んできた。大輔は木刀を振り下ろし、妖怪を攻撃した。その隙に翼は杏莉達を立たせ、教室を飛び出した。

 

 

「もう何なのよ!?」

 

「麗華ぁ!助けてぇ!!」




「!!」


ベッドに横たわっていた麗華は勘が働いたのか、起き上がり窓を開け学校がある方を見た。

真冬の冷たい風が吹き、麗華は肩に掛けていた毛布を抑えながらその方向を見つめた。


「……」


意を決意したかのような表情になると、麗華は服を着替えテーブルの上に置かれていたポーチを腰に着け、グローブを手に嵌めた。

その数分後、残業をしていた茂は彼女の様子を見に病室を開けた。空になったベッドを見ながら開いている窓を見た。


(……少しは良くなったかな)



理科準備室……扉の前に棚を置いた大輔達は、妖怪から身を隠していた。


「早く帰って、お風呂入りたい」

「うるせぇぞ、白鳥」

「だって~」

「山本、あの妖怪について何か知らねぇのか?」

「分かんない。

僕も初めて見るから」

「……ここに隠れてるのも時間の問題だ」

「朝まで待てば?

ほら、先生達が」

「腕時計見てみろ」

「腕時計?」


大輔に言われ、杏莉達は腕に付けていた時計を見た。時刻は午後九時で止まっていた。


「嘘!?時間が」

「止まってる」

「あいつの能力だろう。

学校の時だけを止めてるんだ。俺等を狩るまで」

「じ、じゃあ……あいつ倒さないと」

「元の空間には戻れない」

「そんなぁ!!」


杏莉の声と共に、理科室の戸が壊れる音が聞こえた。彼女は手で口を押さえ、隣りにいた朝妃は杏莉を安心させようと手を握った。


「……大野」

「?」

「俺が囮になる。

その隙に、別の場所に逃げろ」

「は?」

「こいつ等連れて、早く逃げろって言ってんだ!」

「何言ってやがる!!

お前を置いて」
「誰かが囮になってあいつを引き寄せとかないと、全員死ぬぞ!!」

「!!」


準備室の扉が壊され、外から妖怪が入り込んできた。瞬時に大輔は妖怪の首元に、木刀の先を突き刺した。


「逃げろぉ!!」

「!!」


彼の声に翼は朝妃を卓也は杏莉の手を掴み、外へ逃げた。大輔は木刀を軸に回し蹴りを妖怪に喰らわせ、怯んだ隙を狙い彼等の後を追い駆けていった。




目を覚ます焔達……体に降り積もった雪を振り払うと、互いを見合いそして空へ飛んでいった。

その様子を、輝三と竃は縁側に座り見ていた。


「いいのか?行かせて」

「主が戻ったんだろう?なら、好きにすればいい」


口に銜えていた煙草を取り、深く息を吐きながら煙を吹き出した。

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