陰陽師少女   作:花札

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家に帰った麗華は、部屋でシガンから卓也の過去を見ていた。見終わると、深く息を吐きベッドに寝転んだ。


「完全に、他校からいじめられてるな」


ため息を吐いた麗華に、床で丸くなっていた焔は顔を上げ擦り寄った。寄ってきた焔の顔を、麗華は撫でてやった。


「……?(妖気?)」


傍で毛を舐めていたシガンを見ながら、麗華は起き上がった。


(……まさか、山本に?)

「麗、弱いけど妖気感じんぞ」

「そうみたい……(明日山本に聞いて見るか)」


白い陰陽師

翌日……学校へ着いた麗華は、卓也が来るのを待ったがその日は来なかった。そして彼と同じく翼も学校へ来なかった。放課後、掃除をしながら杏莉は文句を言いながら箒で床を掃いていた。

 

 

「全く!何で、二人も休みなのよ!!しかも男子」

 

「そう怒らない。翼君は知らないけど卓也君は風邪引いちゃったんだから」

 

「ったく、貧弱な男共め!」

 

「貧弱言うなよ」

 

「気分晴らしに、ゲーセン行こう!今日、演技部お休みなの!」

 

「悪いけど、私は部活あるわ」

 

「俺もある」

 

「麗華は?部活」

 

「普通にあるよ……そろそろ」

「神崎!」

 

「!!」

 

「掃除終ったら、さっさと道場に来い!今日は六十射やるからな」

 

 

そう言うと、平野は教室を離れて行った。去った後杏莉は小声で話し掛けた。

 

 

「あれ噂の鬼先輩、平野想太先輩よね?」

 

「そうだけど……」

 

「やっぱり、怖いの?」

 

「え?いや……全然」

 

「あれ?噂と違う……まさか、本当は優しいんじゃ」

 

「それはない」

 

「ねぇ麗華」

 

「?」

 

「あの怖い先輩とは、知り合いなの?」

 

「え?何で?」

 

「別のクラスの子から聞いたの。弓道部見に行った時、一年生が普通に引いてたって聞いて」

 

「……特別入部っていえばいいのかな」

 

「やっぱり、入部してたんだ」

 

「うん……この高校に受かってから、ずっと道場に通っててそれで」

 

「長い付き合いなのね」

 

「私が中二の時に知り合って。

 

だから、他の先輩達も皆知り合いだよ」

 

「へ~……」

 

「あ!話変わるけど、入学式の時、麗華と一緒に来てた二人の男性、超イケメンだったね!誰?お兄さん?」

 

「男性だけじゃなくて、女性もいたわよね?スッゴイ綺麗な人」

 

「(やっぱり、目立ってた……)

 

一人は兄貴だけど、もう二人は兄貴の幼馴染の人」

 

「え?!やっぱり、お兄さん!あのイケメンが!」

 

「惚れても無駄だよ……兄貴、婚約者いるから」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、杏莉は隅っこで膝を抱えて落ち込んだ。

掃除を終え、麗華は道場へと急いだ。終了後、着替えを済ませ急いで病院へと向かった。その時出てきた誰かとぶつかり、地面に尻が着いた。

 

 

「痛ったぁ……」

 

「悪い、余所見してて……あ?神崎じゃねぇか」

 

「?……大野」

 

「卓也なら、いねぇよ」

 

「え?」

 

「俺が来る前に、退院したんだとさ」

 

「マジか……どうしよう」

 

「どうかしたか?」

 

「こっちの話。

 

あ、そう言えば大野って」

 

「?」

 

 

卓也の家へと向かう翼は、隣を歩く麗華を睨みながら舌打ちをした。

 

 

「舌打ちしなくてもいいじゃん」

 

「テメェがその鼬忍び込ませて、卓也の情報収集してたってのが気にくわねぇんだよ」

 

「気付いてたの?!」

 

「当たり前だ!!」

 

「っ……」

 

「何があったんだ、卓也に」

 

「実は……」

 

 

麗華は隠さず、一昨日の夜の出来事を話した。

 

 

「川逆高校の野郎か……中学のいじめっ子も、確かそこに行ってたな」

 

「いじめっ子?」

 

「あぁ。中学の時、卓也の奴いじめにあってて。何も話してくれなくて、学校の奴等から情報を集めて知ったんだ。卓也がいじめられてるって事に。そんですぐに、いじめの主犯を殴り飛ばして、卓也を学校に来させた」

 

「何か、良いのか良くないのか……

 

そう言えば、白鳥から聞いたけど……アンタ達、幼馴染なんだって?」

 

「まぁな。家が隣同士で。

 

幼稚園に入る前からずっと。あいつ、昔から気が弱くて大人しい性格で……逆に俺は、喧嘩っ早く活発な性格で……何で、俺とアイツが気が合うかなんて、園内で凄い噂になったよ」

 

「……大野って、不良かと思ってたけど、全然違うね」

 

「は?不良?

 

俺がこんな格好してるのは、アイツ等に反抗してるだけだ」

 

「アイツ等って?」

 

「誰でもいいだろ。そういう神崎こそ、イメージと全然違うな。てっきりクラスの奴等には興味ないって思ってた」

 

「別に興味ないってわけじゃない。

 

ちょっと嫌な思い出があってね。それでどうクラスの人達と触れ合えばいいかなって。偵察中みたいな感じだよ」

 

「フ~ン」

 

「ま、私の本性知ったら星崎以外全員態度変わると思うよ」

 

「本性?」

 

「こっちの話」

 

「……!

 

ほら、あそ」

「さっさと歩け!!」

 

 

卓也の家の前にある公園から、そのような怒鳴り声が聞こえた。公園の中へ入ると、そこにはボロボロになった卓也と川逆高校の制服を着た三人の男子が彼を囲うようにして立っていた。

 

 

「卓也!!」

 

 

翼は一目散に卓也の元へと駆け寄った。麗華も駆け寄ろうとした時、どこからか強い妖気を感じその場に止まり辺りを見回した。

 

 

その時、風が吹きそれと共に何かが空から降りてきた。

 

 

「ギャァァアアアア!!化け物だぁ!」

 

 

川逆高校の男子達の前にいたのは、能面のような面を着けた黒い影のような者だった。

 

 

(あれは、憑き物!!

 

強い妖気。相当の恐怖を抱えてたみたいだな……山本の奴)

 

「な、何だ!!あの化け物!!」

 

「卓也!!テメェの仕業だな!!」

 

「ぼ、僕じゃ」

「言い訳なんか、聞きたくねぇんだよ!!」

 

「お前が犯人なら、さっさとこの化け物追っ払え!!」

 

 

座り込んでいる卓也を、男は無理矢理立たせ憑き物の前に突き倒した。彼の傍へ翼は慌てて駆け寄り立たせた。その時、憑き物は卓也と翼を見るなり襲ってきた。

 

 

「(ヤバイ!!)焔!炎」

 

 

鼬から狼へと姿を変え、焔は口から炎を出し化け物を攻撃した。炎に驚いた川逆高校の男子達は、立ち上がり一目散に公園から去って行った。

 

 

「大野、早く山本を連れて逃げて!」

 

「あ、あぁ」

 

 

卓也を立たせ、翼は彼と共に公園を離れていった。

 

 

「さぁて、久し振りに暴れますか!」

 

 

ウエストポーチから札を出し、札から薙刀を出した麗華は、憑き物に向かって薙刀を振り下ろした。憑き物は斬られた箇所を抑えながら、雄叫びを上げ空へと飛び逃げた。

 

 

「逃がすか!」

 

 

焔の背に乗り、麗華は憑き物の後を追った。

 

 

暗い夜道を走る卓也と翼……息を切らし、卓也は膝に手を着き足を止め、それに気付いた翼は走るのを止め駆け寄った。

 

 

「卓也、大丈夫か?」

 

「ご、ごめん……ハァ…ハァ……」

 

「ここまで来れば、あの化け物もあいつ等も追い掛けては来ねぇだろう……

 

 

卓也」

 

「?」

 

「いつからだ」

 

「……」

 

「いつから、あいつ等にいじめられてた?」

 

「!」

 

「いつからだ……卓也!」

 

「……

 

一昨日から。塾の帰り道で、うっかりぶつかって……そしたら、慰謝料だとか言って、お金を……」

 

「……」

 

「すぐに、相談しようと思った……でも、怖くて」

 

「卓也……」

 

 

 

「ミツケタ……」

 

 

不気味な声と共に、二人の前にあの能面の妖怪が姿を現した。

 

 

「コイツ!!さっきの!!」

 

「コイツがここにいるってことは……神崎さんは?!」

 

「ミツケタ……闇ノ子。ミツケタ」

 

 

腹をドアの様にあけるなり、突然周りに置いてあった込箱ルイがブラックホールの様になっている腹の穴へと吸い込まれていった。翼は卓也の手を握り電信柱にへばりついた。

 

 

「クソ!!あいつ、何なんだよ!!」

 

「妖怪……とかじゃないかな」

 

「妖怪?」

 

「奇怪な事件が起きることあるだろ?

 

そういうのって、全部妖怪の仕業じゃないかって言われてるんだ」

 

「じゃあ、あの能面野郎は妖怪っていうのかよ!?」

 

「多分……けど、何で」

 

 

その時、能面の妖怪の頭に、氷の矢が突き刺さった。刺さったせいか、風が止み気になった二人は顔を見合わせ電信柱から出てきた。

 

 

「氷の……矢?」

 

「何で、こんなものが空から……」

 

「……!

 

翼、あれ!」

 

「?……!」

 

 

卓也が指さす方を見上げると、そこには白い毛並みを生やした獣と笠を被った僧侶の様な者と、獣の背に乗る陰陽師の着物身に纏い、顔に狐の面頭に白い毛皮を被った者が空に浮いていた。

 

 

「ありゃあ……今噂になってる、白い陰陽師」

 

「あの人が、僕達を救ってくれた……」

 

「見てぇだな……」

 

 

「ギリギリ間に合ったみたいだね」

 

 

背後から聞き覚えのある声が聞こえ、二人はすぐに振り向いた。そこには、制服に泥を付け所々に擦り傷を作った麗華が立っていた。

 

 

「神崎…」

「神崎さん…」

 

「あの変な化け物と対抗に戦おうとしたら、全然歯が立たなくて……そしたら、あの噂の白い陰陽師が助けてくれて。そんで、化け物が逃げた方向に二人がいるって言ったら速攻で追いかけて行ったんだ」

 

「へぇ……」

 

「あの化け物って……」

 

「妖怪……かな。

 

私も、山本と一緒で妖怪の類には結構詳しいんだ」

 

「へぇ……意外だな。神崎さんがそんな趣味持ってたなんて」

 

「まぁね」

 

「で?あの妖怪は何で、俺等を襲ったんだ」

 

「……原因は、山本にある」

 

「?!」


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