陰陽師少女   作:花札

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深々と降る雪……眠っていた獣は、ゆっくりと目を開けた。

一方宿では、剛田が学校と連絡をしていた。


「分かりました……はい……では、失礼します」

「先生、バスは?」

「途中の道で雪崩が起きたらしく……今日中に迎えに来れるかどうかが分からないらしい」

「えぇぇぇ!!」

「じゃあ、今日中には帰れないの?!」」

「まぁ…そうなるな」

「早くお家帰りたいよぉ!!」

「先生、何とかならないんですか!?」

「こればっかりはどうにも」


使いもの

“ドーン”

 

 

突然何かが爆発した音が聞こえた。竃は何かの気配を感じ取り、外へ出た。彼の元へ外で見張りをしていた氷鸞が駆け寄ってきた。

 

 

「奴が来ました!」

 

「!?」

 

「麗様は!?」

 

「まだ寝てる!

 

 

氷鸞、分厚い氷をこの宿全体に貼れ!」

 

「はい!」

 

 

宿へ戻ろうとしたその時だった。

 

突然竃の前に、氷柱が通り宿の壁に突き刺さった。氷鸞はすぐに山の方を見た……だが、そこにいたはずの獣は既に、彼の前にいた。

 

 

(い……いつの間に)

 

「氷鸞!!避けろぉ!!」

 

「?!」

 

 

氷鸞の体に数本の氷柱が突き刺さった。彼の元へ行こうとした時、竃の体に獣の尾が当たり、宿の壁を突き破り中へと突っ込んだ。

 

 

「キャァァアア!!」

 

 

壁を壊し入ってきた竃に、近くにいた女子達は悲鳴を上げた。竃は急いで起き上がり、頭を振るとそのまま外へと飛び出し獣に攻撃をした。獣は竃の攻撃を難なく避け、そして前足で彼の動きを封じた。

 

 

「竃様!!」

 

 

巨鳥の姿へとなった氷鸞は、口から水を吹いた。その水を、獣は口から氷の息を吐き凍らせた。怯んだ氷鸞に向けて、獣は尾を振り回した。彼は尻尾に当たり、木にぶつかり雪の下に埋もれた。

 

 

「氷鸞!!

 

先生!皆を安全な場所に避難させて下さい!」

 

 

そう言うと、大輔は外へと飛び出し獣に向かって石を投げた。石は獣の額に当たり、彼の方を睨んだ。

 

 

「こっちだ!!来い!」

 

 

挑発しながら、大輔は宿から離れた。獣は竃から足を退かし、彼を追いかけて行った。竃は咳き込みながら、大狼姿へと変わり、獣の後を追いかけて行った。

 

 

雪山を駆け登る大輔……ふと、彼は後ろを振り返った。だがそこには、追い駆けていたはずの獣の姿がどこにもなかった。

 

 

(どこだ……!?)

 

 

気配を感じ、振り返った。目の前には大口を開けた獣の姿……食われる瞬間、竃が獣を体当たりした。突っ立っていた大輔を竃は銜え、そして自身の背中に乗せた。

 

 

「ぼやぼやすんな!来るぞ!」

 

「!?」

 

 

獣は首を振ると、雄叫びを上げて大雪玉を飛ばした。竃は素早く避け、炎を吹き出した。獣は吹雪を出し炎を防いだ。

 

 

「チッ!やっぱり、炎は効かねぇか」

 

「どうすれば、アイツは大人しくなるんだ?!」

 

「ここの宝である、あの玉を返せば何とかなるかと思ったが……

 

 

それは無理っぽいな」

 

「?何で?」

 

「怒りで我を失ってる。

 

ああなると、もうどうすることも出来ない」

 

「……」

 

 

その時、獣は山に響くように雄叫びを上げた。雄叫びに答えるかのようにして、空中に氷の礫が現れ出てきた。

 

危険を察した竃は、背中に乗せていた大輔を落とし彼を守るようにして覆い隠した。次の瞬間、氷の礫が無数に竃目掛けて放たれた。

 

 

 

その頃、宿では壊れた壁を宿主と教員達で直していた。

 

 

「何で、あの化け物……宿の中まで入って来られたの?」

 

「神崎さんが結界を張ってたはずなのに……」

 

「……多分、神崎が倒れたからだ」

 

「え?」

 

「以前卓也から借りた本に、書いてあったんだ。

 

結界は、張った本人と繋がってて……本人に何かあると結界は弱り、下手をすれば無くなるって」

 

「そんな……」

 

「それが本当なら、さっさとあの女起こしなさいよ!」

 

「無理に決まってるだろ!!

 

俺等を守るために、あんなに傷だらけになって……」

 

「……フン!使えないわね」

 

「ちょっと優梨愛!酷いじゃない!!」

 

「だってそうでしょう?

 

白い陰陽師なんでしょ?あの子」

 

「それは……」

 

「だったら、倒せなきゃ意味ないじゃない。

 

負けるって事は、使えないって事でしょ?」

 

「そんなに言うなら、お前が戦え。あの妖怪と」

 

「無理言わないで。私は普通の人間なのよ?」

 

「じゃあ、偉そうに言うな」

 

 

その時、突然地面が揺れ同時に鳴き声が響いてきた。その声に何かを察したのか、翼は壊れた壁の方に目を向けた。

 

入ってくる獣の姿……鼻を動かしながら、辺りを見回した。声を出さないように皆、自身の口に手を当て身を縮込ませた。

 

 

獣は翼の前に立つと、牙を剥き出し咆哮した。そして、前足を上げると彼目掛けて振ってきた。

 

 

「翼!!」

 

 

卓也が駆け寄ろうとした時だった……獣に何かが当たり、吹き飛んだ。

 

 

「……!

 

か、神崎…さん」

 

 

自身の手を見る麗華……鼻歌を歌いながら彼女は、起き上がろうとした獣を蹴り外へと追い出した。

 

 

「す、凄ぇ……」

 

「口だけは達者だよな?アンタって」

 

「え?」

 

「言いたい事だけ言って……戦いもしないで、文句言って」

 

「……」

 

 

外で頭を振った獣は、咆哮を上げると宿目掛けて突進してきた。そこへ焔と雷光が降り立ち、獣を受け止めた。

 

 

「一番ムカつくんだよね。

 

やりもしないくせして、平気で文句言う奴。

 

 

使いものにならない……じゃあ、そのお言葉通りにしてあげるよ。

 

焔、雷光」

 

 

彼女に呼ばれ、二人は獣から離れた。麗華は外へ出ると大狼の姿になっていた焔の背に飛び乗った。

 

 

雪に埋もれていた氷鸞は自力で雪を払い、彼女の元へ駆け寄った。

 

 

「な、何してるの?神崎さん」

 

「使いものにならない奴は、さっさとお暇しますから」

 

「え?あ、あの妖怪はどうするの?」

 

「中村が何とかするって。

 

口が達者なら、腕も頭も達者でしょ?」

 

「……」

 

 

獣は唸り声を上げながら、また宿へ入り生徒達に牙を向けた。女子達は悲鳴を上げて騒ぎ出し、中には優梨愛を責める女子達もいた。

 

 

「何とかしてよ!!出来るんでしょ!?」

 

「そ、そんなの」

「口だけ偉そうなこと言ってて、結局何も出来ねぇのかよ!!」

 

「何ですって!!」

「使いものにならないのは、あなたね!!」

 

「!!」

 

 

女子の一人を獣は前足で押さえ、口を大きく開けた。

 

 

「た、助けてぇ!!」

 

 

生暖かい液体が、目を頑なに瞑った女子の頬に垂れ落ちた。彼女は恐る恐る目を開け、その光景を見た。

 

 

「!?」

 

 

獣の口には、麗華の腕があった。腕から大量の血が流れそれは女子の頬に落ちていた。

 

 

「か、神崎……」

 

「結局出来ないんだね。口だけ達者な奴は。

 

使いものにならないなら、デカい口叩くな!!」

 

 

獣の目を力任せに殴った。獣は痛みに後ろへ下がり下がったのを見た焔達は、獣の尾を引っ張り外へと出した。

 

その時、傷だらけになった竃が宿へと降り立ち、口に銜えていた大輔を投げ捨てた。

 

 

「人を投げるな!」

 

「悪い悪い」

 

「反省してねぇだろ!!」

 

「星崎凄いなぁ。竃を手懐けるなんて」

 

「手懐けてねぇよ!!」

 

「まぁいいや。

 

今からアイツとやり合うから、ここの処理お願い」

 

「へ~イ」

 

「竃もお願い。

 

輝三が来たら、連れて来て」

 

「了解」

 

「雷光、氷鸞。先に相手してて」

 

「はい」

「分かりました」

 

 

巨鳥と馬の姿へとなった二匹は、獣に攻撃しながら山を登って行った。

 

麗華は、床に落ちていたタオルを傷口に巻き、男達が落とした玉を手に再び外へ出て焔へ飛び乗った。

 

 

飛び去って行く彼女達を、大輔はしばらく眺めた。壁に寄り掛かり腕を組んでいた優梨愛に、一部の女子は睨みながらヒソヒソと何かを話していた。

 

 

「使いものにならないのは、オメェだな?」

 

 

誰かが言った言葉に、優梨愛はキレ二階の部屋へ行ってしまった。彼女の後を奈々達は追い駆け二回へと上がった。

 

 

「何?アイツ、何かあったの?」

 

「何にも」

 

 

「あ、あのぉ……」

 

 

宿主の娘さんが、電話の子機を持ちながら生徒の手当てをしていた剛田に話し掛けた。

 

 

「?どうかされましたか?」

 

「あの、神崎…輝三さんからお電話が」

 

「あぁ、俺が代わります」

 

 

剛田は子機を受け取り電話に出た。すると彼の顔は見る見る内に明るくなって言った。電話を切ると、嬉しそうな顔で生徒達に言った。

 

 

「皆喜べ!

 

救助隊が、こっちに向かっているそうだ!」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ!あと二時間の辛抱だ」

 

 

剛田の言葉に、皆歓声を上げた。その中大輔達は、少し不安げに山の方を見つめた。




雪山へ降り立つ麗華と焔……二人の前には、雷光と氷鸞を相手にする獣がいた。氷鸞達は彼等に気付くと戦いを止め、麗華の横に並んだ。


「これを取り返しに来たんだろ?」


そう言いながら、麗華は手に持っていた玉を差し出した。獣は咆哮しながら、その玉を睨みそして彼女を睨んだ。


「これは返す。

だから、大人しく山へ帰りなさい」

“ガァァアアア!!”


雄叫びを上げた瞬間、無数の氷柱が放たれた。麗華達は一斉に避け、焔は彼女を背に乗せると口から炎を吐き、それに続いて雷光は風を起こした。

獣はその攻撃を難なく避け、彼等を睨んだ。


「怒りで我を失ってる!交渉は無理だ!」

「無理でも輝三が来るまでの間、相手するよ!」


薙刀を出した麗華は、焔と雷光に合図を送った。その合図に、二人は炎と雷を出し攻撃した。

獣は口から吹雪を吐き、二人の攻撃を消した。消えた火の中から、麗華は飛び出し獣に向けて薙刀を振り下ろした。


薙刀は獣の体を切り裂き、その衝撃により刃が折れた。獣は体から血を流して、そこに倒れていた。


「た、倒した?」

「微かだが、まだ妖気はある。

油断しない方がいい」

「……」


薙刀を見る麗華……数々の戦いで、自分を助けてくれた武器。


「とうとう折れたか……」

「寿命だったんでしょう……その薙刀は」

「かもね。


ずっと、私と祖父さんを守ってたんだ……ずっと」

「薙刀の次はどの様な武器を持つおつもりですか?」

「そうだなぁ……


父さんが使ってた槍かな」

「優が使ってた刀もあるけど」

「陽が刀でしょ?私は遠くからでも攻撃できる方がいいんだ」

「それもそうだな」


他愛のない話をする麗華達……


その中、獣の体にはあの玉がゆっくりと入り込んでいた。入り込んだ瞬間、半目になっていた獣の目が見開いた。


「!!」


凄まじい妖気に、麗華達は獣の方を向いた。

ゆっくりと立ち上がる獣……牙が鋭くなり、両足の爪が伸びた。姿を変え終えると、獣は麗華達に向かって咆哮を上げた。


その咆哮は、山全体に響き渡った。

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