宿で寝ていた生徒達は起き、ロビーへ降りてきた。だが竃の姿を見た瞬間、女子達は悲鳴を上げそれを見た大輔は呆れながら彼を別室へ連れて行った。
「お前なぁ……上半身裸の男が、ロビーにいたら大抵の女子は悲鳴を上げるぞ」
「そういうものか?」
「そういうものだ」
「だが、麗華は悲鳴を上げないぞ」
「アイツは別だろ」
「……!?」
外に顔を向ける竃……
「どうかした……!?この気配」
「何だ……この馬鹿デカい妖気は」
「さっきまで無かったじゃねぇか!?」
「麗華に何かあったんだ」
「神崎にって……アイツ、戦ってるのか!?」
「一匹だけ倒して、吹雪が弱まったところで恐らく輝三が来る。奴が来たら、一緒にもう一匹を倒すんだ」
「キャー!!」
女子の悲鳴が聞こえ、二人はすぐにロビーへ行った。
血だらけになった身体で、玄関に膝を付く麗華達……息を切らした彼女は、ふら付きながら立ち上がるが意識が朦朧とし倒れかけた。そんな彼女を、翼は慌てて支え立たせた。
「麗華!!焔!!」
竃は二人の傍へ駆け寄り、支え立っている麗華を抱き上げロビーへ連れて行った。彼に続いて既に意識を失くしている焔を大輔が、まだ意識があった雷光を翼が支え立たせ、ロビーへ連れて行った。
騒ぎに気付いた教員達は、すぐに救急箱を持ち三人の手当てに当たった。湯崎は怯える生徒達を、二階の部屋へ行かせた。その中、杏莉と朝姫、卓也、華純達は残りソファーの上に寝かされた麗華の元へ駆け寄った。
「酷い傷……」
「た、助かるよな?!」
「傷口が深すぎる……助かるかどうか(焔と雷光は、俺の妖気を送り込めば何とかなるが……麗華は)」
乱れた息をする麗華……彼女の肩と腹部からは、大量の血が出ていた。そこの傷だけではなく、脚や腕にも浅い傷がいくつもありそこからも血が流れ出ていた。
「麗華……」
「止血する。
いらない布か何かを、持ってきてくれ!」
「タオルでしたら、貸します」
「頼む」
頭に巻いていたバンダナを竃は取り、持ってきて貰ったお湯に浸け麗華の傷に押し当てた。宿主に持ってきて貰ったタオルを、大輔と翼は取り焔と雷光の傷に押し当てた。だが血の勢いは止まらず、白いタオルは見る見る内に赤黒く染まっていった。
「クソ!止まらねぇ!」
「そ、そんなぁ……」
「何とかならないの!?」
「無理だ!!」
「……!そうだ」
何かを思い出したのか、卓也は外へ飛び出した。外へ出た卓也は手に雪を持って中へ入った。
「ちょっとアンタ、何やってんのよ!!外は」
「これ使って!!
本で読んだことがあるんだ!雪山で、大量出血した時雪で止血するといいって!」
話を聞いた竃は、雪を貰いそれを麗華の傷口に当てた。麗華は痛そうに体を動かし声を上げた。
「我慢しろ。お前を助けるためだ」
「……」
「もっと持ってくる!」
「待て!俺も行く!水戸部」
「あ、うん!」
三人は、外へ出て雪を持てるだけ持ち宿へ入った。持ってくる雪を、大輔と翼は焔と雷光の傷に当て止血した。
一時間後……
「フゥ……何とか、止まった」
血が止まった麗華は、体に包帯を巻いてソファーに座っていた。
「おい、そのお嬢ちゃん大丈夫か?」
「血は止まってる。
それに、意識が戻ってる」
深く息を吸って吐く麗華……そんな彼女に、大輔は着ていた上着を掛けた。
「麗華……
何があった」
「……
勝てるわけない……あんな奴に」
「?……麗華?」
「あんな奴……輝三が来ても、倒せない」
「麗華、俺の質問に答えろ。
何があった」
「……
何やったの?アンタ達」
「え?」
鋭い目付きで、麗華は竃の後ろにいた男二人を睨んだ。二人は体をビクらせながら、彼女から目線を逸らした。
「答えて……何やったの?アイツ等に」
「……」
「答えろ!!」
今にも飛び掛かろうとした麗華を、大輔は慌てて抑えてソファーに座らせた。
「……な、何の事だか、俺には」
「テメェ等、アイツ等の祠に備えてあった玉を盗んだだろ!?」
「!?」
「な、何でそれを!?」
「ば、馬鹿!!言うなって」
「あ!」
「やっぱり……
だからアイツ等、あんなに怒ってたんだ……ハァ……
それを、渡せ」
「……そいつは無理だ。
この玉を売れば、きっと何億って値がつく。そうすれば、俺等は億万」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと返しな!!
それは、ここに住む妖怪達の宝だ!!」
「何でテメェみてぇなガキに、んな事言われなきゃいけねぇんだ!!」
怒鳴りながら、男は麗華の胸倉を掴み上げた。その瞬間、竃は彼の腕を強く握った。男は痛みから彼女の胸倉を離し、腕を抑えながら後ろへ下がった。
「竃、止せ!」
「……クソが」
「ハァ……ハァ……」
「お、おい……返した方が良いよ」
怖気着いた仲間が、彼に言いながらリュックサックから手に収まる青い玉を出した。
「馬鹿!出すな!」
「けど、このままじゃ下山も出来ないんだよ!?
それに、ずっとここにはいられない」
「っ……」
「ほら、返」
差し出した瞬間、麗華は口から汚物を出しそして咳き込みながら、その場に倒れた。
「麗華!!」
「神崎!!」
「過呼吸だ……神崎!ゆっくり、ゆっくり息を吸え!」
深い森の中……小さい社の前で、獣は静かに眠っていた。体の至る所には、麗華達に付けられた傷がいくつもあった。その傷は降っている雪によって、修復しているように見えた。
「やっと落ち着いたか……」
布団の上で静かに眠る麗華に、布団を掛けながら竃は一息吐いた。
「恐らく緊張と疲れだろう」
「そんなの、皆一緒よ!」
「貴様等は己だけの命を心配していればいい。
だが麗華は、己だけでなくお前達の命を守ろうとしているんだ」
「!」
「……」
「それに、こいつ昨日の夜寝てないだろう?」
「え?」
「生徒は全員寝たはずじゃ」
「こいつの目を見てみろ。
微かだが、クマがある」
「あ、本当だ」
「しばらくは寝かせとこ。
雷光、下で話を聞きたい」
「……分かりました」
「あれ?あの焔って人は……」
「アイツはここで麗華と一緒に寝かせる。
白狼は、主の傍で寝るのが一番体にいいんだ」
部屋を出て行く竃達……傍で寝ていた焔は起き上がり、大狼の姿に変わり麗華の頬に擦り寄るとそのまま眠りに入った。
「融合した?!」
雷光の話に、竃は思わず声を上げた。
「敵一体は、麗殿が苦戦して何とか倒しました。
しかし、某が相手していた敵が突如動きだし、倒された仲間の元へ行きました。そして雄叫びを上げるや否や、二匹は吹雪の中融合し狂暴化しました」
「融合とは……話では聞いた事があるが、実際にあったとは」
「麗殿は、すぐに逃げようと足を動かしました。しかし、目の前には既に敵が回り込んでおり、そのまま何も出来ずに攻撃を。
麗殿を助けようと、我々は敵に攻撃しました……しかし、先程まで効いていた攻撃が全く無意味になってしまい……我々も攻撃を……」
「……敵って、今はどうしてるの?」
「相手も傷を負っています……
この宿へ着いた時、敵は森の方へ行ってしまいました」
「おそらく、傷を癒しに行ったんだろう……
傷が治れば、またここへ」
「そんな……」
「今度襲いに来れば、麗殿の命が!!」
「分かっている。
だが……話を聞く限り、俺は何もできない。麗華が目を覚ますのを待って、俺も参戦する事しか」
「……」
「……そういや、氷鸞って奴は?」
「氷鸞は、外で破れかけている結界の周りを氷で補強している。
この吹雪の中でも、奴は周りをしっかり把握している」
「……話はだいたい分かった。
雷光、お前は休め」
「しかし……」
「んじゃ、命令だ。
麗華の警護してろ」
「分かりました」
(それは素直に聞くんだ……)
吹雪く外の中、木の枝に座り望遠鏡を覗き込む一人の男……その先には、麗華達が泊まっている宿が見えた。
「他人の宝盗んじゃ、妖怪だって怒るわな……
さぁ、これからどうする?神崎麗華」
男の背後には、黒い毛に覆われた獣がいた。