陰陽師少女   作:花札

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「キャー!!」


女子の悲鳴に、麗華は飛び起きた。それと同時に食堂の戸が開いた。


「神崎、結界が!!」


大輔の声に麗華は立ち上がり、玄関の方へ行った。

そこでは、人の姿になった焔がドアを押さえていた。外からは力強く戸を開けようとする音が響いていた。


「……あの、裏口ありますか?」

「え、えぇ。ありますが」

「案内して下さい。

焔、そのままお願い!」

「分かった」


宿主に案内され、麗華は裏口から外へ出た。玄関の方へ向かうと、結界が破られそこからあの白い毛並みに覆われた獣が侵入していた。


「(あの結界を!?)

氷鸞!!雷光!!」


札を出し、麗華は氷鸞達を出した。煙を放ちながら二匹は現れ出た。


「あの二匹をこの宿から離して!!」

「はい!」
「分かりました!」


二人はすぐに二匹の獣に向けて攻撃した。攻撃を受けた二匹は雄叫びを上げながら、二人に向かって突進してきた。二人は同時に受け止め、そして力任せに宿から遠ざけた。

戸が軽くなったのを確信した焔は、勢い良く戸を開け大狼姿へ変わり麗華の元へ駆け寄った。


麗華は陣を書くと、小太刀で腕を斬り血を出した。


「さっきより強い結界を張る!!

張り終えるまで、氷鸞達と交戦!!」

「応!」


焔は人の姿へとなり、氷鸞達の元へ行った。

その間、麗華は手を合わせ結界を張った。結界はさっきよりも強くそして激しく稲妻を放ちながら、宿全体を覆った。


「(よし!)

焔!!雷光!!氷鸞!!」


彼女の呼び声に、焔は煙を吐き二匹の目を眩ませた。その隙に、三人は駆け出し滑り込みで結界の中へ入り、入ったと同時に麗華は結界を完全に張った。

二匹は鳴き声を上げながら、結界に突進したが今回の結界はビクともしなかった。


「これで、輝三が来るまでは持つでしょう」

「ならいいが……」

「氷鸞、悪いけどアンタは外に残ってあの二匹の見張りをお願い」

「分かりました」

「悪いね。こんな吹雪の中」

「吹雪には慣れています。ご心配なく麗様」

「雪男だもんな。お前」

「黙りなさい。何も役に立っていたくせして」

「あぁ!?」

「ハーイ、喧嘩しない」


啀み合った二人の頬を同時に、麗華は笑顔で殴った。


壊されたもの

食堂……

 

 

「痛って!!」

 

 

消毒液が傷口にしみた麗華は、声を上げてテーブルを叩いた。

 

 

「家具に八つ当たりするな。壊れるぞ」

 

 

彼女の手当てをしていた大輔は、少々呆れながら言った。

 

 

「消毒液で済む傷とは……」

 

「浅く切ったんでね。ここじゃ応急手当しか出来ないから、極力デカい傷は負いたくないし」

 

「まぁ、そうだな。

 

ほら、出来た」

 

 

包帯を巻き終えた大輔は、器具を箱へしまった。麗華は腕を回しながら、傍で寝そべっていた焔と雷光を撫でた。

 

 

「で、これからどうする?」

 

「一応外は、氷鸞に見張らせてる。

 

後は、輝三が来るまで待つ」

 

「そうか……」

 

 

「あの……」

 

 

小さい声で、食堂のドアを華純は恐る恐る開けた。

 

 

「あれ?伊藤……」

 

「傷、大丈夫?」

 

「全然平気だよ」

 

「良かったぁ」

 

 

少しホッとしたような表情を浮かべながら、華純は一息吐いた。

 

 

「で、どうかした?」

 

「……ロビー、何か空気がピリピリしてて。

 

居辛くなったから、神崎さんの所に……」

 

 

モジモジしながら、華純は恥ずかしそうに言った。すると、彼女に続いてなのか杏莉と朝妃、さらに卓也と翼、男子部員が入ってきた。

 

 

「あ、守山君に水戸部君」

 

「どうしたんだ?お前等まで」

 

「ロビーで言い合いが始まって、避難してきたんだ。

 

こっちの方が物静かだし」

 

 

そう言いながら、翼は焔の頬を撫でた。焔は気持ち良さそうにして、彼の手に頬を擦り寄せた。

 

 

「思ってたのより、全然大人しいんだね」

 

「……」

 

 

杏莉の言葉に、麗華はふと大輔の方を見た。

 

 

「一応、お前のことは全部話した」

 

「……そう」

 

「淒ぉ……ねぇ、この馬撫でてみてもいい?」

 

 

興味津々に、卓也は馬の姿になっていた雷光を見ながら麗華に聞いた。

 

 

「いいよ。角に触らなければ」

 

 

許可を得た卓也は嬉しそうに、雷光の体を触った。

 

 

「凄い……普通の馬と同じ手触りだ!」

 

 

小さい子供のようにして、卓也は雷光の体を触りながらはしゃいだ。雷光は気持ち良さそうにしながら、麗華に頭を擦り寄せた。寄せてきた雷光の頭を、彼女は撫でた。

 

 

「神崎!電話だ!」

 

 

剛田に呼ばれ、麗華は彼の元へ行きロビーへ行った。

 

麗華が去った後、朝妃はふと椅子の背もたれに掛かっていた麗華の上着を目にし、広げて見た。

 

 

「……これ」

 

 

袖口の方が赤黒くなっていた。その袖口は、卓也達にも見え皆固まってしまった。

 

 

「さっきの腕の傷から出た血だ」

 

「ほ、本当に傷大丈夫なの?!」

 

「心配すんな。あんな傷、掠り傷程度だ」

 

「……私達を守るために、こんな傷を負うなんて」

 

「キャンプの時もだけど……

 

麗華、色んな妖怪と戦ってきたんだよね」

 

「先輩達、この事知ってたのかな……」

 

「知ってたと思うぜ。

 

一部の先輩達は、神崎の兄貴に世話なったから。もちろんお世話になった教員達もこのこと知ってるだろう」

 

「……そういえば剛田先生、麗華の力を見ても全く動じなかったね」

 

「湯崎先生は、少々パニクってたけどな」

 

 

 

「えっ?!!どういう事!?」

 

 

大声を上げた麗華に、大輔達は顔を合わせて、一緒にロビーへ行った。

 

ロビーの電話で、話していた麗華は輝三の話を聞いていた。

 

 

「そっち行く道が、雪で塞がってんだ。

 

今猛吹雪で、車を動かすのも危険らしい。近くの町で吹雪が治まるのを待っているところだ」

 

「マジかよ……」

 

「そっちの状況は?」

 

「さっき、結界が破られた。

 

すぐに補強したから、いいけど……今回の奴、相当な強敵」

 

「あの結界でもか?!」

 

「あの結界でも!!おかげでまた、腕を斬る羽目になったし」

 

「今張ってる結界も破られたら、話にならない。

 

竃を先に行かせる。それで何とか持ち応えろ」

 

 

電話を切ると、輝三は竃に指示を出し彼を先に行かせた。

 

 

同じ様にして、電話を切った麗華は深くため息を吐きながら目頭を押さえた。

 

 

「どうしたんだ?一体」

 

「こっちに通じてる道が、吹雪で塞がってるんです」

 

「?!」

 

「吹雪が止むまで、警察の人も救急隊もこっちに来れないそうです」

 

「嘘……」

 

「じゃあ私達、どうなるの?!」

 

「あのへんな化け物に食われて死ぬのかよ!!」

 

「それはない。

 

今のところ、宿全体にさっきのより強力な結界を張ってる。音沙汰無いのを見ると、当分の間は大丈夫だ」

 

「そんな保障、どこにあんだよ!!」

 

「早くお家に返してよ!!」

 

「皆静かにしろ!!」

 

 

騒ぎ出した生徒達を、教員達は宥め始めた。その中、丸刈りの男が突然前へ出て言った。

 

 

「あんな化け物、俺等空手部で倒してやる!!なぁ!?」

 

「応よ!!」

 

「だったら、儂等柔道部のじゃ!!」

 

「柔道部だけじゃない、合気道部もだ!!」

 

「武器があるなら、剣道部と薙刀部も出動できるぞ!!」

 

「うん!!」

 

「それは無理」

 

 

盛り上がっている彼等に、麗華は静かに言った。

 

 

「あ?何でだよ!?」

 

「空手部の技も柔道部の技……薙刀部も剣道部の技も、何一つ通用しない」

 

「そんな……」

 

「デタラメな事言うな!!」

 

 

疑った男は怒鳴り声を上げながら、麗華の胸倉を掴んだ。その瞬間、彼女は胸倉を掴んだ彼の手を握りそして脚に力を入れ勢いよく背負い投げた。

 

 

「……嘘」

 

「アイツ……こないだ、地区大会で優勝した奴だよ」

 

「痛ってぇ……何しやがる!!」

 

 

立ち上がる男……その時、麗華は服を脱ぎ捨て腕に巻かれていた包帯を見せた。その包帯は、赤黒く滲んでいた。

 

 

「!!」

 

「アイツと戦うなら、この傷……いや、これ以上の傷を負う事になる。

 

そうなれば、アンタ達が描いてる将来も夢も全部、水の泡。そうなってもいいなら、どうぞご自由に戦って。私は止めないから」

 

「……」

 

 

黙り込む生徒達……麗華は、服を持つとそのまま食堂の中へ入った。彼女の後を、大輔達は追い駆けた。

 

 

入った麗華は、壁を力任せに殴った。

 

 

「……壁に八つ当たりするな。壊れるぞ」

 

「八つ当たりしないと、こっちが壊れる」

 

「ほら、腕貸せ」

 

 

血の付いた包帯を取る大助……腕には、塞ぎかかっていた傷から血が流れ出ていた。

 

 

「傷口が開いてる……」

 

「さっき背負い投げするからだ」

 

「ムカついたからやっただけ」

 

「あのなぁ……」

 

「ねぇ、麗華」

 

「?」

 

「伯父さんが来ないとなると、私達どうなるの?」

 

「どうなるって……あの二匹を倒さない限り、ここから出ることは不可能。

 

それに、外はいつの間にか猛吹雪。助けは来ないって考えた方が良い」

 

「じゃ、じゃあ」

 

「大丈夫。

 

絶対、皆を守るから」

 

「……あれ?麗華、そのペンダント」

 

 

首から下がっていた勾玉のペンダントに、杏莉は指を指しながら首を傾げた。

 

 

「神崎さん、ペンダント着けてたんだ」

 

「あぁ、これ。

 

母さんの物だよ」

 

「綺麗な翡翠だね」

 

「何で着けてるの?」

 

「御守り」

 

「御守り……へ~」

 

 

ペンダントを鑑賞していた杏莉だったが、次の瞬間彼女のお腹が鳴った。

 

 

「あ……」

 

「もう、杏莉ったら!」

 

「何か安心したからかな?お腹空いちゃって」

 

「そういや、俺も」

 

「僕も」

 

「そりゃそうだ。

 

もう七時過ぎだ。腹が減っておかしくない」

 

 

その時、キッチンの所から美味しそうな匂いが漂ってきた。気になり厨房へ入ると、そこでは宿主の家族がお握りを作っていた。

 

 

「もう少ししたら、夕飯出来ますよ!」

 

「夕飯って……」

 

「こういう時って、皆さん妙に気を張っちゃって真面な食事が咽を通らないと思って」

 

「手軽に食べられるお握りと味噌汁、それから漬け物」

 

 

次々に出来ていくお握り……大輔は袖を捲り、手を洗った。

 

 

「手伝います」

 

「あら。じゃあお願いするわ」

 

 

握り始める大輔を見た杏莉達も、袖を捲り手伝い始めた。

 

 

作り終えたお握りを皿に盛り、宿主はロビーへ運んだ。彼に続いて杏莉は味噌汁を、翼はお茶とコップを持ってきた。

 

 

「わぁ、いい匂い」

 

「さぁ、食べて下さい。

 

腹が減っては戦は出来ねぇって!」

 

「……」

 

 

宿主の言葉に、座り込んでいた生徒達は立ち上がり、お握りと味噌汁を受け取りそれぞれの場所で食べた。

 

彼等と同じようにして、麗華は食堂で一人焔達と握り飯を口に頬張りながら、二匹の姿を思い出しながら絵を描いていた。




“ドーン”


突然外から銃声が響いた。その音に女子生徒達は悲鳴を上げた。


「な、何だ?!」

「銃声じゃ!」


食堂から出て来た麗華は、鼬姿になっていた焔を連れて外へ出た。

猛吹雪の中、銃口をあの獣達に向ける男が二人こっちに向かってきていた。


「猟銃持ってるな。あいつ等」


男達は勢いのまま、宿の壁に激突し止まった。追い駆けていた二匹は鳴き声を上げながら、怒りに満ちた目で二人を睨んでいた。


(……まさか)

「痛……何だよ、あの化け物は!?」

「妖怪」

「妖怪?……って、誰?」

「話は中で」


二人は即座に立ち上がり、急いで中へ入った。麗華はしばらく二匹を見つめ、そして中へ入った。

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