陰陽師少女   作:花札

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それは、翌日の午後に起こった。


襲撃

宿から出る生徒達。その時、一人の生徒が何かに気付いたのか山の方を指差しながら言った。

 

 

「何だ?あれ」

 

「どうしたの?」

 

「ほら、あの山付近から白い塊が落ちてこない?」

 

 

傍にいた友人は、目を細めて指差す方向を見た。確かに白い塊が、この宿目掛けて転がってきているように見えた……

 

 

「……違う。

 

あれ塊じゃない!!白熊だ!!」

 

「はぁ?!」

 

「馬鹿!白熊がこんな所に」

「いや、そいつが言ってるの当たってる!

 

見てみろ!!」

 

 

双眼鏡を持っていた生徒は、疑っていた生徒に渡した。彼は双眼鏡から外を覗いた。

 

確かに下ってくるのは、白い毛並みで覆われた獣だった。しかも二匹……

 

 

「ほ、本当だ」

 

「先生!!白熊が、こっちに来てます!!」

 

 

生徒達が騒ぐ中、鼬姿だった焔は麗華の肩へと登り小声で話した。

 

 

「妖力からして、キャンプの時と同じ奴だ」

 

「それ以上だ。

 

皆は熊だと思ってるみたいだけど……!!」

 

 

白い毛並みで覆われた一匹の獣が、突然巨大な雪玉を放った。玉はギリギリで宿を通り過ぎ後ろに生えていた木を押し倒し砕けた。

 

 

「な、何だアイツ」

 

(わざと外した?!!)

 

「全員中に入れ!!」

 

 

ただ事ではないと感じた剛田は、大声を上げて生徒達に言った。生徒達は悲鳴を上げながら、急いで中へ入った。入っている途中、獣は宿の前に着くと雄叫びを上げて遅れている生徒達目掛けて突進してきた。

 

突進してくる獣を、麗華は蹴り飛ばした。その隙に、大輔と翼は怖じ気着き座り込んでいる女子二人を持ち上げ急いで中へ入った。

 

 

「スキー靴、重っ!!」

 

「神崎、後ろ!!」

 

 

大輔の言葉に、ハッと気配を感じ取った麗華は後ろを振り返った。飛び掛かってくる獣……その獣に、焔は大狼の姿へと変わり突進した。

 

怯んだ二匹を睨み、焔は口から炎を吹き出し攻撃した。二匹は怯み、後ろへ引いた。

 

 

「炎が弱点か……

 

こいつ等を、ここから遠ざけて!」

 

「応!」

 

 

炎を吹きながら、焔は二匹を宿から遠ざけた。その隙に、麗華はポーチから札を出し、それを宿の建物全体に張り巡らせた。真ん中に陣を書きそして手を合わせた。

 

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!

 

 

九字結界、発動!!」

 

 

張り巡らせた札が光り出し、周りに結界が貼られた。それを見た焔は、宿まで走りギリギリの所で鼬へと姿を変え結界の中へ入った。焔を追い駆けてきた二匹は、結界の壁に激突し、痛みで頭を振りながら辺りをウロウロし出した。

 

 

「これで、どれくらい持つか……」

 

「さぁね。

 

早いところ策考えないと……」

 

 

宿へ入る麗華……その瞬間、好奇の目が向けられる感覚があり彼女は誰とも目を合わせず食堂へ入った。

 

 

「麗……」

 

「いつかはバレる……

 

それが来ただけだよ」

 

 

ふと蘇る過去……フラッシュバックで思い出した麗華は、手を強く握った。

 

 

「神崎」

 

 

ハッと顔を上げ振り返ると、そこには大輔と翼がいた。

 

 

「これからどうする?」

 

「……電話借りて、輝三に来て貰う」

 

「お前一人じゃ、無理なのか?」

 

「無理だ。

 

今回の敵は、前回の敵と同様の妖怪。あん時だって倒すだけでギリギリだった。

 

それに、前回の敵は一匹だけだった。けど今回は二匹。勝てるかどうかが分からない」

 

 

手帳を取り出し、メモっていた番号を麗華は宿に置いてあった電話を借り掛けた。

 

 

「なぁ、輝三って誰だ?」

 

「神崎の伯父。長野県警の警視監」

 

「嘘……」

 

 

「あ、もしもし輝三?

 

今から、言う所にすぐ来て」

 

「何だ?どうかしたのか?」

 

「キャンプで出くわした妖怪が現れた。しかも二匹!」

 

「……どういう奴等だ?!」

 

「攻撃は氷と雪。炎を嫌う。

 

けど、力は馬鹿に強い」

 

「それが二体ってことか……

 

分かった…場所は龍二から聞いてる。今からだと、二・三時間で着く」

 

「分かった。じゃあ待ってる」

 

 

電話をかけ終わり、受話器を元に戻すと麗華は一息吐いた。

 

 

「どうだ?来そうか?」

 

「来るには来るけど、ここに着くのに三時間掛かるらしい」

 

「じゃあ、それまではここで待機」

 

「そういうことになる。

 

アンタ達はロビーに戻ってな。私はあの二匹が来ないように氷鸞達にこの建物の見張りをさせるから」

 

「分かった。

 

 

大野、先に行っててくれ」

 

「あ、あぁ……」

 

 

翼が食堂から出ると、大輔は麗華の方に向いた。

 

 

「……俺から言うか?」

 

「……」

 

「白い陰陽師の事も、キャンプの事も、今回の事も……

 

全部言ってもいいんだぜ」

 

「……どうすれはいい?」

 

「?」

 

「分かんないや……もう。

 

 

話したところで、この先皆がどう接してくれるか……」

 

「……」

 

「星崎や大野、稲葉達みたいに理解できる奴ならいいよ。

 

けど、全員がそうじゃない……

 

 

中には、島の大人達と同じように化け物扱いする奴もいる……」

 

「……」

 

「喋るなら、代わりに説明して。

 

私の口からは言えない……言ったら、誰とも目を合わせられなくなるから」

 

 

手で目を覆いながら、麗華は今にも泣きそうな声で言った。

 

大輔は何も言わずに、食堂を出て行った。

 

 

一人になった麗華は、椅子に座り机に伏せた。そんな彼女に、鼬姿になっていた焔は心配そうに鳴き慰めるようにして体を擦り寄せた。




『化け物!!』

『お前だろ!!』

『お前しかあり得ないんだよ!!』

『余所者が!!』

『さっさといなくなれ!!』

『化け物!!』 

『化け物!!』



『ありがとう』

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