学校の前に、数台のバスが駐まっていた。その前には温かい格好をした生徒達がバラついていた。
「ハックション!!
寒ぅ」
マフラーに顔を埋めながら、真二は言った。
「何でアンタが寒がるのよ。麗華ちゃんが寒がるのは分かるけど」
「俺だって寒いんだよ!」
「喧嘩するなら、帰って下さい」
「そう言うなよ~」
「引っ付くな!!」
「おい麗華」
「?」
「いいか、何かあったら輝三の所に電話入れろ。すぐに俺も駆け」
「兄貴はとっとと卒論を書き上げて下さい。
助けは輝三一人で十分!」
その言葉を聞いた瞬間、龍二は座り込み落ち込んだ。そんな彼を、リードで繋がれたシガンと真二が慰めた。
「まぁ、何も無いと思うよ」
「全員、体育館の方へ集合してください!」
「じゃあ、気を付けてね」
「はい。
兄貴の事、お願いします」
「任せといて!」
一面雪景色の山へ来た麗華達……
「着いたぁ!!」
「寒ぅ!!」
次々とバスから降りる生徒達……バスから降りた麗華は周りを見回しながら、白い息を吐いた。
「寒……(輝三の所と変わらないなぁ)」
「ハックション!!
クソ、寒い」
「島の子は、寒さには弱いね」
「お前も似たような者だろう?」
「アンタと一緒にしないで」
「全員、宿の前に集合!!」
体育教師である剛田の声に、バラついていた生徒達は集まった。宿の前には家主であろう男と女が五人いた。
「わざわざ、遠い所からご苦労様です!
来ていただいて申し訳ありませんが、ご覧の通り雪が降っています!先程天気予報で、この後猛吹雪になるとのことです!」
「じゃあ、まさか」
「この後予定であります、スキー教室は中止です!」
「えぇ!!」
「何だよ!!」
「来た意味ないじゃん!」
「最悪~!!」
文句を言う生徒達……前に立っていた先生は、文句を言う彼等を黙らせ話をした。
「各自、自分の荷物を持って部屋へ行き次第自由行動にする!ロビーで本を読むなり、部屋で寛ぐなり何をやってもいい。
だが!禁止されていることはやるな!分かったな!」
「ハーイ」
(相変わらず、恐いな)
部屋へ行く麗華達……部屋は八畳の部屋だった。
「広ぉ!!」
「ねぇ、見て見て!外、凄い雪!」
「本当だ。
これじゃあ、スキーやったら」
「一発で遭難だな」
部屋に荷物を置いた麗華は、ロビーへ行きそこに置かれている本棚を見ていた。
(どれもパッとしない本ばかりだな)
「あ~あ、せっかくスキーに来たのに出来ないんじゃ何のために、こんな山奥まで来たのか!」
所々から、生徒達の文句の声が上がっていた。
「山の天気は変わりやすいんだから、素直に諦めればいいのにな」
「全くだ……って、星崎いつから?」
「ついさっき」
「ニャー」
鈴の音と鳴き声に気付いた麗華は、ふと足元を見た。そこには自身の脚に擦り寄る白猫と虎猫がいた。
「猫……」
「この宿で飼われてる猫だ」
虎猫の頭を撫でながら、剛田は話した。撫でられた虎猫は彼にそっぽを向くと、勢い良くジャンプして麗華の肩に乗った。
「あ!猫だ!」
「可愛い!」
上から降りてきた朝妃と杏莉は、麗華の傍へ駆け寄りながら猫の元へ寄った。
「いや~ん!フワフワしてる~!」
「杏莉は猫派ね!」
「もちろん!
いや~、モフモフしてる~!」
撫でまくる杏莉に、白猫は威嚇声を上げどこかへ行ってしまった。白猫に続いて、虎猫もどこかへ行った。
「あ~ん!」
「撫で過ぎ」
「ぶー!」
「星崎君!
暇なら、一緒にトランプやろうよ!」
「俺は本読んでる方が」
「そんなこと言わないで!
ホラ!!」
別クラスの女子生徒に腕を引っ張られ、大輔はその場からどこかへ行ってしまった。
そんな彼に軽くため息を吐きながら、麗華はふと外を見た。
吹雪で荒れる外……
「今年は酷い吹雪だなぁ。
去年も一昨年もその前の年も大丈夫だったのに。
あ!でも、昔は酷かったな。そういえば」
「え?昔も」
「お前の兄さんがいた頃の年、今回みたいに凄い吹雪だったんだ」
「……」
「まさかと思うが、今回のこの吹雪妖怪の仕業とか?」
「知らないですよ」
ロビーのソファーで、本を読む麗華とその他の生徒達。彼女の膝には、先程逃げた白猫が座り甘えていた。トランプをする大輔の膝にも白猫と同様虎猫が丸まっていた。
(フー……面白くねぇ。
?)
猛吹雪のせいか、窓ガラスが大きく音を立てた。
「凄ぇ吹雪だな」
「明日、晴れるかな」
「流石に晴れるでしょ」
夜のスキー場……
猛吹雪の中に立つ一つの影。影はしばらく、麗華達が泊まる宿を見下ろしていた。
(……やはり来ていたか)
見下ろしていた影は、振り返り吹雪の中へと姿を消した。