陰陽師少女   作:花札

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月明かりが照らす夜……


ベッドに横になる朝妃……

机の上に置いていたヴァイオリンに目を向けると、彼女は起き上がりそれに手を置いた。


(……お母さん)


ベッドの棚に置いてあった写真立てに目を向けた。ヴァイオリンを持つ幼い自分を真ん中に、自分と同じくヴァイオリンを持った黒いロングヘアーの女性と、ピアノの椅子に座る男性が微笑ましく写っていた。


朝妃のお母さん

「ゲホッゲホッゲホッゲホ!!」

 

「熱は下がったが、咳が酷ぇな」

 

 

体温計をケースにしまいながら、龍二は心配そうに麗華を見た。

 

 

「今日も休まなきゃ駄目?ゲホゲホゲホ!!

 

もう、三日連チャン何たけど」

 

「行きたきゃ、咳を止めることだな。

 

今日、茂さんの所に行って薬貰ってこい」

 

「ハーイ」

 

 

学校の放課後、朝妃は一人音楽室へ行きドアに手を掛けようとした時だった。

 

 

「立花さん!」

 

 

突然呼ばれ、振り返ると自身に駆け寄ってくる先輩の姿が見えた。

 

 

「先輩?

 

どうかしたんですか?」

 

「大変なんだ!

 

下手したら、演奏会中止になりそうなんだ」

 

「え?!ど、どうして」

 

「立て続けに事故が起きたでしょ?

 

それで、昨日立花さんが怪我をしたじゃん」

 

 

そう言いながら、先輩は朝妃の包帯を巻いた手首を見た。

 

 

「これは……

 

 

私なら大丈夫です!」

 

「俺も他の部員達の皆、先生には抗議してる」

 

「……」

 

「今日は早めに帰ってくれ。練習は無しだから」

 

「本番前ですよ?!」

 

「顧問が今日はお休みだって。

 

じゃあ、俺は職員室行くから」

 

 

去って行く先輩の姿を見ながら、朝妃は自身の手首を見て悔しそうな表情を浮かべた。

 

 

病院の前を通る朝妃……その時、丁度院から薬を貰った麗華が出て来た。

 

 

「あれ?麗華」

 

「立花……何…ゲホゲホゲホ!!」

 

「だ、大丈夫?!」

 

「近付かない方がいいよ。風邪移るから」

 

 

そう言いながら、麗華はマスクの上から自身の手を当てて近寄ってきた朝妃に顔を反らした。

 

 

橋の上に来た二人は、橋の縁に凭り掛かりながら川を眺めていた。

 

 

「まだ治ってなかったんだ……風邪」

 

「熱は下がったけど、咳がね。

 

ゲホゲホゲホ!!」

 

「確かに酷いね」

 

「下手したら、明日も休みかな」

 

「……

 

 

ねぇ」

 

「?」

 

「麗華はさ、幽霊とか信じる?」

 

「……どうしたの?いきなり」

 

「う、ううん!何でも……ただ、信じるかなぁって」

 

「……信じるよ」

 

「……

 

 

あのね……実は」

 

 

朝妃は意を決意して、麗華に昨日まで起きたことを話した。

 

 

「音楽室で怪奇現象ねぇ」

 

「……私、姿を見たのよ。

 

多分、亡くなったお母さんだと思う」

 

「お母さん?亡くなったって」

 

「私のお母さん、昔ヴァイオリニストだったの。

 

ピアニストのお父さんと結婚した後、私を産んだんだけど……私が小学校上がる前に、病気で亡くなって」

 

「……」

 

「お母さん、私が人前でヴァイオリン弾くのが嫌なのかな……」

 

「それは無いと思うよ」

 

「え?」

 

「母親にとって、娘の演奏は嬉しいはずだよ。

 

嫌がる親はいないと思う」

 

「……」

 

「それに、もし嫌なら……何で今頃になの?嫌なら、小さい時から攻撃するはずだよ」

 

「……麗華って、お母さんいないの?」

 

「へ?」

 

「いや、何か……いないような感じで言ったから」

 

「そ、それは……」

 

「杏莉に言ってたよね?

 

入学式の時、来た保護者は兄貴だって」

 

「えっと……それは(ヤバい)」

 

「……まぁ、話したくないなら別にいいけど。

 

麗華に話せてスッキリした。ありがとう!」

 

 

軽く礼を言うと、朝妃は帰って行った。麗華は彼女がいなくなると同時に、深く息を吐きその場に座り込んだ。

 

 

「バレるかと思ったぁ」

 

「ギリギリだったな」

 

「本当……それにしても、朝妃のお母さん…何で」

 

「何かあるのかな?」

 

「……日曜日、行ってみようか」

 

「それまでに、風邪治せよ」




二日後……高校の体育館に集まる観客達。その様子を上のテラスから、マスクをした麗華は座って見ていた。


「お前、来て大丈夫なのか?」


照明係で来ていた大輔は、隣に座る彼女を見ながら言った。


「熱も引いたし、咳もだいぶ治まったからね。

何とかなるよ。それより……


何で、大野までいるの」

「俺も照明係」

「山本は?」

「下の観客席」

「上の方が、悪霊探しやすいだろ?

だから、照明係に」

「立候補した」

「だろうと思った」

「しかし、よく中止にさせなかったな。さすがだ」

「え?中止になりかけたの?」

「あぁ。

顧問が立て続けに音楽室で事故が起こったから、身の危険を感じて中止にしようとしたんだ。

けど、部長達の願いで何とか中止は免れたと」


ブザーが鳴り響き、大輔と翼は照明に灯りを点け動かした。静まり返る観客席……舞台に立った部員達は各々の席に着き、楽器を持った。上手からヴァイオリンを持った朝妃と指揮者が姿を現し、彼女達の姿に観客達は盛大な拍手を送った。

朝妃は一礼すると指揮者を見た。指揮者は指揮棒を上げそれに合わせて、朝妃はヴァイオリンを構えた。彼女に続き部員達も楽器を構えた。


鳴り響く楽器の音色……


その時、照明が点滅しだした。


「な、何だ?」

「ちょい、機械室見てくる」

「頼む」

「……来た」

「え?……!」


舞台に現れ出た長い黒髪を垂らした女……


「あ、あれって」

「今まで、音楽室で事故を起こした張本人」

「あいつが!?」

「さぁて、仕事しますか」


いつの間にか陰陽師衣装に着替えた麗華は頭に上げていた面を顔に着け、柵を台にして飛び降りた。

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