陰陽師少女   作:花札

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ヴァイオリンを弾く一人の女性……その隣には、幼い朝妃が座りその音色を聞いていた。

吹いていた女性は、弾くのを止め傍に座る彼女の頭を撫でた。

目を瞑り聞いていた朝妃は、目を開け撫でる彼女を見上げた。その女性は、目は日の光で隠れていたが口元は笑っていた。


音に隠れる者

「……ひ!」

 

(……あれ?)

 

「……さひ!」

 

(夢?)

 

「朝妃!!」

 

 

隣に座っていた杏莉の声に、朝妃は伏せていた体を起こした。ふと前を見ると、教科書を持ちチョークを持った古文の先生がキョトンとした顔をしながら口を開いた。

 

 

「立花さん?聞いてました?」

 

「……いえ、何も」

 

「ちゃんと授業を受けなさい。

 

白鳥さん、代わりに」

 

「あ、はい」

 

 

放課後……

 

 

「珍しいね。

 

朝妃が授業中に居眠りなんて」

 

 

鞄に教科書類をしまいながら、杏莉は不思議そうに言った。

 

 

「何かあった?」

 

「……うん。

 

ちょっとね」

 

「?ちょっと」

 

 

「立花さーん!」

 

 

先輩らしき少女が、手を挙げながら彼女を呼んでいた。朝妃は、すぐに彼女の元へ駆け寄り話をし出した。

 

 

「今週の日曜日、吹奏楽部の演奏会があるんだよ」

 

 

夕美は得意げに、話してきた。

 

 

「演奏会……へ~」

 

「でも、朝妃凄いわよね~。一人でヴァイオリン弾くんだから」

 

「え?一人で?」

 

「うん。

 

今年の演奏会、朝妃のヴァイオリンを中心に披露するんだって!」

 

 

「神崎ぃ!!」

「神崎ぃ!!」

 

 

朝妃達が話している最中に駆けてきたのか勢いのまま滑り転がり、後ろのドアへと中村達が辿り着いた。

 

 

「神崎、迎えに来たぞ!!」

 

「今日は一年の対抗試合だ!」

 

「そんなの分かってますから!!

 

変な迎えしないで下さい!!」

 

「ハーイ、迎えはもういい。

 

神崎、先に行ってる」

 

 

二人の首根っこを掴んだ稲村は、呆れて立つ麗華に言いながら教室を去った。根っこを掴まれた二人は、泣き叫びながら彼女の名前を呼び叫んでいた。

 

 

「何か、神崎さん随分人気ね」

 

「……星崎、ヘルプ」

 

「頑張れ」

 

 

 

音楽室で、ヴァイオリンを弾く朝妃……彼女を中心に他の部員達は、各々の楽器を奏でていた。

 

 

指揮をしていた男は、演奏が終わると共に指揮棒を止めた。

 

 

「うん、凄いいい感じ!これなら、問題ないかな」

 

「良かったぁ!」

 

 

喜び合う部員達……その中、朝妃はもう一度ヴァイオリンを弾こうとした時だった。

 

 

“ガシャーン”

 

 

「キャア!」

 

 

突然、部屋の蛍光灯が落ち割れた。通りかかった先生はすぐに教室へ入り、驚き固まっていた生徒達を動かし掃除をさせた。

 

その一部始終を見ていた焔は、急いで麗華の元へ向かった。

 

 

“パァン”

 

 

矢を放つ麗華……放たれた矢は、見事に的へ当たった。

 

 

「絶好調だな!神崎!」

 

「先輩、そろそろ自分の」

「これなら、終業式また表彰だな!」

 

「いや、私は」

「そうなったら虎、俺等で神崎のガードをしねぇと!」

 

「そうだな!大!」

 

 

「お前等ぁ!!

 

いい加減、自分の練習もしろ!そこまでサボるなら、平野先輩呼ぶぞ!!」

 

「ヒィ!!」

 

「それだけは勘弁だ!!」

 

「虎、練習すっぞ!!」

 

「応よ!」

 

「部活終了までに、四十射打たなきゃ……速攻で平野先輩を呼ぶからな」

 

「何だよ!!その、困った時は平野先輩ってやつは!!」

 

「俺が部長になった際、先輩が言ったんだよ。

 

お前等二人が練習せず、神崎にチョッカイ出すようなことがあったら、遠慮無く呼べって」

 

「……」

 

「私を含む一年生は、皆四十射打ってます。

 

先輩方が打たないなら、平野先輩にこう言っときます。

 

二人に着替えているところを覗かれたって」

 

 

和やかに言った瞬間、二人は途轍もない悪寒を感じ弓を構え練習に入った。

 

 

「さ、さすが……先輩の右腕」

 

「ああでも言わないと、絶対練習しないから」

 

「次の部長、神崎で決定だな」

 

「だな」

 

「私、部長なんて自信ない」

 

「俺も」

 

「僕も」

 

 

矢道から鼬姿になった焔は、道場へと上がり皆に気付かれないよう麗華の元へ行った。

 

 

「どうしたの?」

 

「音楽室で、幽霊見た。

 

蛍光灯が落ちた」

 

「あらら……怪我人は?」

 

「いない」

 

(……練習終わったら、音楽室行ってみるか)

 

 

 

夜……

 

 

学校へ来た朝妃は、裏の校門を潜り校舎の中へ入った。

 

 

(よりによって、音楽室に楽譜忘れるなんて……ツイてないなぁ)

 

 

懐中電灯のスイッチを入れ、朝妃は一人廊下を歩いた。

 

階段を上り、音楽室のドアに手を掛けようとした時だった。

突然、中から物音が聞こえた。朝妃は手を止め磨り硝子から中を覗いた。大きな影と人影が見えた。彼女は意を決意して、ドアを勢い良く開けた。

 

 

「誰?!

 

 

……?!」

 

 

白い陰陽師衣装に身を包み、頭に毛皮を被り顔に狐の面を着けた麗華と大狼姿をした焔だった。

 

 

「……し、白い……陰陽師」

 

「……」

 

「……な、何であなたが?」

 

「……ここで事故があったと聞いて、調べに来ただけだ」

 

「どうして知ってるの?」

 

「お前に教える必要は無い」

 

 

窓を開け、先に外へ出た焔に続いて麗華は、飛び降り彼の背中へ乗った。朝妃は急いで窓の所へ駆け寄り、外を見た。

 

 

「待って!!」

 

「?」

 

「ねぇ……あなたがここに来たってことは、部活の時に起きたのって」

 

「……まだ分からない。

 

気を付けた方が、いいかも」

 

「……」

 

「じゃ」

 

 

焔の首を撫で、麗華は去って行った。

 

 

 

空の上……麗華は面を外し、一息吐いた。

 

 

「まさか、あそこで立花に会うとは……」

 

「一瞬、バレるかと思ったぜ」

 

「バレやしないよ。一応、この面着けてるから」

 

 

すると、首から下げていた巾着が震え中に入れていた携帯を取り出した。開くとそこには、龍二の名前が表示されていた。

 

 

「ゲッ、兄貴……」

 

「さっさと出ろよ。着メロうるさい」

 

「……

 

はい、もしもし」

 

「麗華か!

 

悪い、今日卒論の最終チェックでで帰れそうにない」

 

「分かった」

 

「先に寝てていいから。

 

後、布団にちゃんと湯たんぽ入れて寝ろよ!良いな!」

 

「ハイハイ、分かりました。

 

夕飯は?」

 

「軽めに頼む」

 

「了解」

 

 

携帯を切った時、頭に水が当たった。麗華は焔を急がせ暗い空を飛んでいった。

 

 

 

翌日……

 

 

「あれ?神崎さんは?」

 

 

卓也は本を持ちながら、麗華の席を見て隣に座っていた翼に問いかけた。

 

 

「知らねぇ。俺が来た時には、いなかったぜ」

 

「え。もうすぐで、朝のホームルーム始まるよ」

 

「遅刻じゃねぇ?

 

あいつ、ギリギリで来てるじゃん。そのうち来るよ」

 

「……せっかく、神崎さんにお勧めの本があったのに」

 

「本?何の?」

 

「これ」

 

 

卓也が持っていた本は、妖怪七不思議と書かれた本だった。翼は、半分呆れた顔をしながら軽くため息を吐いた。

 

 

 

 

「ゲホッゲホッゲホッゲホ!!」

 

 

激しく咳をしながら麗華は鼻を啜りなった体温計を取り出し、傍にいた龍二に渡した。

 

 

「38度5分……風邪だな」

 

「体の節々が痛い……」

 

「そりゃ風邪引いてるからな。

 

今日は寝とけ。俺ももうすぐしたら出るから」

 

「へ~い……(昨日の雨が原因だな)」

 

 

昨夜……帰ってきた麗華は、びしょ濡れで家へ上がった。焔は鼬姿へ変わり家の水を吹き飛ばした。びしょ濡れになった焔を持ち上げ、彼女は一直線に風呂場へ行った……だが、風呂に入っている最中くしゃみを何回もし上がった後もくしゃみと咳を繰り返していた。

 

 

(風邪薬、飲んだのに……)

 

(効果無しだな)




部活時間、音楽室へ来た朝姫は一人ヴァイオリンを弾いていた。その時、ピアノの上に置いていたメトロノームが突然落ちた。驚いた彼女は、落ちたメトロノームを拾いピアノの上に置いた。ふと、目の前に立てられていた鏡に目を向けた。自身の後ろに、人影が写っており、すぐに振り返った。

そこには誰もおらず、いるのは自分だけだった。


(……今のって)

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