陰陽師少女   作:花札

3 / 114
翌日から、早速授業開始となった。麗華と大輔は暇そうに大あくびをして、授業を受けていた。その様子を木の上から見ていた焔は、少しため息を吐いた。


放課後……一年生の廊下前には、部活勧誘の人達で溢れかえっていた。その中を一人の男子が歩き通り、一年C組の教室に着きドアの前で話していた女子に話し掛けた。


「神崎麗華ってこのクラスか?」

「神崎麗華?」

「あぁ!神崎さん!

ほら、いつも授業中眠たそうにしてる大人しい子よ」

「あぁ!あの神崎さん!」

「で?いるのか?」

「いますよ!えっと……

あ、ほら!あの席に」


クラスの女子が指差す方に麗華はいた。彼女は机の中から物を出し、それを鞄へ移し終えチャックを閉めていたところだった。


「神崎!」

「?」

「道場行く前に、俺の教室に来い!」

「え?……あ、はい!」


鞄を肩に掛け、急いで先輩の元へと駆け寄った。話をしながら先輩を先頭に、麗華は廊下を歩いて行った。
そんな様子を、朝妃達はドアから顔を出し盗み見た。


「何?もう、部活入ったの?」

「今週は仮入部で、入部届出すのは来週のはずよ」

「知り合いじゃねぇの?

神崎の家族の誰かが、この学校の卒業生みてぇだし」

「そういえば、噂で聞いたことある。

この学校に、スッゴい信頼されてた生徒がいたって」

「凄い生徒?」

「スポーツ万能、成績優秀、生徒会の会長やってた人」

「あ!それ、私も聞いたことある」


先輩の教室へ来た麗華は、彼から弓袋に入った弓を数本持ち持っていた半分を麗華に渡した。


「こんなたくさんの弓、どうしたんです?」

「広報からの寄付で貰ったんだ。道場まで運ぶのが面倒だから、持って行ってくれって顧問がな」

「へぇ……」

「言っとくが、仮入部なんざ無視して、お前は今日からもう正式に弓道部の部員だからな。これから厳しく指導するから、覚悟しとけ」

「覚悟の上で、弓道部に入ったんで」

「いい答えだ」



部活終了後、見学に来ていた一年生は袴を着て安土から抜いた矢を持ち道場に入る麗華を見て少々驚いていた。彼等の視線に、麗華は逃げるようにして巻藁室に入った。


「凄い視線ね」

「そりゃあそうだろ?一年で、袴着てもう練習してんだから」

「見学期間中、休んでてもいいですか?」

「私はいいけど、想太(ソウタ)がね」

「……」

「えっと、今年入部する予定の一年は……神崎を合わせて、四人」

「少ないねぇ」

「厳しいうえ、この練習風景見てちゃ、誰だって入る気しねぇよ」

「弓道の楽しみを知ってるか、中学が弓道部だったっていう子くらいですよ」

「けど部員増やさないと、ヤバいんですよね?うちの部活」

「どこまで知ってんだ?お前」

「そうそう。今年で八人いる三年生は引退。

残るのが六人いる二年生と、入るであろう一年生の四人だけ」

「つか、何で坂口先輩達の代はそんなに多かったんですか?」

「私達の代にね、優しく指導してくれたOBの先輩が来てたの。それで入った八人が全員残ったの」

「俺達の代の三年と二年が、とにかく厳しくて。

安らぐ日何ざ、一日も無かった」

「俺等、励まし合ってやってたもんな」

「その厳しさが、卒業した先輩の耳に入って、それで」

「そん時の先輩さ、妹さん連れて練習しに来てたっけ」

「……先輩方が言ってる、その先輩って?」

「ここにいる神崎麗華の兄上、神崎龍二さんの事!」

「え?!」

「神崎龍二って、確か伝説の生徒会長」

「文化祭の時、入ってきた不審者を見事に撃退したっていう武勇伝を持っているあの!」


「騒いでる暇があんなら、仮入部の部員の相手をしろ!!」


巻藁室を覗くようにして、平野が怒鳴ってきた。坂口と二年生は体をビクらせて、驚いたかのような声で返事をし急いで部屋を出て行った。麗華は持っていた矢を矢拭きで拭き矢立へと戻した後、平野と共に弓を拭き始めた。


卓也の秘密

夜……人の姿をした焔と共に、麗華は提灯を片手に夜道を歩いていた。

 

 

「暗い夜道の散歩は、やっぱりいいねぇ」

 

「龍にバレたら、殺されるぞ」

 

「何であんな厳しい兄になったんだか……

 

昔はさ、夜に散歩してたって全然怒られなかったのに……むしろ、兄貴も一緒になって散歩してたのに。最近じゃ、何かっていうと怒る様になった」

 

「それだけ、龍がお前のこと心配してんだよ。

 

最近、結構物騒になったって龍が言ってたしさ」

 

「……」

 

 

「さっさと、金出せ!」

 

 

男の怒鳴り声が、通りかかった公園から聞こえた。麗華は焔と顔を合わせ、提灯のライトを消すと頭に着けていた狐の面を顔に被せ、公園に入り茂みから見た。

 

公園にある電気で、その光景が見えた。自分と同じ高校の制服を着た一人の男子と、別の高校の制服を着た三人の男子がいた。

 

 

「ぼ、僕お金なんて」

 

「言いから出せ!」

 

「それとも、俺達に出せないってのか?

 

友人には出せるのに、お金に困ってるこの俺達二は」

 

「っ……」

 

「さぁ、早く寄こせよ」

 

 

そんなやり取りを見ていた麗華は、小声で焔に話した。

 

 

「アイツ、山本だ」

 

「え?」

 

「山本卓也。同じクラスの子で同じ班」

 

「へぇ」

 

「あの制服……確か、川逆高校だ」

 

「川逆高校?」

 

「ちょっと遠くにある、不良高校」

 

 

男子三人は、山本を数回蹴ると財布を奪い取り、金を抜き取ろうとした。

 

 

「あ!

 

 

警察だぁ!!そこで何をしている!!」

 

「ゲッ!!察だ」

 

「に、逃げるぞ!!」

 

 

麗華の大声に男子三人は金を抜き取らず、その場から逃げだした。卓也は辺りをキョロキョロと見回すと、財布を拾い駆け足で公園を出て行った。

 

 

「……フゥ、よかった」

 

「何が良かっただ」

 

「?!」

 

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、恐る恐る後ろを振り返った。笑みを浮かべ明らかに怒っているであろう龍二が、腕を組みそこに立っていた。

 

 

「あ、兄貴」

 

「麗華、テメェこんな夜遅くに何やってんだ?」

 

「散歩?」

 

「散歩?じゃねぇだろ!!」

 

「!!」

 

「何考えてんだ!!女子高生が、こんな夜遅くに出歩いたら補導されるぞ!!」

 

「補導って……まだ、八時何ですけど」

 

「……つべこべ言わずに、さっさと帰るぞ!」

 

 

麗華の服を掴みながら、龍二は歩き出した。彼の手を振り払い、後ろを歩きながら麗華は龍二の後について行った。

 

 

 

翌日……

 

 

眠そうな目を擦りながら、麗華は登校していた。その時前から頬に湿布を張った卓也が。重い足取りでトボトボ歩いていた。

声を掛けようとした時、後ろから耳に着けていたイヤホンを外して、顔を覗くようにして翼が声を掛けていた。彼に声を掛けられた卓也は、湿布を隠すようにして、手で頬を覆い慌てて何かを説明していた。

 

 

教師へ入り、ホームルームを終え授業が始まった。

 

その時、どこからかバイブの音が聞こえた。前の席に座っていた卓也は、体をビクらせてこっそりと携帯の画面を開いた。そしてゆっくりと閉じ、不安な表情を浮かべていた。

 

 

 

放課後……

 

帰りのホームルームが終わり、生徒達はそれぞれ支度を鞄を持ち帰っていた。卓也はバックのチャックを開けたまま、どこかへ行ってしまった。チャンスだと思った麗華は、鞄に着けていたポーチの蓋を開けた。中から鼻を動かしながらシガンが顔を出し、彼女の手に擦り寄った。

 

 

「アイツについて」

 

 

小声で言うと、シガンはポーチから出て皆に気付かれない様に卓也の鞄の中へと入った。その様子を、屋上から帰ってきた翼は見ていた。そして呼ぼうとした時……

 

 

「か」

「神崎ぃ!!」

 

「!!」

 

 

怒鳴り声をあげて、平野が突然教室にやって来た。麗華は持っていた携帯を落とし、それを大輔が慌てて受け止めた。

 

 

「び……ビックリしたぁ……」

 

「あの人……」

 

「確か……弓道部主将の平野想太(ヒラノソウタ)先輩」

 

「学校一、怖い人」

 

「嘘……何で、神崎さんが?」

 

「弓道部じゃん。神崎」

 

「そう言えば」

 

 

入ってきた平野を見ながら、クラスメイトは怯えた様子でヒソヒソと話した。麗華は平野に腕で首を絞められそのまま引っ張られて行かれ、その後を大輔が自身の鞄を持ち、彼女の鞄と携帯を持ち追い駆けて行った。

 

 

「どう見ても……」

 

「神崎さんと星崎君って」

 

「夫婦!」

 

「いや、カップル。それも完璧な!」

 

「幼馴染のカップル!良いわねぇ」

 

 

場所は変わりここは弓道場。

 

たんこぶの出来た平野と、長い髪を結った女が倒れている麗華を指差しながら怒鳴った。

 

 

「何で神崎ちゃんが、ここへ来た瞬間気を失ってんのって聞いてるの!!」

 

「だから……腕で首を」

 

「何絞めてるのよ!!大体アンタはね!!」

 

「始まった。坂口先輩と平野先輩の戦い」

 

「あの、この鞄神崎のです。

 

俺、部活があるんでこれで」

 

「おう。ありがとうな」

 

 

二年の先輩に麗華の鞄を渡し、大輔は軽く礼をすると駆け足で道場を後にした。

 

 

帰り道……部活を終え、首を回しながら麗華は帰っていた。

 

 

「ったく、平野先輩……思いっ切り首絞めやがって」

 

「死にかけてたもんな」

 

 

その時、路地裏からシガンが現れた。シガンは麗華の足を伝い肩へと登り路地裏を見た。頭を撫でながら、麗華はそっと路地裏を見た。そこにはボロボロになった卓也が、横たわっていた。

 

 

「山本!!」

「卓也!!」

 

 

自分を通り過ぎて、彼の名を叫びながら誰かが駆け寄った。

 

 

(大野?)

 

「卓也!おい、卓也!!卓也!!」

 

「すぐに病院連れて行こう!」

 

「そのつもりだ!俺に指図すんな!!」

 

 

卓也を背負い、翼は麗華と共に病院へ急いだ。

 

病院のベッドで寝る卓也……ドアを閉めながら、茂はカルテを見ながら話した。

 

 

「数ヵ所殴られた跡が、体中にあった。その上頭を何か強い何かで殴った跡があって、それで軽い脳震盪を起してそのまま意識を失ったんだと思うよ」

 

「そうですか……」

 

「目が覚めるまで、ここにいても構わないよ」

 

「そうしたいんですが、妹が家で俺の帰り待ってるんで」

 

「そうか……それじゃあ目が覚めたら連絡するから。麗華ちゃんの携帯で」

 

「分かりました」

 

 

軽く礼をすると、翼は病院を出て行った。




「入学してすぐに、男の友達が出来るとは……やるねぇ、麗華ちゃん」

「友達じゃありません!クラスメイト!」

「アッハハハハ!またまたぁ」

「本当です!それに、ここで変な事言わないで下さい!

兄貴に知れたら、殺されます!」

「言わないよ!麗華ちゃんには、陽一君って言う許婚がいるんだろ?」

「知ってるなら、からかわないで下さい……」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。