受付で、名前を書く龍二達。
「いや~、いつ来てもやっぱ高校はいいわ!」
「頭の中が、まだ高校生だからだろ」
「龍二!」
「龍兄!早う、麗のクラス行こうや!!」
「陽一!少しは待て!!」
「姉貴に言われとうない」
「何やてぇ!!」
「止めろ美幸!公共の場で!!」
制服へ着替えた麗華は、自身の教室の前で立っていた。客引きをしていた朝妃は、そんな彼女に話し掛けた。
「麗華、誰待ってるの?」
「知り合い。
昨日話したじゃん。知り合いが来るから、今日は客引き無理って」
「あ、そうだったね……」
「しっかし、遅いなぁ……何やってんだ?」
「おい!さっき、道場破りが来たってさ!!」
「マジかよ!?」
「今、部長と決闘中らしいぜ!!」
「見に行こう!」
その様な話を聞いた麗華は、まさかと思いながら急いで道場へ向かった。
道場……
お腹を手で抑え、蹲る空手部の部員達。彼等の前には、準備運動をする陽一の姿があった。
「うへー、空手部のくせして皆弱いなぁ」
「何者だ!貴様は?!」
「麟音高校空手部、三神陽一や……」
「麟音高校……
!?ま、まさか」
「兄ちゃんのご想像にお任せするわ。
さぁて、主将やろ?掛かって……!!」
突然背後からバレーボールが投げられ、陽一の後頭部に直撃した。
「痛ってぇ……
誰や!!?ボール投げ…たの…は」
強く言う陽一だが、投げた方にいた人物を見て言葉は弱くなった。
怒りのオーラを放つ麗華……
彼女に怯んでいる陽一を主将の後ろからやって来た真二は、頬を殴り飛ばした。殴られた彼を、龍二は持ち上げ道場から美幸と共に立ち去った。
「よっしゃー!!
現主将!前主将から、決闘を申し込む!!
お前が勝てば、薙刀部前主将(緋音)のこのプライベート写真」
言い掛けた時、後ろから木薙刀が振り下ろされ真二の頭に直撃した。
「人の写真、撒き散らすんじゃないわよ!!」
保健室……赤く腫れた頬に、湿布を貼って貰う陽一。彼の傍に腕を組む美幸と目頭を手で抑える龍二、そして陽一に背を向ける麗華がいた。
「ったく……
何で来て早々、空手部に勝負を挑むんだよ。しかも主将に」
「仕方ないわ。この子、昔から馬鹿弟だから」
「誰が馬鹿や!!」
「アンタのことや!!」
「姉貴の方が馬鹿やろ!」
「アンタとアタシを一緒にするな!!
ほら早う麗華ちゃんに謝って、校内回って遊びな。
うちは、龍二達と回るさかい」
「……」
ゆっくりと振り返りながら、陽一は立ち上がり背を向けている麗華の元へ寄った。
「……れ、麗」
「アンタ捨てて、あの狐野郎の嫁にでもなろうかしら」
「それだけは堪忍してぇ!!
なぁ、悪かったって!」
「こっちの立場も考えろ!!」
「だから、悪いって」
「そんなに一緒に歩きたいなら、顔にこれでも着けてろ!」
いつの間にか持っていた狐の面を陽一に渡し、麗華は保健室を出た。面を顔に着けながら、陽一は慌てて彼女の後を追った。
「完全に尻に敷かれてるな、陽一の奴」
「良かったわ。麗華ちゃんがしっかりした義妹で」
「まだ義理じゃねぇぞ」
校内を回る二人……生徒達は皆、陽一と麗華を不思議そうに見ていた。
「なぁ麗、何か見られてるで?俺等」
「それはアンタが、狐の面を着けてるからよ」
「じゃあ、外して」
「止めんかい!!」
「!」
「ただでさえ、アンタの顔は校内に広まってるんだよ!ここで顔出したら、明日から学校行けなくなる!!」
「……すんまんせん」
「……
本当なら、陽と一緒に店回って楽しみたかったのに」
少しガッカリしたように、肩をすくめる麗華を見た陽一は、彼女の手を引きどこかへ行った。
数分後……
校庭に広がる屋台で、タコ焼きを食べる陽一と麗華。
「まさか、口元だけ切って目元だけ残して着けるとは」
「ヒヒ!これやったら、大丈夫やろ?」
「まぁ、さっきよりはマシね」
「……?
なぁ、麗」
「?」
「あれ、何や?」
指差す方に目を向けると、そこには“勇姿”と書かれた看板があった。
「来場者や生徒達が、自分の得意なものを見せるやつだよ」
「へぇ……誰でも参加OKなんか?」
「うん。あそこの受付で名前かチーム名を書いて、それで時間になったら出場」
「ふ~ん……」
悪戯笑みを浮かべる陽一に、麗華は疑いの目を向けながら言った。
「まさかとは思うけど……」
「お前が思ってる通り。
波と焔に衣装持ってこさせて、やろうや!」
「言うと思った」
「無論、面着けて。
二人共、狐でええやろ?後、頭に毛皮被ればええし」
「いいけど、音楽はどうするの?」
「和曲なら、俺のウォークマンにある。
それ流せば、ええやろ」
「準備がいいこと」
数分後……
踊り衣装を着た二人は、狐の面を着けて受付で名前を書いた。彼等の格好に少々驚きながら、受付をしていた男は陽一から音楽を受け取った。
舞台へ上がる二人……
二人の異様な雰囲気に、歩いていた生徒と来場者は足を止め舞台の方に注目した。
スピーカーから鳴り響く琴の音色……その音と共に、笛、太鼓、三味線と次々に楽器の音色が響き渡った。
“タン”
勢い良く地面を踏み、下駄を鳴らす麗華と陽一……扇子を広げた麗華は、バク転をして後ろへ下がった。それを見た陽一は手に持っていた折りたたみ式の棍棒を組み立て、それを振り回した。
「ねぇ、あれって」
「神楽祭りに出てた、あの二人だよな!?」
「やっぱり!!」
続々と集まる観客……それに合わせて、二人は過激な舞を披露した。その様子を、妖怪達は姿を消して観覧していた。近くに生えていた木には、牛鬼と安土、時雨にショウ達が枝に座り見ていた。
音楽が終盤に入った時、二人は羽織を脱ぎ捨てた。動きやすくなった麗華は、手を前に差し出していた陽一目掛けて駆け出した。勢い良くジャンプし、空中回転をした後水飛沫を放った。
「冷た!」
「水だ」
「淒ぉい!!」
落ちてくる麗華を陽一は受け止め下ろし、それと共に音楽は終わった。観覧席から盛大な拍手が送られた。二人は左右に礼をすると、懐から隠していた煙玉を出し投げ、その場から一目散に消え去った。
屋上……
「上等や!上等!」
服に着替えながら、陽一はご機嫌そうに言った。
「これで、また伝説が出来たか」
「ヒヒ!謎の踊り巫女と巫覡、学校に現るってか」
「伝説のままにして欲しい」
「さてと、着替えも済んだことや。
もう一度、回ろうや!」
「うん」
「波、悪いけど着替え頼むわ」
「全く、人を扱き使いおって!!」
「ええやないか!
旦那に会えたんやし」
「陽!!」
彼の言葉に、波は顔を真っ赤にし傍にいた焔も同じく顔を赤くして、そっぽを向いた。
閉会式……
体育館に集まる生徒達……麗華は、体育館の上から集まる彼等を眺めていた。
「やっぱ、こっからの方が眺めいいな!」
そう言いながら真二は手摺りに凭り掛かり、舞台を眺めた。彼に続いて緋音と龍二がいた。
「あれ?兄貴、二人の見送りに行ったんじゃ?」
「見送ったよ。その後、渚で」
「あ、そう……てか、良く入れたね」
「卒業生だって言ったら」
「その前に、生徒会の先生に会って『是非、閉会式を見て行ってくれ』って、言われたからでしょ」
「そうとも言う!」
「あのねぇ」
「……
頼むから、目立った行動はしないで……?」
何気なく下を見た麗華の目に、体育館の隅に立つ少女が映った。その少女は、ブレザーではなく以前制服であろうセーラー服だった。
「……」
「アイツは大丈夫だ」
「?」
「お!まだいたのか」
「当然よ。
あの子、ただ文化祭が好きなだけだもん。悪さはしたことないわ」
「兄貴達の代からいたのか?」
「まぁな。
ああやって、楽しむ皆に紛れて自分も楽しんでんだよ」
その時、突然体育館の照明が消された。舞台に明かりが付き、そこへ生徒会の会長と副会長が上手と下手から姿を現した。
賑わう体育館……髪の毛に隠れていたシガンは、鼻を動かしながら外へ出て麗華の頬に擦り寄った。寄ってきたシガンの頭を、彼女は撫でそれを見た焔も肩へと上がり頬擦りした。