陰陽師少女   作:花札

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「小さい子に怖い思いさせるなんて、最低な野郎だな」


離れた恵は、泣きながら翼の元へ駆け寄り抱き着いた。駆け寄ってきた彼女を抱き上げながら、翼は倒れているヤクザの背後を見た。

拳を鳴らし二人を睨む麗華……


「お前……


幽霊じゃなかったのか」

「脚あるわ!!」

「……お前、まさか」

「アンタ達、まだこんな事やってたんだ……

務所に入ったから、多少はよくなってるかも思ってたけど」

「あぁ!!

あ、あの時の小娘!!」


指差したヤクザの目には、幼い頃の彼女が横に映っていた。


「お久しぶり~」

「何でこんな所に?!」

「住んでる所だから」

「あの怖いお上の娘じゃねぇのか?!」

「あれは私の伯父」

「その伯父に、連絡済だよ」


携帯の画面を見せながら、茂は麗華の隣に立った。


「さぁ、早く逃げないと」

「こっちに来るかもね~」

「に、逃げるぞ!!」

「クソ!!覚えとけ!!」


慌てて立ち上がり、二人は出て行った。茂は一息吐くと、患者達を落ち着かせながら看護婦さん達に話をした。

麗華は体を伸ばすようにして、腕を上へ伸ばした時だった。強烈な楓の飛び蹴りが、彼女の頭に当たった。


(うわ……)

(諸に…)

「何危険な事してんのよ!!

さっきの蹴りで、アンタの足に傷が付いたらどうするのよ!!龍二、殴り込むわよ!!さっきの野郎の組の所に!!

大体、アンタはいつもいつも」


胸倉を掴まれ、揺らされながら楓は頭にデカイタンコブを作った麗華を怒鳴り続けた。


正体

夕方……翼は一人、病院の屋上へやって来た。屋上には、置かれているベンチに横になっている麗華が居た。

 

 

「あれ?大野。どうかした?」

 

「外の空気吸いに来ただけだ。

 

そういうお前は」

 

「空を眺めてるだけ」

 

 

楓に蹴られた箇所を撫でながら、麗華は起き上がった。すると、どこからか黒猫がやってきて彼女の膝の上へ飛び乗った。

 

 

「……なぁ」

 

「ん?」

 

「……お前って……

 

 

あの白い陰陽師か?」

 

 

翼の言葉に、麗華は撫でていた手を止め彼の方を見た。

 

 

「どういう……意味?(何で……何で、バレた?!)」

 

「キャンプの時、お前平気であの妖怪に対応したじゃん。

 

それに、お前がいなくなると、必ずあの陰陽師が現れる……」

 

「……」

 

「それにお前の家、神社だし……」

 

「いや、それはそういう家系だから(斉藤もそういう家系だろう)」

 

「で、どうなんだ?」

 

「……

 

 

だったら、どうする?」

 

「え?」

 

「もし、私がその白い陰陽師だったらどうする?」

 

「……別にどうもしねぇ。

 

正体がお前だったとしても、俺は誰にも話さない。自分の胸にしまっとく」

 

「フーン……

 

まぁ、そう思っとけば」

 

 

そう言いながら、麗華は院内へと戻っていった。

 

 

病室へ戻ってきた麗華……ドアを閉めると共に、ソファーに座ると同時に頭を抱えた。

 

 

(ヤバい……完全にバレかけてる!?

 

ど、どこでバレた?!やっぱキャンプ?それとも、山本を助けた時?

 

 

思い当たる節はない……ただ妖怪に詳しいだけ)

 

「麗、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない……あぁ、どうしよう」

 

 

「麗華ぁ!!見舞に来たぞ―!!」

 

 

突然ドアが開き、外から牛鬼と安土が入ってきた。びっくりした麗華は、大声を出し飛びこんできた安土に向かって、顔面パンチを喰らわせた。

 

 

「何で?!俺、何かした?!」

 

「ビックリするわ!!」

 

「だから、静かに入れって言っただろ」

 

「いーじゃん!サプライズだと思って」

 

 

その言葉に、麗華はキレたのか懐から札を出し薙刀を構え刃を彼に向けた。

 

 

「すみません……ふざけ過ぎました」

 

 

 

その翌日……退院した麗華は、家へと帰った。ふと家の前に目を向けると、黒い車が停まっていた。

 

 

(あれって……)

 

 

急いで階段を駆け上り家へ行くと中には昨日来たヤクザ二人と、翼の伯母夫婦がいた。

 

 

「あら?ようやく、家の主のお帰りかしら」

 

「婆が、何しに来たんですか?」

 

「誰が婆じゃ!!

 

ここの教育は一体どうなってんの?!」

 

「全くだ」

 

「その言葉、そっくりそのままそちらに返します」

 

「何ですって!!」

「それより、姪と甥はどこに?」

 

「知りませーん」

 

「本当に、ここの教育、どうなってんの?

 

態度は悪いし、言葉遣いは悪いし……」

 

「あなたに言われたくないんだけど」

 

「ハァ?!どういう意味よ!!」

 

 

「そこまでだ!!」

 

「!?」

 

 

走ってきたのか、息を切らしながら龍二はそう叫んだ。

 

 

「アンタ、こないだの大学生!?」

 

「ひ、人ん家に……は、入るなんざ…ふ、不法侵入」

 

「とりあえず、息整えてから真面な言葉言って」

 

「な、何でアンタが!!」

 

「さっき茂さんから連絡を受けてな!

 

それで、テメェ等……うちに何の用だ?」

 

「決まってるじゃない!!

 

甥と姪を取り返しに来たのよ!!」

 

「残念!もうここにはいない!」

 

「ハァ!?じゃあ、どこにいるのよ!!」

 

「教えるわけないじゃん」

 

「……なら、いい」

 

「?」

 

「その代わり」

 

 

指を鳴らす夫……次の瞬間、麗華の背後から何者かが肩を掴み刃物を頸に当てた。

 

 

「動くんじゃないよ。大事な妹さんを、傷付けさせたくなければ」

 

「じゃあそっちも、変な真似してみろ。

 

この境内の周りに待機させてる刑事達を、俺の合図一つで動かすことが出来るからな」

 

「抜け目ない大学生さん。

 

さぁ、翼と恵を早く出しな!」

 

「嫌なこった!誰が渡すか!」

 

「そういう態度を取るなら、こっちにも考えがある」

 

 

目で合図を送ると、麗華の動きを封じていた男が刃物を頸に当てたまま、彼女のスカート下に手を入れた。

 

 

「ド変態!!」

 

 

入れた瞬間、麗華は刃物を弾き飛ばし男の腹に肘鉄を食らわせた。男は腹を抑えながら倒れた……するとその彼の背後から、翼が姿を現した。

 

 

「大野」

 

「やっと出て来たか……翼、帰るよ!」

 

「誰がお前等の所に帰るか!!」

 

「良いのかい?そんなこと言って。

 

金が無きゃ、今通ってる学校も生活も友達も全部無くなるんだよ?それでも良いのか?」

 

「っ……」

 

 

「全部は無くならない」

 

 

そう言いながら、龍二は内ポケットから手帳を出しそこに書いてあることを読んだ。

 

 

「大野都……翼達の父親・大野駿の妹。現在は独身であり自営業をやっている。

 

元々、二人は都さんに引き取られるはずだったが、お前等二人が裏で手を回して全て自分のものにした」

 

「な、何でそれを」

 

「アンタ!!」

 

「警察なめんな!」

 

 

勝ち誇った笑みを浮かべながら、龍二は腕を組み二人を見た。すると伯母は目付きを変えて、玄関にいる龍二に襲い掛かった。

 

 

「やっと正体現したか……焔!!」

「渚!!」

 

 

二人の声に、どこかに隠れていた焔達は人の姿へのなり伯母に体当たりした。伯母は外へ放り出された……すると倒れていた伯母の体から、ゆっくりと黒い影が姿を現した。

 

 

「昨日病院で見た野郎と同じだ!!」

 

「チッ!モウ少シダッタノニ!!」

 

「俺等に見付かったのが」

 

「不運の始まり」

 

 

薙刀と剣を出し構えながら、二人は先に出ていた焔と渚の隣に立った。

 

 

「……神崎、お前」

 

「今から見せる光景は、普段私が行ってること……

 

これを見て、嫌になったら私に近寄らないことだ」

 

 

札を出し、麗華は龍二に目で合図した。彼は剣を握り構えて悪霊に向かって振り下ろした。悪霊は素早く避け、翼に向かって襲ってきた。その瞬間、焔が悪霊に向かって体当たりし、彼の前に立ち構えた。

 

 

「クソ!!邪魔ヲスルナ!!退ケ!!」

 

「退くわけ無いじゃん!

 

兄貴!」

 

「応よ!渚!」

 

 

狼姿になっていた渚は、口から水を吐き出し悪霊に当てた。水浸しになった悪霊を見た二人は、同時に札を出し構えた。

 

 

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!

 

出でよ!!建御雷神!!」

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!

 

出でよ!!建御雷神!!」

 

 

札から激しい雷が放たれた。その雷に打たれた悪霊は、灰となり消えた。




警察署へ来た翼と恵……二人の隣にいた麗華は、肩に乗っていたシガンと焔を交互に撫でていた。


「お兄ちゃん」

「?」

「恵達、これからどうなるの?」

「……さぁな」


「……もうちょっとかな……」

「?」


その時、階段を駆け上るヒールの音が聞こえてきた。角から現れたのは、眼鏡を掛け黒いボブカットの女性だった。


「翼!恵!」


女性は駆け寄ると、二人を力強く抱き締めた。


「よかった……よかった、無事で」

「み、都叔母さん」
「都叔母ちゃん!」

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