陰陽師少女   作:花札

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「ふぅ……

何ちゅう大人だ」

「最悪な大人ね。

優だったら、あんな大人怒鳴ってる所よ(後で塩撒いとかなきゃ)」

「ハハハ……想像がつく」

「大野達、迎えに行って来る。

青達の所にいるから」

「じゃあ、俺も行く」


懐中電灯を手に、龍二は麗華と共に森の方へ行った。
しばらく歩いて、青達の住処へ着いた。中では翼は転た寝しており、恵は青の背中に乗って遊んでいた。


「あ!お姉ちゃん!」


青の背中から降りた恵は、麗華の元へ駆け寄り抱き着いた。彼女の声に、翼は目を覚まし慌てて立ち上がり振り向いた。


「神崎……あいつ等は?」

「兄貴が追い返した」

「……」

「でも、明日児童相談所の人が会って話し合うみたい」

「児童相談所の人に無理言って、お前達のことは俺の家で一時保護って事になってる。だから安心しろ」


そう言いながら、龍二は翼の頭を雑に撫でた。その瞬間、翼の目から一筋の涙が溢れ出た。それを見た麗華は恵を抱き上げ、先に猿猴達の住処を出た。いなくなったと同時に、翼は溢れ出てくる涙を腕で拭いだした。


「親が亡くなってから、泣いてなかったんだろ?お前……

小さい妹いると、デカい兄貴は泣けねぇもんなぁ(泣けねぇんだよなぁ。自分が泣くと妹に心配掛けちまうと思って、泣けないんだよなぁ……その気持ち、俺よく分かるよ)」


翼の姿が一瞬、昔の自分と重なって見えた。



森の中を、提灯を照らしながら麗華は歩いていた。


「お姉ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんね、ママ達がいなくなった後泣いたところ見たことないの」

「そう……」

「さっき、お兄ちゃんの目からお水が流れてたよ」

「いいの。あれで(抱えちゃうんだよね。兄貴だから……小さい妹前では、絶対に涙を見せない……

だから、時々涙を流さないと溜まっちゃうんだよねぇ)」


溜めていたもの

翌朝……目が覚めた翼は、起き上がり部屋を出た。台所へ行くとそこに、食器を洗う楓がいた。

 

 

「あら、起きた」

 

「あ、はい……」

 

「ご飯出来てるから、食べな」

 

「……あの、妹は」

 

「恵ちゃんなら、まだ寝てるよ。

 

昨日の夜、麗華と寝るって言って彼女の部屋で寝たの」

 

「あいつ……

 

じゃあ神崎も」

 

「麗華はもう起きて、今洗濯物干してるわ」

 

「……」

 

 

その頃、恵は目を覚ました。起き上がり麗華の部屋をキョロキョロと見回した。

 

 

「……ママ。

 

?」

 

 

机の隣に置かれていた棚の上にある籠にいるシガンを、恵は見つけそこへ寄った。シガンは毛を舐め、籠のドアの所まで行くと、手で弄った。

 

 

「……出たいの?」

 

「キュー!」

 

 

鳴き声を上げたシガンに答え、恵は鍵を開けた。開けたと同時にシガンは、籠から飛び出し空いてたドアの隙間を抜け外へ飛び出して行った。

 

 

「あ!待ってぇ!!」

 

 

ドアを開け、恵はシガンの後を追い駆けた。洗濯を干し終えた麗華は、地面に置いてあった籠を手に取ろうと屈んだ時だった。

 

 

「キュー!」

 

「え?!シガン……わぁ!!」

 

 

縁側を飛び下り、地面を蹴って麗華の肩へ飛び乗った。乗ってきたシガンに驚いた彼女は、地面に尻を突いた。そこへシガンを追い駆けてきた恵は、尻を打ち痛がっている麗華を目にした。

 

 

「痛ったぁ……」

 

「どうしたの?!あ!何やってるのよ!」

 

 

騒ぎに驚いた楓は慌てて、尻を突いている麗華の元へ駆け寄り彼女を立たせた。

 

 

「たかが洗濯物干すだけで、何で尻もちつくのよ!」

 

「いや、いきなりシガンが飛び乗って来て」

 

「はぁ?!」

 

「とにかく、大丈夫だから」

 

 

肩に乗ったシガンの頭を撫でながら、麗華は洗濯籠を手に家の中へと入った。

 

 

「あれ?恵、起きてたのか?」

 

「!お、お兄ちゃん……」

 

「お前、何かやらかしただろ?」

 

「そ、それは…その」

 

「何やった?」

 

「えっと……」

 

「……恵ぃ!!」

 

「ごめんなさ~い!!」

 

 

 

 

場所は変わり、ここは警察署の面会室。中には翼の伯母夫婦と池蔵、さらに児童相談所の者が一人いた。

 

 

「一体、どういうつもりなの!?

 

甥と姪を誘拐して!!」

 

「だから、誘拐はしていません。一時保護です」

 

「我々は何度もお電話をし何度もお宅へ行き、二人に会わせて欲しいと申しました。けど、あなた方はその度に拒否されました。

 

そこで、刑事さんのご協力元あの大学生に手伝って貰い、二人を一時保護しました」

 

「何であの大学生が、二人を保護すんのよ!!」

 

「あなたの甥である翼君は、その大学生の妹さんと同級生でありクラスメイトです。

 

同じ日に、幸運にも翼君は彼が恵ちゃんは妹さんが助け保護しました。それに妹さんが恵ちゃんとお風呂に入ろうと服を脱いで貰ったところ……

 

 

体の至る所に、虐待を疑わせる傷や痣、火傷の跡があることを確認しました」

 

「あれは、あの子が言う事聞かないから……」

 

「四歳で親が亡くなったばかりの子に、夜泣きをするなど無理なことです」

 

「っ……」

 

「とにかく、虐待の疑いがある以上あなた方に返すわけにはいきません」

 

「そんな……」

 

「引き取った意味がねぇじゃねぇか」

 

「意味?」

 

「いや、こっちの話です……」

 

 

話が終わり、池蔵は署へ戻り席に着いた。一息つきながら彼は龍二に電話をした。

 

 

大学にいた龍二は携帯が鳴ったことに気付くと、すぐに出て行け蔵の話を聞いた出た。ひと通りの話を聞いた龍二に、地面を歩いていた鼬姿をした渚は勢いを付け跳び上がり机に乗った。

 

 

「随分、お疲れのようだな?」

 

「あの夫婦、キツい」

 

「やっぱり……?

 

龍」

 

「分ーってるよ。どうにかするつもりだ」




縁側に座っていた恵と翼は、手に持っていた兎の形をしたお饅頭を一口囓った。


「美味しい!」
「美味い……」

「でしょ!

ここの和菓子、本当に美味しくて有名なのよ」

「へ~。

あれ?神崎は?」

「麗華は森でお散歩」

「散歩……」


その頃、麗華は池にいた。池には狼姿になった焔が、水を浴び遊んでいた。

ふと麗華の方を見た焔は、ボーッとしてる彼女に向かって水を掛けた。水は顔に掛かり、浴衣の裾で水を拭きながら、麗華は池へ飛び込み焔に水を掛けた。


二人が水遊びする声を、森へ来た翼は耳にした。隠れるようにしてソッと声の方へ行き、茂みからその光景を覗いた。


「!?」


狼姿になった焔と戯れる麗華……その光景に、翼は目を見開き驚いていた。


(……何であいつが?

あの狼の主って……いや待て、そんなはず無い。


そもそも、神崎とあの白い陰陽師は別人。別……)


ふと蘇る記憶……キャンプの時、あの妖怪が現れた瞬間妖怪は麗華に攻撃した。麗華は躊躇すること無く戦った。戦闘中、麗華は突如消え代わりに白い陰陽師が現れた。そして、戦いが終わると共に白い陰陽師は消え代わりに麗華が姿を現した。


(……まさか、白い陰陽師って……神崎)


「コラ!焔!

うわぁ!」


蹌踉けた麗華は、尻餅をつき水飛沫を上げた。焔は尻餅をついた彼女に寄り頬擦りした。


「ったく、お前は」


笑いながら、麗華は焔を撫でた。その光景を翼はしばらく眺めていた。

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