陰陽師少女   作:花札

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「欲の為に引き取った?どういう事だ?」

「……


俺の両親、今年の二月に交通事故で亡くなったんだ……


そんで、親戚に引き取られた」

「けど、その親戚に問題があった」

「あぁ。


その親戚は、お袋の姉貴夫婦なんだが……酷いもんだ。

俺等を引き取った理由が、単に遺産を使いたいだけ。引き取ったら引き取ったで、何も世話してくれねぇ。恵のことなんか、育児放棄同然だ」

「そんな所に、恵ちゃん一人で置いてるのか?」

「んなわけねぇだろ。

俺が学校行ってる間は、卓也の祖母さんに預けてる。あそこの家は昔からの付き合いだから信用できるし」


翼が話していた時、突然電話が鳴った。音に気付いた麗華は龍二の方を見た。彼は頷き合図を送り、それを見た彼女は電話を取り対応した。

翼が何かを喋ろうとした瞬間、龍二は静かにするようにと人差し指を立てた。


「もしもし……

はい。えぇ、大野君のクラスメイトですが……

え?翼君ですか?いえ、うちに来てません……


あの、失礼ですが……


こんな夜遅くに電話掛けてくるな!!今何時だと思ってんだ!!非常識にも程がある!!」


怒鳴り付けその勢いのまま、麗華は受話器を乱暴に落とし切った。


「翼、お前しばらくうちに泊まれ」

「え?」

「卓也だっけ?あいつの家に、恵ちゃんがいつも置いて貰ってることを多分伯母さん達は分かってる可能性がある」

「……」

「ここは滅多に人は来ないし、裏の森には守り神が祀られてて悪さをしなければ危害はない」

「けど……」

「安心して、今スケット呼んだから」

「スケット?」


その時、ドアが勢い良く開く音が響きそれと共に廊下を駆ける音が聞こえ、そして勢い良く襖が開いた。そこにいたのは黒髪を纏め上げ、黒いスーツに身を包んだ楓だった。


「楓の登場よ!!」

「オッス!楓」

「久し振りね!

元気だった?二人共!」


龍二と楓が盛り上がり話し合っている中、翼は麗華に質問した。


「あれ、誰?」

「森谷楓。

楓香呉服店っていう会社の社長で、私達の親代わりみたいな人」

「みたいな人って……お前、親は?」

「海外」

「……」

「という訳で、恵ちゃんだっけ?彼女の面倒は私に任せなさい!」


胸を張りながら、楓は言った。その迫力に翼は、問答無用に返事をした。


心の傷

翌朝……

 

 

鼻歌を歌いながら、楓は朝食を作っていた。朝食を作る音で、翼は飛び起きた。

 

 

「……そうか、神崎の家に泊まった」

「さっさと起きろ!!麗華ぁあ!!」

 

 

龍二の怒鳴り声が、廊下中に響いた。その声に驚いた翼は、戸を開けて廊下を見た。

 

その時、部屋から何かをぶつけられたのか吹っ飛ばされてきた龍二が壁に激突した。その部屋から下着姿の麗華が現れた。

 

 

「部屋入る時はノックしろって、いつも言ってるだろ!!この変体兄貴!!」

 

「だからって、蹴ることねぇだろ!!」

 

「朝から兄妹喧嘩しない!!」

 

 

お玉で、二人の頭を叩きながら楓は怒鳴った。その姿に、翼は少々呆れていた。

 

 

洗面所で髪を梳かす麗華に、翼は髪のヘアピンで留めながら話し掛けた。

 

 

「お前、毎朝あんな茶番劇やってるのか?」

 

「やってるわけないでしょ。

 

あれは、今日たまたま兄貴が部屋のドアを開けたから。人が着替えてる最中に」

 

「フ~ン……」

 

 

「ママ~……」

 

 

寝起きなのかぐずりながら、恵は麗華のスカートの裾を掴んできた。

 

 

「恵、神崎から離れろ。そいつはママじゃねぇよ」

 

「嫌ぁ!」

 

「恵!!」

 

「いいっていいって。

 

それより、大野」

 

「?」

 

「アンタ達の母親って、そんなに私に似てるの?」

 

「容姿がな……ほら」

 

 

定期入れに入っていた家族写真を、翼は麗華に見せた。そこに写っていたのは、まだ小さい恵を抱っこする茶色いロングヘアの女性と翼の肩に手を乗せて写る男性だった。

 

 

「……」

 

「ひょー。

 

麗華そっくりだな」

 

 

袖のボタンを留めながら、龍二は写真を見てそう言った。

 

 

「兄貴」

 

「これじゃあ、麗華を母親と間違えるわ」

 

「そうなの?」

 

「お前も赤ん坊の頃、お袋そっくりだった楓を母親と間違えてたもんだ」

 

「いつの話してるの……」

 

 

「アンタ達!!早く朝食食べなさい!遅刻するよ!!」

 

 

楓に怒鳴られ、四人は台所へと急いだ。

 

 

 

朝食を食べ終えた三人は、学校へ向かって歩いていた。

 

 

「とりあえず、今日知り合いの刑事さんにお前(翼)の伯母達の周りを調べてもらうよう頼んでみるよ。お前等二人の安全が保障されるまでは、俺等の家でしばらく生活してもらう」

 

「いいんですか?そんなことして」

 

「兄貴、警察の人達と仲良いから」

 

「……」

 

「そんじゃあな」

 

 

ネクタイを締め直しながら、龍二は横断歩道を渡った。

 

 

「……お前の兄貴、案外お節介だな」

 

「そこがたまに傷」

 

 

 

その頃、恵と楓は……

 

 

朝食の後片付けをする楓……そんな彼女の様子を、恵は隠れながら眺めていた。

 

 

「何隠れてるの?」

 

「!」

 

「そんな所にいないで、こっちに着な」

 

「……」

 

 

恐る恐る出てきた恵は、ゆっくりと楓の元へ行った。濡れた手をタオルで拭きながら、楓はしゃがんだ。

 

 

「……楓はお姉ちゃん達のママなの?」

 

「う~ん……ちょっと違うかな」

 

「違う?」

 

「うん」

 

「ねぇ、恵のママはどこにいるか知ってる?」

 

「え?」

 

「ママとパパ、冬で怪我した時から会えなくなっちゃったんだ……」

 

「そうなの…」

 

「しばらくしたら、いじわるで怖い伯母さん達が入ってきて……恵の事、邪魔だとか泣くなとか怒鳴って、痛い事したり熱い事したりするの」

 

「そう……

 

でも大丈夫。ここはそういう事する人はいないから」

 

 

優しく言いながら、楓は恵の頭を優しく撫でた。

 

 

 

「え、じゃあ翼と恵ちゃんは今神崎さんの家に」

 

 

休み時間、廊下から外を眺めていた翼は卓也に今の状況を話した。

 

 

「一応な。避難ってことで。

 

 

それより、アイツ等の様子どうだった?」

 

「あの後、うちに怒鳴り込んで来て結構大変だったよ。

 

『翼はどこにいるの!!居るんでしょ!!早く出しな!!』って……」

 

「道具としか思ってねぇくせして……

 

居なくなると、警察沙汰を起すんだから」

 

 

「遺産相続人がいないと、遺産を自由に使う事は出来ないらしいからね。

 

それに、口座の暗証番号は大野しか知らない。だから血眼になって、探すんだよ」

 

 

いつの間にか、隣にいた麗華はそう言った。

 

 

「い、いつの間に」

 

「僕も行ってもいい?神崎さんの家」

 

「駄目。

 

 

山本は、大野の伯母夫婦に目を付けられてるから後をつけられる可能性が高い」

 

「そうか……」

 

「大野、アンタ今日部活は?」

 

「一応ある。何で?」

 

「下手したら、夫婦揃って学校の校門前にいる可能性があるからね。

 

 

居れば、後々厄介になる。そこで、部活が終わったら屋上に来て。強力な助っ人呼んどいたから」

 

 

一瞬笑みを浮かべながら、麗華は教室へ戻った。翼の目にその微笑が、一瞬母親と重なって見えた。

 

 

 

『またこんな点数とって!!』

 

 

中学時代……小テストで、低い点を取ってしまった翼は父親に怒鳴られていた。

 

 

『どうすんだ!!次のテスト!』

 

『これは……その』

 

『言い訳はいい!!早く部屋に戻って、勉強しなさい!!』

 

 

部屋へ戻った翼……すると、そっとドアが開き母親が入ってきた。

 

 

『翼』

 

『……』

 

『よく頑張ったね。偉いよ』

 

 

笑みを浮かべながら、母は自分の頭を撫でてくれた。

 

 

その事を思い出した翼は頭を掻きながら教室へ入り、彼に続いて卓也も入った。




どこだ……どこに行った……


クソ……せっかく、いい獲物を見つけたのに、いなくなっちゃ意味がねぇ。

あの二人に憑いてる意味が……

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