雨の中を走る一人の女の子……女の子は、泣きながら暗い夜道を駆けて行った。
大雨が降る夜、麗華は家で一人ゲームをしていた。その傍で、焔は大あくびをしながら眠っていた。
その時、籠に入っていたシガンが何かに気付いたのか、巣穴から顔を出し暴れ出した。シガンと同じ様に寝ていた焔は耳を立たせながら、頭を起した。
「どうしたの?」
「何か、変な音聞こえなかったか?」
「音?
別に、してなかったと思うけど」
「気のせいかな……」
「ショウの仲間でも、潜り込んだのかな?
本殿の方、見て来るよ」
「俺も行く」
暴れているシガンを籠から出し、部屋を出て本殿へ続く廊下を歩いた。本殿に着き部屋の明かりを点けた。
「……誰もいなさそう……?」
本殿の外に目を向けると、人影が見えた。麗華は戸を開け、外を見た。
本殿の階段に蹲る一人の女の子……
「(こんな時間に)大丈夫か?」
「……」
「……!?」
蹲っていた少女……その子は、翼の妹の恵だった。
「め、恵…ちゃん?」
「お姉ちゃん……」
弱々しい声で、恵は目から涙を流してそう言った。麗華は羽織っていた羽織を彼女の肩に掛け、抱き上げ家の中へと入れた。
家の中に入った恵は、台所の椅子に座っていた。
「はい、ココア」
「……いいの?」
「いいよ。雨で外寒かったでしょ?」
「……」
湯気の立つマグカップを両手で持ち、恵はココアを一口飲んだ。
「わぁ!美味しい!」
「そりゃ良かった。
?」
窓を叩く音が聞こえ、麗華は立ち上がり縁側へ行った。外を見ると、そこにはびしょ濡れのショウと瞬火、そして黒い子猫と灰色の子猫が一匹ずついた。戸を開けると、瞬火は子猫達を先に入れ、最後に自分とショウが入った。
その様子を見ていた恵は、ソッと近寄り麗華の後ろに立った。
「猫さんだぁ!」
「うちによく来る猫だよ。
タオル持ってくるから、この子達をそこの居間で見てて」
「うん!」
その頃、大学の授業が終わり帰路を歩いていた龍二は、街灯の下で膝に手を着き息を切らす高校生を見つけた。
「(こんな夜遅くに……ったく最近のガキは)
オラそこのお前!こんな夜遅くに何やってんだ!」
「……うるせぇ。
こっちは、妹捜してんだ!」
「妹?
つか、お前どうした?!その顔」
高校生の顔は、酷く腫れ赤くなっていた。
「何でもねぇ。ほっといてくれ」
「ほっとけるか!!
お前名前は?」
「何で知らない野郎に、名前教えなきゃいけねぇんだ」
「知ってても知らなくても、その制服見りゃ見捨てるわけねぇだろう」
「?」
「お前の高校・鈴海高校のOBだ」
「……」
「言ってくれるな?
名前は?」
「……
大野翼」
「翼か。
翼、一旦俺の家に来い」
「何で!?」
「妹が心配なのは分かるが、びしょ濡れでそんな怪我追ってるガキを見捨てられるかって」
「……」
「そうと決まれば、さっさと来い。
俺の家、すぐそこだからさ」
先を歩き出した龍二の後を、翼は仕方なくついて行った。
家に付き、龍二は鍵を開けた。
「ただいまぁ!!麗華!タオル持ってきてくれぇ!」
(麗華?どっかで聞いた名前だな……どこだっけ?)
廊下を歩く音と共に、タオルを持った麗華が姿を現した。彼女の姿を見た翼は驚きのあまり声を失くし、同時に麗華も驚きタオルを落とした。
「?どうした?麗華」
「な、何でアンタがここに?」
「な、何でお前がここに?」
固まる二人を、龍二は交互に見ながら察した。
居間へ来た翼……龍二は着流しに着替え、彼の向かいに座っていた。すると戸が開き、麗華と眠い目を擦る恵が入って来た。
「恵!!」
「……お兄ちゃん!」
恵は翼の姿を見ると、一目散に駆け寄り飛び付いた。
翼を見て安心したのか、恵は彼の膝に頭を乗せて寝息を立てていた。
「寝ちゃった」
「やっぱり兄妹だな」
「どういう意味ですか?」
「麗華の奴も、恵ちゃんと同じ頃は」
言い掛けた瞬間、龍二の顔面に麗華は蹴りを入れた。
「余計な事言うな!!」
「……」
「ったく……で?
何で、こんな夜遅くに出歩いてるわけ?小さい子が」
「お前に関係ないだろ」
「関係」
「関係ある!
ここで保護したからには、お前等の親に連絡しなきゃいけない。
という事で、電話番号と住所を」
「家に掛けるな!!」
突然怒鳴った翼に、二人は驚き互いを見合った。彼の怒鳴り声で起きたのか、恵は泣きながら目を覚ました。
泣き出した彼女を、翼は抱き上げあやすが一向に泣き止まなかった。
「どれ、貸してみ」
「え?」
「いいから」
龍二に言われ、翼は無く恵を渡した。受け取った龍二は、彼女の背中を擦りながらあやした。しばらくすると、恵は泣き止みそして眠りについた。
「スゲェ……恵の奴、一度泣き出すと二時間は泣きっぱなしなのに」
「兄貴、慣れてるから」
「慣れてる?何で?」
「麗華が赤ん坊の頃、あやしてたのずっと俺だったからな」
「あれ?お前、母親は?」
「病院の院長やってて、夜いない日が多かったんだ。
泣くと大抵、兄貴があやしてくれてたらしい。覚えて無いけど」
「……」
眠った恵を麗華は受け取り、隣の部屋へ移動させた。
「さぁ、話して貰おうか?
家に掛けたくねぇ理由を」
「……」
「……
余計なこと言うつもりないけど……恵ちゃんの為だと思って言うね」
「?」
「雨で濡れたから恵ちゃんをお風呂に入れたんだ。
服脱がした時、ビックリしたよ。
体中、痣と傷だらけで」
「!!」
黙り込む翼……
しばらくすると、彼は口を開き言った。
「あいつ等は、自分の欲のために俺等を引き取った大人だよ」