陰陽師少女   作:花札

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“パァン”


的に矢が当たった音が、道場内に響いた。

その矢を、麗華は満足げに見ていた。


夏期講習が終わった翌週から、麗華は部活の合宿に来ていた。部員数は三年生八人(男四人、女四人)、二年生六人(男のみ)、一年生四人(男二人、女二人)の計十八人だった。


「結構成長したね!神崎ちゃん」

「ありがとうございます」

「伊藤ちゃんも、上達してるね!」

「ほ、本当ですか!?」

「これなら、夏の大会に出れるね!」

「は、ハイ!」


「穂乃花、そろそろ昼だ。切り上げろ」

「ハ~イ」


道場へ来た平野に返事をしながら、坂口は指示を出し弓を片づけ始めた。


「それにしても……本当に、二年生いないんですね」

「女子は私達三年生と、一年だけ。

だから、私達が引退した後は、多分個人戦しか出れなくなっちゃうと思うよ。女子の大会だと」

「それまでに、活躍しなさい!一年生!」

「は、はい!」


部活合宿

宿へ戻ってきた部員達は、お昼を頬張っていた……そんな時だった。

 

 

「よいっしょ!

 

神崎ぃ、荷物が届いたぞ」

 

「え?荷物?」

 

「えっと送り主は……

 

月神里奈」

 

「あぁ、里奈さん。

 

何送ったんだろう……」

 

「知ってるの?里奈さんって?」

 

「従姉弟です。

 

この辺りに住んでるって、依然聞いた事があって……」

 

 

届いた段ボールを開けると、中には大きなスイカが一つ入っていた。

 

 

「うわぁ!!デケェスイカ!」

 

「『部員の皆さんで食べてください』だって……」

 

「うぉお!!マジか!?」

 

「平野先輩!頂きましょう!!」

 

「午後の練習が終わった後だ。

 

その頃には冷えてるよ」

 

「よっしゃぁ!!練習行くぞぉ!!」

 

 

そう言いながら、二年一同は一気に食堂を出て行った。

 

 

「コラ!まだ片付け終わってないぞ!!待て!!

 

 

穂乃花、あと頼む!」

 

 

追い駆ける足音が廊下に響いたかと思うと、何かを打つ音が数回聞こえた。

 

 

 

夜……

 

 

午後の練習が終わり、夕飯を終えた一同は蜩が鳴く外でスイカを頬張っていた。

 

 

「うっめぇ!!このスイカ!」

 

「神崎!従姉の姉ちゃんだっけ?会ったら、礼言っといてくれ!」

 

「言っときますよ」

 

「そういや、この辺りに熊出るって宿のおばちゃん達が言ってたな」

 

「熊って、神崎の後ろで寝そべってるあの熊ですか?」

 

「?」

 

 

黒い大きな体で、麗華の後ろで横になり、頭を彼女の膝に乗せる熊が一頭いた。

 

 

「……ギャァァアアアアア!!」

 

「騒ぐな!!」

 

「中村、うるさい!!」

 

 

大あくびする熊を、麗華は撫でながら説明した。

 

 

「要するに、飼い慣らした熊ってことか」

 

「まぁ、そうですね……」

 

「けど、何で平野先輩達は平気なんですか?」

 

「俺が高校一年の時、神崎先輩がOBで合宿に来てその時に。

 

だから、慣れてんだ」

 

 

そう言いながら、平野はムーンの頭を撫でた。

 

 

「そういや、当時の先輩達も驚いてたわよね。ムーンちゃんに」

 

「そうだったな」

 

 

鳴き声を上げ、麗華に擦り寄るムーンを見ながら平野と坂口は面白おかしく笑った。

 

 

懐中電灯を自身の顔に照らす、三年生……

 

 

「さぁ始まりました……肝試し大会!

 

 

弓道部伝統の出し物!

 

二年は二人組になり、一年は三年とペアになる!ペアはクジで決めるがな」

 

「肝試しって?」

 

「道場まで行く道があるでしょ?

 

その道を二人でペアになって歩くだけ。そんなに怖くないよ」

 

「よく知ってるね、神崎さん」

 

「まぁ……(兄貴が輝三に頼んで、わざわざついてきたからなぁ。合宿に)」

 

 

 

始まった肝試し。順番が来た麗華はペアの人と共に夜道を歩いていた。

 

 

「何で、まさかくじで先輩と一緒になるとは」

 

 

隣りを歩いていたのは、部活内ではあまり目立たない日向亮だった。

 

 

「俺もまさか、神崎と一緒になるとは……(へへ!想太の野郎、羨ましそうに見てたな)」

 

「……?

 

先輩、あれなんですか?」

 

 

畑の方に目を向けると、何やら黒い影が動き麗華は隣りにいた先輩に質問した。先輩は手に持っていた懐中電灯を、その黒い影に照らし当てた。そこにいたのは、大熊……

 

 

「く、熊……」

 

「何か、普通の熊じゃねぇよな……」

 

“ガァアアアアアア”

 

 

雄叫びを上げた大熊は、二人目掛けて突進してきた。麗華は尻を突き、先輩はびっくりして懐中電灯を持ったまま先に逃げてしまった。

 

 

 

息を切らしながら先輩は、皆がいる道場へ辿り着いた。

 

 

「あれ?日向一人?」

 

「ハァ…ハァ……く、熊……デカイ熊が……出た」

 

「デカイ熊?」

 

「あれ?先輩、神崎さんは?」

 

「え?

 

あれ……後ろからついてきてるもんだとばかり……」

 

「まさか、置いてきたの?!」

 

「そう……みたいだな」

 

「穂乃花、ここ任せた!!」

 

「アイアイサー!」

 

 

いつの間にか立てた弓と、数本の矢を手に平野は道場を飛び出した。

 

 

その頃麗華は、大熊と睨み合っていた。大熊は口からよだれを垂らし、牙を剥き出しにしながら彼女を睨んでいた。

 

 

「(や、ヤバ……早く、逃げな)痛!!」

 

 

立ち上がろうとした時、足首に激痛が走り麗華はその場から立ち上がることが出来なかった。

 

 

(や、ヤバい……)

 

 

大熊は鳴き声を上げ立ち上がり、麗華に襲い掛かった。その瞬間熊と彼女の間に矢が飛んだ。飛ばしてきた方に顔を向けると、そこには弓を構えた平野がいた。すると森の方から大熊に突進してきたムーンが、麗華の前に立ち威嚇の声を上げた。

 

 

「ム、ムーン」

 

「無事か!神崎!」

 

「先輩……」

 

 

大熊はムーンの威嚇の声に怯え、背を向き立ち去っていった。ムーンは一声上げると、麗華の元へ擦り寄った。

 

 

 

帰り道……

 

 

平野は麗華を背負いながら、暗い道を歩いていた。

 

 

「すみません……何か」

 

「別にいいって(日向は後で、二時間の説教だな)」

 

「……先輩に背負られるの、これで二回目ですね」

 

「?」

 

「中学二年の時、兄に釣られて合宿に来たじゃないですか」

 

「そういや、来てたな。

 

あの頃のお前、兄貴にベッタリだったな」

 

「!変な事、言わないで下さい!!」

 

 

顔を真っ赤にしながら、麗華は怒鳴った。そんな彼女を見た平野は、笑いながらからかった。




『アイツ、どうします?』

『練習しても、腕が上がりませんねぇ……』

『付きっ切りでいたくても、他の一年見なきゃいけねぇし』


『よ!新入り!


俺、二年前に卒業した、元弓道部の部長、神崎龍二っていうんだ!お前、名前は?』



目を覚ます平野……バスの中では、皆疲れからか静かに眠っていた。ふと後ろを見ると、後ろ座席に眠っていた麗華と一年の女子は、互いに体を預けながら眠っていた。


「どうかした?想太」

「別に……」

「何か夢でも見た?神崎ちゃんの」

「!!な、何でそうなるんだ!!」

「大声出さない。

皆疲れて寝てるんだから」

「っ……」

「文化祭が終われば、私達は引退かぁ……


何か、もっといたいなぁ。せっかく、恩師であり恩人である神崎先輩の妹さんを任されたのに」

「……


学校にいる間は、俺等でもできることはある。引退してもな」

「お!良い事言うねぇ、想太。

あ!そうだ。引退しても遊びに来よう!」

「その前に、大学受験だろ」

「は~い……(嫌な事言いやがって)」

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