陰陽師少女   作:花札

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クラスメイト

翌朝……

 

 

洗面台で髪を梳かしながら、麗華は大あくびをした。

 

 

(全く……高校に入ってまでこんな朝早く起きなきゃ行けないなんて……)

 

 

「麗華ぁ!あと頼んだぞ!」

 

「ハーイ」

 

 

髪を結び台所へ行くと、朝食を食べ終えた龍二の食器が水に浸けられていた。

 

 

(兄貴も兄貴で、朝早くなったし……)

 

 

朝ご飯を食べながら、麗華は食器を洗い自身の部屋へ行くと制服に着替え、机の上に置かれていた鞄の中に必要な物を入れた。

 

 

「(忘れ物は無しと……)

 

シガーン!焔ぁ!行くよぉ!」

 

 

玄関へ行き革靴を履きながら名を呼ぶと、シガンと鼬姿の焔は彼女の肩へ登った。

 

 

「シガン、お前はここ」

 

 

そう言いながら、麗華は鞄に着けていた小さなポーチの中にシガンを入れ頭を撫でた。

 

 

「前みたいに、外に出して連れて行けないんだ……ゴメンな」

 

「小学校の頃は、別に良かったのにな」

 

「中学と高校は、校則が厳しいからね……仕方ないよ。

 

屋上に行けそうにないから、焔」

 

「?」

 

「鼬姿で、校舎内にいて。

 

人の姿でいると、小学校の頃みたいに誤魔化せそうにないから」

 

「分かった」

 

 

玄関の鍵を閉め、麗華は階段を降りて行った。

 

 

しばらく道を歩いていくと、自転車を飛ばす同じ制服の男子や先輩達の姿が現れてきた。

 

 

「相変わらず、眠そうな顔だな?」

 

 

背後から声が聞こえ振り向くと、大あくびをする大輔が立っていた。

 

 

「そういうアンタもでしょ」

 

「一人暮らし、慣れてねぇんだよ……

 

朝弱いし、俺……」

 

「そこは否定できないわ」

 

「だったら、明日からモーニングコール」

「絶対お断り」

 

「だよなぁ」

 

「一人暮らしっていうけど、生活費とかどうしてるの?

 

やっぱり、家から仕送り?」

 

「学費と家賃は、一応払って貰ってるけど……

 

食費と生活費は、バイトして稼いでるって感じかな」

 

「何か、大変なのか大変じゃないのか……あんまり分かんないな」

 

「死なれちゃ、あっちの立場が困るからな……」

 

「死ぬって……アンタね」

 

 

溜め息を吐きながら、麗華は大輔の頭を思いっ切り殴った。彼は目から軽く涙を流し、手で頭を撫でながら彼女を睨んだ。

 

 

「いきなり殴るなよ!!」

 

「目覚めの一発には、丁度いいでしょ?」

 

「っ……」

 

「それに……九条から、頼まれてるし」

 

 

携帯を開き、麗華はメールを見せた。メールには『大輔をよろしく!』と書かれていた。

 

 

「……あの女」

 

「『星崎は、九条のことを“あの女”と呟いていました』と」

 

「お、おい!勝手にメールすんな!!

 

つか、いつ九条のメアドを!?」

 

「春休みに、一度だけ島に帰ったんだ。

 

龍実兄さん達に、一応高校に進学したって知らせでね。

そん時に、九条達に会ってメアド交換したの」

 

「なるほど……

 

さっきのメール、本当に送信すんなよ!?」

 

「しません」

 

「お前、何か変わったか?」

 

「かもねぇ」

 

 

他愛のない話をしながら、麗華と大輔は学校へと着いた。焔は麗華の肩から降り、校庭の隅に生えている木に登った。

 

 

「焔だっけ?

 

あいつ、人の姿にはならないのか?」

 

「色々と面倒だから、学校にいる時はあの格好でお願いって、頼んどいたの」

 

「フーン……」

 

「それに、あまり霊感のことは言いたくないし……バレたくもないし」

 

「ま、そうだな……」

 

「けど、バレないように妖怪退治はしていくつもり(鵺野も玉藻もいずなも……誰一人童守町には、残っていない……私がやらなきゃ、誰もこの町の人を守れる人はいない……)」

 

「俺も協力するからな。一応妖怪を退治するくらいの霊力は得たからな」

 

「一応、頼りにしてる」

 

 

下駄箱の蓋を閉めながら、二人は教室へと向かった。

 

他愛のない話をしながら、教室へと入る二人……クラスメイトは皆、そんな二人を不思議そうに眺めた。

 

その日一日は、校則や部活、委員会の説明を行われた。そして翌日から授業開始という説明を受け学校は終わった。

 

 

「明日から、授業かよ……面倒くせぇなぁ」

 

「確かに同感。また眠くなるなぁ」

 

「お前、相変わらずだな」

 

 

「ねぇ!お二人さん!」

 

 

声を掛けられ、麗華と大輔は振り向いた。黒いポニーテールした女子が二人に話し掛けてきたのだ。

 

 

「えっと……」

 

「立花朝妃(タチバナアサヒ)!クジ引きで、一緒の班になったじゃん」

 

「あぁ」

 

「何か用か?」

 

「一緒に帰らない?」

 

「別にいいよ」

 

「俺も」

 

「やった!杏莉ぃ!良いって!」

 

 

朝妃が呼ぶ方から、赤茶色のツインテールした女子が寄ってきた。

 

 

「誰?」

 

「誰って……同じ班になった、白鳥杏莉(シラトリアンリ)よ!覚えなさいよね!」

 

(面倒くせぇ奴)

(面倒くせぇ奴)

 

「……あ!山本くーん!」

 

 

帰ろうとしていた大人しい男子に、朝妃は声を掛けた。男子は体をビクらせ、自身のことを指で差しながら再度確かめた。朝妃が頷くと、急いで彼女達の元へ駆け寄ってきた。

 

 

「な、何か用ですか?」

 

「一緒に帰ろう!同じ班になったことだし」

 

「あ、う…うん」

 

「えっと……誰だっけ?」

 

「星崎君、あなたねぇ……」

 

「彼は山本卓也君、同じ班になった男子よ」

 

「あ~あ」

 

「あれ?そういえば、大野君は?大野翼君」

 

「さっき……帰ったよ。

 

彼、バイトがあるからって」

 

「そっかぁ……仕方ない、この五人で帰ろう!」

 

「仕方ないって、どういう意味だよ」

 

「深い意味はない!

 

さ、帰ろう!」

 

 

鞄を持ち、教室を出て行き廊下を歩きながら五人は他愛のない話をした。

 

 

「え?!付き合ってないの?!」

 

 

朝妃が麗華の答えに、下駄箱の蓋を開けながら驚き思わず声を出した。

 

 

「単なる幼馴染み……って、言えばいいのかな」

 

「どういう事?」

 

「俺が以前住んでた島に、こいつが小一から小三の一学期まで、俺と同じ学校に通ってたんだ。それで知り合いなだけ」

 

「成る程……てことは、八年振りの再会ってことね」

 

「残念。小五の時に一回会ってるから……

 

星崎と会うのは、五年振りか」

 

「そうだよなぁ……」

 

「何も変わってなくて、半分安心したわ」

 

「俺的には、お前の髪がまた長くなってたことにビックリだ」

 

「え?神崎さんって、昔は短かったの?」

 

「肩に届くくらいだったかな」

 

「へぇ」

 

「けど星崎君、さっきまたって……」

 

「低学年の頃、このくらい髪を伸ばしてたんだ。

 

けど小五に上がる前に、ちょっと訳あって髪切って肩に届くくらいの長さだったんだ」

 

「へぇ」

 

「てっきり、失恋でもしたかと思った」

 

「失恋って……」

 

「ちなみに、二人は彼氏と彼女、いるの?」

 

「星崎はいるよ。遠距離恋愛だけど」

 

「!!神崎、テメェ!!」

 

 

顔を真っ赤にして、大輔は麗華を叩こうとしたが彼女は華麗に攻撃を避けた。そんな光景を見て、朝妃と杏莉は笑い合った。

 

 

「ねぇ、山本君は?」

 

 

後ろを歩いていた卓也に、杏莉は話し掛けた。卓也は体をビクらせ顔を上げた。

 

 

「いるの?彼女」

 

「ぼ、僕は……

 

 

あ、翼」

 

 

校門前の方に目を向けると、そこに金髪に耳にピアスを着け、片耳にイヤホンを着け携帯を弄る男子がいた。

 

 

「あれ?大野君、先に帰ったんじゃ」

 

「……卓也、少し付き合え」

 

「え、あ、うん」

 

 

イヤホンを外し携帯をポケットにしまいながら、翼はふと大輔の隣にいた麗華を見た。麗華も麗華で彼を見詰めた。しばらく目を合わせると、翼は目を反らし歩いて行き。その後を卓也は慌てて追った。

 

 

「何?知り合い?」

 

「さぁ」

 

「アイツ等、幼稚園の頃からの幼馴染よ」

 

「え?そうなの……って、何で知ってんの?杏梨」

 

「中学から同じクラスでね。その時、アイツ等と同じ小学校だった女子に聞いたのよ」

 

 

「麗華ぁ!」

 

 

後ろから何者かが麗華に飛び付いてきた。抱き着いてきた瞬間、麗華はその者に向かって裏拳を食らわせた。諸に食らった者は、壁に激突しゴミ溜まりの中に倒れた。

 

 

「な、何で……」

 

「来るなって言ったでしょ!安土!」

 

「いや、だって」

 

「こっちはアンタを説明すんのが、面倒なの!だから来るなって」

「神崎さん、その人誰?」

 

 

安土の胸倉を掴み上げていた麗華に、朝妃は質問してきた。

 

 

「えっと……こい」

「近所に住んでる者で、名前は糸川安土!」

 

「はぁ……」

 

 

安土を見ながら、大輔は麗華に近寄り耳元で囁いた。

 

 

「こいつ、もしかして」

 

「アンタが思ってる通り、妖怪」

 

「やっぱりか……」

 

「麗華、こいつ誰だ?」

 

「あとで話すから、さっさと帰って」

 

「え~!いいじゃねぇか~もう少し」

 

 

言い掛けた時、安土の後頭部に何かが当たり倒れてしまった。地面には拳くらいの大きさの石が転がっており恐る恐る振り返ると、そこにスーパーの袋を持った牛鬼が立っていた。

 

 

「ぎ、牛鬼……」

 

「悪いな。馬鹿な弟が変な事して」

 

「本当だよ」

 

「ったく……オラ、帰るぞ」

 

 

襟元を掴み引き摺りながら、牛鬼と安土は帰っていった。

 

 

「近所に住んでる人って、面白いわね?」

 

「まぁ……ね(安土の奴……後で踵落とし食らわせてやる)」




麗華達と別れ、翼と帰っていた卓也……


「なぁ卓也」

「?」

「あの女、誰だ?」

「あの女?」

「長い紺色の髪の奴」

「あぁ……同じ班の神崎麗華さんだよ」

「……そうか」

「どうしたの?何か?」

「……何でも無い」

「……それより、いいの?

僕が、買い物しちゃって……」

「いいんだよ。お前なら信用できる。

あと……もし家に恵がいたら、俺が帰るまでの間お前の家にいさせてやってくれないか?」

「構わないよ。

翼には、色々助けて貰ったから……その恩返し」

「悪ぃな……」

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