陰陽師少女   作:花札

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夏休みまで残り二週間を切ったある日のこと……


学校へ来た大輔は大あくびをしながら、階段を上がり教室へ向かった。ふと顔を上げると、教室前のドアに麗華が立ち尽くしていた。


「?

神崎、どうかし」
「おっと!!

未来の旦那の登場だぁ!!」


男子達が、大輔を見るなりそう叫んだ。訳が分からない大輔は、男子達を退かし教室へ入り黒板を見た。

そこには相合い傘の下に、自分と麗華の名前が書かれていた。


「大輔、まさかお前と神崎がデキてたとは」

「は?」

「神崎さん、星崎君とは幼馴染みなんだってね!

いいわよねぇ、そういう恋愛」

「……」


「カーンーザーキー!!」


怒鳴り声を上げながら、平野が勢い良くドアの縁を手で鷲掴み二人の後ろに立った。


「どういう事だ!!

龍二先輩の許可無く、男と付き合うとは!!」

(そこまで噂が広まったー……)

「おい!!答え……?」


何も答えない麗華に、平野は彼女と大輔を連れ教室から離れた。


二人が連れて来られたのは、弓道場だった。平野は大輔から説明を聞き、腕を組みながら頷き聞いていた。


「つまり、今流れている噂はただのデマ」

「はい……」

「星崎には、九条っていう島の高校に通っている女がいます。
私にも、許婚であり従兄弟である陽がいます」

「許婚?!」

「神崎の家は、由緒ある家系で結婚相手も当主が決めているそうだ。

龍二先輩も、確か当主が決めた女性と結婚する予定だと聞いている」

「ちなみに、その女性は陽の姉貴の美幸さん」

「へ、へー(そういえば、俺神崎に霊感があることと妖怪と戦えること以外、あんま知らねぇ)」

「どうすんだ?

このままだと、本当に麗と大輔は恋人同士になるぞ」

「そういう関係、まるっきり無いから!」

「右に同じ」

「それは、付き合いの長い俺が一番理解している」


噂話は止められない!

屋上でお弁当を食べていた夕美は、『夕美の噂帳』と書かれたメモ帳を広げ何かを書いていた。その様子を、購買で買ったパンを口に頬張りながら上谷慎也(カミタニシンヤ)は見ていた。

 

 

「お前、本当に噂話好きだよな~」

 

「フッフーン!この夕美ちゃんは、噂話が大好き!

 

さぁて、次は何を流そうかなぁ」

 

「しっかし、本当にあの二人付き合ってるのか?」

 

「さぁね」

 

「?

 

さぁねって……本人達に確認取ったんだろ?」

 

「取ってないよ。

 

今回の噂、私が流したんじゃないもん!」

 

「はぁ?!」

 

「何か、既に流れててそれをクラスで私が流したの!」

 

「お、おい……

 

それ、ヤバくないか?」

 

「大丈夫!大丈夫!

 

星崎君も神崎さんも、噂話とか全然気にしない人だもん!」

 

 

和やかに夕美はそう言った。慎也はそんな彼女を見ながら、深くため息を吐いた。

 

 

 

放課後……

 

 

牛鬼達の店へ来た麗華と大輔は机に伏せ、ドンヨリとしたオーラを放った。その様子に、平野は引き攣った笑みを浮かべた。

 

 

「もう疲れた……」

 

「俺、明日学校休む」

 

「右に同じ」

 

「休むな!!

 

星崎だっけ?お前も試合近いんだろ?それから、神崎!!お前は試合が近いだろうが!!」

 

「練習だけ行きますよ」

 

「話がややこしくなる!」

 

 

 

翌日……

 

 

朝早く来た朝妃達……すると、壁に夕美と同じシルエットが現れた。

 

 

「あれ?夕美、早いじゃん」

 

「ねぇねぇ、聞いてよ!

 

杏莉ったら、昨日の部活中に自分の靴紐踏んでずっこけたんだよ!おっかしいよねぇ!」

 

「な!!み、見てたの!!」

 

「それから、飯塚さんの好きな人は、超地味な読書男子!菅野宗一(カンノソウイチ)君!

 

バレンタインには、チョコをあげて告白大作戦か!!」

 

「な、何で!?」

 

「更に、山中さん今朝、歩いている最中に何もないところでズッコケたんだよ!ドジよねぇ!」

 

「い、伊藤さん酷い」

 

「ちょっと夕美!!アンタ、いくらなんでも酷いわよ!!」

 

 

杏莉は怒鳴りながら、角の廊下にいる夕美の元へ行った。だがそこには、誰もいなかった。

 

 

「あれ?いない……」

 

「……」

 

 

大あくびをしながら、大輔と麗華は教室へ入った。

 

 

「本当、夕美にはがっかりだわ!!」

 

「最悪女!!」

 

「そ、そんなこと知らないわよ!!私言ってない!!」

 

「嘘吐け!!証人が大勢いるんだよ!!」

 

「人の秘密を探って、噂を流すなんて最低!!」

 

「金輪際、アンタとは口利かないわ!!」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「まさかと思うけど……大輔と神崎の噂も、あれ嘘じゃねぇのか?」

 

「え?」

 

「私、入学してすぐ大輔から聞いたけど……

 

彼、付き合ってる彼女がいるのよ、地元に」

 

「彼女ほっといて、別の女と付き合うなんて……

 

僕、しないと思うよ星崎君」

 

「あ、あれは私が流したんじゃ」

 

「あ~あ……クソ女のせいで、余計な時間使っちゃった。

 

 

早く離れようぜ。こいつに近付いたら秘密流されちゃうから」

 

「そうね」

 

「行こう行こう」

 

 

そう言いながら、皆は夕美から離れて行った。夕美は涙を流しながら、教室を飛び出して行った。

 

彼女とすれ違った時、シガンはバックから顔を出し小さく鳴き声を上げた。

 

 

(……まさか)

 

「アイツから、変な妖気感じたけど」

 

「ビンゴ。

 

あとで手伝って」

 

 

 

屋上へ来た夕美……膝を抱えながら、泣いていた。

 

 

(嘘吐いてないのに……

 

私、今朝は慎也の家に行ってから学校に来たから、絶対あの時間にいるはずがない!

 

 

でも、証人である慎也は風邪引いて休んでるし……

 

 

私が無実だってことを、皆に証明してやらないと!!)

 

 

 

放課後、教室では夕美を前に立たせ皆が椅子や机の上に座り、彼女を睨んでいた。

 

 

「で、話って何?嘘吐きちゃん」

 

「嘘なんか吐いてない!!

 

証人がいるの!!ちょっと待ってて」

 

「言っとくけど、慎也を出しても信じないから」

 

「え?」

 

「アンタ達、幼馴染なんだってね。

 

じゃあ、慎也がアンタの肩持つに決まってるじゃない」

 

「だから、慎也を出しても無駄」

 

「そ、そんな……

 

でも!」

 

「あーあ、無駄な時間過ごした。

 

もう帰ろう」

 

「帰ろう帰ろう」

 

 

バックを持ち、皆教室を出て行った。一人残された夕美は、声を押し殺して泣いた。

 

 

廊下を歩く杏莉達の前に、夕美の影が姿を現し話し出した。

 

 

「ねぇねぇ!皆、聞いてよ!

 

久美子ったら、トイレで便座下ろすの忘れて便器にお尻挟まっちゃったんだよ!ドジよねぇ!」

 

「まだ懲りてないの?!

 

もう、アンタの話なんか聞きたくないわ!」

 

「一人で喋ってろ!バーカ」

 

 

「待って!」

 

 

その声の方に振り向くと、そこに夕美が立っていた。

 

 

「え?夕美?」

 

「犯人は伊藤さんじゃなかったの?!」

 

「……大人シク、イビラレテリャイイモノヲ……

 

イイダロウ、正体ヲ見セテヤル」

 

 

影は形を変え、そして無数の目を持った妖怪へと姿を現した。

 

 

「キャァアアア!!」

 

「俺ハ、妖怪影愚痴。貴様ノヨウナオ喋リニ取リ憑イテ、人ノ陰口ヲ叩クノガ好キナ妖怪ヨ。

 

 

オ前ヲ孤独地獄ニ追イ込ミ、自殺サセルツモリダッタガ……

 

バレテシマッテハ仕方ナイ……

 

 

一人残ラズ、食ッテヤル!」

 

 

影愚痴は口から長い舌を出すと、夕美の体に巻き付けた。そして自身引き寄せようとした、その時だった。

 

 

突然、巻き付いていた舌の力が緩み夕美を離した。座り込んだ夕美を、札を持った大輔は支え立たせ、襲い掛かってきた影愚痴に、持っていた札を投げつけた。

 

 

「ギヤァァァアアア!!」

 

「ほ、星崎君……」

 

「怪我はなかったみたいだな」

 

「星崎君、今のは……」

 

「アイツに頼んで、やってもらった」

 

 

影愚痴の前に立つ白い陰陽師の格好をした麗華……

 

 

「し、白い陰陽師!?」

 

「何ダ?!貴様ハ!!」

 

「ある事ない事を流し人の命を喰らう妖怪など、この地で生きる必要は無い」

 

 

そう言いながら、麗華は薙刀を取り出し刃を影愚痴に向けた。影愚痴は怯えたように、身を縮込ませそして逃げ出した。だが逃げ道の前に、焔が立ち牙を剥き出し唸り声を上げた。

 

 

「貴様の逃げ道はない……

 

さぁ……無へ還れ!!」

 

 

飛び上がり、薙刀を勢いよく振り下ろした。影愚痴は悲鳴を上げて消滅した。薙刀をしまい、麗華は焔の顔を一撫ですると廊下の窓を開けそこから飛び降りた。杏莉達は急いで、窓から身を乗り出し外を見た。大狼に乗り去って行く彼女の姿が見えた。

 

 

「スッゲェ……」

 

「カッコイイ!」

 

「!

 

 

夕美、ごめんね……疑ったりして」

 

「ごめんな。

 

今思えば、夕美って人が傷つくような噂を流した事なかったよな」

 

「いいよ……私も、今日で学んだから。噂されるのって嫌だもんね。

 

だから、極力我慢しまーす!(噂話は、私の生き甲斐だから止められないのよね!)」

 

 

開き直った夕美の姿を見て、杏莉達はホッとしていた。




夜……

塾から帰る夕美は、ふと警察署を目に向けた。署から麗華と龍二が出てきたのを、目撃した。


(こりゃ、良い噂が……)


楽しげに話す麗華の顔を見た夕美は、出した手帳をしまった。立ち上がり少し羨ましそうに二人を見ると、振り返り自宅へ急いだ。

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