降りてきた瞬間、大輔は男子達に囲まれた。
「大輔!!
テメェ!!神崎の裸見たのか!?」
「見てない見てない」
「神崎さん!証言を!」
「見られてない見られてない」
「ウオォォオオオオ!!やはり見られていた!!」
「お前等、人の話を聞け」
“ドーン”
「キャー!!」
何かに押されたかのようにして、建物が突然揺れた。麗華と大輔は手に持っていた木刀を構え、広間へ行った。
「星崎と氷鸞は、中で待機」
「分かった」
「承知」
外へと出た麗華達……
その時、彼女を待っていたかのようにして山男は、屋根から飛び降り麗華を殴り飛ばした。
「神崎!!」
「麗様!!」
飛ばされた麗華の所は、土煙を上げ木々が倒れていた。焔達は姿を現し、山男に攻撃していった。
「馬鹿!
ここで姿を現したら」
木刀を手に、大輔は外へと飛び出した。山男は飛び出してきた彼に、大金槌を振ってきた。木刀で受け止めようと、足に力を入れ構えた時だった。
“バーン”
振る瞬間、山男の後ろから突如攻撃が放たれその勢いのまま飛ばされ、木に当たった。
大輔の前に舞い降りる白い毛皮を頭に被り、顔に狐の面を着け白い狩衣に身を包んだ人物……
「……」
『次に山男から攻撃を受けたら、そいつに突っ込む』
雷光の怪我の手当てをしながら、麗華は大輔達に言った。
『大丈夫なのか?』
『大丈夫。
もしもの時のために、一応陰陽師セットは持ってきた』
『お前、準備早いな』
彼女の隣に、焔達は駆け寄り攻撃態勢を取った。
「見ろ!!白い陰陽師だ!!」
「白い陰陽師が現れたって事は……
あの野郎、やっぱり妖怪だったのか!?」
生徒達は一斉に玄関へ行き、外を伺った。すると山男は、彼等に向かって突進してきた。その時、森からムーンが現れ男に突進し突き飛ばした。
「熊が激突した?!」
(ムーン、良くやった!)
怯んだ山男に、焔は突進し攻撃した。男は焔を受け止め、そして投げ飛ばした。男は雄叫びを上げ、大金槌を振り上げながら勢い良くジャンプし麗華目掛けて振り下ろした。
地面が激しく揺れ、土煙が上がった。地面が凹みそこにいたのは大金槌を薙刀で払い避けた、麗華の姿だった。
「狙うなら、我等だけを狙え。
貴様の相手、我等が引き受けよう」
「オォォオオオオ!!」
雄叫びを上げ、山男は大金槌を力任せに振り下ろした。振ってきた大金槌を、馬の姿になっていた雷光は、人の姿へと変わり受け止めた。背後から巨鳥の姿になっていた氷鸞は、口から冷気を放ち山男の足下を凍らせた。
身動きが取れなくなった山男、大金槌を振ろうとしたがその手を氷鸞は、冷気を放ち凍らせた。二人は山男から離れ、麗華の傍へと行った。
麗華は指を噛み、血を出すと札を取り出しそれに血を付けた。札は血に反応するかのようにして光り出した。
「貴様のような、邪気に満ち人を襲う妖がこの地で生きることは許さない。
貴様のような悪霊は、無へ帰れ!!滅!!」
札は山男の額に当たり、そこから炎が燃え上がり山男の身体を包んだ。山男は藻掻き苦しみ、そして氷が溶け身動きが取れた時、一気に駆け出し麗華の顔面と腕に攻撃した。
麗華は攻撃された勢いで飛ばされ、それを見たムーンは彼女を体で受け止めた。
「主!!」
「痛……
ありがとな、ムーン」
火傷した腕で麗華は、ムーンの頭を撫でた。ムーンはお疲れ様とでも言う様に彼女の頬を舐めた。
「氷鸞、冷気」
氷鸞は口から白い煙を放った。麗華はその中を、焔達と共に走り消えてしまった。
煙が晴れ大輔は怪我を負った彼女を支えて、皆の前に姿を現した。
「神崎!!」
「星崎君!!」
教師達はすぐに二人の元へと駆け寄った。二人は地面に尻を着きながら、彼等を見上げていた。
数分後……
宿の人から通報を受けた警察……その中には、輝三の姿もあった。
輝三は、焼け落ちた山男の死体を見下ろしていた。
「こんな野郎が、出るようになったのか……」
「妖怪達も、日に日に人間への怒りを覚えている。
こんな奴、まだまだいる可能性は高い」
「だな……」
救急隊から手当を受けた麗華は、広間に置かれていたソファーの上で横になり目にタオルを置いていた。そんな彼女に輝三は寄り声を掛けた。
「腕は鈍ってなかったみたいだな」
「春休みにあれだけ修業したんだ……
衰えたら嘆く」
「だな」
「あれ、何なの……
妖怪は妖怪みたいだけど」
「妖怪だ。
人の怒りで変異したな」
「やっぱり」
タオルを退かし、麗華は起き上がった。傍で寝そべっていたムーンは顔を上げ、鳴き声を上げた。鳴き声を上げたムーンを麗華は撫でた。
「今後もあんな妖怪を相手に、戦わなきゃイケないのか……」
「辛いなら、やめてもいいんだぜ」
「やめるわけ無いじゃん。
鵺野達がいない今、誰があの町を守るの?」
「まぁ、そうだな……
だが、一人で抱え込もうとするなよ」
そう言いながら、輝三は麗華の頭を雑に撫でた。
「龍二や俺達もいるし、それに牛鬼達もいる。
ちゃんと頼れよ」
「……うん」
その様子を、壁から覗くようにして朝妃達は見ていた。
「あの恐い顔の警官、麗華の知り合いなんだ……」
「知り合いというか……お父さんじゃない?」
「お父さん?」
「何か、感じ的にそう見える」
「そうだとしたら、何歳だ?」
「見た目からして、五十代後半か六十」
「警視監!」
そう言いながら、警官の一人が輝三に駆け寄った。
「警視監?」
「警察官の中で上の人。
とりあえず、偉い人」
「マジか……」
手当が終わった大輔は、麗華の元へと行った。彼女の傍にいたムーンは、彼により鳴き声を上げた。
「怪我良さそうだな」
「まぁね」
「なぁ、あの恐いオッサン誰?」
「神崎輝三。
長野県警の警視監で、私の伯父」
「へー、伯父なんだ。
顔からして、警視監に見えねぇ」
「あの顔になったのは、前までマル暴の刑事やってたから。
顔の傷は、昔妖怪と戦って出来たもの」
「あぁ、そうなの」
「どうする?
私、このまま輝三に家まで送って貰うつもりだけど」
「じゃあ頼む。
正直、お前いないと体が休まる気がしない」
「気疲れするもんなぁ」
「お前もだろ」
互いを見ながら、二人は薄らと笑みを浮かべた。
そんな二人を別の場所から、優梨愛達が見ていた。
「やはり、神崎さんと星崎はデキている」
「噂だと、あの二人幼馴染みみたいよ」
「なるほど~」
輝三の車の中……互いに凭り掛かりながら、麗華と大輔は眠っていた。
「警視監の姪っ子さん、よく眠ってますね」
「そうだな」
「しかし、本当に警視監に似なくて良かったですね!」
「テメェ、この高速道路に置いてくぞ」
「やめて下さい!!」
「冗談だ」
「冗談に聞こえない……
それにしても酷いですよね。警視監の弟さん、こんな可愛い子供を二人残して逝っちゃうなんて」
「アイツだって、好きで逝ったわけじゃねぇよ」
「まぁ、そうですけど……」