陰陽師少女   作:花札

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二日目……


山登りを終えた午後。川辺で捕ってきた魚を、麗華達は各班で焼いていた。

その中でも、輝三の元で得たサバイバル知識を持つ麗華と、島暮らしに慣れた大輔は別の班達から声が上がっていた。


「神崎さん!こっちお願い!」

「星崎、俺達の所も頼む!」


強靭の妖怪

魚を焼き終え、皆が美味しそうに食べている中、二人は顔にタオルを置き横になっていた。

 

 

「お疲れ様~」

 

「頼り過ぎだ」

 

「そう言わない。

 

 

それにしても、大輔は島育ちだから分かるけど……何で麗華も出来るの?」

 

「島でそこそこやってたし、小三の夏から小五に上がるまでの間、ずっと田舎で親戚の人に教わったから」

 

「あれ?麗華、二回も転校してるの?」

 

「違う。

 

持病が悪化して、それで田舎で療養してたんだ」

 

「持病?!まさか、麗華」

 

「死なない死なない。そこまで重く……!?」

「!?」

 

 

何かの気配に気付いたのか、麗華と大輔は一緒に立ちあがり辺りを見回した。

 

 

「麗華?」

 

「どうかしたの?神崎さん」

 

「……!」

 

 

二人の様子を見ていた翼は、彼等と同じ何かの気配を感じたのか、立ち上がり辺りを見回した。

 

 

「翼?」

 

「……何か来る」

 

「何かって?」

 

「……あの奥から」

 

 

翼が指差す方向は、森だった……すると、森の中から二本の角を生やした山男が、姿を現した。

 

麗華の肩にいたシガンは、威嚇の声を上げ毛を逆立たせ攻撃態勢を取っていた。

 

 

「な、何?あれ」

 

 

山男は顔を上げると、笑みを溢しそして……

 

 

“ドーン”

 

 

突然、麗華を攻撃してきた。殴られた拍子に彼女は、飛ばされ近くの木に体をぶつけた。

 

 

「……!

 

全員、走れぇ!!」

 

「キャー!!」

 

 

悲鳴を上げながら、生徒達は一斉に走り出した。教師達は逃げる生徒達を誘導しながら逃げ、大輔は麗華の元へと駆け寄った。

 

 

「神崎!」

 

「大丈夫……

 

それより、早く皆を」

 

「今逃がしてるところだ」

 

「星崎は皆を落ち着かせて。

 

私はあいつを食い止める。焔!」

 

 

麗華の声に、姿を消していた焔は大狼の姿になりながら現れた。

 

 

「死ぬなよ」

 

 

そう言いながら、大輔は走り出した。山男は笑みを浮かべながら麗華目掛けて、大金槌を振った。振ってきた大金槌を持つ腕に、焔は噛み付き襲い掛かった。山男はすぐに焔を引き離し、大金槌を構えながら焔達を睨んだ。焔は麗華の傍へと行き、彼を睨み唸り声を上げた。

 

 

「ゲホッゲホ!

 

四人でやった方がいい。氷鸞!雷光!」

 

 

出て来た二匹は、人の姿でその場に現れ焔は彼等に合わせて人の姿へと変わった。麗華は薙刀を出し、持ち構え山男を睨んだ。

 

 

「オォォオオオオ!!」

 

 

雄叫びを上げると、山男は一気に麗華に攻め寄ってきた。

 

 

 

その雄叫びは、宿の方にまで響いていた。生徒達は雄叫びに怯え、女子達は互いに抱き合い震えていた。教師達は、そんな生徒達を宥めるかのようにして、声を掛けていた。

 

大輔は宿にあった木刀を手に、玄関前のカウンターに身を潜め外を窺っていた。

 

 

その時、森の方から駆けてくる麗華の姿が大輔の目に映った。彼はすぐにドアを開け、手を伸ばした。麗華が自身の手を掴んだと共に大輔は彼女を思いっ切り引っ張り自身に抱き寄せ、ドアを閉めた。後を追ってきた山男は、中へ入ろうとしたが、その瞬間見えない壁のような物に当たったのか、顔を手で覆った。

 

 

「やった……何とか、成功した」

 

「結界か?」

 

「この宿全体に。

 

けど、時間の問題」

 

 

ボロボロになった麗華の服を見た大輔は、着ていた上着を彼女に掛けた。

 

 

「星崎!何の音……!?

 

神崎!」

 

 

剛田は二人の元へ聞け寄りながら、名前を呼んだ。彼に続いて湯崎と朝妃達が駆け寄ってきた。

 

 

「麗華!」

 

「酷い怪我……すぐに」

「私は大丈夫(問題なのは……)」

 

 

朝妃達の目を盗み、麗華はふと後ろを見た。大輔も彼等に気付かれないように、後ろを向いた。そこには怪我をした焔達が座り込み、息を切らしていた。

 

 

「……先生、部屋一つ貸して下さい」

 

「え?」

 

「そこで、神崎の手当てします」

 

「そ、それは私が」

「神崎、来い」

 

 

大輔に支えられながら、麗華はふらつく足で立ち上がった。

 

 

「待って!

 

手当てなら、私が」

「やめて!!」

 

 

息を切らしながら、突然麗華は大声を上げた。大声に驚いた朝妃達は、一瞬怯みそれ以上は何も言わなかった。

 

 

「立花」

 

「?」

 

「神崎のバック、取ってきてくれないか?」

 

「わ、分かった」

 

 

階段を上がり、二人は誰もいない部屋へと入った。朝妃は麗華のバックを手に持ちながら、部屋へと行き覗こうとドアをこっそり開けたが、何も見えなかった。するとドアを勢い良く開けながら大輔がやって来た。

 

 

「バック、ありがとな」

 

「ううん……それより、麗華は?」

 

「大丈夫だ。

 

落ち着いたら、下に降りる」

 

「う、うん」

 

 

大輔はそのままドアを閉めた。朝妃は中が気になりながらも、その場を立ち去った。

 

 

「行ったか……」

 

「某達まで、申し訳ない」

 

「別にいいって。

 

こいつ等の手当が終わるまで焔、見張り頼んだぞ」

 

「応」

 

「痛……あの山男、何ちゅう力だ」

 

「見た所、山の主って感じだけど……」

 

「けど何だ?」

 

「山の主だったら、星崎達を真っ先に襲うはず。

 

なのに……襲ったのは、私一人」

 

「それじゃあ……人を襲う妖怪」

 

「多分ね。

 

しかし、服をボロボロにされるとは思わなかった……」

 

「全くだ。

 

ほら、とっとと着替えろ」

 

 

バックを投げ渡しながら、大輔は氷鸞の傷を手当てした。


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