川辺で遊ぶ生徒や林の中へ行き探険する生徒、更に宿で本を読んだり友達と話す生徒達と、キャンプ場は賑わっていた。
(額に三日月の模様……)
管理人から聞いた話を思い出す麗華は、ふとムーンのことを思い出した。
(あいつ、元気にしてるかなぁ?)
「ねぇ、神崎さん」
林を歩いていた麗華に、黄色のショートヘアーに赤いカチューシャをした中村優梨愛(ナカムラユリア)が話し掛けてきた。彼女の後ろには四人の男女が立っていた。
「何?」
「これから、羆を探しに行くんだけど……
神崎さんも一緒にどう?」
「パス」
「そう言わずに、行こうぜ?」
後ろから腕を回し、麗華の肩に乗せながら渡辺秀(ワタナベシュウ)は言った。
「探してどうするの?」
「額に三日月の模様が、あるかどうかを確かめるの。
楽しそうでしょ?」
「ヤバくなったら、全力疾走で逃げればいいし」
「……」
「というわけで、行くぞ」
麗華を連れ、優梨愛達と奥へと進んだ。麗華のフードの中に隠れていたシガンは、彼等に気付かれないように抜け出し、どこかへ向かった。
「何で、フェレットを連れて来たの?」
優梨愛の隣りにいた、黒い髪を耳下で二つに結った長谷川奈々(ハセガワナナ)質問してきた。
「勝手についてきたの」
「フーン」
「本当は、普通に連れて来たんじゃないんですか?離れたくないが為に」
眼鏡を上げながら、金田駿(カネダスグル)は疑った。
「そんなことするわけ無いでしょ。
前日に、頼んだんだから。兄貴に」
「フーン……
まぁ、そんなことはどうでもいい。私が気に入らないのは、バスの中でフェレットを放し飼いにしていた上、騒いでたって事!」
「シガンは、放し飼いにしても決して私の傍から離れたりしない」
「じゃあ、今はどこにいるのよ!!」
「星崎の所。
何故かあいつに、懐いてるから」
「本当かしら?」
「グチグチ言う前に、本音言ったら?
どうせ、『私は注意されたのに何で神崎さんは注意されないの?』って」
「!!」
「じゃあ、言わせて貰うわよ!!
何で、いつも夜出歩いてるの?」
「散歩」
「それで何で、アンタは補導されないの!!」
「警察がどこを歩いてるか、大体把握してるから」
「それだけじゃない!
アンタ、いつも一八歳未満は禁止の店に何悠々と入ってるのよ!!」
「そこの店長と、知り合いだから」
「まだまだあるわ!」
“パキ”
優梨愛が言おうとした時、枝を踏む音が聞こえた。恐る恐る振り向くと、そこにいたのは額に三日月模様を付けた大羆だった。
「ひ、羆だぁ!!」
小柄で丸坊主の新川秀(アラカワシュウ)は、そう叫びながら走り出した。彼に続いて優梨愛達も走り出した。
「コラ!走るな!
……?」
振り向くと、羆はジッと自分を見つめていた。麗華はその場に座り、手を差し伸ばした。羆はゆっくりと彼女に近付き、手のニオイを嗅いだ。
逃げてきた優梨愛達を、シガンの後を歩いていた大輔は見ていた。
(何だ?あいつ等)
「キュー!」
「あ、悪い」
シガンに釣られやって来た場所には、羆に頬を舐められる麗華だった。
「やめろって!くすぐったいよ!
コラ!ムーン!
!星崎?!」
大輔に気付いた麗華は、羆の顔を退かし立ち上がりながら、彼の方を見た。大輔の元から、シガンは駆け寄り彼女の肩へ登り頬を舐めた。
「そいつが、鳴き声上げながら来たもんだから。
ついて行ったら」
「私がここにいた。
お前は相変わらずだな」
そう言いながら、麗華はシガンの頭を撫でた。
「で?
お前の傍にいるその熊……額に三日月模様があるけど」
「大丈夫。何もしなきゃ襲わないよ」
「何か、お前に慣れてるみたいだな?」
「父さんが幼い頃、飼い慣らした羆の子供。
名前は親と同じムーン」
「飼い慣らしてた?」
「父さんが住んでた場所、凄い田舎で周りは山と川ばかりで、遊び相手が動物か妖怪だったって」
「へー」
するとムーンは、大輔の傍へ寄り彼のニオイを嗅ぐと擦り寄ってきた。
「アンタにも、懐いたみたいだね」
「どういう基準で選んでんだ?」
「さぁ……」
夕方……
林から出て来ると、外で遊んでいるはずの生徒達がいなくなっていた。
「あれ?集合時間、間違えた?」
「いや、17時に集合だけど……
まだ16時半だ」
「どこ行ったんだ?
雨降ってるわけでもないし」
辺りを見回しながら、宿の中へと入った。中には、猟銃を構えたおじいさんとおばあさんがおり、その奥の広間には生徒達が並び座っていた。
「な、何?」
「どうしたの?」
「神崎!星崎!無事だったか!?」
「え?な、何?」
「三日月模様の羆が現れたって、中村達から聞いて!」
「あー。
あの熊……」
「何にもしねぇで、林の奥に帰ったぜ」
「だから、心配はない」
「お、襲われなかったの?!」
「何にも。なぁ?」
「あぁ」
いたずら笑みを浮かべながら、二人は顔を見合わせた。
(何か、この二人……)
(神崎と滝沢、そして日野崎に見える……)
体育教師であり、A組の担任を務めている剛田鉄平と麗華の担任である湯崎美奈子は、二人を見てそう思った。
“カコン”
風呂に入る麗華達……
「あ~~。
極楽極楽~」
「杏莉、何かおばさんみたい」
「いいじゃな~い」
頭を洗いシャワーで、泡を流す麗華を杏莉はふと見つめていた。その視線に気付いた麗華は、髪を纏め上げながら杏莉の方を向いた。
「何か、私の体に付いてる?」
「別に~。ただ、いい体してるなぁって……」
「あっそ……」
「しっかし、よく許可取れたわねぇ。
シガンのお風呂入浴」
「最後で桶に入れるなら、別にいいってさ」
桶の中にいるシガンの頭を撫でると、麗華は湯に浸かった。
「それにしても……
本当、最後の湯って人少ないわねぇ」
「最後って言ったら、女子の日で入る子くらいしかいないよ」
「だから、さっさと入れって言ったんだ」
「別に文句じゃない。
それに、麗華と一緒の方が楽しいし」
「確かに。
麗華、頭いいからって威張らないし」
「オマケに優しいし。
優梨愛達とは、大違い」
「あのグループ、結構問題になってるのよねぇ。
一年の中じゃ」
「え?そうなの?」
「優梨愛をリーダーに、一年の問題児は皆、彼女の配下。
他のクラスは知らないけど、うちのクラスだと……
渡辺秀と金田駿、長谷川奈々と新川秀の四人」
「アイツ等、噂で聞いたけど……中学の問題児だったらしいよ?」
「問題児?」
「何かね、窃盗とか万引きとかしたって……
よく補導されて、中学の先生達手を焼いてたんだって」
「それで、夜で歩いてる私に突っ掛ってきたのか」
「そうそう……って、麗華!アンタ、何夜歩いてんのよ!」
「夜の散歩」
「何散歩してるの!?しかも夜!」
「夜の方が、人は少ないし。
それに、涼んでていいから」
「そういう問題じゃない!!」
「よくそれで、補導されないわね」
「補導される前に、知り合いの店に入っちゃうからね」
「へ~」
「麗華って、結構知り合いがいるのね」
「ほとんど、兄貴の知り合い」
「お兄さん、結構人付き合いいいのね」
「まぁね」
「あなた達!!
いつまで入ってるつもり?!早く上がらないと、就寝時間になるよ!!」
突如入ってきた竹岡先生に、驚いた麗華達は慌てて出た。出た後、先生に見張られながら着替え、急いで部屋へと戻った。