そろそろ出発しないと、死んじゃうよ?」
鎌鬼に言われ、四人は話を止め咳払いをした陽一は気持ちを切り替えて話し出した。
「で、どうする?
波達に乗っていくのは良いとして……」
「京都を火の海にするわけにはいかないから、波に乗せて。
晴彦と狩野の白狼は?」
麗華が言うと、それを聞いたのか晴彦の肩に乗っていた鼬が、白狼の姿へとなり彼の背後に立った。明理は、肩から掛けていたバックの蓋を開け、そこから鼬を出した。彼女の手を伝い地面に降りた鼬は、白狼の姿へとなった。
「どっちが水を使えるの?」
「僕の方です。明理の火夜は火です」
「分かった。じゃあ、明理は晴彦の菊水丸に乗ってくれ」
「え…でも、それじゃあ戦闘が」
「戦闘覚悟で移動する。まぁ、なるべく避けるようにはするけど」
「少し高めに飛ぶ?雲の上とか」
「いや、道が分からなくなるから下の方を飛ぼう。
波、少し辛いかもしれんがよろしゅう頼む」
「任せて!」
「菊水丸、大江山までよろしゅう頼みます」
「諾」
「それにしても、珍しいね。
兄弟揃って、水なんて」
「よく言われます。けど、極稀にあるみたいなんです。同じ技を持って生まれることが」
「へ~」
「お喋りはそこまでにして、早く行くよ」
鎌鬼に言われ、麗華は鼬姿になった焔を自身の肩に乗せると、狼姿になった波の背に陽一と共に乗った。彼等に続いて、頭を軽く振った菊水丸の背に晴彦は乗り、明理に手を貸した。明理は鼬姿に火夜を肩に乗せ、バックを持ち直すと彼の手を握って背に乗った。
彼等を乗せた波と菊水丸は、空へと飛び大江山へと向かった。
別の場所……何かから逃げる鬼達。その後ろから、水の槍が次々と逃げていく鬼達の背中に刺さっていった。
「お、陰陽師だ!!逃げろぉ!」
一匹の鬼がそう叫びながら、逃げていく。逃げる彼等を、札を持った明仁が次々主水に指示を出していた。
「誰の許可を得て、京都の町を歩いている?
ここは、俺等の縄張りだ」
そう言いながら、怖気ついている鬼を倒した。残骸となっている鬼を見ながら、イライラしていた。
「あの小娘……よくもこの俺に恥をかかせやがって」
「明仁様、少し冷静になられた方がよろしいかと」
「主水、黙ってろ。
この俺が、あの分家の小娘に負けたことが許せないんだ。(そのうえ、親父の分家に対するあの態度……本当に、立場が逆転したっていうのか?
だったら、何で未だに親父達宗家は本家に?)
?」
その時、物音が聞こえ上を見上げると屋根を走る狐姿をした雛菊が、明仁の目に入った。
「あの狐は……確か」
「明仁様、上空を」
「?」
空を見ると、二頭の大白狼が飛んでいるのが見えた。すぐに麗華達だろ気付いた明仁は、主水の背中に飛び乗ると彼等を付ける様指示した。
「低空飛行って、案外つまんないなぁ」
そう言いながら、陽一は波の背から京都の町を見下ろしていた。そんな彼に、麗華は軽く溜息を吐いた。
「あのねぇ、敵と遭遇しない為に低空飛行してるんだよ。つまらないって」
「だって、いつも上空跳んでから妖怪を探したり、そいつがいる所まで行ってるから」
「まぁ、確かにそうだけど……?」
町を見下ろした麗華は、屋根を伝い自分達を追い駆けてくる狐を見つけた。陽一に狐を指さし、彼は波を屋根付近へと寄らせた。狐は波に気付くと勢いよく跳び、跳んできた狐を麗華はキャッチした。
「雛菊、何で?」
「龍が麗について行けって。
もし戦闘になるのなら、回復役が必要でしょ!」
「確かにそうやな。俺も麗も、回復できる式もってへんもんな」
「だね。晴彦達の方は?」
「僕の式は、武器に憑依するタイプなので」
「うちの式は、封印に特化した式やから、回復は」
「いないって……
準備不足で、危うく死ぬところだったわ」
「龍兄、さすがや」
その時、強い妖気を感じた麗華と陽一は、すぐに武器を出した。同時に上空から翼を生やした鬼達が一斉に、攻撃を放ってきた。攻撃してきた鬼達を、波の背中に立った陽一は鞘から刀を抜き居合切りをした。鬼は胸から血を出し落下していき、それを合図にか次々と他の鬼達が攻めて来た。
「キリがない!」
「酒吞童子、攻撃をどうにかして!!」
「無理だ。あ奴等、紅葉に操られている」
「はぁ?!」
「操られている以上、頭である俺の言う事など聞く耳持たん」
「何で感じな時に役に立たんのや!!」
「波、もっと上へ飛んで」
「わ、分かった!」
「何する気や!麗!!」
「晴彦達は、このまま大江山に向かって!!
ここは私達で食い止める!」
「分かりました!
菊水丸、お願いします」
「鎌鬼も、二人の事をお願い」
「了解した!
酒吞童子、君は麗華の傍にいてくれ」
鎌鬼の手を伝い、酒呑童子は麗華の頭に乗った。そこから去って行く晴彦達を追い掛けようとした鬼を、陽一は刀で切り裂き倒した。麗華の肩から降りたと同時に、焔は狼の姿へとなった。波に寄った焔の背に、彼女が乗り移り背の上に立つとバランスを取り、手に持っていた薙刀を構えた。
「陽、戦闘に入るよ!!」
「応!波、焔の放つ火の技を消す様に攻撃してくれ」
「焔は、攻撃に集中」
そう言うと、焔は毛を黒くし体に炎を纏わせた。鬼達は雄叫びを上げると、一斉に攻撃を放ってきた。
「焔!!」
炎を纏った焔は、口から強力な炎を放ち襲い掛かって来る妖怪を一掃した。生き残った妖怪達は隙を狙い、攻撃を放ったが当たる寸前に麗華と陽一は、自分達の薙刀と刀を振りその攻撃を防ぎ、更に背後からくる攻撃を、いつの間にか構えていた晴彦が放った矢で消し去った。
「どや!!俺等の力!」
「油断するな、また来るぞ!」
ぞろぞろと現れる鬼達に、炎は再び攻撃を放とうとした。するとその時、麗華の頭に乗っていた酒呑童子が飛び降りながら元の姿になり大声を発した。その瞬間、鬼達はまるで時間が止まったかのようにして動きを停止した。
「動きが……」
「止まった」
「そう長くは持たん。今の内だ」
鼠の姿へと戻った酒呑童子に言われ、麗華達は一斉にその場から去り大江山へ向かった。
大江山麓で、麗華達は降り立った。茂みに隠れていた鎌鬼は、頂上へ行ける道と空にいる鬼達を指差した。
「ぎょうさんおるなぁ、鬼」
「一気に突っ切るしかないか」
「そうしたくても、明理さんは戦闘外」
「狩野、封印一式命に代えて守れる?」
「れ、麗華?」
「う、うん!」
「晴彦、狩野を連れて先に山頂へ行け。
その護衛として、菊水丸と火夜、酒呑童子、ついて行け」
「あなた方はどうするんです?」
「ここいら一体の妖怪を」
「一網打尽や!」
いつの間にか出した刀を構えながら、陽一は指を噛み血を出すと二枚の式に自身の血を付けた。血に反応するかのように、式からは煙が出てそこから風月と氷月が出て来た。彼に続いて、薙刀を出した麗華も雷光と氷鸞を出した。
「あとから行くから、先に行け!」
「分かりました!明理さん」
「で、でも」
「ここは戦闘慣れしている二人に任せましょう」
「はい……二人共、頑張って下さい!」
待ち構えていた菊水丸と火夜に乗ると、二人は酒吞童子達に釣られて頂上へ向かった。空にいた鬼達が一斉に彼等に攻撃をしようとしたが、その瞬間どこからか妖気を感じ振り返った。
「鬼さんこちら!遊びましょう!」
妖気を放った麗華は、悪戯笑みを浮かべながら空にいる鬼達に向かってそう叫んだ。寄ってくる鬼目掛けて、彼女は薙刀を勢いよく振り回した。振り回して起こした風が、鬼達の動きを一瞬封じその隙を狙い、陽一が刀を抜いて一刀両断した。
「人の女に、手ぇ出すな」
「道開いた!二人を追いかけるよ!」
「応!」
別の道で主水の背に乗り、登山する明仁……襲ってくる鬼達を次々と、主水の技で倒していった。
「何なんだ、この鬼の数は」
「……明仁様」
呼ばれた彼が振り向く先には、菊水丸と火夜に乗る晴彦と明理、そして彼等の後ろから追い掛けてくる鬼達を退治する、鎌鬼の姿があった。
「あいつ等……(俺にも運が回ってきたか)
主水、後に続け」
「御意」