陰陽師少女   作:花札

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ウエストポーチに必要な物を入れた麗華は、最後に式に戻した雷光を中へと入れると、それを腰に着けながら裏口へと向かった。


裏口で待っていると、斜め掛けバックを持った明理と晴彦、ワンショルダーバックを背負った陽一が集まった。


「これで全員か」

「まぁ、そうでしょう。

ねぇ、狩野だっけ?その荷物、封印の?」

「うん……鬼を封じるなら、結構大掛かりなものが必要だって……この人が」


恐る恐る振り返る明理と同じ方を見ると、そこには瓢箪を背負い煙管を吹かしたあの妖怪が立っていた。


「何?道案内でもしてくれるの?」

「まぁ、そんな所だ。

封印の場所まで、俺がエスコートしてやるよ」

「ついて来るのは構わないけど、その姿どうにかして。

目立ち過ぎ」

「良かろう」


了承した鬼は、ネズミの姿となり歩み寄ってきた鎌鬼の足を伝い肩へ登った。


「大昔に恐れられていた鬼の当主が、そんなちっぽけな鼠の姿になろうとは」

「小回りが利くから、良いのだ」

「まぁ、アンタがいいならそれでいいけど。

そういえば陽、泰明さん達には言ってきたの?鬼封印に行くって」

「言うわけ無いやろ。

止められるに決まっとる。だから、内緒や」

「……」

「その方がいいかもね。

封印に必要な狩野明理がいて、元本家の晴彦がいるなら」

「そういう鎌鬼は?」

「僕は付き添い。

だって、君等が鬼の餌食になったら意味ないじゃん」

「……」

「そうだ、人の子。

先に名を申しておく。俺は酒呑童子」

「言われなくても分かってるよ」

「なら良いが。

ちなみに、あの鬼女の名は紅葉だ」

「そのまんまなの……」

「もっと凄い名前かと思ったわ」


落ちこぼれ

腕に包帯を巻いた輝三は、浅く息をしながら美子に支えられて起き上がり、状況を泰明から聞いていた。

 

 

「あのバカ、余計なことばかりしやがって。

 

 

龍二と輝一は」

 

「丙達に見てもらって、今眠った所だ」

 

「そうか……

 

 

おい、麗華は?それに陽一も」

 

「え?その辺にいるんじゃ……」

 

「泰明さん、大変です!!」

 

「?」

 

「陽一、どこにも居らへん!!」

 

 

慌てて駆け込んできた美幸の言葉に、泰明は驚き美子達と顔を見合わせた。彼女に続いて、晴政と明理の母親らしき女性が血相をかいて、泰明の元へ駆け寄った。

 

 

「大変です!晴彦と明仁がどこにもおりまへん!!」

 

「ウチの娘もです!」

 

「どこに言ったんだ、あいつ等は」

 

「娘だけじゃないんです!!

 

今回の鬼封印で使う予定だった道具一式、全部なくなっているんです!!」

 

「まさか、あいつ等」

 

「そういえば……ねぇ、泰明。

 

アンタ、麗華ちゃんと一緒にいた男性知らない?見当たらないんだけど」

 

「あと、鬼の頭もです!」

 

「……封印に関しては、今から誰が行くか決めようと」

 

「先に越されたわね」

 

「相変わらず、行動が早いねんあの空手馬鹿」

 

 

美幸が呆れながらボソッと言った時、龍二は傍にいた雛菊に耳打ちをした。雛菊は彼の言葉を聞くと、了承したのか頷き三尾を生やした狐の姿になると、塀を飛び越えてどこかへと行った。

 

 

京都の町を歩く麗華達……陽一は持ってきていた地図と時間を見ながら、彼等に話した。

 

 

「麗、歩いていくの無理や。

 

 

焔達に乗って、進むしかない」

 

「それは良いんだけど、空も空で別の妖怪が飛び交っている」

 

「戦闘は避けられまへんね」

 

 

「あれ〜?

 

これはこれは、月影院じゃありまへんか」

 

 

他人を馬鹿にするような声に、彼等は振り返った。そこにいたのは、晴彦と同じ制服を着た三人の男だった。

 

 

「……誰?」

 

「僕のクラスメイトです。

 

 

今は危険です。早う自宅に戻られた方がよろしいかと」

 

「月影院のくせに、偉そうに言うな?」

 

「っ……」

 

「そうそう、不登校の落ちこぼれのくせして、俺等に命令するな」

 

 

 

強く言われ、その声に怯んだのか晴彦は口を一文字に結び、拳を握った。そんな彼を見た陽一は、前に出た。

 

 

「命令するな言うどうこうの前に、本当に危ないんや。

 

悪いことは言わねぇ。鬼に攻撃される前に、早う避難所に行った方がええ」

 

「他校の生徒が、口出しするんじゃねぇよ」

 

「お!よく見れば、女の子が二人もいるじゃん。

 

しかも、片方超美人!」

 

「お嬢さん方、こんな二人といないで僕らと一緒に、お茶でもしませんか?」

 

「え…あの」

「悪いけど、こんな魑魅魍魎が跋扈してる中でお茶なんて飲みたくない」

 

「魑魅魍魎って……」

 

「それに私、弱い奴いじめて強がってる野郎、嫌いだから」

 

 

淡々とはっきり言う麗華に、男三人は眉をヒクヒクさせながら再び口を開いた。

 

 

「俺等が弱い?」

 

「ンなわけないだろう。特にこいつ」

 

「怒らせない方がええで。

 

こいつ、空手の大会で優勝した男やで」

 

(あれ?優勝した?)

 

 

拳を鳴らす男を見ながら、麗華は陽一の服を引っ張り耳打ちした。

 

 

「ねぇ、確か優勝って……!」

 

 

チラッと顔を見ると、陽一は怒りに満ちた顔をしていた。それを見た麗華は、肩に乗っている波を自身の肩に乗り移させて、そうっと離れ明理と共に後ろへ下がった。

 

 

「何の大会で優勝したって?」

 

「これだから公立は。

 

耳聞こえんかったか?空手や、か・ら・て」

 

「ほぉ~、優勝なぁ……

 

なら、ちょいと勝負しようや」

 

 

組み手の構えをした陽一に、相手はビクついたのか後退りした。互いの顔を見合うと、大会で優勝したと言った男は、恐る恐る構えた。その構えを見た陽一は、軽く溜息を吐きながら構えを解除し、前へ行くと出してきた突きを払い、足をかけ足払いをし倒れた彼の顔すれすれで突きを止めた。

 

 

「六月の大会、優勝したのはこの俺や」

 

「え……」

 

「次ホラ吹いたら」

「陽、右!!」

 

 

麗華の叫び声に右を向いた次の瞬間、目の前に鬼が居り陽一目掛けて拳を振るってきた。彼はすぐに腕でガードし、拳を受けた。勢いで飛んだ陽一は、石畳に煙を上げながら何とか留まり一呼吸すると、鬼を見た。

 

 

「な、何だ、この化け物」

 

「鬼や鬼!」

 

「お、鬼?」

 

「麗、俺がこいつの相手しとるから、その間に」

 

「了解。波、陽の所に」

 

 

彼女の肩から降りた波は大白狼の姿になると陽一の傍へと行き、麗華は腰を抜かし狼狽えている男三人を立たせるとその場から去ろうとした。

 

その時、立たせようとした男の背後から鬼が現れ、麗華目掛けて棍棒を振り下ろしてきた。すぐに男を後ろへ行かせた麗華の前に、鎌鬼は大鎌でその棍棒を防いだ。

 

 

「鎌鬼!!」

 

「お頭さん、少し彼等を止めてくれないかな?」

 

 

大白狼の姿になった焔は、麗華の背後へと回り今にも火を吹き出そうと口から黒い煙を出した。

 

 

「焔、ここで火を吹いちゃダメ」

 

「けど」

 

「大火事になる」

 

「……」

 

「酒吞童子、こいつ等なら命令聞くんでしょ?」

 

 

鎌鬼の肩から降りた酒吞童子は、元の姿になり鬼達に向かって命令を出した。その声に、鬼達は攻撃しようとした腕を止めた。

 

 

「これで良いか?巫女」

 

「上出来。

 

 

アンタ等、早く家に帰りな。死にたくなければ」

 

 

振り向きざまに睨む、麗華の目に三人は怖気づいたのか半べそをかきながら頷いた。

 

 

「あ、そうそう。

 

 

もう関係ないかもしれへんけど、次晴彦のこといじめてみろ。

 

後悔させるくれぇのことに、合わしてやるさかい。分かったな?」

 

 

鋭く睨む陽一の目にビクついた彼等は、チラッと晴彦を見ると怯えながらすぐに駆け出しその場を去って行った。




「ねぇ、もう関係ないってどういう意味?」


焔の頬を撫でながら、麗華は陽一に質問した。波を撫でながら、彼は晴彦の方を見ながら話した。


「晴彦、今の中学辞めるんや」

「え?嘘」

「いじめが不登校になってしまったんですよ。

お恥ずかしい話」

「そう?

私も小学校の時、不登校だったし」

「二学期から、俺と同じ公立に通うんや。

まぁ、色々面倒見てやるさかい」

「よろしゅうお願いします」

「ねぇ、アンタなんか変わった?

昔は、そんなんじゃ無かったよね?」

「……私立に行ってから、変わったかもしれまへんね。

いくら勉強しても努力しても、結果は中の下。努力している姿を、両親は見ていましたから何も追及も説教もしませんでした。


けど、その勉強の努力が仇となったんです」

「真面目に勉強している晴彦を見て、さっきの奴等みたいなのがちょっかいを出して、挙句面白くないからっていう適当な理由を付けて、いじめに発展した?」

「その通りです。

気にしないで、無視し続けていたら……四月頃に、少々問題を起こされまして」

「問題?」

「万引きの疑い懸けられたんや。

けど犯行時間と思われる時刻、晴彦は俺と一緒やったし、店側も本人の顔を見て違うって証言したから何のお咎め無しやったけど……


噂は、そう簡単に消えなかったんや」

「噂が広まり、無実なのに変な罪を着せられて……挙句、いじめが悪化してついに行けなくなったと」

「正解です。よく当てますなぁ、麗華はん」

「昔イジメにあってね、手口は違うけど似たようなことをされたから」

「なぁ麗、そのイジメた奴俺が一発」

「もう済んだことだし、そもそも裏で糸引いてた奴がいて、そいつが妖怪だったからお咎め無し」

「クッソぉ……」

「まぁ、それがきっかけで両親に相談して……今の私立を辞めて、陽一はんがいる公立に転校することにしたんです」

「理由は他にもあるんじゃないの?」


悪戯笑みを零す麗華の視線の先には、挙動不審になっている明理がいた。彼女と目が合った晴彦は、頬を赤くしてそっぽを向いた。そんな彼の様子を見て、麗華は陽一と顔を見合わせてクスッと笑った。

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