昔、封じた鬼の頭が復活した。その原因は、封印術が弱まっており近々封印し直そうした矢先、何者かの手により封印が解けた。自分達だけでは対処が間に合わず、そこで神崎家、三神家、月神家の力を借りようと急遽収集を掛けたとの事だった。
「何、要は間に合わなかった事を、私等にやれって?」
「単なる、お前等の尻拭いやん」
口々に言った陽一と麗華に、輝一と龍二は拳骨を食らわせ黙らせた。咳払いをした輝三は話を続ける様、晴政に促した。
「この封印を、今回晴彦の許嫁である、狩野明理の力を借りて鬼の頭を封じます。
封印場所へ行く為の数名の護衛と、いない間のこの地の守りを輝三はん方の力をお借りしたいんです。
お願いしても、よろしいどすか?」
「分かった。
すぐにでも、その封印していた場所に行きたい。どこだ?」
「それは」
「大江山だ、陰陽師の者よ」
本堂の中心に降り立つ、瓢箪を持ち額から角を生やした妖怪……手に持つ煙管を吹かせながら、そう答えた。その場にいた者達の前に、大白狼の姿になった焔達が立ち攻撃態勢に入った。
「警戒しなくても、攻撃はしない。
むしろ、とっとと封印しろ。この国が滅ぶぞ」
「何故、ここへ?」
「俺にも扱えない鬼がいる。そいつ等がここへ来る前に、俺等を封じてくれる者を大江山に連れて行こうと思ってな」
口から煙を出しながら、鬼は部屋を見回した。その時焔の後ろに隠れていた麗華は、何かの気配を感じ取り、傍にいた陽一、晴彦、龍二達も感じ取った互いの顔を見合った。
「ここがあの陰陽師、安倍晴明様の住処だった所かしら?」
彼の隣に降り立つ、妖怪……紅葉柄の着物に身を包み、紅葉の髪飾りを付けた妖怪が不敵な笑みを浮かべながら、中を見回した。
「数百年ぶりに外へ出たけど……変わっていてビックリしたわ」
「何者だ!」
「礼儀のなっていない人ね」
そう言うと、その鬼は手から紅葉を出し晴政に向けてクナイのようにして放った。傍にいた白狼は、口から水の針を無数に出しその紅葉を地面へ突き刺し攻撃を防いだ。
「あら、立派な護衛です事。
それにしても、とてもいい霊気を感じるわね。しかも二体」
その言葉に、龍二は顔を強張らせながら陽一の方に目を向けた。陽一は彼の目を見ると、何かを理解したのか頷きソっと麗華の傍へ行った。
「その二体は、残念ながらこの僕の者なんだけどね」
そう言いながら、鎌鬼は焔達の前に出て行き鬼の向かいに立った。鬼は数枚の紅葉を手に構えながら、鎌鬼を鋭く睨んだ。
「何?あなた、鬼のくせして人の味方をするの?」
「味方ではないよ。ただ君が、その二体を狙うというのなら僕が立ち向かわなきゃいけないからね」
「フーン……そう」
その時、二人の間を水が発射された。発射してきた方を見ると、そこには勝ち誇ったかのような表情をした明仁が数枚の札を構えながら、前へ出て来た。
「さっきからごちゃごちゃとうるせぇな。
テメェは、この俺が封じてやるよ」
「嫌な男。
何なの?この礼儀知らずは」
「俺は、この陰陽師本家月影院明仁だ」
「本家?
この愚図がか?」
「……二体と言っていたが、その一体は俺の事だろう?」
「いや違う。
お主の霊気は、二体よりはるかに低いもの」
「っ……
その二人より、この俺の方がよっぽど上だ!主水!!」
狩衣に身を包んだ人の姿となった主水は、手に水球を作るとそこから鬼目掛けて水鉄砲を発射した。鬼はすぐに避けると、がら空きとなっていた彼の背後に回り、紅葉を突き刺そうとした。その瞬間、傍にいた輝三は彼の前に立ち、その攻撃を腕に受けた。
「輝三!!」
「麗華!!」
彼の元へ駆け寄ろうとした麗華を、陽一は抑え何とか行かせないようにした。彼女の声に、鬼は振り返り不敵な笑みを零すと、鎌鬼に向かって話した。
「あの子達?二体の正体は」
「だから何だというんだい?」
「紅葉、それ以上人を傷つける出ない。
その者達がいないと、我等鬼は封印されん」
「知ったことか」
「身を引くのであれば、彼の腕に入った毒を解毒してからにしてよ」
「そうねぇ……
じゃあ、次にこの二人に攻撃したらどうなるのかしら!?」
そう叫びながら、鬼は瞬間移動し焔達の後ろにいた麗華と陽一目掛けて、持っていた無数の紅葉を投げ放った。近くにいた龍二と輝一は、二人を押してその攻撃を腹と胸に受けた。
「兄貴!!」
「父ちゃん!!」
人の姿となった渚は、水の槍を作り出すとそれを鬼目掛けて投げた。鬼は槍を蹴って防ぎ、嘲笑うかの様な表情を浮かべながら、障子を破壊して外へ出た。
「おっかな~い」
「貴様ぁ!!」
「渚!!今はやめて!!」
「ゲームでもしましょうか?」
「ゲーム?」
「今日中に私達鬼を封じなさい。
封じれば、三人の毒を解毒してあげる。出来なければ、無論三人の命を頂戴する」
「そんな……」
「まぁ、精々頑張ってねぇ~」
そう言って笑いながら、鬼は紅葉を吹き荒らして姿を消した。
龍二の所に駆け寄っていた麗華は、勢いに任せて呆然と立ち尽くしている明仁に向かって、飛び蹴りをくらわした。もろに受けた彼は地面に尻を付きながら、障子を壊し庭の松の木に体をぶつけた。
「痛……分家の分際で、本家のこの俺に攻撃…!!」
顔面スレスレに刀の刃が、松の幹に突き刺さった。ハラハラと数本の髪の毛が落ちるのを見た明仁は、恐る恐る前を見た。そこには怒りに満ちた目で、自分を睨む雷光だった。
「明仁、それ以上何も言うな!!
龍二君、丙と雛菊出せるか?」
「な、何とか……」
「なら出してくれ。静華叔母さん、おふくろ呼んできて下さい。医療関係の仕事に就いてるから、応急処置ぐらいなら出来ると思う」
「分かったわ」
次々に指示を出す泰明を背に、雷光は松の幹から刀を抜き、手早く鞘に納めるとずっと明仁を睨む麗華の元へと戻った。
「麗華、少し抑えて」
「……」
「あんまり、強力な霊気を放つと鬼達が寄ってくるから。ね」
「……」
鎌鬼に言われ、麗華は深呼吸をしながら落ち着きを取り戻した。ドタバタとする中、陽一は彼女の元へ歩み寄り耳打ちをした。
「取り敢えず、俺等で鬼封じに行くで。
あの鬼、俺等の味方みたいやし」
「晴彦達連れて、大江山行こう。
多分、今の状況じゃ泰明さん達は動けない」
「せやな。必要な荷物持ったら、裏口に」
「分かった」
治療に当たる丙と雛菊をチラッと見ると、麗華は鼬姿になった焔を肩に乗せ自身の傍にいる雷光に目で合図を送ると、そのまま部屋を後にした。
呆然とする明仁……そこへ、誰かの手が差し伸び顔を上げると弟の晴彦が、心配そうな表情を浮かべて彼を見下ろしていた。
「兄さん、大丈夫ですか?」
「……退け」
彼の手を叩き払い、明仁は立ち上がると主水を呼びながらどこかへと行った。そんな兄の背を見ていた彼の元へどこからともなく、鬼の頭が姿を現した。
「未熟な故に、無鉄砲だな。そなたの兄は」
「兄さんは、昔からプライドが高いですから」
「そのプライドのせいで、三人もの犠牲を出そうとしているというのに」
「……」
「して、そなたは理解しておるか?
自分の未熟さを」
「……していると言えば、しているかも知れまへんね。
当時は、僕もプライドは高かったけど……今は全然です」
「……」
その時、陽一が明理を連れて彼等の元へとやって来た。先程麗華と話したことをそのまま話すと、陽一は二人を連れてその場を後にした。