飛び起きる麗華……息を切らしながら、部屋を見回した。
「ここ……
牛鬼達の」
傍で寝ていた焔は目を開け、彼女の方に顔を向けた。焔に気付いた麗華は、彼に寄った。
「焔……」
「もう大丈夫だ、麗」
「……兄貴は?」
「大学だ。
しばらくの間は、牛鬼達の家に居候だとさ」
「……」
焔の胴に顔を埋め、麗華は再び眠りに着いた。眠った彼女に、焔は自身の尾を乗せ眠った。
翌日……
学校から帰る大輔は、とある病院へ来ていた。看護師に案内され会議室へ行くと、そこに龍二がいた。
「大輔!」
「今日どうしたんですか?
風邪拗らせて、しばらく休むって担任から聞いたんですけど」
「あぁ、それは」
昨日のことを、龍二は話した。
「そうだったんですか……」
「一応、麗華は牛鬼の所に置いて貰ってる。
もし、学校から連絡か何かあるなら、店に行ってくれ」
「分かりました」
「悪いな、お前に頼んじまって」
「別にいいですけど……
側にいてやれないんですか?」
「居たいのは山々なんだが、大学の方から色々と連絡が着てて、その対処しなきゃいけねぇから」
「……大変ですね。
大学四年って」
病院を出て行き、大輔は牛鬼達の店へ向かった。店に着きゆっくりと戸を開け、戸に着いていたベルが鳴り響き、カウンター席に座っていた麗華が顔を上げた。
「星崎……」
「よぉ……
大丈夫か?」
「何とか……」
「お兄さんから聞いた。
クラスの奴等は、皆風邪拗らせてしばらく休むって聞いてる」
「……」
「……あ、そうだ。
これ、今日の分の授業ノート。
落ち着いたら、一緒に行ってやるから」
「……」
「じゃあな。
何なあったら、連絡しろよ」
「アリガトウ……」
大輔が店を出ようとした時、麗華は小さな声でそう言った。
戸を開けると、猫が数匹入り麗華の膝と肩へ飛び乗った。飛び乗ってきた猫達を、彼女は順々に頭や咽を撫でた。その様子を見た大輔は、牛鬼を見ながら言った。
「一応、大丈夫そうだな」
「まぁな。
おい、この事は」
「誰にも言いませんよ。
それじゃ」
大輔は軽く会釈すると、店を出て行った。外は先程まで曇っていた空から、雨が降っていた。鞄から折りたたみ傘を取り、開くと大輔は雨の中歩き出した。
その様子を、夕美と朝妃、更に彼女達の後ろに卓也と翼が隠れるようにして、大輔を尾行していた。
「あの路地裏に、何があるの?」
「さぁ……」
「う、噂で聞いた事がある。
許された人しか行けない、秘密の喫茶店があるって」
「喫茶店?」
「昔は普通に、お店としてやってたんだけど……
何でも、夜悪い人達が集まるようになってそれで許された人しか入れなくなったって……」
「え?!
じゃあ、大輔はその許された人って事?!」
「そ、そういうことになるね」
「何で……
だって、大輔って確か島育ちの子でしょ?それが何で」
家に帰ってきた大輔……固定電話の留守電ボタンを押し、買ってきた物を冷蔵庫へ入れていた。
《父さんだ……》
その声を聞いた時、大輔は手を止め電話の方に目を向けた。
《そっちの生活は慣れたか?
何か、困ってることがあるなら、いつでも》
何かを言い掛けた時、大輔はその留守電を消した。
「困ってるって思うなら、ここまで来いよ。
クソ親父が」
カウンターで伏せ寝する麗華……そんな彼女に、牛鬼は毛布を掛けた。
すると離れた席で、酒を飲んでいた客は口を開いた。
「ねぇその子、誰?」
「兄貴のこ」
「知り合いの妹だ。
訳あって、少し預かってる」
「フーン……」
「ガキはもう、入れないんじゃなかったのか?」
「こいつは特別です」
「あ、そう……」
「着流し着てるみたいだけど……
どっかの組のお嬢さん?」
「違う!
普通の女子高生だ」
「へ~(いい体してるなぁ……)」
「襲ったりしたら、兄貴と俺がただじゃおきませんから」
「は、はいぃ(悟り開いたか?!こいつ等!?)」
ドアが開く音が聞こえ、牛鬼と安土はドアの方に目を向けた。入ってきたのは、桐嶋だった。
「アンタ……」
「誰?この人」
「入れたって事は、俺等と同じものを」
「童守署刑事部捜査一課警視の桐嶋雄二です。
時間が空いたので、二人の様子を見に着ました……で、二人は?」
「麗華はそこで寝てます。
龍二は今、大学の方に。多分そろそろ来るかと……」
「そうか……
家は一応、安全になっている。
鳥居の前に、警官を二人配備している。森の方に行ったら、猿猴が降りて山の中を歩き回っていた」
「……」
その時、桐嶋の携帯が鳴った。携帯をポケットから取り出し電話に出た。
「ハイ、桐嶋……
大学生!?身元は?!」
桐嶋の声に、麗華は飛び起き彼の方を見た。
「桐嶋さん……まさか」
「ついて来い!」
大雨が降る外へ出た桐嶋と麗華……桐嶋は傘を広げ先に走り出し、麗華は牛鬼から傘を借り差し彼の後を負った。
やって来た場所は、茂の病院……看護婦に釣られ、ある場所へやって来た。
手術中という赤いランプがついており、その前の椅子に座る池蔵は頭を抱えていた。
「……どういう事?」
「……」
「池蔵、報告しろ」
「……先輩に言われた通り、龍二君を俺護衛してたんです……そしたら、いきなり突然通り魔に襲われました。
俺は掠り傷で済みましたが……龍二君が……腹部を二ヵ所刺されて……」
「兄貴は……兄貴は助かるんですよね?」
「……刺された箇所が、心臓に近くて……もしかしたら」
「……」
「すいません……俺が傍にいながら、龍二君を……すいません」
頭を抱え、涙声で池蔵は謝った。
麗華はその場に立ち尽くし、ふとドアの前には渚が座り込んでいた。彼女の傍へ、麗華は寄り肩に手を置いた。
「渚……」
「……すまぬ、麗。
私が、傍にいながら……龍は」
「……顔は見た?刺した奴の」
「一応……」
「今すぐ念写して」
「え?」
「麗、まさか……」
「……」
数時間後……
手術中のランプの灯りが消え、中からマスクを取る茂か出てきた。
「茂さん……」
「何とか一命は取り留めてる。
後は、本人次第だ」
酸素マスクを口に付け、出てきた龍二の姿を見る麗華……拳を強く握ぎり締め彼を見届けた後麗華は、渚と焔を連れ桐嶋達に気付かれない様外へ出た。
外へ出ると、雨は上がっていた。
焔は狼の姿になり、麗華は彼に飛び乗った。飛び乗ると彼等は飛び出し暗い空へと消えた。
集中治療室で眠る龍二……
そんな彼を、窓腰から眺める桐嶋。彼に茂は缶コーヒーを渡した。
「目覚ましに」
「どうも……」
「……」
「丁度、十六年前……
輝二も、腹部を刺されて死んだ」
「……明日まで持ち堪えればいいんですが」
「何で、明日なんですか?」
不思議に思った池蔵は、口を開き質問した。
「明日は七月七日……
麗華ちゃんと龍二君のお父さん・神崎輝二の命日だ。
それに、麗華ちゃんの誕生日でもある」
「!?」
「龍二君にもしもの事があれば……麗華ちゃんは」
言葉を慎む茂……池蔵は、何も聞こうとはしなかった。ふと、麗華が居ない事に気付き彼は二人に質問した。
「あの、麗華ちゃんは?」
「あれ?ここに来たんじゃ……」
「そういえば、渚の姿も……!?」
「……まさか!?
犯人を捜しに!?」
「そんな事になったら、麗華ちゃんの身が!!
池蔵!!すぐに麗華ちゃんを捜せ!!」
「はい!!」
「先生、あとの事はお願いします!」
「はい」
池蔵を連れ、桐嶋は部屋を飛び出て行った。