その夜……
闇に満ちた砂浜に、明かりが灯っていた。生徒の賑やかな声が響く中、麗華は首を回しながら花火を楽しんでいた。
「麗華、本当お疲れだね」
「星崎も疲労困憊だったな」
「星崎は、初だったからね。この長期戦」
「神崎さん、どれだけ妖怪を退治してきたの?」
「数え切れない程。一番キツかったのは、中学の時の妖怪かな」
「え?何かあったの?」
「麗~!」
そう叫びながら、どこからかやってきた陽一は麗華を背後から抱いた。彼の後を、明理と晴彦がついてきた。
「うわっ!ビックリした!」
「陽一君、こっちに来て平気なの?」
「合同なんやから、別にええやん」
「従兄妹同士のくせに近い距離ね、アンタ達って」
「え?これが普通じゃないんか?」
「全然」
「(あー、面倒だからもういいや)
彼氏だから、別に普通でしょ」
「え?」
「彼…氏」
「神崎さん、今何て?」
「従兄弟、私の彼氏」
「嘘!?従兄弟同士が付き合っていいの!?」
「両親了承済みや」
「嘘……」
「神崎、俺ずっとお前は星崎とデキていると」
「星崎彼女いるでしょ!!何見てるんですか!?」
「麗に手ぇ出したら、覚悟できてるんやろうな?」
「怖くて、手ぇ出せねぇよ」
「出す前に、皆護衛するよ」
隣りに座った陽一は、他愛の無い話をしながら麗華が持っていた手持ち花火に、自身が持っていた手持ち花火の先端に火を付け明かりを灯した。彼に続いて、明理と晴彦も持っていた手持ち花火に火を点け明かりを灯した。
「あ!ねぇ、麗華」
「ん?」
「さっき聞いたんだけど、麗華別室で寝るって本当?」
「うん、本当」
「どうして?一緒に寝ても」
「チッと問題なんや」
「え?問題?」
「起きている間は、害はないんですが……
僕等、霊力使うた後大量の霊力流れ出てるんです」
「それが何?」
「ま、私達から出る霊力は妖怪からしたら大層なご馳走。
とてもじゃないけど、一緒に寝てたら攻撃を食らう可能性がある」
「嘘……」
「で、でも、それだったら今までも」
「戦闘後は、本来白狼達と一緒に寝てるさかい。その時は、害無いねん」
「ところが今回はいない。式神達と一緒に寝るけどどこまで護れるかが分からない。
だから、お願いして部屋分けてもらったの」
「へー」
“ドーン”
空に鳴り響く、大きな音に手持ち花火をしていた生徒達は全員顔を上げた。大きく巨大な花火が、空に咲いた。大声で叫ぶ生徒、友達と楽しく見る生徒、一人で見る生徒、先生と見る生徒、カップルと見る生徒と、各々打ち上げられる花火を見た。
「何か、輝三の所で見る花火とは違うな」
「輝三の所は山じゃん。海で見るのは、初めて」
「俺もや」
打ち上げられた花火は、森まで見えておりそこにいたアカマタは、笑みを溢しながら眺めていた。海の家の掃除を終えた牛鬼達も、酒を飲みながら打ち上げられる花火を眺めた。
「……麗」
「何?」
呼ばれ振り向いた麗華の口に、陽一は自身の口を合わせた。すぐに口を離し、打ち上がる花火を見上げた。麗華は顔を真っ赤にしつつも、背伸びして彼の頬にキスをした。
「あんさん方、公共の場に何をやっているんです?」
晴彦の声に二人は、引き攣った表情を浮かべた。陽一は顔を真っ赤にしながら、逃げ出した晴彦に何かを言いながら追い駆けた。麗華は顔を赤くしながら手で口を覆い、それを見た明理は羨ましそうな表情で彼女を見た。
花火が終わり、生徒達は花火を片付けホテルへと戻った。晴彦を捕まえた陽一は、顔を真っ赤にしながら何かを叫び、その様子を彼は面白可笑しく見ていた。
「陽一君、本当晴彦君と仲良いよね?」
「陽一君は昔から変わらへんけど、晴彦は変わったんですよ」
「え?そうなの」
「昔は、堅物でしたから。
本家の子って言われ続けて、文武両道成績は必ず上位じゃなきゃ駄目で」
「めっちゃスパルタ教育」
「俺逃げ出すわ」
「だから中学の頃、彼全然お友達いなかったんや。
私立に通ってたんやけど……」
「あの事件の後だよね。晴彦が変わったのって」
「そうそう」
「あの事件?」
「中学の時、ちょっとね」
「色んな物一人で抱えてたんやけど、何か吹っ切れたみたいで」
「……ねぇ、あなたひょっとして晴彦君の事、好きなの?」
「え?!い、いや、そ、それはその」
「明理は本家で決められた許嫁」
「え?!こんな時代に、まだそんな風習が!!」
「麗華ちゃん、そんなはっきり言わんといて~!」
ポカポカと叩く明理に、麗華は悪戯笑みを浮かべながら笑った。
「男女同じ部屋って、どうなの?」
消灯時間、用意された麗華は布団に入った状態で言った。
「仕方ないでしょう。部屋がそれ以上取れなかったさかい」
「一部の話じゃ、予算オーバーって聞いたなぁ」
「だったらうちの高校の予算とそっちの予算を合わせれば良かったのに」
「そこまでは出来へんやろ。
って、何で大輔までおるねん!!」
あくびをするニア達を撫でながら、大輔は陽一の方を見ながらあくびをした。
「俺も霊力使ってるからに決まってるだろう」
「起きれたら、私達気にしなくていいから、勝手にやって」
「ヘーイ」
「もう寝るわ、眠い」
「はいはい、お休みなさい」
「お休み」
「お休みなさい」
傍で眠る氷鸞の体を、麗華はソっと撫でた。撫でられた事に気付いた彼は、嘴で彼女の頭を軽く撫で返した。あくびをした麗華は、氷鸞の翼の一部を掴みながら眠りに付き、彼は彼女を護るようにして雷光と共に囲い眠りについた。