陰陽師少女   作:花札

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着替え終えた陽一と晴彦は、牛鬼達が待つ部屋へ戻ってきた。


「あれ?麗はまだなん?」

「まだ来てねぇよ。

女って、何でこうも着替えだけで長いんだ?」

「え?麗の着替えって長いん?」

「いや、普通かと」


「遅くて悪かったね、安土」


その声に、体をビクらせた安土は恐る恐る振り返った。そこには、大輔と共に部屋に入る麗華が立っていた。


「いや、これはその……こ、言葉の綾というか何というか」

「苦しい言い訳しなくて良いから」

「うっ……」

「それで、どうするのかしら?

マジムンはハッキリ言って、この地の巫女じゃないと倒すことはできないわよ?


まぁ、封印に特化している祓い屋がいるなら、話は別だけど」

「封印に特化……」

「……晴彦、明理連れて来い」

「分かりました」

「明理って誰?」

「晴彦の許嫁。うちの家系じゃないけど、白狼を持った祓い屋だ。

封印に関してはスペシャリストって感じかな」

「へぇ……つか、白狼って案外転々としてるんだな?」

「俺等以外の霊媒師や祓い屋に仕えてる一族がいるみたいや。

波達は知らんみたいやけどな」

「なるほど、いわば生き別れた家族ということか……兄貴!」

「いねぇよ」

「まだ何も言ってねぇだろう!!」


しばらくして、晴彦は黒いおさげの少女を連れて来た。おっとりとしたその子は、アカマタ達を見ると悲鳴を上げながら、晴彦の後ろに隠れ彼に抱き着いた。


「何なん?!何なん?!

何で、妖怪がここに!?」

「……牛鬼、安土……

一般人が妖怪を見た時の反応は、普通こうだ」

「お、応」

「明理さん落ち着いて、皆味方です」

「麗華ちゃん、助けてぇなぁ!」


そう叫びながら、明理は麗華の元へ行きしがみ付いた。


「何も襲ったりしないから平気だよ。

アカマタはに関しては、別だけど」

「うわぁーん、殺されちゃう!!」

「殺さないって!晴彦、あんたの嫁でしょ!何とかして!」

「僕まだ十七なんで、籍入れてまへんけど?」

「屁理屈を言うな!」


禁術発動

屋外……広場で麗華はある陣を描いていた。その様子を卓也と翼、杏莉、朝妃はホテルの窓から見ていた。彼等に続いて、宴会場にいたクラスの一部が次々と集まっていき、彼女を見た。優梨愛と一緒に来た亮介は、麗華が描く陣を見て、驚いた表情をしながら外へ出て行き、陽一達に話し掛けてきた。

 

 

「おい、今すぐあれ止めさせろよ!」

 

「何や留年生、藪から棒に」

 

「あれ、妖怪呼び出すための陣だろう!?」

 

「おや?よく詳しいですなぁ?」

 

「あれ使ったら、神崎死ぬぞ!!」

 

「死なへん死なへん」

 

「はぁ?」

 

「僕等、キッチリ知識ありますから」

 

「あるって……」

 

「ところでお前……

 

 

どっかで会ったか?さっきから妙に、見覚えがあるんやけど」

 

「え?いや…それは」

 

「そこの女も……何か見覚えあるんや。

 

無性に二人を殴り飛ばしたい気持ちなんやけど」

 

「……」

 

「陽一はん、ここで問題起こしたら君にとんでもないお仕置きが待っているかと」

 

「は?何でや!」

 

 

晴彦が指さす方向に陽一が目を向けると、怒りの目とオーラを放ちながら麗華はこちらを睨んでいた。

 

 

「ひっ!」

 

「あれ多分、『ここで問題起こしたら、どうなるか分かってんだろうな』って訴えてるような気がする」

 

「解説どうも……」

 

 

陣を描き終えた麗華は、結っていた髪を分からない程度に切りそれを素早く束ねた。束ねた髪を前に置くと、今度は指先を軽く切り血を出した。

 

 

「ねぇ、何してるの?あれ」

 

「妖怪を呼ぶんだよ。

 

ファンタジー小説や漫画とかで、主人公や登場人物が自分の血と引き換えに、何かモンスター出すシーンあるだろう?あれと同じ事だよ」

 

「召喚獣みたいな奴か?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「血は分かったけど、何で髪の毛まで?」

 

「妖怪を呼び出すには、その代償が必要なんだ。

 

神崎さんみたいに、自分の血や髪の毛はもちろん、人によっては目や腕、足、耳をやるって本で読んだよ。

 

もし代償が無ければ、呼び出した妖怪が望むものを持って逝かれるって」

 

「じゃあ、伊達さんが失敗したのって」

 

「何も代償を用意してなかったからじゃないかな」

 

 

彼女の血に陣が反応したのかのように、光り出した。息を整えながら、麗華は呪文を言った。

 

 

「汝、我の血と引き換えにその力を貸し給え。

 

その力を使い、敵を抹消する!」

 

 

光を増す陣……立ち上がった麗華は、束ねた髪を手にして構えた。

 

 

「我に力を貸せ!!急急如律令!!」

 

 

燃え出す髪の毛の束……その束と共に滴る血が混じり帯を作り出したかと思うと、その帯は何かを包むようにして丸くなり、それは次第に形を変えた。

 

 

 

 

強い光が弱まり、目を瞑っていた麗華は恐る恐る目を開けた。

 

 

目の前にフワフワとした触り心地の良い何かが通り、それは麗華の肌に触れた。

 

 

「……尻尾?」

 

 

自身に触れていたのは、赤と黒の二本の尻尾……突き刺さるような鋭い視線にハッとした麗華は、すぐに後ろを振り返った。そこにいたのは、黒い毛並みと赤い毛並みのシーサーだった。

 

 

「あれって、確かシーサーよね?」

 

「おい、成功って事か?」

 

「まだ動いたらいけまへん」

 

「え?」

 

「あちらから合図があるまで、結界から出んな」

 

「……」

 

 

麗華の周りを歩くシーサー達……恐怖から乱れる息を整えながら、麗華は二匹から目を離さぬよう彼等の動きに併せて動いた。

 

ピリピリとした空気が漂った……深呼吸すると、麗華は意を決意して恐る恐る手を上げ、赤い毛並みのシーサーの遠慮しながらソッと触れた。手のひらのにおいをシーサーが嗅ぐと、彼に続いて黒い毛並みのシーサーが嗅いだ。

 

 

(腕亡くなりませんように…腕亡くなりませんように…腕亡くなりませんように……)

 

 

嗅ぎ終えた二匹は、同時に彼女の手のひらを舐めた。舐めると二匹は体を振り、大あくびをして傍に座った。緊張が解けたのか、麗華はヘナヘナと地面に尻を着いた。

 

その光景を見た陽一は、抑えていた雷光と見張りをしていた氷鸞に目で合図を送った。二人は獣姿から人の姿へと変化し、麗華の元へ行った。二匹のシーザーは寄ってきた二人をチラッと見るが、興味なさそうにまた目を瞑った。

 

 

「……何だ、この犬は」

 

「ひょ、氷鸞」

 

「とりあえず安全だ。

 

陽一達に合図送って。慣れさせないと」

 

「分かりました」

 

 

氷鸞は錫杖を上げて、陽一達に合図を送った。明理と陽一、晴彦は互いを見合うと、結界から出て行き麗華の元へ駆け寄った。二匹のシーサーは、寄ってきた三人を見て身構えるようにして立ち上がろうとした。

 

 

「大丈夫。三人もお前等の力を借りたいんだ。

 

協力して」

 

 

そう言いながら頬を撫でる麗華を、シーサーは鼻で軽く突き再び座った。

 

 

「呼び出し、成功やな」

 

「一応ね」

 

「これで、心置きなく戦えますな」

 

「そうだね。

 

さてと、こっから準備に取りかかろう」

 

「応!」

 

「明理、安土と一緒に封印の準備を頼む」

 

「うん!」

 

「安土には私から言っておく。

 

氷鸞、引き続き奴の見張りを頼む。星崎が放った霧とは言え、何か仕掛けてくるかもしれない」

 

「分かりました」

 

「氷月も頼んだで」

 

「諾」

 

 

 

 

宴会場に集まる、鈴海高校と麟音高校の生徒達……外の曇った空と霧に囲まれた浜辺で動く妖怪を窓からチラチラと見ていた。

 

 

「……俺等、助かるんやろうか」

 

「助かるに決まってるわ!何言ってんねん!」

 

「けど、三神が言ってたやん……

 

俺等じゃ、敵わんって……」

 

「だから、ここの妖怪を呼びだしてたじゃねぇか」

 

「黙ってろ鈴海、妖怪に関して何も知識ねぇくせに」

 

「何だと!」

 

「ちょっと!ここで問題起こすとヤバいって!」

 

「妖怪なら神崎から聞いてる。無知じゃねぇし」

 

「オマケに妖怪博士と言われているこの、山本卓也から話は聞いている!」

 

「妖怪博士って……言い過ぎだよ」

 

「何言ってんのよ!アンタの妖怪知識は、麗華の次に凄いんだから自身持ちなさい!」

 

「これだから浮かれ者は」

 

「どこか浮かれてんだよ!

 

浮かれてんのは、そっちだろうが!!」

 

「あぁ!?」

 

 

立ち上がる双方……その時、麟音高校側の生徒がいきなり膝からがくりと倒れ、自身の後ろを見るとそこには手に指ぬきグローブを嵌める陽一と晴彦が立っていた。

 

 

「へんに争うな。

 

争う暇があるなら、応援でもしてくれ」

 

「いきなり膝カックンは無いやろうが!!」

 

「頭冷やすためにやったんや!文句あるか!?」

 

「大有りや!」

 

 

彼等が騒ぐ中、遅れて麗華が部屋に入ってきた。

 

 

「麗華!」

 

「やっぱ再戦するの?」

 

「まぁね。

 

今からロビーで、話し合う。大野、星崎、伊達先輩、一緒に来て下さい」

 

「分かった」

「分かった」

 

「応!」

 

「それで……あの馬鹿は、何やってんの?」

 

 

口喧嘩をしている陽一に目を向けた。ヒートアップした彼は、喧嘩相手の胸ぐらを掴み何かを喚いていた。その光景を見た麗華は、軽くため息を吐くと彼の元へ行き、怒りを冷まさせようと頭をぶった。

 

 

「戦闘前に要らん体力使うな!!

 

鈴村、私等はロビーで話し合うから」

 

「わ、分かった」

 

 

唸る陽一の首根っこを掴んで、部屋を出て行った。二人の後を晴彦はついて行き、彼等の後を大輔達はついて行った。




ロビー……肘掛けに顎を置き、陽一は頬を膨らませていた。そんな彼を無視して、麗華はポーチから数枚の札を出すと、それを翼達に渡した。


「札数枚渡しとくから、何かあったらすぐに対応して」

「分かった」

「星崎、今回はこっちで守りに入って。

私等三人で、何とか食い止めるけど……もし出来なかった場合として」

「了解」

「伊達先輩もお願いします」

「応!」

「……で、神崎」

「ん?」

「その眼鏡、誰?」

「あぁ、そっか。紹介してなかったね。

月影院晴彦。私等の親戚」

「以後お見知り置きを」

「陰陽師って、親戚関係ゴタゴタしてそうだけど案外あっさりしてるんだな」

「ゴタゴタしてるのは、大人だけ。

私等子供は、普通に連絡取り合ってるし」

「へー……」

「さてと、それじゃあ行くとしますか。

おい、そこのふて寝。とっとと起きないとご褒美あげないよ」


その言葉にムクッと起きた陽一は、先に外へ出て行った。


「何なんだ?あの男」

「さぁ……」

(……面倒な彼氏だな)

「じゃあ、ここをお願い。

晴彦、行くよ」


腰にポーチを着け、麗華は晴彦と共にホテルの外へ出て行った。

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