二人の体から摂取した毒を小瓶入れ、それを安土は手に持ち立ち上がった。
「これで、解毒薬の調合頼む。
二人の後始末終わったら、俺はアカマタの所に行って来る」
「えぇ?!あのオカマの所に行くのかよ!?
何で?」
「奴の方が、この地に詳しい。それに、マジムンの倒し方を知ってるかもしれねぇだろう」
「……俺、アイツ苦手なんだよ」
「つべこべ言わず、とっとと作業に掛かれ」
「ヘーイ」
大輔と共に安土は部屋を出て行った。残った牛鬼は薄らと目を開ける麗華の額に、手を置いた。
「少し熱がある。引くまでしばらく寝とけ」
「……
ライコウ」
「は、はい、麗殿」
片付けをしていた雷光は、すぐに麗華の元へ行き傍に座った。傍に来た彼に、麗華は意識が薄れていく中、手を伸ばし手を握った。
「……起キルマデ、コウサセ…テ」
そう言うと、麗華は眠ってしまった。雷光は、少し戸惑いながらも安心して眠る彼女の寝顔を見ると、ソッと頭を撫でた。
「焔がいない今、お前等のどちらかに頼るしかないからな。
そっちは寝たか?」
「えぇ、先程。
まぁ、彼の場合ほっとけばすぐに寝るんですけどね」
「ここを任せた。俺は仲間の所に行って来る」
「分かりました。気い付けて下さい」
部屋から出た牛鬼は、ロビーまで行き人がいないのを確認すると、蜘蛛の姿へとなり外へ出て行った。
眠る二人の看病をする晴彦……すると、ノックする音が聞こえたと同時に外から鈴村が入ってきた。
「あんさん、確か……」
「神崎と星崎の担任の、鈴村。
彼女の様子は?」
「大分熱は引きました。
けど、腕の熱がまだ……これから湿布を貰おうかと」
「俺が持ってくるよ。君がいない間に何かあったら、大変だろう?」
「……ほな、お言葉に甘えさせて貰います。
あ、先生」
「?」
「麗華はんの友達に、熱が引いたからもう心配ないと伝えて下さい」
「分かった」
従業員専用の給湯室……採取した薬草で、安土は薬を作っていた。
「お前、いつの間に……」
「俺の部下に取りに行かせてたんだ。
さてと、これで平気だと思うんだが」
出来た液体をスポイトで吸い取り、それを毒の入ったシャーレに垂らした。すると毒は、溶けるようにして消えた。
「よしっ!出来た!」
「早く二人に」
「分かってるって、そう焦るな」
出来た薬を容器に入れた安土は、使用した道具をケースの中にしまい、大輔と共に部屋へと急いだ。
二人がいる部屋に入ると、麗華と陽一が起きており、晴彦から水が入ったコップを貰っている所だった。
「おぉ?!お前等、起きたか」
「お蔭様で。何とか」
「微熱ですが、意識はしっかりしています」
「そうかそうか!
よし、治療の最終段階だ!お前等、これを飲め!」
コップには苦々しい茶色の液体が注がれており、それを安土は二人に差し出した。二人はその液体と安土を交互に見た。
「……何や、この不味そうな飲み物」
「俺が作った特製解毒薬!」
「効くの?」
「当ったり前だ!」
「俺も傍で見てたけど、この解毒薬掛けたら一瞬で消えたぜ」
「うわ、普通に解毒薬やん」
「普通って何だよ!!普通って!」
「これ、飲むの?」
「飲まねぇと、体に残ってる毒消えねぇぞ」
「……」
「ほれ、グイッと飲め」
二人は互いを見合うと、その薬が入ったコップを手に取った。漂う嫌な臭いに、二人は顔を顰めた。
「ま、不味そう」
「早く飲まねぇと、牛鬼達が戻ってきちまうぞ」
「……」
先に意を決意した陽一は、一気にその薬を飲んだ。彼に続いて、麗華も一気に薬を飲んだ。不味そうな表情を浮かべながら、二人は用意されていた水を一気飲みした。
「二度と飲みたくない……」
「失敗した姉貴の料理思い出したわ」
「神崎、起きてるか?」
突然戸が開き、外から翼が部屋の中へ入ってきた。彼に続いて、朝妃、杏莉、卓也、亮介が顔を出した。
「何だ、平気そうじゃん。神崎」
「平気なわけあるか」
「何で来た?」
「鈴村先生が、さっきもう熱が引いたから大丈夫だよって伝えてくれて」
「それにしても神崎、お前酷ぇ顔だな!」
「今ここに、あの薬残ってんなら飲ませたい」
「お前のその顔見ただけで、いかに不味いかが分かる」
「麗、誰や?この、いかにも留年してそうな男は」
「……」
陽一の言葉に、一同は吹き出し亮介は顔を真っ赤にして固まった。丁度そこへ湿布を持った鈴村が、部屋の中へと入り彼等が笑っている光景に、キョトンとした。
「何か、あったの?」
「何も」
「麗、何が面白いん?」
「大丈夫…何でも無い…」
「神崎、笑い過ぎだ!!」
「そんなんだから、他校から留年生って言われるんですよ!」
「うるせぇ!!」
「伊達、あんまり騒ぐとまた剛田先生に注意されるぞ。
あぁ、そうだ。ほら、湿布貰ってきたぞ」
「おおきに」
鈴村から湿布を受け取った晴彦は、安土に一枚渡した。受け取った彼は、麗華の腕に巻かれている包帯を取り、傷口に貼っていたガーゼを取った。
「うわっ……痛そう」
「何か、膿んでない?」
「許容範囲内。
やっぱ、まだ熱いな」
「アンタの苦い解毒薬飲んだんだから、その内熱引くでしょ?」
「まぁな、時間は掛かるけど」
新しいガーゼを貼り、その上から湿布を貼った。その時、部屋の戸が勢い良く開き、外から巨大な赤蛇が入ってきた。
「へ、蛇ぃ!!」
「キャァア!!」
恐怖のあまり、朝妃と杏莉は翼と卓也に抱き着いた。刀の柄を握りながら雷光は麗華の前に、風月は短刀を手に構えて陽一の前に立った。
「おい、その姿で部屋に入るな!!麗華達が怯えるだろうが!!」
飛び込んできた牛鬼に向きながら、蛇は舌を出した。すると蛇は煙を出し、その中から赤いロングヘアに緑色の目を持った者が現れた。
「あらあら、むるうじてぃちゃてぃ。
すりでぃ、ちゃぬっくゎぬ牛ちゃんぬガールフレンド?《あらあら、すっかり怖がっちゃって。
それで、どの子が牛ちゃんのガールフレンド?》」
「……は?」
「ひ、人?」
「標準語で喋ろ。通訳面倒だ」
「分かったわよ。んもう、牛ちゃんったら急かしちゃって」
「あのなぁ!」
「あら、安土ちゃん!お久し振りねぇ」
「ど、どうもッス……」
「それにしても、このお嬢ちゃん……
美味しそうねぇ」
着ている着流しの袖から蛇を出し、その蛇を雷光の後ろにいる麗華に近付かせようとした。するとどこからか出て来た別の蛇が、その蛇に攻撃を仕掛けて威嚇の声を上げた。
「我が主に危害を加えるなら、容赦せぬぞ」
「あなた、見掛けに依らず随分とお強いみたいね」
「……」
「雷光、良いから下がって」
「御意」
雷光を自身の後ろへ行かせた麗華は、彼の手を借りながら立ち上がりオカマの前に立った。
「結構いい女ね。食べちゃいたいくらい」
「食べても美味しくありませんよ?まぁ、妖力は上がると思いますが」
「あら、分かってらっしゃるのね」
「取りあえず、話の場設けるんで少し待ってて下さい」
「分かったわ」
「と言うわけで、白鳥達は部屋から出て行ってくれ」
「わ、分かった」
「うん……」
「鈴村、今他の人達は?」
「一応、宴会場にいるようには言っているけど……
一部は部屋に戻ってる」
「分かった。
全員にホテルの外に出ないよう伝えて下さい。白鳥達も」
「分かったわ!」
「麟音高校の生徒には、僕から伝えておきます」
「お願い。そのまま、着替えに行って」
「分かりました」
「私も着替えに行ってくるから、牛鬼達はこの部屋で待機してて」
「応よ!」
「ほら陽、私達も着替えに行くよ!」
風月の後ろにいる彼は、魂が抜けたような表情を浮かべていた。
「え?陽一君、どうしたの?」
「……あ、忘れてた」
「え?」
「陽の奴、蛇駄目だったんだ。
アカマタの姿見て、意識ぶっ飛んだんだ」
「え?!大丈夫なの!?」
「こいつのことは何とかするから、皆は早く部屋に戻りな」
「う、うん」
「何か手伝って欲しいことあったら、電話かメールちょうだい!」
そう言って、杏莉達は部屋を出て行き、彼等に続いて鈴村と晴彦も、部屋を出て行った。
残った麗華は軽くため息を吐きながら、陽一の前に座った。
「ちょっと刺激与えるか」
「刺激?」
何かを察したのか、風月と雷光はすぐに麗華達の前に立った。目隠しになった彼等の背後で、麗華は陽一の唇に自身の唇を重ねた。
(……刺激って、これかよ……
俺、まだ九条にすらしてねぇのに)
数秒やると、陽一は意識を取り戻したかのように息を吹き返しそして叫び声を上げると、麗華に抱き着き喚いた。
「麗!蛇や!蛇がおった!!
何か、赤い巨大な蛇が!!」
「もういないから平気」
「ホンマか?嘘吐いて無いやろうな?」
「吐いてどうすんのよ。
ほら、部屋行って着替えてきて。着替え終えたら、ここに戻って話するよ」
「りょ、了解」
「雷光、もういい。行くよ」
「御意」
「何かしたのか?」
「牛鬼達には関係ない。
星崎、陽、行くよ」
「ヘーイ」
立ち上がった二人は先に出て行った麗華に続いて、陽一と大輔は部屋を出て行った。