「キャァァァアアア!!」
女性の悲鳴が夜の町に響いた。雷で照らされた場所には、血塗れの包丁と血塗れの女性の死体、そして彼女に跨がる男が立っていた。
部活が終わり、道具を片付ける部員達。
「なぁ、聞いたか?
一昨日、隣町の女性が殺害されたんだって」
「またかよ」
「今週に入って、もう四件目だぞ」
「童守町に現れた通り魔!
五年前にもあったよな?似たような事件」
「あったあった」
男子達の会話を聞いていた麗華は、動かしていた手を止め少し怯えた表情を浮かべた。
「無駄話してないで、とっとと先輩の仕事を代われ!!
先輩、仕事やってるぞ!!」
「は、はい!」
「ったく。
?」
喋っていた二人を怒鳴った平野は、ふと動きが止まっている麗華を見た。
「……神崎!」
「!はい」
「今日家まで送ってく」
「え?べ、別にそんな」
「想太~、私を出し抜こうとはいい度胸してるわね~。
神崎ちゃん、私も一緒に帰るわ!それなら安心でしょ?」
掃除が終わり、三年から順々に帰って行く中、麗華は平野と坂口と共に帰って行った。
「神崎さん、大丈夫かな……」
「大丈夫って、何が?」
「神崎さん、さっきの通り魔の話し聞いてから凄く怯えてるように見えたから」
平野達に送って貰った麗華は、石階段前で二人に礼を言い上がっていった。
階段を上りきった麗華は、境内を見回し辺りを警戒しながら、玄関へ行き鍵を出そうとした時だった。
「?」
突然、家の中から微かだが物音が聞こえた。麗華の肩に乗っていた焔は、鼬姿のまま庭へ入り中を覗いた。居間でカップラーメンを食べる黒いフードを頭に被った男が一人いた。
急いで麗華の元へ帰った焔は、人の姿になり彼女を抱えて空へと飛んだ。
その頃、龍二は……
「龍二~、志望動機って何だ?」
「その会社に入りたい理由。
つか就活もいいけど卒論の方、大丈夫なのか?」
「無理」
「お前……」
「あ~、今起きてる通り魔事件で卒論無しにならないかなぁ
「教授に死ねって事か」
「半年、入院を」
「そんな都合良くいくわけねぇだろ?」
「そんなぁ……いいよなぁ、龍二は。
俺も警察官になろうかなぁ」
「お前、それ言うなら今俺がやってるこの問題全問正解できるか?」
そう言いながら、龍二は文字がびっしり書かれた書物を、相手に見せた。彼は顔を引きつらせながら身を引いた。
「え、遠慮しときます」
「ったく……?」
その時、龍二の携帯が鳴った。彼はポケットから携帯を取り出し開き画面を見た。画面に映し出されたのは『神崎麗華』。
「(麗華?どうしたんだ)はい」
「龍二か」
「牛鬼?
何でお前が」
「すぐ店に来てくれ。
それから、お前等の家に警察呼んでくれ」
「何があったんだ?」
「……家に不審者がいたらしい」
「?!」
「詳しいことは店で話す。とにかく」
「麗華は……麗華は!!」
「落ち着け。無事だ」
「……」
「店で待ってる」
そう言うと牛鬼は携帯を切った。
「……?
龍二、どうかしたか?」
「悪い、ちょっと急用ができた」
「え?」
書物類を鞄にしまうと、龍二は店へ向かった。
牛鬼の店へ来た龍二……息を切らしながら、店へと入った。
「龍二」
「龍」
心配そうな顔をしていた焔に、龍二の傍にいた渚は彼を宥めるようにして抱き締め肩を擦った。龍二は店の奥の席へ行き、そこで蹲っている麗華を見つけ、隣に座り肩に手を乗せた。麗華の体は、恐怖で震えていた。
「……麗華」
「……
兄貴」
顔を上げた麗華は、隣りにいた龍二を見ると彼に抱き着いた。
「もう大丈夫だ」
抱き着いてきた麗華を、龍二は優しく言いながら頭を撫でた。
しばらくして麗華は安心したのか眠りに着き、眠った彼女の上に龍二は牛鬼が持ってきてくれた毛布を掛けた。
「焔、もう一度話し聞かせてくれねぇか?」
「あぁ。
部活終わって、家に帰ったんだ……そしたら、家の中から物音が聞こえて……
気になって、中を覗いた。そしたら……」
「中に人がいた……
誰なんだ、そいつ」
「顔はよく見えなかった……」
「……」
「今夜どうする?龍二」
「……桐島さんに電話掛けてくる」
「え?」
「家の中、捜査して貰う」
携帯のボタンを押し、龍二は桐島に電話を掛けた。運良く彼は電話に出てくれ、龍二は全てを話した。桐島はすぐに了承し、何か分かればまた掛け直すと良い電話を切った。
しばらくして、龍二の携帯が鳴った。彼はポケットから携帯を取り出し話した。そして話し終えると、携帯を切り話し出した。
「確かに誰かいたらしい。
居間と台所が荒らされてて、台所には使われたであろう割り箸とカップラーメンの空の容器があったらしい」
「じゃあ……」
「家には近付かねぇ方がいい」
「……」
「とりあえず、俺家に行ってくる」
そう言うと、龍二は店を飛び出した。その後を渚は慌てて追い駆けていった。
「龍二!
ったく、勝手な男だな」
暗い部屋の中……包丁を研ぐ一人の男。
鼻歌を歌いながら、研いだ包丁を電球に照らし見た。不敵に笑うと男は再び、包丁を研ぎ始めた。