ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

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ISヒロイン勢の一人と出会う話。
原作改変の為にフラグを立たせないと。
少し、ちょろかったかしら?

序章は、あと二、三話で終わらせる予定。
原作に突入してからのネタが浮かんでくるから、早く原作に突入しないと。


第五話:『王』と貴族令嬢

「ちょ、ちょっと!そろそろ離してくださらない?」

男達から逃げ、彼等の姿が見えなくなって数分。金髪の少女が漸くそう言った。

「…ん?あぁ、ごめん。そうだね、ここまで来ればもう大丈夫か」

少女の言葉に一瞬考える素振りを見せた稟は、周囲を見渡して少女の腕を離す。そして、近くにあったベンチに二人で腰かける。

「ふぅ。助けていただいた事には感謝しますが、少々強引なやり方ではありませんこと?」

「…そうだね。でも、ああいう手合いはしつこいから、多少強引でもないと逃げ切れないよ」

「それは、そうかもしれませんが」

「それに、嫌だったらボクの手を振り払ってもよかったんだよ?でも、君はそうしなかった」

「それは……」

そう。稟の言うとおり、いくら助けてくれたとはいえ強引なやり方を嫌うのであれば、彼の手を振り払って少女一人で逃げればよかったのだ。

だが、少女はそれをしなかった。稟にいきなり腕を掴まれて戸惑いはしたものの、彼の手を振り払って自分一人で逃げるという考えが浮かばなかった。

それは何故か。男達の強引なナンパとも、少女を助けもせずに、様子を見ていた周りの人達とも違い、少女の事を真剣に想って助けてくれようとしていた事が何となく感じられたからだ。なんの打算もなく、ただ純粋に、困っている少女を助けてくれようとしていた事を感じられたから。

だから少女は、戸惑いはしたものの彼の手を振り払う事はしなかった。

「貴女が、見ず知らずの他人である私を助けてくれようとしていたからですわ」

素直にお礼を言うのが何故だか気恥ずかしくて、少女は僅かに朱に染まった頬を見られたくなくてそっぽを向いてそう言った。

「…そう」

そんな彼女に苦笑し、稟は頷く。

「それはそうと。殴られた頬は大丈夫ですの?」

「…ん。このくらい大丈夫だよ」

心配の色を含んだ少女の言葉に、殴られた頬を撫でてそう答える稟。その頬は腫れてきており、とても大丈夫とは言い難いのだが。

「本当ですの?少し腫れてきているようですが…。しかしあの男。女性に手を上げるなんて信じられませんわ」

「……ん?」

少女のその言葉に、はたと動きを止める稟。

はて、この少女は今何と言ったのだろうか。聞き間違いでなければ、稟の事を女性と言ったのだが。いやいやまさか、そんな事ある筈ないと思い、稟は自分の格好を確認する。髪は相変わらず腰までの長さを保っている。それに、束とアレンの手入れのおかげで男性のものとは思えない程に艶がかっている。顔立ちは中性的で、凛々しい女性にも見えるつくり。服装は当然男物だが、ボーイッシュな女性と言われれば成程と納得できる見た目な稟。

つまり、結論として…

「…………今、ボクの事を女性って言った?」

「…?えぇ、言いましたが何か?」

女性と見間違えられていた事に稟の顔が引き攣る。

まぁ、確かに。束とアレンによって今の稟を初見で男と見抜ける者は中々いないだろう。これで女物の服を着ていればほぼ九割方の者が稟を女性と見るだろう。その事は嫌々ながらも、多少なりとも、認めたくはないけどうっすらと自覚していたのだが、実際に間違われるとこう、色々ときついものがある。主に精神的に。

「……ボク、男なんだけど…」

「…………は?」

先程の男達に関しては、瞬間的なものだったから嬢ちゃん呼びはスルーしていたが、助けた上にこうやって話している相手にいつまでも性別を勘違いされているのは精神衛生上大変よろしくない。なので、その間違いを正してもらうべく自身の性別を教える稟。

それに少女は眼を見開いて固まってしまう。

「お、男?その見た目で男というんですの!?」

しかしそれも瞬間的な事で、稟が男だと言うと少女の顔は驚愕に染まり、次いでどこか睨むように稟を見つめてきた。

少女のそんな反応に、稟の瞳が僅かに細められる。男と言った事で、少女が見せたこの反応。

(思考が女尊男卑に染まっている?けど、それにしては……)

男を見下すような、敵視するかのような視線に稟はそう考える。

しかし少女の反応は、典型的な女尊男卑の思考に染まった女性達とは若干違うようにも感じられる。その事に疑問を覚えた稟は、

「ボクが男だったら、何か問題?」

探ってみる事にした。

稟の言葉に少女は、助けてもらった恩と、彼女が抱いている感情の間で戸惑いつつも、

「別に、問題は、ありませんけども…」

そう口にする。しかしそう口にした時の少女の表情は、複数の感情が混ざっていて、とても問題ないようには見えない。

「君は、男が嫌いなのかな?」

「……っ」

「…その反応、当たりってところか」

遠回しに言っても意味がないと考えた稟の直球な質問に、少女は親の敵を見るかのような視線で稟を睨み付けてくる。だけど、そんな少女を見ても、やはりただの女尊男卑の思考の持ち主には見えない。

「男を見下す、嫌いなのは、まぁ、今の世の中なら当然なのかな?当然であってほしくないけど。女性がISを動かせるってだけで、今の世界はどこか歪んでいる。そのせいで女尊男卑の思考に囚われている女性が増えてきているし、それを是にする傾向になりつつある」

IS。篠ノ之束が開発したパワードスーツ。世界の在り方を変えてしまったそれは、何故か男性には扱えず女にしか扱えない。ISが主流となってしまったこの世界では、そのせいで女尊男卑の風潮が出来上がってしまい、世界はその流れに呑まれつつある。

「でも、それは決して女性が偉い事とイコールじゃない。ISが動かせるだけで女性の立場が偉いなんてありえない。ISが動かせなくても、開発や整備で男性は関わっているし、ISだけで世界が回っているわけじゃない。どんな時でも男性と女性との立場は同等の筈だよ。どちらかが優れているかなんて考える必要はない」

篠ノ之束が生み出したISは確かに世界の在り方を変えてしまった。しかし束は、そんな事は欠片たりとも望んでいなかった。自分の興味のあるもの以外は、例え親であろうと認識しない束ではあるが、少なくとも自分が生み出した物で世界を変えてしまう気はなかった。

ISの事を束に聞かされた時の彼女の表情。それは今でも鮮明に思い出せる。ISの在り方を、彼女が望んでいた方向とは別方向に捻じ曲げられてしまったと語った時の、彼女の悲しげな表情を。

「でも君は、そんな単純な理由で男を嫌っているようには見えない。もっと別の理由があるような気がする…」

稟は自分の考えを纏めるように、言葉を選びながら少女に語りかける。

少女は稟のその言葉に驚いてしまう。まだ出会って数分の他人が、彼女の心の奥底を見透かすかのようにそう言ってくるのだから。

少女が知る男達とはどこか違う、女性に見えてしまう少年。そんな彼の、年不相応に落ち着き払った不思議な色を感じる瞳を見て、少女は無意識の内に口を開く。

「私は……」

そこから語られる、少女の気持ち。

見ず知らずの稟に、自分の気持ちを語っている事に少女は内心驚いているが、不思議とそうしたいと思っていた。

この少年ならば。自分の中で渦巻いている気持ちを晴らしてくれるかもしれないと、そう無意識の内に期待して。

「……そっか。そんな事があったんだね」

少女の言葉を聞き終えた後、稟は息を吐きながらそう言った。そう言った時の彼の瞳は、どこか遠くを見るように細められていて。

この少女のようにも見える少年は、本当に少女と同じような年齢なのだろうか。とてもではないが、十台前半の子供とは思えない程落ち着き払っている。

少女が不思議そうに稟を見ていると、

「でも、それは本当に?」

「え?」

不思議な色を感じる稟の瞳が、少女を真っ直ぐに見つめていた。まるで、少女が気付いていない気持ちを見透かしているかのように。

「君のお父さんは、お母さんの顔色を窺うだけの人だったのかな?名家に婿入りした身として、確かに引け目を感じていたのかもしれない。君のお母さんと比べられて立場が弱くなり、君にとっては情けない父として映ったのかもしれない。女尊男卑の風潮にあてられ益々弱くなる父に、それを世界中の男性の代表として捉え、男が嫌いになったのかもしれない」

淡々とした稟の言葉と少女を見つめる瞳に、彼女は視線が外せなかった。

稟の言葉に対し、何かを言おうと口を開きかけるが何も言えず。

「君から見たお父さんは確かにそう映ったのかもしれない。でも、君のお父さんは戦っていたんじゃないのかな?女尊男卑の風潮が蔓延った世界と。女尊男卑の風潮に染まってしまった人達と。家族を護る為に」

少女の父親の真実の姿は、稟には分からない。実際には、少女が語った姿こそが真実なのかもしれない。

稟が言った事は、あくまで自分が少女の父親の立場だったらという主観的な意見にすぎない。自分だったら、そうしていただろうと。

稟の言葉を聞いた少女の脳裏に、父親の姿が映し出される。

母のご機嫌をとろうと、どこか媚びるような視線を向けている父。

母の顔色を常に窺っている父。

女尊男卑の風潮にあてられ、立場がより一層弱まった父。

無様で、情けない姿を晒す父。

それが、彼女の知る父親の真実の姿。そうだった、筈なのに。何故だろう。今はその姿に、ノイズが走っている。

そして、そのノイズの下から見える父は、先程脳裏に映った父と全く変わらないのに。何かが違うような気がした。

情けない姿は変わらないのだが、その表情がどこか違うように感じられる。何かを決意したかのような、目の前の少年の瞳と、どこか似ているような眼をした表情。

少女が困惑している傍ら。

「でも、これはあくまでボクの意見にすぎない。ボクが君のお父さんの立場だったら、そうするだろうって考えにすぎない。だから、君の言ってた事が本当なのかもしれない」

稟は苦笑しながらそう付け加えた。

「あな、たは…」

少女は何かを言おうとするが、うまく言葉に出来ない。そもそも、何を言いたいのかさえ自分で分かっていない。

「まぁ、勝手な事を言ったけど、あまり気にしないで。真実は君の中にある筈なんだから」

優しい眼差しで少女を見つめる稟。

語られた少女の想いから、少女が単純に女尊男卑の風潮に染まっていない事を理解できた稟はそう言う。

後は、少女が父親とこの世界と向き合えば大丈夫だろう。この少女は、女尊男卑の風潮に負けず立ち向かえる女性だ。

そう考えた稟は立ち上がる。首にかけていたネックレスから、何やら凄い声が聞こえてくるからだ。その声から、束とアレンが暴走する未来が簡単に想像できてしまい、苦笑してしまう。そんな見苦しい光景を、少女に見せる必要はないだろう。

何となくお節介が働き少女と話していたが、そろそろ別れるべきだろう。見るからに貴族の娘である少女と、ただの一般人である自分がこれ以上一緒にいる訳にもいくまい。変な噂が立ったら、彼女も過ごしにくくなるだろう。

稟はそう纏め、彼女と別れるべく一歩を踏み出そうとした。

「あ、あの!」

少女の声が稟の背中にかかり、思わず動きを止めて振り返る稟。

「…私はセシリア。セシリア・オルコットと申します。貴方のお名前は?」

その言葉に、稟は眼を丸くする。

どうせもう、会う事はないだろうと思って敢えて名乗っていなかった稟だが、彼女から名前を聞いてくるとは思わなかった。

彼女の家庭環境に、勝手な事を宣った自分の名前を聞いてくるなどと。

答えるべきか否か逡巡していた稟だが、口が勝手に開きはじめ、

「……稟。土見稟」

気付けば名乗っていた。

そんな自分に驚く稟だか、これ以上はよろしくないと思い、彼女に背を向け走り去った。

 

 

稟が走り去るのを見ていたセシリア。

彼女は暫く、稟が走り去った方角を見ていたが、少しして再び思考を巡らしはじめる。

「土見…稟」

彼女の思考を埋めたのは、今日出会ったばかりの稟の事。

低俗なナンパから彼女を助けてくれ、強引ではあるがセシリアの事を想って動いてくれた稟の事。

少女のように見えた、子供のようには見えなかった稟の事。

今日初めて会ったのに、思わず彼女の胸に詰まっていた想いを語ってしまった稟の事。

彼女が今まで会ってきた男達とは違う感じがした男性。女尊男卑を否定し、それを肯定している今の世界を咎める物言いをした、他の男とは何かが違う男性。その瞳には強い意思が宿り、暖かく不思議な色を宿していた。

彼の事を考えると、不思議と鼓動が早まったような気がした。身体が熱を帯びたように熱くなるのを感じた。

この感じは何なのだろうか。自分の感情なのに、うまく説明できないこの感情は。

「あんな男性も、いましたのね。また、会えますかしら……?」

頬が僅かに朱に染まったセシリアは、無意識にそう呟いて自身の胸に手を添えた。


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