アレンなんかキャラが迷走してるし。何でこんなキャラになったし。
それでもまぁ、キャラの根本は曲がってないからいいか。
筆の進みが遅くとも、ネタの断片は浮かんでくる。けど、そのどれもが原作に突入してからのネタなんだよな~。早く序章を終わらせないと(汗)
ー追記ー
十六夜煉様
いつも誤字報告ありがとうございます。早速適応させていただきました。
何度も確認していたのに、あんなミスをするとは…
Nazuna.H様
誤字報告ありがとうございます。まさか主人公の名前をミスっているとは……
何やってんの、俺。
ーーところで、
稟に未だ抱き締められ、何やらいい雰囲気(アレン視点)を醸し出している二人を見つめ、どこか不愉快そうな声音でアレンが言葉を発する。
「お願い?珍しいね、あーちゃんが私にお願いするなんて」
ーー本当は貴女に借りなんて作りたくはないのですが、現状頼れるのが貴女一人なので不本意ではありますが仕方なくです。
「…ちょっと引っかかる物言いだけど、取り敢えず用件を訊こうか」
アレンの言葉に、若干眉間に皺を寄せながら束は問いかける。最初の頃に身体が欲しいと言ってきたあの時から、アレンが束に何かを頼んでくる事がなかったから予想がつかないのだ。
ーーなに、簡単な事です。私に、人間と同じような身体を造ってほしいのです。
『…………は?』
思わず呆けた声を漏らす稟と束。何故急に身体を、人と同じような身体を欲するのか。そんな疑問が浮かび上がるが、
ーー大体。創造主ばかり狡いのです。さっきも稟様に抱き締められながら撫でてもらうという、うらやまけしからんご褒美をいただいて……妬ましい!私も可愛がっていただきたいのに、私が人間ではないからと言って差別反対です!!
真面目な声音で何を宣っているのだろうか、この
ーーなんですか、やはり人でないと可愛がってもらえないのですか?愛を囁いてもらえないのですか?慈しむように、愛でるように撫でてもらえないのですか?
何やらいじけたようにぶつぶつ呟くアレン。束は表情を若干引きつらせてアレンを見つめ、稟はまた頭を抱えてしまう。とは言え、彼女の想いを知った身としては、これもそういう事なのだろうと考えられる。
「……で、本音は?」
これも本音であることに偽りないだろうが、流石にすぐに道化に走るとは考えたくない。例えこの言葉が九割方真実であったとしても、だ。
ーー……というのは建前で。イギリスとフランスに行くのならば、稟様の身を護る手段が必要になりましょう。かの国で私を展開させる事など無理ですから、狙われてしまえば稟様に身を護る術がありません。
『…………』
ーーですが、私に人としての身体があれば、稟様を護る事が出来ます。流石に四六時中稟様に付いているのは無理がありますが、それでも稟様を狙う脅威から稟様の身を護る確率は上がります。
純粋に稟を想っているが故に、彼女は望んでいるのだ。ISとしての身体だけでなく、どんな場所でも稟を護れる
稟は束に視線を向け問いかける。束はそれに頷き、視線をアレンへと向け、
「…いいよ。あーちゃんの身体を造ってあげる。期待して待っているといいよ」
ーー貴女の腕は確かですからね。期待していますよ、創造主。…………あと、負けませんから。
「……ふふふ」
ぼそりと呟かれたアレンの最後の言葉。それに眼を細めた束は、アレンを睨み付ける。二人の間で、何やら火花が散っているような気がしなくもないが。
「なら、アレンの身体を造ってからイギリスとフランスに行く事になるのかな?」
「そうだね。ま、束さんにかかれば身体を造るのにそんな時間はかからないけどね♪」
ーー…まぁ、創造主は腐っても天災ですからね。下手したら一日で造ってしまいそうです。それまでには準備を進めておきましょう。
イギリスとフランスへ行くのに、そう時間はかからないだろう。束ならば、本当に一日でアレンの身体を造ってしまうかもしれない。そうなればそうなったで、稟はまた振り回されるのだろう。束とアレン。二人の着せ替え人形にされて。
その事を思うと頭が痛くなるが、不思議と頬が緩む。久しく感じていなかったこの気持ちは何というのか……
「…………楽しみだな」
一人の少女を救う為に生きていたあの頃。その頃では決して口にできなかった言葉を呟く稟。
ただただ、降りかかる理不尽に耐えてきた稟には縁遠かった言葉。束とアレンがいなければ、今の稟でさえ口にしなかったかもしれない言葉。誰もが口にする言葉なのに、稟だけは口に出来なかった言葉。
その時の稟の表情は、かつての彼を知る者からすれば信じられないような表情で。
自身が今、どんな表情をしているか知らない稟は無意識に緩んだ表情で
束がアレンの身体を造りはじめて数日。身の回りの整理も終わり、アレンの身体が出来上がるのを待つのみとなったある日。稟は研究所を何となく歩いていた。外に出歩く気が起きず、与えられている部屋で何をするでもなく過ごすのが躊躇われ、取り敢えず気晴らしに歩こうと思ったのである。
「あれから三日経ったけど、アレンの身体は出来たのかな」
細長く入り組んだ通路を歩きながら一人ごちる稟。
アレンの身体を造る為に自分の研究室に籠った束とは、あれから顔を合わせていない。「あーちゃんの身体が出来たら呼ぶから、それまで待っててね~」と言って部屋に引き籠り、必要最低限にしか部屋から出ていないのだ。心配ではあるのだが、束はこうと決めたら梃子でも動かない事を知っている為、呆れつつも彼女からの報告書を待っている。
「……考えても仕方ないか。取り敢えず軽く食事を作ろうかな?」
まだ部屋に籠っている束の事を想い、自分に出来る事をするかと考える。
開発に没頭すると、食事をまともに摂ってくれない束に稟がしてあげられる事は、料理を作る事。
かつての稟は料理を作る事など出来はしなかったが、此処に住むようになってからは多少作れるようになってきた。束は自分から進んで料理を作る事があまりなかった為、必然的に稟が作るようになったのだ。子供である稟は料理を作ったことがなく、最初はどうすればいいのか途方にくれた。だが、アレンの助けと料理本の収集・勉強により、簡単な物ならば作れるようになった。失敗に失敗を重ね、漸く人が食べても問題なくなった自分の作れる料理の中でも、簡単に素早く食べられる料理を頭の中に描きながら歩を進める稟。食材は何が残っていたかを思い出しながら歩いていると。
「…………っ……~ん」
「………ん?」
後ろから微かに音が聞こえてきた。その音の方へと振り向けば、
「……りっ、く~~ん!!!」
まだ自分の研究室にいるであろう束が、物凄い速度で稟に迫ってきていた。
「あ、束さ…」
「と~~う!!」
稟が言葉を最後まで言い切る前に、束は床を思いっきり蹴ってその身を空中に投げ出す。空中に放られた身体は、弾丸の如き速度で稟の腹部へと一直線に飛んでいき。結果。
「!??!?!?!!?」
稟には、言葉には言い表せられない強烈な衝撃が走る。その強さのあまり、稟の意識は一瞬飛び、視線の先には今は亡き両親が手を振っていて……
「~~~~っ!?」
何とか
ただ、意識は踏み止まっても身体は止まれず。
「…………あ」
それは、どちらの言葉だったのか。
衝撃に耐えきれなかった稟の身体は、思いっきり床に叩きつけられた。
背中に衝撃が走り、呼吸が一瞬止まりかける。再び意識が飛びそうになるが、飛び込んできた束にその衝撃がいかぬよう、彼女の柔らかい身体を強く抱き締めていた事は何と言うべきなのか。
「ご、ごめんりっくん!?大丈夫!?」
慌てて稟から離れようとする束だが、稟の力が思いの外強く離れられなかった。離れる事を諦めた束は、稟に怪我がないかを確認しようと彼に声をかける。
「……だ、だい、じょうぶ」
そんな束を心配させないようにと、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ稟。その顔色はとても大丈夫そうには見えないが、まだ身体に走る激痛を無理矢理抑え込むべく、深呼吸をして息を整える。
数回の深呼吸で、何とか落ち着いた稟は上半身を起こし、束を抱き締めていた力を緩め、
「…束さんが部屋から出てきたって事は、アレンの身体が出来たのかな?」
笑顔でそう問いかける。
「……あ、うん。あーちゃんの身体が出来たから、りっくんを呼ぼうと思って…」
稟の笑顔に一瞬見惚れる束。だが、それに気付かれるのは恥ずかしいので、稟の力が弱まったのを感じた束は急いで稟から退いて立ち上がる。そして、稟が立ち上がるのを助ける為に右腕を差し出す。差し出された腕を見た稟は一瞬キョトンとし、微笑を浮かべてその腕を取る。
「…じゃあ、束さんの部屋へ行こうか?アレンを待たせるわけにはいかないし」
束の助けを借りた稟は立ち上がる。
そして、稟と束は手を繋いだまま、アレンが待つ束の部屋へと歩を進める。
束が何かを開発する時に使う部屋。その部屋の中に、見目麗しい女性が鏡で己の姿を眺めていた。
「流石は創造主ですね。僅か数日で身体を造るとは」
整った目鼻立ちに、肩まで伸びた銀色の髪。身体つきは華奢ではあるものの、どこか戦う者特有の雰囲気を持っている。その女性の名はアングレカム。
「しかしこの身体。どことなく似ているような……」
明確に似ているというわけではない。ただ輪郭が、何となく似ている気がするように感じられるのだ。記憶という名の映像で見た、とある女性に。
「私を見た時の王の反応が心配ですが、こればかりは流れに身を任せるしかありませんか」
彼女を見た時の禀が心配ではあるが、彼の強さを信じるしかないと考えるアレン。
束が何を思ってこの身体にしたのかは分からないが、彼女もあの、
「ですが、これで」
一体何を想像したのか、彼女の顔がにやける。美人が台無しになる、締まりのない表情で。しかし、すぐに表情を元に戻す。
「さ、入って入って。あーちゃんが首を長くして待ってるから」
「ん、お邪魔します」
稟と束が部屋に入ってきたからだ。流石にあの表情を稟に見られるのは拙い。
「お待たせ、あーちゃん。りっくんを連れてきたよ」
「えぇ、待っていましたよ。三日も稟様に会えないのは辛いものがありました」
たかが三日。されど三日。アレンにとって稟に会えなかったこの三日間は、相当の苦痛だったのか。彼女の瞳はどこか遠くを見ていた。
「……さ、りっくん。あーちゃんに感想を言ってあげて?」
そんなアレンに苦笑を溢し、束は稟にアレンを見るよう促す。
しかし、稟から反応が返ってこない。
「……りっくん?」
部屋の入り口で立ったまま一言も発していない稟を不審に思ったのか、束は稟を見る。
その時見た稟の表情は、驚愕一色に染まっていた。ありえないものを見たとでもいうように。
アレンの姿は、彼の思い出の中にいるとある女性に似ていた。似ていたといっても、凄く似ているというわけではない。輪郭が、感じられる雰囲気が、どことなく似ているように感じられるのだ。稟がまだ、子供らしく生きていた時の。幸せだった頃の。罪を背負う事になる前の稟に、愛を注いでくれていたあの人に……
稟は自分の立っている場所が崩れるような錯覚を覚え、茫然自失状態に陥る。そして、そんな彼の脳裏に蘇るのは。
かつて、彼を襲っていた理不尽の嵐。彼の味方などほとんどおらず、町そのものが彼の敵と言っても過言ではない記憶。男も女も関係なく、精神的にも物理的にも禀を攻撃していた人々。救いたかった少女の、言葉の
『りんなんか……死んじゃえばいいんだっ!!』
今でも夢で聞くその言葉は、どんな苦痛よりも彼を苛んだ。どれだけ暴力の雨に曝されようが耐えてきた稟を
「りっくん!!」
「稟様!!」
「……ッ!?」
弾かれたように顔を上げる稟の前にいたのは束とアレン。二人とも心配そうな顔で稟を見つめている。
「りっくん、顔色悪いけどどうしたの?」
「やはり、稟様は……」
二人にそんな顔をさせたくない。二人には笑顔でいてほしい。自分を心配する必要はない。そう思って言葉を発しようとする稟だが、脳裏に再生された
そんな、悪夢に囚われようとしている稟を、
「気持ちを強くもってください、王よ」
アレンは優しく抱き締める。
「…………ぁ」
「此処は貴方がいた世界ではない。貴方が貴方でいる限り、過去をなかった事にはできませんが、それに囚われ続ける必要はないのです。心を強くもってください。王ならば、過去を乗り越えられる」
「…あ、れん……?」
「一人で抱え込まないでください。貴方は独りなんかではない。貴方の傍には私がいる。創造主がいる」
稟を安心させるように、稟の頭を撫でながら優しく囁くアレン。
ただそれだけで、彼を襲っていた悪夢が遠ざかるのを感じた。
その事とアレンの温もりに安堵したのか、稟の瞳は徐々に閉じられていき、
「あり、がとう…アレン……」
稟の身体から力が抜けた。
自身を支えきれなくなった稟の身体は、そのままアレンに凭れかかる。どうやら気を失ったようだ。
「…あーちゃん、りっくんは……」
「…私の姿を見て、過去を思い出したのでしょう。明確ではありませんが、私の姿はどことなく似ているように感じられますからね。この姿を見た時から予想はしていましたが」
「……」
「創造主、貴女に責任はありません。こればかりは王が折り合いをつけるしかない」
「でも……」
「それでも貴女が責任を感じるというのならば、稟様の味方でい続けてください。稟様を独りにさせないでください」
「……私は、いつだってりっくんの味方でいるつもりだよ」
「それでいいのです。私達で稟様を支え続ける」
自身に凭れている稟を抱き締め、優しく彼の頭を撫でるアレン。その瞳は、稟が大切であると如実に語っていた。
「……で、あーちゃん。いつまでりっくんを抱き締めているのかな?」
「……ふふ。嫉妬ですか?創造主」
「にゃっ!?」
「こうして身体を手にいれたのです。これで貴女の有利は消えた。このまま走らせませんからね?」
挑発するように束を見つめるアレン。そんなアレンを睨み返す束。二人の視線の間で、何やら火花が散っているような錯覚を覚える。
しかし、それも刹那の事で。
二人は揃って笑いだす。こんな空気は、自分達には相応しくないと。しんみりとしだした空気を吹き飛ばすかのように。それに、先程まで悪夢に苛まされていた稟の表情が、少しだけではあるが緩んで。
「さて、りっくんは気を失ったけど、そろそろイギリスへと向かおうか?」
「そうですね。向こうも待ちくたびれているでしょうから」
「本当は行く気なんてなかったけど、気になる事を言ってきたからね~」
「ISコアの発光現象ですか…」
二人は今後の事を話ながら部屋を後にした。
懐かしい、夢を見ていたような気がした。
両親がなくなる前。稟がまだ孤独ではなく、他の人達と同じように何でもない日常を過ごしていた日々。大切な幼馴染みである、二人の少女と過ごしていたかけがえのない日々。
稟が笑顔を投げかければ、可愛らしい、可憐な笑顔を返してくれていた、戻ってこない日常。自分のエゴで壊してしまう前の、今尚望んでしまう日常。
そんな、甘い夢を…
「…りっくん」
「…稟様」
『…りんくん』
こののま、その甘い夢を見続けるのもいいかもしれない。
そんな事を思った時。声が、聞こえた。
その声は、今の稟を構成する、とても大切な人達の声で。
どちらかを選べば、どちらかとは決別せざるをえない、一緒にはいられない人達の声。
『貴方は……』
その声が、選択を迫ってくる。
過去と現象、どちらを選ぶのかと。
「ボクは……」
稟が何かを言おうとする直前。
眩い光が彼を包み込み、稟の意識が遠のいていく。
「……こ、こは?」
「気がついた?」
稟が目を覚ますと、彼の前には心配そうな、稟が眼を開けた事でホッとしたような表情を浮かべた束がいた。
「束、さん?」
「…りっくんは寝惚けてるのかな?私が束さん以外の何者かに見えるの?」
ぼんやりとした稟の言葉に苦笑し、束は稟の髪を優しく撫でる。
先程まで夢を見ていたような気がするせいか、稟の思考はまだぼんやりとしている。それでも今の状況を把握しようと顔を動かす。
稟の視線の先には束の顔。
身体の感覚からして、稟の身体は横になっている状態。
稟の頭の下には、何やら柔らかい物がある感触がする。
つまり、今の稟の状態は……
束に膝枕されている状態。
「………………ッ!?」
自分の状況を確認した稟は慌てて起き上がろうとするが、束に押さえられて起き上がれなかった。
「まだ起き上がっちゃ駄目。これからの事を話すからそのままで聞いて」
束の優しい声音。その声に自分が落ち着いていくのを感じた稟は、束を見つめる事で応える。
「ん。此処はイギリスにあるホテルの一室。あーちゃんを見た後でりっくんは倒れちゃったんだけど、ちょっと時間が押していたからそのままりっくんを連れてきたの。で、私はこれからイギリスのお偉いさん方と話し合い。あーちゃんも私に付いてこないといけないから、りっくん一人になるんだけど…」
束は困ったと言わんばかりの表情で部屋の隅に視線をやる。そう言えばアレンは?と思った稟も、束が見ている場所に視線を向ければ、
「あそこでグーを出していれば私が束……いや、しかし、今の戦績は五分五分の状態。ここから私が勝ち続ければ何も問題ないわけで……だが、創造主に甘い思いをこれ以上させるわけには……」
そこには膝を抱えて、部屋の隅でぶつぶつと何事かを呟くアレンがいた。どんよりとした雰囲気で呟いているアレンは、正直怖い。稟は思わず顔を逸らしてしまう。
「全く、あーちゃんってば……りっくんが起きたよ!」
「目覚められたようで何よりです稟様さぁご気分は如何ですか?優れませんか?優れないでしょう創造主なんかの膝枕ではなく私の膝枕をご堪能くださいあぁ稟様稟様キョトンとした顔の稟様は愛らしい私のフォルダに永久保存しなければという訳で創造主は邪魔です代わりなさいそのポジションにいるべきは私なのですいつまで稟様を膝枕しているのですか退かなければ実力行使で排除しますよ?ハリーハリーハリーハリー!!」
束の言葉と同時。シュバッ!という擬音が聞こえた気がしたと思ったら、アレンが目の前にいた。稟が驚く暇もなく、そこからアレンはマシンガントークよろしく言葉を発する。眼が若干血走っていて、怖い。
「落ち着きなよ。りっくんが怖がってるよ?」
「ハッ!?私は何を…失礼しました、稟様」
どこからともなく取り出した新聞紙でアレンの頭を束が叩くと、我に返ったアレンが稟から一歩下がる。
この変貌ぶりを初めて見る稟は何も言えず、唖然とアレンの顔を見るだけで応えはしなかった。というか出来なかった。
アレンが稟から離れ、落ち着いた事を確認すると束は稟に訊く。
「束さん達はこれから出ないといけないんだけど、りっくんはどうする?」
稟は束とアレンを交互に見つめ、自分がどうしたいかを考える。
そして考えが纏まったのか、口を開いて。
「……」
その言葉に、束とアレンは顔を見合わせて頷いた。
束とアレン。二人とは別行動を選んだ禀は、イギリスの街並みを見渡しながらふらふらと歩いていた。特に行きたい場所があるわけでもなく、風の向くまま気の向くままに歩いていた。そんな彼の首には、銀色に輝くネックレスがあった。
このネックレス。別行動を選んだ稟にもしもの事があった時の為にと束が作った物で、発信器兼通信機の役割をこなす道具である。その他にも色々と機能があるらしいが、この二つの機能を使えるだけで今は問題ない。
さて、今は昼時らしく、稟が歩いている街は活気に溢れていた。この街の住人達は皆笑顔で、とてもではないが女尊男卑が罷り通っている世界には見えない。しかし、この街も蓋を開ければそんな虚しい世界に変貌するのだろうか。
禀がぼんやりとそんな事を考えた時、何やら煩い声が聞こえてきた。
「離しなさい!私が誰だか知っての狼藉ですの!?」
「いいから大人しくこっちに来いや、嬢ちゃん」
「俺達がエスコートしてやるって言ってるんだから言う事聞きな!」
一体何事かとその声の方へ顔を向ければ、ガラの悪そうな数人の男達が、稟と同年代位の金髪碧眼の少女を取り囲んでいた。
質の悪い軟派かと思い周囲の様子を探れば、周りの人は遠巻きに見ているだけで絡まれている少女を助ける素振りを見せない。少女の事は可哀想ではあるが、進んで厄介事に介入する気はさらさらないのだろう。
稟は溜息を吐き、どこか冷めた瞳でその光景を見る。
「ちっ、いい加減に言う事を聞きやがれ!?」
「キャッ!?」
抵抗する少女に業を煮やしたのか、リーダー格らしき強面の男が少女の右腕を乱暴に掴み取る。いきなり腕を捕まれた少女は小さな悲鳴を上げ、男の方へ引き寄せられそうになるが、
「その腕を離してあげなよ。彼女、嫌がってるじゃない」
男達の背後から、静かな声が響いてきた。
その声にリーダー格らしき男は思わず力を緩め、周りの取り巻き達とともに後ろへ振り返る。そこにいたのは、腰まで届く長い黒髪を風に靡かせた東洋人の少女ー本当は男であるのだが、彼等からは少女に見えたーがいた。
「こいつは上玉ですよ、兄貴」
「このガキにひけをとらないくらいの女ですね」
「まだガキですけど、将来が楽しみな奴ですね」
禀を見た取り巻きの男達は下卑た笑い声を上げ、禀を舐めるような視線で見つめる。
その視線を禀は無視し、黙って彼を見ているリーダー格の男を見据える。
「何の用だ、嬢ちゃん。下らない正義感でこの嬢ちゃんを助けに来たのか?」
「別に、正義感なんて持ち合わせていないよ。ただ、彼女が嫌がっているのを放っておけなかっただけ」
「それを正義感って言うんじゃないのか?」
「さぁ?どうだっていいよ」
男と話しつつ、ゆっくりと捕まっている少女に近付く禀。そして少女の前まで来ると、彼女をの手を取り、
「さ、行こう」
「ちょ!?」
そう言って彼女を連れて歩き出す。
それに取り巻きの男達は慌てて動き出し、
「な、待てやこのガキ!」
「何勝手な事しようとしてるんだ!」
稟に襲いかかる。
禀を取り囲んだ取り巻きは殴る、蹴るなどの暴力を振るうが、禀はそれを紙一重の差で避けていく。暴力の嵐に襲われていた禀にとって、数人程度の暴力は何の障害にもならないのだ。
その事に少女と男達は驚く。攻撃を避けられた男達はムキになって攻撃し続けるが全く当たらない。それを見ていたリーダー格の男は一歩踏み出すと、
「嬢ちゃん」
「なに?」
振り向いた稟に右ストレートをかます。稟はそれを避けずまともに受けてしまうが、倒れる事はなかった。十台前半の少年と、二十台後半と思しき男。体格差が歴然としているにも関わらずだ。
稟は自分を殴った男を見つめ、男もまた稟を見つめる。暫し無言で見つめ合う二人だったが、先に視線を逸らしたのは稟だった。
彼は興味がなくなったかのように男から視線を外し、禀と男達を交互に見ている少女を連れてその場を去って行った。