ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

4 / 25
UA数増えるとテンションあがり、感想いただけると頬が緩んでしまうそんな日々。
意外と文章が浮かんできたけど、原作開始にはまだ遠い、そんな更新速度。
次回で漸く、ISのキャラをもう一人出せそうです。ただ、ノリと勢いで書いているので、原作設定とか崩壊するかもですが……今更か。

いいタイトルが浮かばない……
後々タイトル変更するかもです。


ー追記ー
十六夜煉様、誤字報告ありがとうございます。
遅まきながら適応させていただきました。
あんなに誤字があるとは……
やっぱ、夜中にスマホで書くもんじゃないな。誤字が酷すぎる(涙)


第三話:今の日常

時間が経つのは早いもので、稟が平行世界へと来て早二年の月日が経とうとしていた。あの後稟は、この世界について必死に勉強した。

元の世界に戻るにしろ否にしろ、暫くこの世界で生きていかなければならない。ありがたい事に、束のおかげでこの世界での居場所は確保できた。居場所が出来たならば、この世界で生きていく為にこの世界の事を知らなければならない。元いた世界とこの世界とでは、常識が全然違うからだ。その違いの中で特筆すべきものはISだろう。彼がいた世界に、IS等という存在はなかった。だが、この世界で生きていくうえでは必須な知識である。幸い、束と白銀のISーアングレカム(命名:稟)のおかげで、初めの数ヶ月は脳が爆発しそうになったものの、今ではそこそこに理解できていると稟は思っている。この世界についても、ISに関しても。ただ、中々のスパルタ教育で脳と思考回路がお釈迦になりかけた事が多々あったが。

(束さんもアレンーアングレカムから愛称をつけてほしいと言われた為そう呼んでいるーも、問答む…一生懸命、真摯に教えてくれたよね~)

教えられている時の事を思い出したのか、稟の瞳が若干虚ろになりだした。心なしか、涙が滲んでいるようにも見えるが……

稟はハッとし、顔を横にオモイッキリ振る事で現実逃避しかけた意識を取り戻す。

(でも、そのおかげで束さんの手伝いを出来るようになったし、二人には感謝しないと)

そう。スパルタ教育のおかげで、稟は束の手伝いが出来るまでに知識を蓄える事が出来た。ISに関しては束の足元には及ばないがそれでも、この年齢の子供にあるまじき知識を持っている。簡単な整備ならば稟一人でも行える程だ。その事にも本当に感謝している。

「なのに、何でこうなってるんだろ?」

「どうしたの、りっくん?」

稟のどこか黄昏たような、途方にくれたような、疲れたような、何かを諦めたかのような感情が含まれている声に、後ろから稟を抱き締めている束が聞き返す。その声は非常に弾んでいて。

「うん。あのさ?ボクに大事な用があるから来てって束さん言ったじゃない?」

「そうだね~。束さんはそう言ったね~」

「それでね?束さんが大事な用って言うから急いで来たのはいいものの」

「うんうん」

「どうしてボクは、メイド服を着せられたうえにに抱き締められているのでしょうか?」

稟は今、メイド服を着せられ束に抱き締められていたのだった。

二年前のあの日から、束に切らないでと言われたが為に伸ばしていた髪は腰まで届くロングヘアーに。幼くとも美形に分類できた顔立ちも、二年の歳月を経て凛々しくなり、束の渾身の化粧テクニックにより女性らしい可憐さを醸し出していた。そして言葉遣い。一人称を敢えてボクにさせる事により、今の稟をボクっ娘へと仕立てあげている。

稟と初対面の者が今の彼を見れば、ほぼ全ての者が稟を女性と見るだろう。だがしかし。稟は男である。今の外見は誰がどう見ても、凛々しい顔立ちの美人メイドではあるが男である。口調が男のものでも、男口調の女性と勘違いされる出で立ちだが男なのである。

「はう~。りっちゃん可愛よ~♪」

「駄目だこりゃ…」

すご~く、蕩けた声でそう宣う束に嘆息する稟。この時の束には何を言っても無駄である事をこの二年で学んだ為、彼には諦める以外の道がなかった。しかも、くん付けからちゃん付けになっている辺りダメダメである。唯一の味方である筈の白銀のISことアレンも、

 

ー凄くお綺麗です、稟様。これは写真に納めて永久保存しなければ。

 

今は稟の敵となっていた。というか、ISがこんなので大丈夫なのだろうか。否、大丈夫ではない。大問題にも程がある。あの時の誓いはどこへ行ったと言わんばかりの変貌ぶりである。

ちなみに、王と呼ぶ事は止めてもらった。自分はそんな、王と呼ばれる人間ではないからと。それでもアレンは王と呼び続けたが、稟は何とか彼女を説得して王と呼ばせる事を止めた。その代わりに様付けになってしまったが。様も駄目と言った稟だが、アレンもこれだけは頑として譲らず、言葉の応酬の末、稟が折れる形となって様付けになった経緯がある。

さらにちなみに、今のアレンは待機状態だ。待機状態のアレンがどこにいるかといえば。そう思って稟を観察すると、彼の指にきらりと輝く白銀の指輪がある。二年前の稟にはなかった物だ。そう。その指輪がアレンことアングレカムの待機状態である。

稟は、何とも形容しがたい顔で白銀の指輪を見るのだった。

 

ー創造主も中々に粋な事をしてくれます。以前の皇女様な稟様も着物を着た稟様も素敵でしたが、それにも劣らないメイド稟様。素晴らしいですね。

 

アレンのダメダメ発言。もう駄目だ、このIS状態である。

「どうしてこうなった……」

本当に、どうしてこうなったと言いたい惨状である。夢なら醒めてほしいが、哀しいかな。これは現実なのである。二年前のアレンは、最早いなくなったのだ。彼には味方などいなかった。

ネジが外れてしまった束とアレン。この二人が元の調子に戻るには、あと数時間の時を要するのだった。

 

 

「いや~、りっちゃんのメイド姿は眼福ものだったね。束さん凄く満足したよ!」

 

ー全くです。あれはもう、神器と呼んでよろしいものでしょう。

 

「……それはどうも」

まだ元の調子に戻れていない二人の言葉。そんな二人にジト眼を向ける稟。未だにメイド服を着ているのはお約束である。

あれから一時間経ち、束の抱擁から解放された稟は彼女と向き合って椅子に座っていた。稟を呼んだ用件を聴くためだ。それがどうしてあんな状況に陥ったのか。未だ着ているメイド服を見て溜息を吐く。本当ならさっさとメイド服を脱ぎたいのだが、脱ごうとすると束の何かを訴えるかのようは視線とアレンの啜り泣きー勿論わざとーによって着替える事を諦めた。断じて稟の意志が弱いわけではない。二人の、わざとだとしても泣き顔など見たくないから、仕方なしに着替えていないのだ。

「りっちゃんは美形さんだから似合う服が多いよね~。次はドレスとか着せてみたいな~」

 

ーそれもいいですが、私としては巫女装束と呼ばれる物を稟様に着ていただきたいと思いますが。

 

二人の言葉に思わず頭を抱える稟。今回も重症らしく、二人は稟を置いて、次に稟にどんな服を着せるかを話始める。稟が女装をさせられてからのお約束な日常風景である。

ちなみに。束がアレンと会話しているが、アレンの声なき声は稟にしか伝わらない。では何故、束とアレンが会話できているのか。その答えは、空中に浮かび上がっているディスプレイにある。宙に浮いているディスプレイにアレンの意志が文章となって浮かび上がり、束と会話しているのだ。このディスプレイはアレンの意志でいつでもどこでも出せる為、非常に便利である。アレンが束を拒絶していた時も、このディスプレイを活用していた為に束はアレンの言葉を理解していた。

しかし稟は、そのディスプレイがなくともアレンと会話ができる。その事を束に話した時、彼女は最初は驚き、次いで表情を真剣なものに変え、

(その事、束さん以外の誰にも話しちゃ駄目だよ?もしその事が明るみに出れば、りっくんは狙われる。世界中の人間から。そして捕まれば最後。自由なんてない、実験動物が如き扱いを受ける事になる)

そう、忠告した。自身を思っての言葉を真摯に受け止め、稟は束に頷いた。束もアレンも、本当に稟の事を考えてくれていると感動したというのに、蓋を開ければこれである。どうしてこうなってしまったのか。嘆かずにはいられない稟だった。

「そろそろ本題に入ってほしいんだけど?」

あれでもない、これでもないと話続ける二人に帰ってきてもらうべく、稟は声のトーンを少し低くして告げる。声のトーンを低くする事で、そろそろ怒りますよ?と告げれば、流石の二人も元に戻らざるをえない。稟が怒った後、二人が泣きながら必死に謝ってきた事は記憶に新しい。

「っそ、そそそそ、そうだね!?そろそろ本題に入らないとだね!?」

 

ーで、ででで、ですね!いい加減、稟様を待たせるわけにはいきませんね!?

 

それを感じ取った二人は慌てて姿勢を正す。声が震えているのは気のせいだろうか。心なしか、束の表情は若干青褪めていて、待機状態のアレンは微かに震えているようにも見えるが…

「始めからそうしてくれれば…」

こっちも困らないのにと、溜息混じりに呟く稟。

普段はもっと、きちんとしている二人だが、話が稟の女装の事となると色々と台無しになるのだった。あの手この手で稟に女装をさせ、それを写真や動画に納める。それさえなければ素直に慕えるのにと、嘆かずにはいられない。

「え~っと、実はですね~?りっくんを呼んだ理由は、今度イギリスとフランスに行く事になるなったんで、出来ればりっくんを連れて行きたいな~と思いまして…」

そんな稟に対して、おずおずと用件を告げる束。あの天災が、自身よりも七つも年下の子供に恐る恐る語りかけるさまを彼女の知り合いが見れば、彼等は総じて口を開けて呆然とするだろう。これがあの、篠ノ之束なのかと。

「ふ~ん。イギリスとフランスか……………って、え?」

束の言葉を反芻した後、稟は間抜けにも呆けた声を漏らしてしまう。そして、その言葉の真意を考える前に。

 

ー本来は創造主一人で行くべきなのですが、此処に稟様を残して行くのもどうかと思われたようで。それに、稟様と離れるのは寂しいらしく、だったら稟様を連れて行こうと結論付け……

 

「うん。アレンちゃん、余計な事は言わないようにね?次に余計な事言ったら…」

アレンの補足を笑顔を浮かべながら遮る束。ただし、眼は笑っていない。非常に恐ろしい表情で「それ以上言ったら、どうなるか分かるな?」と言外に告げているのだが、その頬は朱に染まっていてそこまで怖くない。どうやらアレンの言葉は図星のようだ。

 

ー稟様。私の先程の発言は忘れてください。私は何も言っていません、いいですね?

 

「あ、ハイ」

アレンの有無を言わせない言葉。稟としてもどう答えてあげたらいいのか分からなかった為にアレンの言葉には頷いておいた。

「全くあーちゃんってば。束さんが寂しがるとか、ありえないんだからね?そりゃ、確かにりっくんと離れるのは辛いものがあるけど、そういうのじゃ……」

ぶつぶつと呟く束。その呟きは盛大な自爆であると、彼女は気付いているのだろうか。束の呟きと、また本題から脱線している現状。稟は、本日何度目かになるか分からない溜息を吐くのだった。

 

 

「落ち着いた?」

「う~~、この束さんともあろう者が…」

稟の言葉に、顔を朱に染めた束がか細い声で呻く。あの後、自分の自爆宣言に気付いた束は羞恥のあまり耳まで真っ赤に染め、その辺を転がりだした。普段の束らしからぬその行動にアレンは呆れ、稟は眼を丸くして驚いていた。しかし、いつまでも束を放置するわけにはいかないと思った稟は、束を背中からそっと抱き締めて束の頭を撫でた。そんな稟の唐突な行動に束はフリーズし、口をパクパクさせて顔を真っ赤に染めて今に至るのだった。

 

ー創造主、狡いです。稟様!私も撫でてほしいです!

 

「時々撫でてるじゃん」

 

ー時々では物足りません!創造主にしているよう、こう妻に愛を囁くように、愛娘を愛でるように、慈しみながら毎日撫でてください!!

 

「おだまり」

何やら戯けた事を宣うアレンをペチっと叩く稟。それに抗議するようにアレンが明滅する。

 

ーあぅ。叩くなんて酷いですよ稟様。一途に稟様を想っているのに、私に愛をくれないのですか?創造主は可愛がっているのに、依怙贔屓ですよ!

 

「…はぁ。二年前の君はどこに行ったのさ。あの時の君は、騎士らしくてかっこよかったのに、どうしてそんなに残念になったのさ」

最早呆れるしかないアレンの言動に、禀は哀愁を漂わせる。

二年前のアレンが印象に強すぎた為、この残念すぎるアレンには本当に困る。あの時の感動を返せよと言いたくなるのは仕方ない事だろう。全く、どうしてこんなにも残念さんになってしまったのだろうか。

 

ー……今も二年前も、私は変わっていませんよ。稟様を想い続けている事に変わりはありません。寧ろ、二年前よりも禀様を想う気持ちは強くなっています。稟様……いえ、我が『王』よ。貴方はお強くなられた。まだ、過去の事に囚われている事は否定できませんが、それでも前に進もうと一歩踏み出した貴方は、あの時よりも確実に強くなっています。そんな魂の輝きに魅いられている私は、常に貴方の事を想わずにはいられない。しかし、『王』の心の靄はいまだに晴れていません。ならば、その靄を晴らす方法を、私は常に模索し続けていかなければ。『王』を護る為にも。

 

先程までの残念さが嘘のように、二年前のあの時と同じ声音で、雰囲気で、アレンはそう言った。稟は、年齢不相応に落ち着き払った瞳でアレンを見つめる。

 

ー『王』を、貴方を護るのに、常に騎士の如く凛とある必要はありません。貴方の心を護るのに、貴方が過去に囚われ、未来に向かって歩けなくなるのを防ぐ為には、柔軟に行動する必要がある。

 

何もアレンの本質が変わったわけではなかった。彼女はただ、己の主の心を護る為に。仕える王が、過去に囚われ、進むべき道を違えないよう、敢えて演じていたのだ。その結果として、自身が残念がられる事を気にせずに。ただただ、主を護る為に。

 

ー貴方が過去に囚われず、笑顔で生きていく為ならば私は何だってします。悪魔にさえこの身を捧げましょう。道化に走り、軽蔑されようが、侮蔑されようが、軽んじられようが、残念がられようが、それで貴方が、『王』が、幸せな未来へと向かって行けるならば、私に後悔はありません。

 

(りん)の魂の輝きに魅せられた白銀(アレン)は、一途に想い続ける。彼を哀しませないように。笑顔で生きてもらう為に。辛い過去を持つ彼に、幸せが訪れる事を願って。

「……狡いね、君も」

アレンの言葉に何を思ったか、稟は顔をくしゃりと歪めてそう呟く。

アレンも束も狡いのだ。いつも稟を振り回すくせに、ここぞという時で彼の胸を締め付けるのだから。普段は何を言ってもおちゃらけているのに、心が悲鳴を上げたい時にそっと歩み寄ってくるのだ。

「狡くていいよ。それで、りっくんが笑っていられるなら」

 

ー『王』が幸せにいられるなら、どれだけ罵られようが気にしません。

 

いつの間にか復活した束が稟と向き合って彼の瞳を見つめ、アレンが慈しむように淡い輝きを放つ。そんは二人の想いに稟は、

「…本当に、本当に狡いよ……」

笑っているとも、泣いているともとれる顔で呟くのだった。

 

 

「…ところでさ?」

稟を見守るように見つめていた束が、ふと思い出したように声をかけたのは十数分後の事だった。

「なに?束さん」

「うん。そろそろ答えてほしいかな~?と思ってね。……りっくんは、束さんに付いて来てくれる?」

恥ずかしそうに、不安そうに訊いてくる束。その言葉に、束に呼ばれた理由を思い出した稟は苦笑を浮かべる。

数分ですむ話が、脱線しすぎで何時間もかかってしまっている。

この二人といたら、いつもそうなのだ。簡単な話が脱線に脱線を繰り返し、本来の道から外れて迷走する。だけどそれは、決して不快なんかではなくて。

 

ー全く。何をしているのですか創造主。こんなのは数分で済む話の筈ですよ?それをこんなにも時間をかけるなんて、貴女本当に天才なんですか?

 

「にゃにゃ!?あーちゃんだけには言われたくないんだけど!?あーちゃんも束さんと同じくりっくんのメイド姿堪能してたでしょ!あと、束さんは天才だよ!」

 

ー稟様が愛らしすぎるので堪能するのは至極当然の事でしょう。いえ、堪能しないなど稟様を侮辱しているも同義!稟様に仕える私がそのような愚行、する筈ないでしょう!!

 

またしても二人して脱線している。その内容に思う事がないわけではないが、この二人だから仕方ないかと諦める。そしてそんな二人が、あの頃ではありえなかった、なんでもない、ありふれた日常が愛おしくて。願っても叶う事がないと、諦めていた日常が目の前に広がっていて。

それは本当に、何でもない事なのに。

それは普通に生活していれば、どこにでも転がっている日常風景なのに。

願わなくても、ありふれて当然な光景なのに。

どうしてこんなにも愛おしく感じるのだろう。

どうしてこんなにも眩しく見えるのだろう。

どうしてこんなにも、胸が苦しくなるのだろう…

「……りっくん?」

 

ー稟様?

 

気付けば稟は、肩を震わせて笑っていた。その瞳に涙を溜めて、今まで束とアレンが見た事もないほどに、笑っていた。

今まで心の奥底に沈めていた感情を、ふとした拍子に沸いてくる感情を振り払うかのように。

そんな稟を呆然と見ていた束とアレンだが、笑いが治まった稟は息を整え、瞳に浮かんだ涙を拭いとる。そして、どこか優しい色をした瞳で束を見つめ。

「……付いて行くよ。束さんは恩人だし、大切な人だもの」

「………うん。ありがとう、りっくん」

その色に、その声音に、何を感じたのか。

束は微笑んで稟を見つめ返した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。