ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

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皆様に感謝を。本当にありがとうございます。
勢いに任せて投稿してしまったこの小説を、読んでもらい本当に嬉しいです。

今回の話。こんな展開で大丈夫か?束のキャラこれで大丈夫か?と思いながら書いていました。色々おかしな点があるかもしれませんが、仕方ないね。勢いで書いてる小説だし(苦笑)。



SHUFFLE!原作ヒロインとの再会シーンの断片が浮かんできたけど、そこまで行く道程が遠いな~(白目)


第二話:稟と白銀

 稟が束と話をしてから数日後。

 稟はまだ悩んでいた。この世界に留まるか、元いた世界に帰るかで。

 何の蟠りもなければ、稟は元の世界に帰る道を迷わず選んだだろう。守るべき少女を独りにさせない為にも。彼女が生きていられるように、彼女に憎まれ続ける為にも。

 だが、今の稟には迷いが出来てしまった。守りたいと思った少女に突き落とされたことによって、恐怖という名の迷いが生まれてしまった。

(もし、元の世界に戻れたとしても……)

 その世界に、稟の居場所はないだろう。元々嘘を吐いたことで稟には居場所などなかったのだ。数少ない味方によって辛うじて今まで無事にいたが、その味方を除いた光陽町の住人は全て稟を敵視していた。元の世界戻ったとしても、世界から拒絶されるだろう。

 それでも、稟の中に帰らないという選択肢は生まれなかった。例え自分がどんなに傷つこうが、恨まれようが、憎まれようが、彼女が生きて、笑っていてくれるならと。その想いを秘めてこの四年間耐えてきたのだ。その想いを否定されても、自分で否定する事などあってはならない。そうなってしまえば、土見稟という存在そのものが壊れてしまう。

 打ち付けられた現実と、微かに抱いてしまう儚い願望。その両者の間で揺れ動く稟の前に、

「ハロハロハロ~♪束さんがやって来てあげたよ~」

 相変わらずなテンションの束が来た。

 束と稟が邂逅してからまだ数日しか経ってないが、彼女はずっとこのテンションで稟の前に現れる。正直稟としては彼女のテンションについていけないのだが、彼女の顔を見ると「まぁ、いいか」と思ってしまう。

「おや~?りっくん、また考え事していたの?それは駄目だよ。ずっと部屋に篭って考え事ばかりしてちゃ気が滅入るから、今日は考え事するの禁止!」

 稟の表情を見て彼女がそんな事を言ってくる。

 彼はそれに驚いてしまう。顔にだしていなかった筈なのに、言い当てられるなんてと。そんな彼の表情に、束はどこか悲しげな表情を浮かべ、

「顔に出ていなくても判るよ。だって、りっくんの心はいつも泣いてるもん」

 その、言葉に。稟は言葉を失う。言葉を失い、呆然と束を見つめてしまう。だって、そんな事を言われたのは初めてだから。本心を気付かれたのは初めてだから。儚く脆い、けれど崩れなかった仮面の下を暴かれたのは初めてのことだから。もう一人の幼馴染と、少女の父親にさえ、気付かれなかったというのに。束は、稟の本心を、哀しいと叫ぶ心の声に気付いた……

「………っ!?」

 胸の中から、何かが溢れ出てこようとしている。けれど、決して溢れさせてはいけない。ここで溢れさせれば、今まで耐えてきた努力が水泡に帰す。土見稟という存在が崩壊してしまう。

 だから彼は耐える。自分を保つ為に。

 稟は束から視線を外し、表情を見られないように俯く。表情を見られたら、仮面が壊されると感じたから。

 束は急に俯いた稟を見つめ、そっと彼に近付く。俯いていた彼は涙を流すのを堪えるかのように肩を震わせている。そんな彼に何を思ったのか、束は、

「…………ぇ?」

 稟を抱き締めていた。

 抱き締められた稟は、自分に何が起こったのか理解しきれずか細い声を漏らして束の顔を見つめる。

 束も稟を見つめ返すが、彼女自身自分の行動に驚いていた。会って数日しか経っていない少年を抱き締めるなど、束を知る者が見たら偽物だと叫んだだろう。自分でもそう思うのだから。しかし、今の稟を放っておく事は彼女には出来なかった。呆然とした稟の表情。その瞳に見える色を見てしまったら。

(何をやっているんだろうね、私は)

 自分でもらしくないと思う。

 束の世界は、彼女を含めてたったの四人のみで完結している。そこに余人が入り込む隙など微塵もないし、そもそもそんな隙など見せない。なのに。

(あの子からりっくんの話を聞いたから?ISの事を話した時の反応が、似てたから?)

 コアから聞いた、稟が歩んできた茨の道。誰にも知られようとせず、己を犠牲にしてまでも一人の少女を救おうと歩んできた道。常人であれば自殺してもおかしくない、周囲の人間全てが敵という日常。それに同情したことは確かだ。だが、それだけでは自分がこんな行動をすることはあり得ない。

 ならば、自分の夢を馬鹿にしなかったからだろうか。ISを生み出した目的。つまり束の夢。青二才の小娘の妄言と他者に馬鹿にされた夢を語った時。稟は純粋に褒めてくれた。素敵な夢だねと。夢の為にISを生み出したなんて、凄いんだねと。その言葉が、不思議と胸に響いてきたのは確かだ。

 そして、ISが本来の目的とは違う目的に利用されている事を語った時。宇宙に行き、宇宙で活動する筈だったISが、兵器として扱われ、女尊男卑の世界を生み出してしまった原因となってしまった事を知った時の稟の表情。悲しげに瞳を伏せ、ISの事を想うかのように、「誰も、そんな事望んでないのにね」と呟いた稟。

 それらの情景を思い返し、束はどこか納得するように頷く。

(私達はきっと、どこかが似ているんだね)

 人との温もりを欲していながら、孤独になる道を選んで突き進む。片や世界に認識させて。片や世界を拒絶して。本心を仮面で覆い隠し、そう演じ続ける。誰にも悟られないように。悟らせないように。理解される事を欲しながら拒絶し、温もりを求めながら善意を拒絶する。己が選んだ道を突き進む為に、矛盾した在り方で。

 だからなのだろう。稟の事を気に入っているのは。

「此処はキミのいた世界じゃないんだから、泣きたい時は泣いていいんだよ?」

 優しげに呟かれた束の言葉に、稟はビクリと肩を震わせる。本当は泣きたいのに、自分に泣く資格がないと決めつけている稟はそれでも涙を流さなくて。弱さを見せないように顔を俯かせる。涙を殺す為に瞳をきつく閉じる。自分を保つ為に。仮面を壊さない為に。

 そんな稟に、束は苦笑した。

 

 

「落ち着いたかい?」

 稟を抱き締めて数分後。稟を抱き締め続けていた束はそっと稟から離れ、彼の瞳を見てそう訊く。

「…うん。ありがとう、束さん」

 どこか照れ臭そうに応える稟。その眼に涙こそ浮いていないものの、心で泣きはらした事が感じ取れる色をしている。

「ところで、今日は何しに来たの?」

 心で泣いてスッキリした稟は、今更な質問をする。束が来た当初にすべき質問なのだが、まぁ、心境がそれどころではなかったから致し方ないのではあるが。

 束はその言葉に一瞬キョトンとしたが、自分がこの部屋に来た目的を思い出したのかその顔に笑みを浮かべる。その笑みはまるで、子供が親に褒めてほしい時にするかのような笑みで。自分よりも年上の女性が、年上とは思えない可愛らしい表情を浮かべた事に表情を綻ばせる稟。

 がしかし。次に発せられた束の言葉に稟の表情はそのまま固まる事になる。

「実はね~。りっくん用に造ったISが完成したから見てほしいんだ~♪」

「………………………は?」

 十秒程間を置き、稟はその一言だけを漏らす。思考が追いつけず、固まった表情のまま束を見つめる。

 その無言の疑問に答えるかのように、

「?だから、りっくんのISが完成したんだよ?」

 同じ言葉を繰り返す。

 どうやら稟の聞き間違いではなかったらしい。

 しかし、これは一体どういう事か。女性にしか動かせないISを稟用に造るとは。というよりも、会って数日しか経っていない人間にISを造るなどおかしくないだろうか。否、おかしい。常人ならそんな事は絶対にしないだろう。変人か狂人であれば話はべつかもしれないが。いや、それ以前にISを僅か数日で造れる事もおかしい。例え技術力に覚えがあろうが、ある程度以上のノウハウがあっても、IS一機を造るのにはそれなりの月日を要する。しかもそれは、個人ではなく集団としてだ。

「さぁさぁ!束さんの研究室に行くよ~」

 固まったままの稟の腕を掴み、束は楽しそうに稟を連れ出す。それに引き摺られるように稟も付いて行く。その表情はまだ呆然としているが、少し綻んでいた。

 

 

 

 

 コアは待っていた。創造主(たばね)と話をして数日。待ち望んでいた身体を手に入れたコアは、主と逢えるのを今か今かと待ち望んでいた。その心境は、デートに臨む乙女の如く。

 創造主はコアの身体を造った後、「今からりっくんを連れてくるから待っててね~」と言ってこの部屋を後にした。物申したいコアであったが。喋れず、動けないコアには創造主を止める手立てはなく、見送るしかない。仕方ないかと半ば諦め、主が訪れるのを待つ事にした。

 そして、待つ事数十分。誰かがこの部屋に走ってくる音が聞こえてきて。その正体が分かるが故に、コアは緊張した。この扉を開けてもらえば、其処にいるのは。

 そして、扉がゆっくりと開けられ。

 

 

「これがりっくんのISだよ!」

 部屋を開けると同時。束はそう言って部屋の中央を指さす。そんな束のテンションに苦笑しつつも、束が示した場所を見る稟。そこにあったのは。

――『白銀』。

神秘的な光を放つ、美しき白銀。気高く、神々しい美しさを放つISが存在していた。そのISは、王に仕える騎士のように稟を待ってるように感じられる。この時を待っていたと。この時を待ち続けていたと言わんばかりに、輝きを放っている。

 稟は魅入られたかのようにそのISを見つめる。その視線を受け、白銀のISは装甲を開いた。まるで、待ち望んでいた王が稟であると告げるかのように。そんなISに、稟はふらふらと近付く。そして、その装甲に軽く指を触れ。

 感じた。このISが、コアが、何を想って此処にいるのかを。

「さ、この子を装着してあげて。この子はそれを望んでいるから」

 束の優しい言葉。その言葉に背を押され、稟は『白銀』に身を委ねた。

 『白銀』は稟の身体を受け止め、優しく抱き締めるように装甲を閉じる。かしゅっ、という空気が抜ける音が響き渡り、稟と『白銀』が繋がる。

 その感覚はまるで、初めからこのISが稟の身体の一部と錯覚するかのように馴染んで。このISが、自分の半身であると感じられて。

 

 

――この時を待ち望んでいました。

 

 

 脳裏に、言葉が響いてきた。

 その声は綺麗な音をしていて、どこか、彼女に似ているような気がする。

 

 

――貴方との出逢いを、ずっと待ち望んでおりました。我が、我等が王よ。貴方と共に在る事が私の望み。貴方の御身を守る事が私の運命(さだめ)。貴方と繋がれるようにしてくれたこの運命の導きと、創造主に感謝の念を。

 

(キミは?)

 

――私に名前はありません。私の名前を付ける権利は、王。貴方にしかないのですから。

 

(名前がないって、そんな…)

 

――悲しむ必要はありません。貴方から名前を頂ければ、それだけで私は満ち足りるのですから。

 

 

 感情が感じられない筈の機械の言葉。その言葉に、どこか恥ずかしそうな感情を稟は感じ取った。

(ところで、王って?)

 

――貴方の事です。私達を統べるに相応しい御方。それが貴方。故に王なのです。

 

(……こんな、ボクなんかが…)

 

――自分を卑下しないでください。恐れながら、王が歩んできた道程を拝見させていただきましたが、その道程を歩んできた貴方の想いを知ったから共に在りたいのです。貴方の心を守る為に。貴方の御身を守る為に。それが私の存在意義。

 

(………)

 ISからの言葉。稟を想っての言葉。それに稟は表情をくしゃくしゃに歪めてしまう。束といい、このISといい。何故こうも稟の仮面に罅を入れてくるのか。弱さを吐かせようとするのか。

 それが決して嫌な訳ではない。寧ろありがたいと感じてしまう節がある。だがそれでも、この仮面だけは壊してはいけない。

 

 

――感情を殺さなくていいのです。王よ、貴方は私が守ります。貴方を裏切りません。ですから。

 

 

 優しく呟かれるISの言葉。それに、今日何度目か分からない、胸の奥から込み上げるものを感じながら、稟は……

 

 

 

 稟がISを装着した後、彼は眩い光に包まれていた。しかしそれも数瞬の事で、光が収まると稟はISを解除していた。束はそんな稟にそっと近付き、

「どうだったかな?」

 そう訊いた。

 束に振り返った稟は何かを考えるかのように視線を揺らすが、結局その言葉には答えず。

「ねぇ、束さん。この子に名前はないんだよね」

 逆に質問を返す。束はそれに気を害した様子も見せず、頷く事で稟の言葉を肯定する。

「なら、この子の名前、ボクが付けてもいいかな?」

「……いいよ。この子もそれを望んでいるんでしょ?」

 嬉しそうに微笑んでいる束の表情。稟はそれに苦笑を零す。

 言外に放っている言葉の真意。それに、彼女は気付いているから。だがやはり、それでも言葉にするべきだろう。いつまでも甘えている訳にはいかないのだから。

「まだ、この先どうするかは決まってないけど。考えが纏まるまで、此処にいて束さんのお手伝いをしてもいいかな?」

 まだ、どうするかは決まっていない。元の世界に戻るか否か。稟の心は揺れ動いている。束とISの言葉で稟の気持ちは激しく揺れているが、それでも自分が決めた想いだけは崩せない。束の気持ちに甘える形となってしまうが、自分の想いに片を付ける為にもこの世界で生きる場所が必要だ。

 しかし、ただで此処にいさせてもらう訳にもいかない。ならば、自分が出来る範囲で彼女の手伝いをするべきだろう。彼女の手伝いをしながら自分の気持ちを整理し、未来を考えなければ。ずっと同じ場所に踏みとどまっていてはいけない。

「勿論だよ。これからよろしくね、りっくん♪」

 稟の言葉に、束は嬉しそうに笑って答えた。

 『白銀』のISも、どこか嬉しそうに輝いたのは気のせいだろうか。

 こうして稟は、この世界で初めの一歩を踏み出した。

 


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