ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

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とりあえず、今月の投稿はここまでかな?
次の投稿は何時になるか……
続き頑張って書いていきますので、これからも宜しくしていただければ幸いです。


第二十一話:実習(前編)

 一夏が着替え終わり、急ぎ第二グラウンドに向かった稟達。幸い時間にまだ余裕があったらしく、一組と二組の生徒達はそれぞれ仲が良い者達同士で集まって話をしていた。

 時間内に間に合った事にホッとした一夏はシャルルと共に一組の生徒達がいる場所へ向かう。稟も一夏達と共に向かおうとしたが彼は既に来ていた千冬に呼び止められ手伝いを言いつけられた。彼はそれに反抗する事なく素直に頷き、千冬の手伝いに向かう。

 そうして授業の時間が近付き。

「さて、全員整列!」

 時間を確認した千冬が声を張り上げる。

 それだけで今までざわめいていた生徒達は一斉に静まり、すぐさま直立不動の姿勢で整列する。

「これより一組と二組の合同授業を行う。合同の為人数が多く普段の授業よりも行動が遅れる事が予想できるが、各員私達の指示に従い迅速に行動しろ」

『はい!』

「よし。本日は格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始するが、その訓練の前に戦闘の実演をしてもらおうか。凰、オルコット!」

「え……あ、あたし!?」

「わたくしもですの?」

 千冬の突然の名指しに驚く鈴音と首を傾げるセシリア。セシリアの視線は稟とアレン、一夏に向けられた後に千冬へと向けられる。

 その視線の意味を察した千冬は頷いて答える。

「専用機持ちならば直ぐに始められるからだ。それにお前達はまだまだひよっことはいえ代表候補生だからな」

 千冬のその言葉にムッと顔を歪める鈴音と、成程と頷くセシリア。お互い代表候補生という立場にを持っているが、実に対照的な反応である。

「分かりましたわ」

「それなら噂の転校生にでもやらせればいいのに。なんであたしが……」

 素直に頷くセシリアと、ぶつくさ文句を垂れる鈴音。セシリアはそうでもないらしいが、鈴音はひよっこという言葉がとても気に入らないようだ。

「凰。オルコットを見習って少しはやる気を出せ。……それとこう考えたらどうだ? アイツにいいところを見せられる場面だと」

 鈴音の態度を咎めず、彼女の側に近付いた千冬は小声で鈴音にそう囁く。

「!? べ、別にアイツの事なんかどうでもいいけど、あたしの実力を見せつけるには丁度いい機会よね! 前回は余計な邪魔が入ったし」

 若干眼を泳がせつつも急にやる気を見せる鈴音。千冬の声が聞こえていたセシリアは鈴音の気持ちが分からない訳ではないのでただ苦笑するだけ。

「それで、織斑先生。お相手は何方が? 鈴音さんとでしょうか?」

「あたしは別に誰でもいいわ。アンタが相手でも軽く捻ってあげるわよ」

「やる気が出たのは結構だが慌てるな。お前達の対戦相手は――」

 その時。空気を裂くかのような、甲高い音がグラウンド中に響き渡った。思わず耳を抑える生徒達。

「きゃあああああーっ! ど、どどど、どいてくださーいっ!?」

 そんな中でさらに響き渡ってきた誰かの悲鳴じみた叫び。

 生徒達が声がしたであろう方向へ顔を向け、少しだけ顔を上げるのが遅れた一夏が顔を上げた時。

「………………へ?」

 何かが一夏へと突進していき、彼が何か行動に移すよりも速く接近してきた何かに弾き飛ばされた。

 何かに弾き飛ばされた一夏は数メートル程吹き飛び、そのままであれば地面に叩きつけられて小さくない怪我を負っただろう。

「――っ、ぶねぇ!? 白式の展開がギリギリで間に合わなかったと思うと…………ん?」

 地面に衝突する寸前に白式の展開が間に合い、大きな怪我をする事なく地面を転がる一夏。転がり終えて立ち上がろうと右腕に力を込めた時、一夏は掌に妙に柔らかい感触感じて首を傾げる。

 地面はこんなにも柔らかかっただろうかと考えているところで、

「ひゃん!? あ、あのう、織斑くん? そ、そのですね? こんな、生徒がたくさんいる所でというのは先生も困るので……あ、いえ! 生徒がいない所ならオーケーと言っている訳ではなくてですね。私は教師ですし、織斑くんは生徒。だからそういう事は……ああ、でももしそういう関係になれれば――」

 一夏の下から声が聞こえてきた。

 その声を聞いた瞬間一夏の身体は凍り付いたかのように固まり、ギギギという擬音が出そうな挙動で顔を下に向ける。

 するとそこには、想像した通り真耶がいて。しかも一夏の体勢が真耶を押し倒している形で、尚且つ彼の右手が真耶の圧倒的に大きすぎる胸を思いっきり鷲掴みしている状態。彼女は顔を朱に染めて、何を妄想しているのか知らないがいやんいやんと言わんばかりに悶えていた。

 一夏の思考と身体は硬直し、ダラダラと嫌な汗が背中を流れる。速く真耶から退かなければと思えど、彼の身体は一向に動こうとしなかったが、

「――っ!?」

 突如感じた殺気に急いで真耶の上から退く一夏。

 刹那。一夏の頭があった右横を何かが通り抜けた。

 背後に誰かの気配を感じた一夏は恐る恐る後ろを振り向くと、其処には――

「そんなに慌ててどうしたのだ一夏?」

 修羅がいた。

 絶対零度の眼差しに、触れれば斬られると錯覚させるような、鋭利な刃物を思わせるような雰囲気を纏った篠ノ之箒が。

 彼女の右手にはどこからか取り出されたのか分らないが木刀が握られており、その木刀が今まで一夏の頭があった場所に振り下ろされていた。因みに、一夏の頭があった場所の下には真耶がおり、彼女の顔面数センチの距離で木刀が止まっていて彼女の顔が蒼白になっている。そんな真耶に気付いた箒が彼女に謝っているが、一夏にとってそんな事はどうでもよかった。

 速く箒から逃げねば。真耶に謝罪をし終え、木刀片手に自身に近付いてくる箒から逃げなければ。そうしなければ殺られると、一夏は直感していた。だが何処に逃げればいいのかと一夏が考えていると、箒に優るとも劣らない殺気と共に、ガシーンと何かが連結する音が一夏の耳に届いた。

 その独特な音には覚えがあった。そう、その音は。鈴音のIS――『甲龍』の武器である《双天牙月》が連結した音だ。《双天牙月》は二個ある近接武器であるが、二つを連結して両刃状態にする事によって投擲も可能となるのである。

 一夏の視線が鈴音を捉えると、箒と同じく絶対零度の眼差しをした鈴音が振り被り、《双天牙月》を投擲した。

「ぬおおおおおおおおおおおっ!?」

 一瞬の躊躇もなく投擲された《双天牙月》は、一夏の首を目指して飛んでくる。それを身を仰け反らせる事で間一髪避ける一夏だが、無理矢理に身を仰け反らせた為に仰向けに倒れてしまう。

 そして一夏は絶望的な光景を見てしまった。

 自分にゆっくりと近付いてくる、修羅(ほうき)(りんいん)を。

「アンタってば、本当に……」

「……………………斬る」

 歩きながら木刀を構える修羅と『衝撃砲』を向ける鬼。一夏が己の行く末に顔を引き攣らせながら、自身に向かってくる二人と《双天牙月》に視線を走らせていると、

「はっ!」

 鋭い声と共に二発の銃声が響く。

 その直後。一夏に向かっていた《双天牙月》はその身を穿たれ、本来の軌道から逸れて一夏の横数メートル先に突き刺さった。

 いきなりの展開に眼を瞬かせる一夏。それは彼に限った話ではなく、稟とアングレカム、セシリアと千冬と本音を除いた面々も似たような反応をしていた。

 そして全員が銃声がしたであろう場所に眼を向ければ、倒れたままの体勢から状態を僅かに起こし、五十一口径アサルトライフル――《レッドバレット》を構えていた真耶の姿があった。普段は生徒達に弄られ頼りなさが皆無といった姿ではなく、落ち着き払い、どこか凄みを感じさせる雰囲気を纏って。

『………………』

 そんな、普段と違う彼女の姿に一組の生徒だけでなく二組の生徒までもが唖然と真耶を見つめている。

「山田先生は普段はあれでも元代表候補生だ。あの程度の射撃など造作もない。それに、代表候補生時代には私の模擬戦の相手も務めていたしな」

「そ、それは昔の事ですよ。それに結局は候補生止まりでしたし……。それに、その模擬戦も全く歯が立たなかったじゃないですか」

 生徒達を現実に戻す為に放たれた千冬の言葉に、普段通りの雰囲気に戻った真耶が照れ臭そうな表情で返す。

「いつまで呆けている。グラウンドを奔らされたいのか?」

 それでもまだ現実に帰ってこない生徒達に鋭い視線を向ける千冬。

 それで漸く我に返った生徒達は慌てて姿勢を正す。

「さて、時間を少し無駄にしてしまったしさっさとはじめるか。オルコット、凰、準備はいいな?」

「まさか、二対一で、ですの?」

「え~、流石にそれは……」

「なに、心配するな。二対一でも今のお前達ならばすぐに負ける」

 負けるという言葉にムッとする鈴音と、眼を細めて真耶をじっと見つめるセシリア。

 セシリアもすぐに負けるという言葉は聞き捨てならないが、先程の射撃を見せられてしまえば反論できない事も事実。彼女も鈴音と同様代表候補生という立場に少なからず矜持があり、射撃の腕に関しては結構なものだという自負もある。しかしその自負も、あくまで学生という範疇のもので、もしも自身が真耶と同じ状態で同じ事をやれと問われれば必ず出来ると断言できるほど己惚れている訳でもない。千冬の言葉が正しく、真耶の先程の腕が偶然の産物でもなければ負ける可能性は極めて濃厚である。ましてやこちらは即席のタッグ。連携も儘ならないだろう。

「織斑先生、作戦会議の時間を頂いても?」

「ふむ……いいだろう。手短に済ませろ」

 それでも簡単に負けるつもりがないセシリアは千冬にそう問う。

 セシリアの真剣な眼差しを受け、千冬はセシリアを見つめ返す。

 セシリアは千冬の言葉に過剰に反応する鈴音と違い、己の分を弁えているのだろう。千冬の言葉には少なからず反感を覚えているだろうが、自身がまだ未熟である事を理解している。その上でどう一矢報いるかを考えている。

 千冬は口の端を微かに歪め、セシリアの案を許可した。

 許可を貰ったセシリアは軽く頭を下げ、不満そうな顔を隠さない鈴音の下へ向かって行く。

 この模擬戦はあくまで授業の一環であって勝敗など関係ない。一般生徒のお手本なのだ。だから、勝敗に拘る必要はないのだ。

 しかし。そうだとしても。

 彼女は、セシリアは、イギリスの代表候補生の一人なのだ。数いる代表候補生の中から選ばれ、IS学園に入学した一人なのだ。専用機を実力で勝ち取ったという訳ではないが、国からを与えられた人物なのだ。

 そんな彼女が、例え模擬戦とはいえ無様に負ける訳にはいかない。多くの生徒が見ている手前。国から選ばれた代表候補生の一人として。そして何より彼の、稟の見ている手前で、無様な姿を晒す訳には断じていかない。

 その為には鈴音の協力が必要不可欠。

 セシリアは、内心で荒れているだろう鈴音へ近付いていく。

 

 

「山田先生。遠慮はいらんから思いっきりやるといい」

「はぁ……本当にいいんですか?」

「構わん。土見とアングレカム、布仏にオルコットは違うが、他の小娘達は山田先生を侮っている節がある。いい加減それを改めさせる必要があるだろう」

「ですが……」

「それに、このままでいいとは思っていないのだろう? ならばその為にもこの模擬戦は必須。山田先生も理解している筈だが?」

「…………はい」

 セシリアが鈴音と作戦会議をしている一方で、千冬も真耶と話し合っていた。

「どうやら向こうの準備が出来たようだな」

 五分もしないうちに千冬達の前に歩いてくるセシリアと鈴音。専用機を纏い千冬達に近付く二人だが、その表情は相変わらず対照的である。片や瞳に戦意の色を灯し、鼻息荒く歩く鈴音。片や頭痛を堪えるかのように米神を押さえ、溜息を吐いているセシリア。

 それで二人の作戦会議が意味を成さなかった事を悟った千冬は軽く息を吐いて真耶を一瞥。真耶は頷きその身に用意していたラファールを纏う。

「では戦闘の実演をはじめてもらおう。それぞれ位置に着け。……はじめ!」

 千冬の号令の元、模擬戦が開始される。

「鈴音さん、本当に頼みますわよ?」

「作戦なんて別に必要ないわ。アンタはしっかり援護してればいいのよ!」

 お互いに距離を取って宙に浮かび上がる三人。

 セシリアは最早諦め顔だが、それでも言わずにはいられず溜息混じりに呟き、鈴音はそれを気にも留めない。真耶は二人を観察するように眼を細めて見ている。

「さて、この模擬戦の間。山田先生が使っているISの解説をデュノアにしてもらおうか」

 千冬がシャルルにISの解説を促している事をよそに、三人の模擬戦は始まる。

 《双天牙月》を構えた鈴音はそれを連結させず右腕で構えると、一直線に真耶へと突き進んで行く。お互いが接近戦用のISであればその行動も特段問題はなかっただろう――大なり小なり動きにフェイント等混ぜるが。しかし、真耶のISは近・中距離の動きを得意とするラファール・リヴァイヴ。鈴音のこの行動は真耶にとって格好の的となる。一対一の模擬戦であれば。

「――っ!?」

「はぁ……少しはわたくしの話を聞いてくださいますか?」

「作戦会議なんかしたって即席のタッグじゃ限界あるでしょ。だったら、お互い動きやすいように動いた方がいいでしょう!」

 真耶は自分に向かってくる鈴音に《レッドバレット》を向けたがその銃弾を射出する前に、いつの間にか展開されていたセシリアのビット二基から攻撃を受けた。真耶の前方からバツの字を描くように放たれたレーザーを寸での所で後ろに下がる事で躱す真耶。その直後に続く鈴音。上段から振り下ろされる《双天牙月》を、ビット攻撃を咄嗟に避けた反動によって躱す事は真耶には出来ない。

「――くっ。なんて、重い一撃ですか……」

 ならばどうするか。

 真耶は右手に構えていた《レッドバレット》を放棄し、武装ラックから近接ブレード――《ブレッド・スライサー》を取り出して迫り来る《双天牙月》を受け止める。

 しかし、反射的な防御行動と全体重を乗せられて振り下ろされた鈴音の攻撃とではどちらが有利であるかは明白で。無理な防御態勢を強いられた真耶が鈴音に押される形となる。

 だがしかし。そこは流石、かつて代表候補生を務めていた人物。鈴音の力に無理に逆らう事をせずにその力を受け流し、捌く。自身の攻撃が捌かれた事によって微かに体勢を崩した鈴音の隙を突き、真耶は態勢を整えて距離を取る。

 だが。

「――っ!」

 その行動を読んでいたかのように真耶の背後へと回っていたセシリアのビットからレーザーが放たれる。それを寸での所で躱すものの。

「もらったわ!」

 再び接近を許してしまった鈴音が《双天牙月》で薙いでくる。

 それを鈴音の後方で見ていたセシリアはじっと真耶を見つめる。鈴音の援護を怠らずに。ビットに全意識を集中させずに適当な支持を与えて鈴音の援護をしながら、己と鈴音の攻撃を捌き続ける真耶を観察するように。

 先の射撃で真耶が只者ではない事は理解したセシリアだが、それにしてもこの状況は彼女にとって拍子抜けである。千冬の言葉からすれば苦戦するのは自分達である筈なのに、蓋を開けてみれば苦戦しているのは真耶。いくら自分達が専用機持ちだとは言え、真耶はあの『世界最強』たる千冬が認めた相手だ。その機体が訓練機でもそう苦戦するものでもないと思う。

 その結果にどこか釈然としないものを感じるセシリア。

 千冬の言葉は、自分達を惑わす為の嘘だったのだろうか。しかし千冬が、自分達を小娘と呼ぶ彼女がそんな嘘を吐くとも思えない。

 二基のビットを真耶の側に、残る四基のビットを自分を守るように展開させながらセシリアは思考を続ける。勿論鈴音に対する援護は忘れずに。

 その一方で、鈴音は猛攻を続けていた。

 無理な体勢で防御した真耶を追い立てるように連撃を繰り出す鈴音。最初は両手で持っていた《双天牙月》を右手に持ち替え、もう一本の《双天牙月》を装着して手数で攻め始める。

 鈴音の猛攻により防戦一方となった真耶は反撃する暇がない。彼女の攻撃を捌きつつ、断続的に放たれるセシリアの援護攻撃も何とか捌いている状態だ。繰り出される連撃とビット攻撃に顔を歪めながらも、懸命に好機を窺う真耶。

 だがそんな彼女を嘲笑うかのように。真耶の防御の手が、鈴音の猛攻の負荷により若干緩んでしまった。

「! ここ!」

「きゃっ!?」

 それを見逃すほど鈴音も甘くはなかった。

 真耶の防御が緩んだ事に気付いた鈴音は《双天牙月》を連結させ、全力を以って薙ぎ払う。

 《双天牙月》の直撃こそ免れた真耶だが、その勢いには抗えず姿勢制御と《ブレッド・スライサー》を失い無防備な姿を晒してしまう。

「セシリア!」

「分かっておりますわ!」

 今こそ絶好の好機。回避も防御もできない真耶へ止めを刺すべく、『衝撃砲』をチャージしながらセシリアへ声を飛ばす鈴音。

 呆気なく勝敗がつきそうな気配にどうしても納得がいかないという顔をするセシリアだが、これがまたとない好機である事も理解している。セシリアは二基のミサイルビットを残し。残る四基のビットを真耶の近くで展開、『スターライトmkⅢ』も真耶へと向け、ビットと『スターライトmkⅢ』でのフルバーストを行う。

 鈴音の『衝撃砲』とセシリアのフルバーストが空中で錐揉み回転している真耶に襲い掛かり。

 瞬間。壮大な爆音と暴力的な爆風が巻き起こる。

 その威力はかなりのもので、その振動は観戦している生徒達の下まで及ぶほどだった。

 余裕の表情で爆心地を見る鈴音と、やはり怪訝そうな表情を浮かべるセシリア。

 誰が見ても、勝利は鈴音達のものと思うだろう。模擬戦を見ていたほとんどの生徒がそう思った筈だ。しかし、いくら待っても鈴音とセシリアのISのウィンドウに『勝利』の二文字は表示されない。

 流石の鈴音もそれに疑問を感じた時。

 セシリアの背筋に悪寒が奔る。

 その刹那。

 何かの爆発音が響き渡ると同時、真耶の近くに展開されていた四基のビットが破壊された。

「なっ……」

『え……?』

 予想外の事態に呆然とした声を漏らすセシリアと生徒達。

 一体何が起きたのか思考する暇もなく、爆心地から真耶が姿を現す。その姿は無傷という訳ではなく、かなりの損傷を追っていたがそれでも戦闘の続行に支障はきたさないものだった。

呆然としているセシリアと鈴音を一瞥し、真耶はビットを破壊したであろうマシンガンを構えなおす。そして軽く息を吸って瞳を細めると、

「……いきます」

 瞬時加速を使ってセシリアとの距離を一気に詰める。

「くっ、『ブルー・ティア……』」

 鈴音を素通りして一気に自身に迫ってくる真耶の気迫に気圧されそうになるのを何とか堪え、残り二基となってしまったビットに指示を出すが、

「はっ!」

 真耶はそれを許さず。彼女の鋭い声と共に両手のマシンガンが火を噴く。それによって迎撃の為に動こうとしたビットはあっさりと無力化された。

 自身のビットを簡単に破壊された事に顔を顰めるセシリアだが、それでも何もせずに終わる訳にはいかない。残った主武装である『スターライトmkⅢ』を真耶へと向けるが、それよりも僅かに速く肉薄していた真耶が、サマーソルトキックの要領で蹴り飛ばす。

 それによって丸腰になるセシリアだが、

「まだ……ですわ! 《インターセプター》!!」

 『蒼き雫』に唯一残された武器である《インターセプター》を瞬時に展開させる。

 近接武器の扱いを苦手としていた為これまでの実習でも、訓練時でさえも瞬時に《インターセプター》を展開できなかったセシリア。それを、この土壇場で瞬時に展開させた。

 その結果に自身でも驚くセシリアと、僅かに眼を見開く真耶。

「ぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 蹴られた反動で若干仰け反った体勢のセシリア。だが、それを気合で何とかせんとでも言わんばかりに声を上げて展開した《インターセプター》を振り下ろす。

 真耶は冷静にその動きを見つめ、左手に持っていたマシンガンを思いっきり振り下ろされてきた《インターセプター》に叩きつける。

「ぁ……」

 セシリアの渾身の一撃は、それであっさりと無力化された。

 最早抵抗する術が一切ないセシリアに、真耶は容赦をせず。

「これで終わりですね、オルコットさん」

 残った右手のマシンガンを発砲。それに遅れて左手のマシンガンもセシリアに向けられ、両手のマシンガンが火を噴いた。

 放たれたマシンガンの弾雨を全弾受けるセシリア。セシリアのシールドエネルギーは瞬く間に減っていき、零になった。

 それを見届けた真耶は鈴音に向き直り、ブースターを噴かして鈴音に近付く。その速度は瞬時加速よりは遅いが、それに勝るとも劣らない速度を出していた。

「――!?」

 真耶のあまりもの動きにセシリアの援護が出来ずに呆然としていた鈴音は、自身に近付いてくる真耶の姿にハッと我に返ると迎撃の為に『衝撃砲』を放つ。

 しかしその迎撃も虚しく。『衝撃砲』の雨は悉く躱される。

「なんで、なんで当たらないのよ!?」

 自身の攻撃が当たらない事に驚愕の声を上げる鈴音。

 連射重視の為に威力を落とし、チャージの時間を短くしての『衝撃砲』の連射。その弾雨は逃げ場がないように相手を襲う。それは圧倒的なまでの暴力性を持っており、並の操縦者では到底躱せないものだった。

 だが、真耶は並の操縦者ではない。かつては代表候補生であり、あの『世界最強』たる千冬の模擬戦相手を務めていたのだ。そんな彼女からしてみれば、冷静さを失い遮二無二撃ってくるだけの攻撃など避けるのは容易い。こちらの目線や挙動で相手の動きを誘導し、相手の視線や挙動から攻撃方向を察知。この短時間で鈴音の癖を少しでも把握していた真耶は、それを戦闘へと組み込む。

 言葉にすれば簡単だがそれは容易に出来る事ではない。ましてや自分と同程度、あるいは上回る力量の持ち主には通じないもの。だが相手は鈴音。いくら代表候補生を務めて専用機を持つとはいえ、真耶とでは場数と経験が違いすぎる。

「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 冷静さを完全に失った鈴音は迫ってくる真耶に恐怖を覚え、駄々をこねる子供のように『衝撃砲』を放ち、《双天牙月》を振り回す。

 真耶はその悪あがきを容易に躱して鈴音との距離を詰め。

「残念ですがこれで終了です、凰さん」

 瞬時加速を使用して鈴音の背後に回る。

 そして鈴音達の敗北宣言をすると、零距離でマシンガンを斉射。

 『甲龍』のシールドエネルギーは瞬く間に減り、僅かな時間で零に。

『そこまで!』

 千冬の鋭い声が響き、模擬戦は終了となった。

 グランドに降り立つ三人。その表情は三者三様で、鈴音は呆然とした表情を。セシリアは悔しげでいて、どこか納得した表情を。真耶は先程の戦闘とは真逆の、つまりはいつもの、生徒達が知るおっとりした表情――しかしそこに、おどおどとした小動物のような雰囲気はない――をしていた。

 その三人を呆然とした表情で見ている生徒達。普段の真耶を知る者が、この結果を想像できただろうか。その答えは否であろう。数名の例外を除いて、この結果を予想できた者はいない。

「さて、これでお前達もIS学園教員の実力を理解したな? 今後は山田先生にもしっかり敬意を持って接するようにしろ。……返事はどうした!」

『……はっ、はい!?』

 まだ現実を認識していない生徒達に鋭い声を浴びせる千冬。

 彼女が醸し出す威圧と声の圧力に漸く意識を取り戻した生徒達は、何とか返事をする事ができたのだった。


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