ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

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わりかし強引に進めたので、ちょっとアレな部分があると思います。修正した方がいいという分野がありましたら、教えていただけると幸いです。


今回出てくるキャラの口調。これで大丈夫だろうか……

誤字報告してくれた十六夜煉様。ありがとうございます。修正させていただきました。



第一話:天災と少年

置物部屋の様子を見ていた女性は嬉しそうに。それはもう楽しそうに、愉しそうに笑う。

「今ならあの子も噺を聞いてくれそうだね~。ふふふふふ。ああ、楽しみだな~。あの子は何を思って私を拒絶していたんだろうね~。その理由を教えてくれるのかな?それに、いきなり現れたあの男の子。あの子も気になるね~。一体どこから束さんの研究所に現れたのかな?」

自らを束と呼んだ女性は立ち上がり、『ソレ』を放置していた置物部屋へと向かう。これからの事を考えながら。

考えながら歩いていれば、すぐに目的の部屋へと着く。いくらこの研究所が大きいとは言え、束の部屋からそう離れていないのだ。

この扉を開ければ、愉しい展開が待っているのだろう。何故だかそんな予感がする。束はワクワクしながら扉を開ける。

扉を開ければそこには、モニター越しに、見ていた状況そのものがあった。全身ずぶ濡れで倒れている少年。そして、その少年の右腕に触れ、儚く光っている、束が欠陥品と認識していた『ソレ』ーコアが。

「やあやあやあ。また束さんがやって来てあげたよ~。少しは私と話してくれる気になったかな~?」

束はコアの前まで歩き、コアをそっと持ち上げる。それに抗議するかのようにコアが点滅するが、束は気にする事なく。

「キミが束さんを拒否していたのは、この男の子と会う為?」

言葉が返ってくる筈ないのに、コアに語りかける束。しかし、コアはそれに答えるかのように点滅する。まるで、何かを訴えるかのように。

だが、人間にはその意味を理解する事は不可能で。ただ光っているとしか、理解できない筈なのに。

「ふ~ん?守ってあげたいんだ?この男の子を。キミが待ち望んでいた主だから」

コアの点滅の意味を。言葉にならない言葉の意味を理解してますよと言わんばかりに語る。コアと会話しているかの如く。

「その為には身体が必要と。束さんの協力が必要だと。そうなんだね?」

束の言葉を肯定するかのように、コアは先程より眩い光を放つ。そんなコアにうんうんと頷き、束は笑みを浮かべる。

「うん。キミの身体を造ってあげてもいいよ。条件付きでね。条件その一、束さんの頼み事はきちんと聞く事。条件その二、どうしてその男の子がキミの主様なのかを私に説明する事。条件その三、私がその男の子を気にいる事。簡単でしょ?」

束の言葉に、コアは考えるように点滅する。その点滅は鈍く、どこか戸惑っているように感じる。だが、それも数瞬の事で。束の言葉を肯定するように点滅する。

「それじゃあ、先ずは場所を移そうか。ここだといい仕事ができないしね」

コアと稟を抱え、束は部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

ー少女が、泣いていた。

駅前で、少女が一人泣いていた。どうしたのと聞けば、親とはぐれてしまったらしい。だからーーは、少女と一緒に遊んだ。彼女の寂しさを紛らわせる為に。彼女の親が見つかるまで、この町を遊び場にして。

ー少女が、泣いていた。

ある住宅街の公園。そこにあるブランコに乗って、少女は一人泣いていた。何故泣いているのと聞けば、一緒に来ていた男の人とはぐれてしまったらしい。だからーーは、少女と遊んだ。彼女がこれ以上、孤独に泣かないように。彼女の迎えが来るまで、ずっと。

ー少女が、泣いていた。

病院で寝たきりになり少女は心で泣いていた。母親がいなくなった事が信じられなくて。母親が死んだなんて信じたくなくて、世界を拒絶した。このままでは、一生眼を覚まさないかもしれない。だからーーは、嘘を吐いた。彼女がいなくなったら、どうすればいいか分からなかったから。彼女の笑顔が、見たかったから。彼女と一緒に、いたかったから。だから彼は、嘘を吐いた。

例えそれが、自己満足なものだとしても。

例えそれが、自分の身勝手な思いからきたものだとしても。

彼女に生きていてほしいという想いだけは、嘘偽りない、純粋な想いなのだから。

だから、彼はーー

 

 

 

 

意識が覚醒する。

今まで微睡んでいた意識が、急速に覚醒していく。

微かに見える光。その光を求めるかのように、稟の意識は浮上して。

そしてーー

 

 

眼を開けると、そこには見知らぬ天井。周囲を見渡せば見たこともない機械類が散乱している。

「…こ、こは?」

目が覚めてからの第一声。稟はぼんやりとする思考で無意識に呟く。

「おや。どうやら目が覚めたようだね~」

聞き慣れない女性の声が稟の耳に届く。その声の方へ向けば、何とも不思議な格好をした女性がいて。

「ん~?そんなにじっと束さんを見てどうしたのかな~?」

その言葉で、女性をじっと見ていた事に気付く稟。稟はどこか重い身体を動かし、何とか上半身だけを起こす。

「ん、ごめんなさい。不思議な感じがしたので」

束の瞳を見つめて返事をする稟。

「ふ~ん?ま、いいけど。取り敢えず、色々と訊きたい事があるかもだけど先ずは自己紹介からいこうか?束さんは篠ノ之束さんだよ~」

束の自己紹介に稟は戸惑う。今まで自分が会ったどの人達とも違う独特な雰囲気に気圧されつつも、稟は名乗る。

「…ボクは、稟。土見稟」

「りん、リン、稟…じゃあ、りっくんだね!束さん覚えたよ。それじゃあ、りっくん。何から訊きたいかな?束さんは気分がいいから答えてあげるよ」

やたらとハイテンションな束に、稟はどうすればいいのか困惑してしまう。

今まで稟は、負の感情ばかりを向けられ、それに慣れてしまっていた。だから束の言葉に、態度に、戸惑ってしまう。自分を知る人間には、ありえない態度に。負の感情が感じられない、どころか興味津々といった束の言葉に。

だが、いつまでも混乱しているわけにもいかない。稟が気にすべき事は、たった一つしかないのだから。

そう。稟が気にすべきは、彼女の事。

稟が自らを犠牲にしてまでも生きてほしいと願った少女の事。あれから一体、彼女はどうなったのか。その事だけが、稟にとって唯一の気がかりで…

「あの…」

意を決して、稟は束に問う。

 

 

 

 

稟と話を終えた後。束は稟を寝かして部屋を出て、自室へ向かいながら考えていた。

「平行世界、か…」

稟と話していて感じた違和感。互いの話が噛み合っているようで噛み合っていない違和感。国の名前や地名に共通点がありながら、辿ってきた歴史に僅かな差異が見られた。そして、何より大きな違いは……ISの存在。

IS。正式名称インフィニット・ストラトス。束が開発したISと呼ばれる物を彼が知らなかった事。余程の事がない限り、子供でも知っている筈だ。ISと、それを生み出した篠ノ之束という存在は。しかし稟は、ISと束の事を知らないと言った。

そこから導き出された答えが、彼が『平行世界』から来たという可能性。限りなく近く、そして限りなく遠い世界。よくよく考えずとも馬鹿げた話である。『平行世界』なぞ、アニメの見すぎと一笑にふされてもおかしくない。

しかし。それでは説明ができない事があるのも事実。あの時束が感じた違和感。微かに空間が振動し、全てのモニターの数値が一瞬だけ異常をきたした。それは禀が現れるほんの少し前。稟と空間の振動に、関わりがないとは言い切れない。

コアから聞いた話とこの事実に、束はますます稟の事を気にいった。最初は暇潰し程度と考えていたが。そして何より。ISの事を語った時の稟の反応。他の人間とは違う、束が唯一認識している大事な人達と、どこか似たような反応を見せた。その事が嬉しくて。

「これからは、少しは楽しくなるかな?」

純粋に、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

束が部屋から去った後。ベッドに横たわった稟は先程の会話を振り返る。

束の言葉を信じるならば、この世界は自分がいた世界とは別の世界。俗に言う、『平行世界』であるらしい。

(どうやらキミは、別の世界軸からこの世界に来たみたいだね。私とキミの世界に共通点はあるけど、決定的に違う点もある。それがさっき話したIS。この世界でISの存在は常識なんだよ。子供でもしって事。それをキミは知らないと言った。なら、考えられる可能性としてキミは別の世界。所謂『平行世界』から来たと考えられる)

それを聞いて稟は呆然とした。そんな事が起こり得るのかと。そして何より、もうあの少女と、守りたかった少女と会えないのかと。だが、仮に戻れたとしても。

(もう、あの頃と同じようには無理だよね。だって、あの時楓に落とされたんだから……)

それが自分の選んだ道だとしても。

少女に、生きてほしかったから、過ちを犯したのだとしても。

だけど、それでも……

(もう一度一緒に笑いあえるって…それぐらい、願っていてもよかったよね?)

そう、願わずにはいられなかった。

そう夢見る事で、あの苦行に耐えてきたのだから。

もう一人の幼馴染みと、父親代わりの少女の父に、苦しい想いをさせてしまってまで、そうしたのだから。

天涯孤独の身となり、その少女にいなくなられるのが何よりも怖ろしくて……

罪に罪を重ね、稟は耐えてきたのだから。

「………っ」

瞳から涙が出そうになるのを堪えるように、稟は自身の顔を毛布に埋める。決して弱さを見せないように。涙を流す資格なんてないと言い聞かせるように。

(時間をかければ、キミの元いた世界に戻る可能性を見つける事は出来るかもしれない。ただし、その可能性を見つけても必ず元の世界に戻れる保証はないよ。私はキミに興味をもってるから、それまでは此処にいてもいい。だけど、そこからどうするかはりっくん次第だよ?)

部屋から出る前に呟かれた束の言葉が。

その言葉を、複雑な思いで思い返しながら。


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