ネットが使えない現在、私が投稿するには近くのネカフェに行かなければいけない。
ある程度書きだめして、予約投稿でポチッとな。
この話もそれで投稿。
さて、あと二、三話で原作一巻も終わるかな。
稟が一夏と距離を置いてから更に一週間後。
遂にクラス対抗戦の当日となった。
本日第二アリーナで行われる第一試合。その組み合わせは織斑一夏と凰・鈴音。
噂の新入生同士の戦いとあり、アリーナは全席満員となっている。更には通路まで立ってみている生徒達で埋まっており、会場内に入れなかった生徒や関係者一同はリアルタイムモニターで鑑賞している。
アリーナ中央で、互いにISを展開して見つめ合う一夏と鈴音。数週間前は言い合いをした二人だが、向き合っている今は周囲が驚く程に無言を貫いていた。
『時間になりました。両者は規定の位置へ』
どうやら時間のようだ。アナウンスが静かに告げた。
二人は見つめ合ったまま浮かび上がる。二人の距離は五メートルだ。
「……一夏。謝るなら今の内よ。今の内に謝れば、手加減してやってもいいわ」
「はっ。理由も分からないのに誰が謝るかよ。それに、手加減なんていらねぇ。全力でこい」
「代表候補生のあたしに対して言うじゃない。なら、一応忠告しておいてあげる。ISの絶対防御も完璧じゃないわ。その防御力を上回る攻撃力があれば、本体にダメージを与えられる」
それは脅しでも何でもなく事実。
ISは表向きには競技用のものとされているが、その『
「忠告ありがとよ」
だが、それがどうした。
それを恐れて舐められたままでは男が廃るというものだ。
『準備はよろしいですね? では、試合開始』
試合開始のブザーが鳴り響く。その音が終わる前に、一夏と鈴音は動いていた。
――ガギィィン!!
刹那。
鈍い音が響き渡った。
一夏は瞬時に展開していた《雪片弐型》が弾き返されるのを感じ、稟とセシリアから教わって辛うじて身につけられた技術の一つ――
「へえ? やるじゃない。初撃を防ぐなんてさ」
余裕そうに一夏を見据えている鈴音を油断なく見つめる。
彼女は笑みを浮かべたまま、手に持った青竜刀と呼べるか怪しい武器――『甲龍』の近接武器である《双天牙月》――を器用に回す。そしてそれを一夏に突きつけ、
「なら、これは捌けるかしら?」
ニヤリと、獰猛な笑みを浮かべて一夏に迫る。
縦から、横から、下から、斜めから、巧みな手捌きによって繰り出される鈴音の
(くっ、マズイ。このままじゃ、俺が一方的に消耗させられるだけだ。何とか距離を取って……)
鈴音の攻撃の隙を伺う。
受け止め、捌き、躱しながら。
(…………今だ!)
大きな一撃を与えようとしたのだろう。
鈴音が僅かではあるが、隙のある動きを見せた。
それを
「……かかったわね」
静かに呟かれた鈴音の言葉。それに不穏なものを感じ取ったのも束の間。
『甲龍』の肩のアーマーが開き、中心部にある球体が光ったと思った時。
「ぐっ!?」
一夏を強烈な衝撃が襲う。
視界が一瞬歪むが、何とか意識を保つ。
「これで終わりじゃないわよ?」
再び襲い掛かる見えない衝撃。
対処のしようがない一夏はそれを受けるしかなく。
「ぐ…………うあっ!!?」
先程よりも重い一撃に、一気に地表まで叩きつけられてしまった。
「どこまで耐えられるかしらね?」
地表に落ちた一夏を見据える鈴音。
その瞳に慢心はなく、一切の油断もない。
「な、なんだ今のは!?」
ピットから試合を観戦していた箒は、ガタッと立ち上がって驚愕の声を漏らす。
「恐らくですが、『衝撃砲』と呼ばれるものですわ。空間に圧力をかけ砲身を生成。その余剰で生じた衝撃を、砲弾と化して撃ち出す。私の『蒼き雫』と同じく、第三世代型兵装です」
それに答えたのは、同じくピットで一夏と鈴音の戦いを見守っていたセシリアだった。
彼女は険しい表情で鈴音の一挙手一投足を見つめている。
彼女の動きに、慢心や油断はない。彼女は鍛え上げてきた自分の力を遺憾なく出している。一夏にとっては厳しい戦いだ。
「ところでアングレカム。土見の奴はどうした?」
今このピットにいるのは、箒とセシリア、アレン、教師の織斑千冬と山田真耶である。それ以外は誰もいない。
モニターから視線を離さず、千冬はこの場にいない稟の事を疑問に思いアレンに問い質す。千冬は稟にも声をかけていたのだが、彼の姿は見えない。
「稟様ですか? 稟様ならば、会場のどこかで試合を見ているでしょう」
同じくモニターから視線を離さずに返すアレン。
千冬はちらりとアレンを一瞥するが、すぐさまモニターへ視線を戻した。
アレンは千冬の視線が外れたのを確認し、
(しかし、何故稟様は彼女達に付いて行くように言ったのか。私は貴方の楯であるというのに。それに、あの時の稟様の眼は……)
稟と離れる間際。彼が浮かべていた、妙に不安そうに揺れていた瞳。そして、何かを恐れるかのような声音を思い出しながら、アレンはモニターに視線を向け続ける。
機械である身でありながら、何か胸がざわつくような感覚を覚えて……
状況は一方的だった。
一夏から攻撃する事は叶わず、鈴音からの攻撃を躱し続けるので精一杯なこの状況。
一夏は悔しさに顔を歪めながら、しかし、諦めないと言わんばかりに鈴音に食らいついている。正直、シールドエネルギーが心許なくなっているが、どこかで賭けに出るしかない。
(でも、どうやって…………くっ!)
直撃こそしなかったものの、衝撃砲が掠りシールドエネルギーがまた削られていく。
「よく耐え続けるわね」
焦りを悟られないよう平静を保つ一夏を見つめ、不意に鈴音がそう溢す。
彼女の顔からは、いつの間にか笑みが消えていた。
その変化に、一夏の警戒心が強くなる。
「でも、もう後がないでしょう?」
《双天牙月》を肩に担ぐ鈴音。
その声に、瞳に、剣呑な色が宿り。
(マズイ! …………こうなったら、一か八か!!)
このままでは、何もできずに終わってしまうだろう。
普通に考えれば代表候補生との実力差など一目瞭然で、彼が勝つなど万一に一つもない。だが、だからと言って簡単に負けてやるなど、男の
例え実力差に天地の差があろうとも、心まで負けてやるつもりはない。せめて一矢報いなければ。
一夏は鈴音との距離を詰める為、加速体勢に入る。稟とセシリアに教わり、何とか身に付けた技能の一つ瞬時加速。使いどころを間違えなければ、この絶望的な状況を覆せる一夏の『切り札』。
一度しか使えない、奥の手。この奇襲に失敗すれば、一夏に後はない。
彼は軽く息を吸い、
「…………鈴」
「……なに、一夏?」
「負けないからな」
「…………」
一夏の真剣な眼差し。
それを見た彼女の瞳が細まる。一夏の放つ気迫を感じたのか、鈴音は《双天牙月》を構えなおした。
張りつめた空気がアリーナに充満する。
観客達は息を呑み込み、二人の動きを見逃すまいと見つめる。彼女達も気付いているのだ。これが一夏にとって、最後の攻撃となる事が。
――ゴクリ
誰かが唾を飲み込んだような音がした。
それは聞こえる筈のものでもなかったが、まるでそれを合図に。
「―――――ッ!!」
一夏が仕掛ける。
急激なGが一夏を襲い彼の意識を奪おうとするが、ISの操縦者保護機能が彼を守る。
瞬時加速によって瞬く間に鈴音の距離を詰めた一夏。眼前に迫られた鈴音は驚きで眼を見開いているが、その隙を逃すわけにはいかない。一夏は《雪片弐型》を振り被り、
――ズドオオオォォォォンンン!!!!
刹那。
轟音と共に強烈な衝撃がアリーナ全体に走る。
鈴音の衝撃砲ではない。今訪れた衝撃の威力と範囲は、彼女のそれと明らかに桁が違っていた。
轟音がした場所に眼をやれば、アリーナの中心部でもくもくと煙が立ち込めていた。
「い、一体何が……」
突然の出来事に困惑する一夏。状況が分からずに戸惑っていると、
「一夏、試合は中止! 今すぐピットに戻りなさい!!」
緊迫した鈴音の声が、プライベート・チャンネルを介して一夏の耳に届く。
「は? お前、何言って……」
「いいから、早く!!」
鈴音の叫び声と同時。
――ステージ中央に熱源を感知。
『白式』から緊急通告が流される。
それと同時か、それより僅かに早く。一夏の背に戦慄が走り、
「――ッ!?」
彼が後ろに避けた刹那。一夏の前を太い二条の光線が駆け抜けていった。
そして、それが放たれた場所には……
「何なんだ……アレは」
『異形』がいた。
深い深い、まるで闇と思わせる程に深い黒色をしたソレで最も目が引く部分は、異様に太く、長い、まるで血塗れであるかのように紅い、鉤爪のような右腕。左腕の代わりと言わんばかりに無雑作に付けられたようなガトリングガン。肩部に取り付けられている先程の光線を放ってであろう、ただただ太く大きいだけの二つの砲門。人間であれば鍛え上げられた肉体とも言える重装甲に、その上半身を支えるには貧弱すぎる脚部。そして、不規則に並んだ剝き出しの、見方によれば顔のようにも見えるセンサーレンズ。
ISとは異なる機動兵器だとしても、異様にすぎる。
その『異形』を見て、一夏は無意識の内に息を呑んでいた。彼の勘が告げているのだ。アレは、何故だか分からないがヤバいものだと。
「逃げなさい一夏! あたしが時間を稼ぐから早く!!」
「は? 逃げるって……女を置いて逃げれるかよ!?」
「そんな事言ってられる状況じゃないのは判るでしょ!? 第一アンタは碌に訓練を積んだ人間でもないんだし邪魔なのよ!」
「うぐっ!?」
鈴音の正論に思わず口を紡ぐ一夏。
彼女の言葉は真に正しい。一夏は鈴音と違って正規の訓練を積んだ人間ではない。
だが、だからと言って女性にこの場を任せ、男である自分がおめおめと引き下がれるかと言ったら。
(そんな事、出来る訳ないだろ!!)
彼の矜持が、それを許す筈もない。
例え未熟であろうと、自分は『力』を手にしたのだ。鈴音と同じ代表候補生であるセシリアに特訓をしてもらい、力をつけてきているのだ。引き下がれる筈がない。
「最後までアイツとやりあうつもりはないわ。適度なところで切り上げるわよ。それに、この異常事態に学園の先生たちがすぐに来て――」
「危ねぇ、鈴!」
左腕となっているガトリングガンがこちらを向くのを見た一夏は自分の思考を一時中断し、鈴音を抱き抱えるようにしてその場から離れる。
直後。彼等がいた場所を無数の弾丸が通り過ぎて行った。
「間に合ってよかった。あと少し遅れていたら蜂の巣だったぜ」
取り敢えず凌げた凶弾に、冷汗を掻きつつホッと安堵の息を吐く一夏。そのまま彼は、『異形』を正面に捉えようとして、
「ちょ、ちょっと! いい加減離しなさいよ馬鹿!」
抱き抱えていた鈴音がいきなり暴れ出してそれどころではなくなった。
「おわ!? こ、こら! いきなり暴れんなよ!」
「うううう、うるさいうるさいうるさい! いいから離しなさい!」
顔を朱に染め、一夏をポカポカと殴る鈴音。別に痛くはないのだが、何故か精神的にくるものがある。
一夏は溜息を吐きながら、
「はぁ、分かったよ。離すから暴れんな」
鈴音を解放する。
解放された鈴音は、自分の身体を抱くような格好で一夏から慌てて少し距離を取る。それになんだかなぁと内心思いつつ、一夏は『異形』へ視線を向ける。
何故か攻撃してこなかった『異形』は顔に見えるセンサーレンズを一夏達に向けると、背部、腰部、脚部に備えられたそれぞれのブースターを吹かして一夏達へと近付いてくる。
一夏と漸く平静を取り戻した鈴音は眼を細め、近付いてくる『異形』を睨み付ける。
「……お前、何者だ?」
問い掛ける一夏だが、当然返答がある筈もなく。
『織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出して下さい! すぐに私達が部隊を編成して救援に向かいますから!』
代わりに割り込んできたのは切羽詰まったかのような真耶の声。普段のぽやぽやした声とは違う、教師らしい声音だった。
「……いえ、どうやらそうも言ってられない状況みたいなんで、先生達が来るまで俺達で食い止めますよ」
『……え? お、織斑くん? 一体何を言って……』
眼前の『異形』は、アリーナの遮断シールドを突破して現れた。アリーナの遮断シールドは、ISの『絶対防御』と同じもの。その攻撃を喰らえば、一夏達も無事では済まない。だが、もし……この『異形』の攻撃が観客席にいる生身の人達の下へ向かえば……
彼等の決断は早かった。
「いいな? 鈴」
「ふん、誰に対して言ってるのかしら。一夏こそ、足を引っ張るんじゃないわよ?」
互いに挑発的な笑みを浮かべて言い合う。
『お、織斑くん!? 凰さん!? だ、ダメです! 逃げて下さい! お二人にもしもの事があったら――』
しかし、彼女の言葉が聞こえたのもそこまで。
『異形』が、禍々しい鉤爪のような右腕を振り上げて突進してきていたからだ。
一夏と鈴音はそれぞれ左右に避ける。
「はん、向こうはやる気満々だな」
「そうみたいね。なら、こっちも応えてあげましょう一夏」
彼等は横に並び、それぞれの武器を構える。
「一夏。援護はしてあげるから突っ込みなさい。武器、それだけだんでしょ?」
「あぁ、そうだ。援護は任せたぜ」
視線を交わし、二人は『異形』に向かって行った。
「織斑くん!? 凰さん!? 聞こえていますか!? 聞こえていたら返事をして下さい二人とも!?」
「落ち着け真耶。本人達がやると言っているんだ。あの場は二人に任せておけ。それよりも我々が今すべきことは、救援部隊をすぐに編成し、向かわせる事だ」
「ですが織斑先生!?」
突然の緊急事態に慌てる真耶を宥めるように言う千冬だが、彼女もこの事態に苛ついているのだろう。その指は落ち着きなくテーブルを叩いていた。
「それにこの現状、我々がすぐに向かう事も出来ん」
「それは、どういう事ですの?」
千冬が発したその言葉。それに眉を顰めたセシリアが千冬に問う。
千冬は自身を落ち着けるように軽く息を吐くと、持っていたブック型端末の画面をセシリアに見せる。その画面には、この第二アリーナのステータスチェックの数値が示されていた。
「……遮断シールドが、レベル四に設定ですって?しかも、扉が全てロック…………あの機体の仕業ですの?」
「そうだ。学園内での通信は辛うじて生きているが、このままでは避難する事も救援に向かう事も出来ん」
「ならば、政府への助勢は?」
「既にやっている。現在も三年を筆頭にした精鋭達でシステムクラックを実行中。遮断シールドを解除できれば、編成した救援部隊を即投入させる」
自分で言っていて苛立ちが増したのだろうか。
千冬の眉はぴくぴくと動き、その眼が徐々に険を帯びていく。
それに危険を感じたのか。セシリアは首を横に振ってベンチに座りなおした。
「……私達は、ただ待つだけしか出来ないのですね」
自身の無力さに力なく呟くセシリア。
代表候補生という地位になり、専用機という『力』を得たというのに、何も出来ない現実に対して歯痒く思う。有事の際に動けず、何の為の代表候補生というのか。
千冬と真耶が通信機を片手に、他の教師と連絡を取り合っているのを見ながら自分の無力さを呪うセシリア。
「…………ところで、篠ノ之箒は何処へ行ったのですか?」
そんな中、今まで黙していたアレンがふと溢したその言葉。
「…………なに?」
「…………え?」
「あら? いつの間に篠ノ之さんは?」
それに反応した三人はそれぞれの仕草を止めて、今まで箒がいたであろう場所に視線を向ける。
今まで箒が座っていたベンチは、既に誰もいなかった。
慌てはじめる真耶とセシリア。それを落ち着かせようとする千冬。
三人を横目に見つつ、アレンは一人思考を巡らす。
(別に篠ノ之箒が何処へ行こうと当人の勝手なのですが、彼女にもしもの事があれば創造主が煩いのですよね、面倒臭い事に。放っておくのも後々が厄介なので探してやりますが、何でしょうか。この、胸がざわめく感覚は。機械である筈の私が、そんなものを感じるなんてありえないというのに……)
人であれば感じるであろう不安。
人ならざる自分がそれを感じている事に戸惑いながらも、アレンの
(何故、嫌な感じがするのでしょう。まるで、大切な物を失ってしまうような、そんな…………)
彼女の心中で、警報が鳴り響く。
早く動けと。
このまま動かなければ、手遅れになると。
馬鹿馬鹿しいと、アレンは思う。機械である自分が何故そんな事を思うのかと。人間でないのに、感覚などという曖昧なものとは無縁である自分が、それを感じるなどと。
――アングレカム。
アレンの脳裏に、声が響き渡った。
――貴女も、感じたのでしょう?この、嫌な感覚を。
その声の主は、セシリアの耳元で待機状態となっている『蒼き雫』だった。
いきなりの彼女からの通信に、思わず眼を瞬かせるアレン。彼女達ISは、コアネットワークを通じて意思の疎通を行う事が出来るが、そこまで頻繁に行っている訳ではない。滅多な事では互いに遣り取りはしないのだ。
なのに、『蒼き雫』から通信がきたという事は……
(も、と言う事は、まさか貴女まで?)
――えぇ。
『
アレンは顔を俯かせて考え込んでしまう。
――行きなさい。アングレカム。
(『蒼き雫?』)
――あの方の、我等が『王』の下へ行って下さい。貴女は私達と違い、己の身体を持っている。だから、お願いします。私達の代わりに、どうか『王』を。あの方の身に何かあれば、我々は……
『蒼き雫』のその言葉に、アレンも気付く。『蒼き雫』もまた、彼女の主と同じく自身の無力を呪っているのだ。
もしも『蒼き雫』が己の身体を持っていれば、すぐさま稟を探しに向かうのだろう。『蒼き雫』も、アレンと同じ想いを抱いているのだから。
(……分かりました。私は稟様を、『王』を探しに行ってきます。『蒼き雫』、貴女達の代わりに。『王』を護ると誓っておきながら、あの方と行動を別にするなど愚の骨頂でした)
アレンは眼を細め、一夏達が戦っているアリーナへ視線を向ける。その瞳に決意の灯を宿し、
(私の名は、『アングレカム』。朽ち果てる運命だった筈の私に、『王』が授けてくれた名前。『王』よ、貴女は何を思ってこの名を授けてくれたのでしょうか?………………いえ、考えるのはよしましょう。今は)
彼女は動き出す。
彼女達が『王』と呼ぶ、少年の下へ向かう為に。
彼を、護る為に。
――あの方の事は任せましたよ、アングレカム。
(承りました。『王』の身は、我が身に変えても。『蒼き雫』、何かあれば連絡を)
――分かりました。…………頼みます。
その言葉を最後に、アレンは動く。
全ては、彼女達の『王』の為に。