ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

13 / 25
私の小説を読んでくれている皆様。
大変お待たせ致しました。
ISを漸く投稿です。

時間がかかった割には、中々いい文章にできなかった。ネタの断片は浮かんでくるのだが、それを上手く形にできない。自分の貧弱な想像力が恨めしい。
まだ色々と修正しなきゃいけないから、文章が浮かび次第加筆修正しないとなぁ……



活動報告にて、アンケートをしております。
もしよろしければ、コメント頂けると幸いです。




ー追記ー
稟君の熱の計り方を、額を合わせる方法から手で計る方法に変えました。




第十話:再会と部屋割り

 稟とアレンの紹介も終わり、ざわめきが収まる事無く授業が行われる。

 正直周囲としては授業どころの話ではないのだが、学生の本文は勉強である。ましてや担任は、世界最強である織斑千冬。彼女の存在を無視して稟に質問の嵐をぶつけるのは死を意味する。もしもそんな蛮行に走れば、もれなく出席簿アタックが炸裂する事になるだろう。

 彼女達は大人しく休み時間を待つしかなかった。

 そうしている間にも、時間は進み授業も進んでいく。

 そして三時間目の授業が終わり、千冬と副担任である山田真耶は教室を出ていく。

 それと同時に、複数の生徒が稟とアレンの席に殺到する。

 ちなみに、稟とアレンの席は隣同士だったりする。

「ここに来たって事は、土見君もISを動かせるんだよね?」

「ニュースにならなかったのは、実は訳ありか何かなの!?」

「一日遅れて入学したのはどうして!?」

「土見さんとは家族との事だけど、そこのところkwsk!」

「男の娘ktkr!」

「見た目美少女な土見君と織斑君の絡み……これはイケる!」

 あれよあれよという間に女子生徒に囲まれてしまう稟。

 いきなり女子生徒達に囲まれての質問攻めに、稟は意味のある言葉を発せずに戸惑ってしまう。

 複数の人間に囲まれる事は数えるのも馬鹿らしい程あったが、敵意も悪意もなく稟に声をかけてくる人間なぞ、あの町にはいなかった。彼に声をかけてくる者は、あの二人を除いて全ての者が負の感情を持って彼に接していた。興味や好奇心などの感情を持って接してくる人なんていなかったのだ。

 自身に向けられている様々な感情に戸惑ってしまう稟。

 何か、言葉を返さないといけないのだが、彼は言葉を紡げない。

 言葉を発しようとすると声が詰まり、意味のある音を出せない。

「あっ……と、その…………」

 そんな稟を怪訝そうに見つめる女子生徒達。

 隣のアレンが心配そうに見つめてきているのにさえ稟は気付いてない。

 このままではマズイ。何か言わなければ。

 稟がそう葛藤していると。

 

――パアンッ!

 

 そんな音が教室中に響き渡った。

「…………?」

 何事かと思い、稟が音のした方へ顔を向けると。

「休み時間は終わりだ、散れ」

 いつの間にか教室へと来ていた千冬が、一夏の頭に出席簿を振り下ろした姿のまま生徒達を威圧するように睥睨していた。

 出席簿の威力は凄まじいものであったのか、一夏は頭を抑えた形で机に突っ伏していた。そんな一夏に心の中で黙礼を捧げる稟。

 彼を囲んでいた少女達も気付けば自分の席へと戻っていた。

 誰だって、あの出席簿の一撃は喰らいたくないという事だろう。音からも威力を察せる上、それを喰らった当人がこうなっているのだ。命を無駄にしてはいけない。勇敢と蛮勇は違うのだから。

「ところで織斑。お前のISだが準備に時間がかかる」

「…………へ?」

「予備機がない。学園でお前の専用機を用意するそうだ」

「??」

 千冬の唐突な言葉に、一夏は理解が出来ていないらしく彼の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

 一方で、千冬の言葉の意味を理解した女子生徒達はざわめきだす。

「せ、専用機!?」

「一年の、この時期に!?」

「それって、政府からの支援が出てるって事だよね……」

「いいな~。あたしも専用機が早く欲しいなぁ」

 一夏の頭上のクエスチョンマークの数がまた増えた。

 彼のまったく理解していな顔に千冬は呆れたかのように溜息を吐き、彼に教科書のあるページを音読するように言う。言われるままにそのページを音読する一夏。そこに千冬からの補足も入る。

 その内容を簡潔に纏めると。

 ①世界に現存ISは467機しかない。ただしアレンは除く。

 ②ISコアを作成できるのは篠ノ之束のみ。その彼女は既にコアを作っていない。

 ③良い言い方をすれば一夏は特別優遇。悪い言い方をすれば実験体である。

「織斑君に専用機って事は、先生。土見君には専用機はないんですか?」

「土見にも専用機の話があったが、織斑がいたのでな。政府は織斑を優先させた」

 世界初の男性IS操縦者。その存在は当人達が思っているよりも計り知れない価値がある。政府としては二人に専用機を、と考えたりもしたが、コアの数には限りがある為容易には決められない。

 ならばどちらに専用機をと考えると、出した結論が織斑一夏にだった。同じ男性であるが、片や世界最強の弟。片やどこにでもいる普通の家庭の男性―稟の戸籍に関しては束が偽装済み。話題性と価値を考えれば前者を押す事になる。

 千冬の言葉に、質問した生徒は納得して頷く。そして、また一人の生徒が手を上げて質問をする。

「あの、先生。ひょっとして篠ノ之さんって、あの篠ノ之博士の関係者なんですか?」

 そんな質問が出るのは当然の事であろう。篠ノ之等という苗字。そうそうあるものでもない。

「あぁ、篠ノ之はあいつの妹だ」

 そして、あっさりと個人情報を晒す千冬。

 そんな彼女に対して、稟とアレンは僅かに眼を細める。

「えええええぇぇぇっ!?す、凄いよこのクラス!有名人の身内が二人もいるし、男性操縦者が二人もいる!!」

「しかも男子は二人とも美形男子!!」

「Yes!Yes!Yes!」

「我が世の春がきたああああぁぁぁぁ!!」

「ブラボー!おおおっ、ブラーボオオオォォッ!!」

「篠ノ之さん!篠ノ之博士って家ではどんな人なの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりするの!?今度ISの操縦教えてくれないかな?」

 授業中であるにも関わらず箒の元へ詰め寄る生徒達。目の前には千冬がいるというのに、なんという命知らずな行動なのだろうか。稟がぼんやりとそんな事を思った時。

「あの人は関係ないっ!!」

 突然、大声がした。

 稟が瞳を丸くしてその声の方へ視線を向ければ、織斑一夏も、彼女に群がっていた女子達も瞳を瞬かせて何が起こったか分からないといった顔をしていた。

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃないんだ。教えられる事などない」

 箒はそう言って、窓の外へと視線を向ける。盛り上がっていた女子生徒達は冷水を浴びせられたような気持になり、それぞれ困惑や不快といった顔をして自分達の席に戻っていった。教室に微妙な空気が流れるが。

「授業を始める。山田先生、号令を」

「え?あ、はい!」

 千冬がそれを断ち切るかのように声をかける。真耶も箒の事が気になる様子ではあったが、そこはプロの教師なのだろう。授業が開始された。

 

 

 

 

 授業は問題なく終わり、時間は休み時間となった。

 束とアレンによってある程度の知識を得ていた稟にとって、授業には難なくついていけた。寧ろ簡単すぎる内容ではあったが、彼にとってはそうではなかったようだ。

 彼―織斑一夏は授業中でもそうであったが、頭から煙を出して机に突っ伏していた。参考書があれば机に突っ伏す(そのような)事にはならない筈だが、どうやら彼は古い電話帳と間違えて捨ててしまったらしい。それを聞いた時は流石の稟も呆れたものだった。

「少し、よろしくて?」

「……ん?」

 ぼんやりと一夏の背中を見ていた稟に、ふと誰かが声をかけてきた。彼が振り返った先には。

「お久しぶり、ですわね。わたくしを覚えておいでですか?」

 数年前、イギリスの街で偶然にも出逢った少女―セシリア・オルコットがいた。

「……あぁ、覚えているよ。セシリア・オルコットさん、だよな?」

 稟がそう返すと、セシリアは安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした。

稟とセシリアが出逢ったのは、イギリスの街でのあの一回だけだ。正直忘れられていてもおかしくなかった為、彼がセシリアの事を覚えていてくれていた事にホッとしていた。彼のおかげで、彼女は変われたのだから。彼のおかげで両親の想いが分かり、幸福な一時を過ごせた。世に蔓延る女尊男卑の風潮に染まりきらずに生きられたのだから。彼には感謝し尽くしても足りない。

「えぇ、セシリア・オルコットですわ。ですが、わたくしの事はセシリアとお呼び下さい、土見さん」

「なら、俺の事は稟って呼んでくれ。土見だと、アレンとも被るからな」

「分かりましたわ。……り、稟、さん」

 少し頬を朱に染め、どこか恥ずかしそうに稟の名前を呼ぶセシリア。そんなセシリアに稟は微笑を浮かべ、

「ところで、俺に何か用かな?」

 優しく問い掛ける。

 因みにだが、周りの生徒達は興味津々に二人の会話に聞き耳を立て、アレンに至ってはセシリアを凄い形相で睨み付けているのだが、その事に二人は気付いていない。

 更に余談だが、稟の微笑に何人かの女子は顔を赤くさせ、机に轟沈しているものもいる。

「……!よ、よろしければ、ご一緒に昼食でも如何かと思いまして……」

 稟の微笑に顔を赤くさせているのはセシリアも一緒だったりするが、ここでやられる訳にはいかない。沈んでしまえば折角の再会が台無しである。

 セシリアは自分に喝を入れつつ、張り裂けそうになる心臓を抑えながら稟を昼食に誘う。断られないか、不安を押し殺して。

 その言葉に稟はキョトンとした顔をした。その顔が見た目相応に似合っていて、更に何名かの女子が鼻を抑えていたりする。その指の間から紅い雫が流れている事は気にしてはいけない。

 稟は少しの間考え、すぐに結論を出す。別に悩む必要はないのだから。

「俺なんかでよければ。アレンも一緒でいいかな?」

「は、はい!勿論ですわ」

 稟の答えに嬉しそうに顔を綻ばすセシリア。その笑顔は愛らしく、見ているこちらが赤面してしまうレベルである。

 何でこんな自分と一緒に昼食を摂りたいのかは分からないが、こんな事で喜ばれると少し気恥ずかしい。

「それじゃ、行こうか?」

 稟は頬を搔きながらセシリアを促し、アレンに目配せをする。目配せを受けたアレンは、仕方ないと言わんばかりにやれやれと首を振り立ち上がる。

 学食へ向かう為、三人は一緒に教室を出る。二人の関係が気になる女子達も追いかけるようについて行くのはお約束というものだろう。

 

 

 学食へと到着した稟達。

 学食は混んでいたが、何とか三人が座れる席を発見し一人が席を確保。二人が食券を買って食事を受け取る役に分担した。

 そうして食事を持って席について早々。

「はああああぁぁぁぁぁ」

 物凄く疲れた溜息を吐く稟がいた。

 セシリアとアレンはそんな稟に対して苦笑を溢す。その理由が分かりきっているからだ。

 稟の噂は学園中に広まっていたのか、学食へ来る道中にひたすら視線を向けられ続けていた。特に話しかけられる事はなかったのだが、じろじろ見られ、ひそひそと周りの者と話し合っている光景は稟の精神をガリガリと削っていった。ただでさえクラスからの視線に困惑しているのに、それが全学年で負の感情がないとなれば尚更である。これならばいっそ、敵意を向けられていた方がまだマシであった。その方が対処も楽だったし。

 しかも、学食に着いても未だ視線はなくならない。

 そんな訳で、席に着いた稟は既にグロッキー状態なのだが。

「ところで、稟様。そろそろ彼女の事を教えていただけませんか?」

 そんな稟に申し訳ないと思いつつ、しかしこればかりはどうしても訊いておかなければならないアレンは彼にそう問う。

 セシリアもアレンと同意見なのか頷いている。セシリアが稟と初めて出逢ったあの時。アレンはいなかった。それが彼と再会してみれば、彼の家族だと言う彼女が隣にいたのだ。気にならない方がおかしい。

「ん~~?」

 気怠そうな仕草で二人を見つめる稟。

 相当参っているのか、稟の顔色は若干悪い。それにアレンが流石に無神経質すぎたかと後悔してしまう。予想外の稟にフラグを建てられた女性(ぎせいしゃ)の登場に思考が狭まってしまったようだ。稟を想っている身として恥ずかしい真似をしてしまった。

 アレンが隣を見れば、セシリアが心配そうな顔で稟を見つめている。

 二人の心配そうな表情に稟は苦笑し、

「そうだったな。アレンには話してなかったっけ」

 思い出すのは二年前の事。

 束についてイギリスに行き、其処で出逢った目の前の少女の事。低俗なナンパから助け、どうしてか余計なお節介を働き、自分の勝手な意見を彼女に述べた時の事。

 思い出しつつ、セシリアとの出逢いをアレンに、アレンとの関係をセシリアに語る稟。アレンの事を詳しく話すわけにはいかなったので、無難に親戚という事にしておいた。色々と穴だらけだが―親戚なのに様付けとか―、何とか無理矢理に誤魔化さなければいけない。アレンがISだと知られるのはまだマズイのだ。いずれはばれるかもしれないが。

 色々と束達と考えた設定をセシリアに語る稟。その説明に納得してくれたのか、ツッコミを諦めてくれたのか、セシリアは深く突っ込まずにいた。アレンは何やら唸っていたが、いつもの事なので放置している。

「ですが、IS学園で稟さんと再会出来るとは思っていませんでしたので、この幸運に感謝をしていますわ」

 箸を進めていると、不意にセシリアがそう呟いた。稟が彼女へ視線を向けると、

「あの時、貴方と出逢えたおかげでわたくしは変われました。貴方の言葉のおかげで、両親の想いを知る事が出来ました。女尊男卑の風潮に染まらずにすみました」

 はにかみながらも、晴々とした表情でそう語るセシリア。

 稟としては勝手に自身の意見を言っただけなので、感謝される謂れはないから反応に困ってしまう。

「稟さん、ありがとうございます」

「…………別に、お礼なんて」

 だから、素っ気なくそう答えるしかできなかった。

 自分は、好意を向けられるような事は何一つしていないのだから。

 そっぽを向いて食事を続ける稟に、セシリアは戸惑う。何か彼の気に障る様な事でも言ってしまったのかと。

「心配しなくても大丈夫ですよ、オルコットさん。稟様は別に怒っていませんから」

「え?」

 そんなセシリアに、アレンが心配ないとばかりに告げる。

 とてもそんな風には見えないセシリアだが、常に稟を見てきて、彼の過去を知るアレンには手に取るように稟の心境を察せられる。

 過去が過去であるが故に、稟は人から好意を向けられた事が極端に少ない。だからこそ、好意を向けられれば戸惑うし、素直に好意を受け止めきれない。だが、それをセシリアに伝えるつもりはない。彼女に伝えられる事は、彼が怒っていないと言う事実だけ。

 アレンは思う。

 いつになれば、彼の心は癒えるのだろうかと。

 どこか悲しげに稟を見つめるアレンに、セシリアは何も言えなくなり妙な空気が漂ってしまう。

 昼食時に不釣り合いな空気。その空気を作りだす元凶になってしまった稟は顔を微かに顰め、この空気を払拭するための言葉を探す。

「…………まぁ、その。お礼は受け取っておくよ。俺なんかが口を挟まなくても、大丈夫だったかもしれないけどな」

 言葉を選びながら稟はそう言う。

 自分よりも他人を優先しようとする稟のその行為に、アレンは溜息を吐く。どうして稟は、こうなのだろうかと。

 だが、稟の次の一言にアレンもセシリアも、周りで聞き耳を立てていた女子達も固まる事になる。

「それと、その……綺麗になったな」

『…………………………は?』

 稟としては、この妙な空気を払拭したくて放った何でもない言葉だっただのが、周囲の女子達にとってしてみれば何でもなくない訳で。

 学食からは一切の音がなくなる。当然だが比喩表現だ。

 再び微妙な空気が学食に流れる。それは、先程までの気まずい空気とは異なるのだが、それでも、どう反応すればいいのかが困る空気で。

「…………ああ、稟、様?先程の発言は一体?」

 逸早く我に返ったアレンは、頬を引き攣らせながら発言の意図を稟に問う。まぁ、先程までの神妙な空気を何とかしたくての発言だったのは理解しているが、何故、よりにもよってそんな言葉を選んだのかと問いたいアレン。

「…………?俺、何かおかしな事言ったか?ただ、思った事を言っただけなんだが」

 周囲の空気が変わった事は感じた稟だが、周囲の少女達が固まっている理由に気付いていない稟は小首を傾げる。無理矢理空気を変えようとしたので、話の流れをぶった切る言葉だったのは確かだが、そこまでおかしな言葉だったのだろうかと思いながら。

「……うん。そこまでおかしくない筈だ。話の流れを無視する言葉になったけど。セシリアがあの時よりも綺麗になって、美人になっているのは確かなんだし」

 自覚のない稟の追撃は続く。

 稟のその言葉が脳に浸透し、理解した時。セシリアの顔は一気に真赤に染まる。因みに、周囲の少女達もセシリア程ではないが顔を赤くしている。

 セシリアにとって、少なからず気になっていた男からの賛辞の言葉。下心が一切感じられない、純粋な想いから放たれたその言葉は破壊力抜群。耐性のないセシリアには大ダメージすぎる。

「どうしたセシリア?顔が赤いけど、熱でもあるのか?」

 自身の言葉の威力を知らない稟の的外れな言葉。その言葉に、いやいやいやと、内心で首を振る少女達。誰のせいで赤面しているのだと言いたい気分である。

 しかし、稟は追撃に出てしまう。

「……………ん、顔は赤いけど、熱はないみたいだな」

「……………~~~~~~~~っ!!?!!?!?!?!?」

 右手をセシリアの額に当て、左手を自身の額に当ててから熱を測ると言う、行動に。

 最初は理解できなかったセシリアだが、稟の行動を脳が間を置いてから認識した瞬間。頭から湯気を出し、ボンッ!という擬音と共に眼を回してテーブルに轟沈する。

稟との再会と予想外すぎる行動に、彼女の脳はオーバーヒートしてしまったらしい。まだ稟と話していたかったセシリアだが、彼女の意識は強制的に遮断される。

「ど、どうしたセシリア!?」

 いきなりテーブルに沈んだセシリアに稟が戸惑った声を上げる。予想外すぎる事態に稟は混乱するが、それを見ているアレンは頭痛を堪えるかのように米神を抑えながら、

「稟様。貴方はもう少し、ご自身の言葉と容姿を自覚して下さい。これでは犠牲者が後を絶ちませんよ」

 そう零すが、その言葉が稟に届く事はなかった。

 稟の無自覚の言葉と言動は、あまりにも破壊力がありすぎる。それを真近で見続けてきたアレンとしては何とか治してほしいのだが、どうあっても無理だろうと半ば諦めている。願わくば、これ以上の犠牲者が出ない事を祈るのみだが、果たして。

 稟の行動はセシリアだけではなく、彼等のやり取りを見ていた女子達にもダメージを与え、休み時間は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 あの後。セシリア達女子は何とか復活し、授業も辛うじて受ける事ができた。赤面した顔は元に戻っていなかったが。

 そうして時間は過ぎて放課後。

 千冬から呼び出された稟は職員室へアレンと共に向かい、そこでISでの試験の日程の通達。彼がこれから過ごす事になる部屋の鍵を受け取る事となった。

 部屋割りが稟と同室でない事に抗議しようとしたアレンだが、流石にこれ以上の迷惑をかけたくない稟は彼女を制す。

 稟に制されたアレンはバツが悪そうに顔を顰め、自身の浅はかな行動を後悔する。稟を想うが故の行動で彼に迷惑をかけてしまうのは本末転倒だ。

 二人が納得した事を確認した千冬は頷き、彼等の部屋の鍵を渡して退室させた。

 

 

 そんなこんなで。

 職員室を後にし、それぞれの部屋へと向かう稟とアレン。

 途中でアレンと別れた稟は、相変わらずの周囲からの視線に対して、居心地が悪そうに歩きながら自身に宛がわれた部屋へと向かっていた。

 鬱陶しい、ジロジロ見るなと一喝でもすればこの視線はなくなるのかもしれないが、そうしてしまえば此処での暮らしがより居心地が悪くなってしまうのを理解している為、甘んじて耐えなければいけない。叶うのならば、同室の女子がこの視線を向けてこなければと思いながら。

 しかし、異性と同室なのはどうなのだろうか。織斑一夏がいるのだから、彼と同室にすればよかったのではないかと思考を巡らせる。これで何かあれば大問題であろうに。IS学園は何を考えてこの部屋割りにしたのか。

そうして考えながら歩くうち。漸く自身に宛がわれた部屋へと着いた。

 この扉をくぐれば、同室の女子がいるのだろう。

これからの生活に緊張と不安を抱き、稟は軽く深呼吸をしそっとノックする。

 

――コンコン

 

「は~い。どちら様かな~?」

 間延びした声が返ってきた。

「同室になった土見なんだが」

「鍵は開いてるから入っていいよ~」

 入室の許可を取り、稟は部屋へと入る。

 そこは、広い部屋だった。大きなベッドが二つあり、必要最低限の家具も揃っている。高級ホテルと言っても過言ではない部屋であった。

 その部屋のベッドの上に、寸法が合ってないのかぶかぶかの制服を着た少女が腰かけていた。

 その少女が入って来た稟に眼を向け、

「お~、つっちーが同室者なんだね~。私は布仏本音。これからよろしく~」

 そう声をかけてくる。

 その言葉に、部屋の中央まで来た稟は思わず動きを止め、

「……つ、つっちー?」

 戸惑った声を上げる。今までにない呼び方をされ、どう反応していいかが分からないのだ。

 そんな稟に対して、布仏本音と名乗った女子は小首を傾げ、

「土見だからつっちーだよ~?」

 何もおかしくないと言わんばかりにそう言ってくる。それならアレンはどうなるんだと稟が思った瞬間。

「つっちーはつっちーだから、アレンちゃんはあっち-だね~」

 まるで心を読んだかのように本音はそう言った。

 それに一瞬驚く稟だが、

「疑問が顔に出てたよ~」

 との言葉に納得してしまった。

 アレンと束からも、時々ではあるが、稟は疑問や感情が顔に出やすいと言われていたのだ。

「それにしても、つっちーは人気者だね~。学園中で噂になってるよ~?」

「……別に、ただ珍しいだけだろ、男性のIS操縦者が。俺が人気者って訳ではないさ」

 本音の言葉に、稟は顔を顰めてそう答える。

 正直、稟としては人気者と言われて嬉しくはない。人気者になってしまえば、平凡な日々から遠ざかるだけだ。彼の過去が過去であったが故に、尚更そう思う稟。

 どこか悲しげに細められた瞳に、本音は何も言わなかった。否、言えなかった。稟の浮かべる表情があまりにも儚すぎて、何かを言えばすぐにでも消えてしまいそうだと感じたから。

「……っと、すまん。少し言い方がきつかった」

 微妙な空気が流れかけ、それにバツが悪そうに顔を顰めて謝る稟。

 別に彼女は悪くないのに、若干刺々しく言ってしまった自身を恥じる。どうしてこう、自分は空気を悪くさせてしまうのかと。

「……え?ああ、ううん。大丈夫だよ~。その、私こそごめんね?」

「布仏さんが謝る事はないさ。勝手に俺が反応しただけなんだから」

 稟はそう言って、苦笑しながら本音の頭を優しく撫でる。

「………………あ」

「あ、すまん。つい癖で」

 呆然と自分を見上げてきた本音に、稟は慌てたように彼女の頭を撫でていた手を止めた。

 よくクロエの頭を撫でていたからか、どうやら癖になっていたらしい。

「別に、嫌じゃなかったから。気にしなくても、大丈夫だよ~」

 ほんのりと頬を朱に染めそう返す本音。

 初対面の人間にいきなり頭を撫でられれば不快感を顕わにしそうなものだが、稟の手は優しく、他人を気遣う温かさが感じられた為に、本音は不思議と不快感を感じなかった。寧ろ、その優しい手つきに心地よさを感じてしまっていた程だ。

 本音の反応に、稟は気恥ずかしそうに頬を搔く。

 こんな所をアレンに見られたら、彼女が暴走するだろうなと現実逃避しながら。

 そして、同室相手がこの少女で良かったと思いながら。

「まぁ、何はともあれ。これからよろしくな、布仏さん」

 だけど、素直に自身の想いを言う事は出来なくて。

 稟はそっぽを向いて、そう言った。

「こっちこそ、よろしくだよ。あと、私の事は本音でいいよ~」

「…………分かった。そう呼ばさせてもらうよ、本音」

 彼女の優しさがくすぐったくて。どう対応していいかは分からないけども、これなら何とかやっていけるかなと思いながら。稟は微かに微笑む。

 その微笑に、本音も笑みを返す。

 空気もいつしか柔らかくなり、安心できる空気になっていた。

 そこからは当り障りのない無難な会話を続けた。

 そうして、稟の学園生活初日は無事に終わりを告げたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。