ハイスクールD×D 俺と愉快な神話生物達と偶に神様   作:心太マグナム

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懐かしき悪夢と公開授業

懐かしい夢を見た。とても怖くて、とても暖かい夢。

 

幼い頃俺は親にその力を恐れられ捨てられた。俺を捨てた父親は俺ともう関わらないつもりでいたらしい。だが俺の祖父はただ捨てるだけでは面白くないと言って俺の首に賞金をかけてから何処とも知れない場所に俺を捨てた。

 

祖父のかけた賞金は莫大で賞金稼ぎの悪魔どもはその金欲しさに俺を追い続け、俺の命をつけ狙っていた。

 

「ハァ……!ハァ……!」

 

一体どれだけ走っただろう。一体どれくらいの間食事をとっていなかっただろう。一体何時から睡眠をとっていないのだろう。

 

奴らは楽しんでいた。とうとう見つけられ、怯えながら逃げる俺を嘲笑うかのように。

 

その頃の俺は教育を満足に受けられず大した力もなく、神器もロクに使いこなせていなかった為ただただ逃げる事しか出来なかった。

 

何時間、何日も逃げに逃げ続けた。だが遂に追い詰められてしまった。三方を壁に囲まれ、上空と前には賞金稼ぎの悪魔の群れ。ここで終わってしまうのか、こんなところで俺は死んでしまうのか。そう俺が諦め掛けていた時、頭上から声が聞こえた。

 

「気に入らねぇ」

 

その言葉と同時に上空にいた悪魔の全員が地に落ち、生き絶えた。

 

男は上空にいる悪魔を全て倒すと乗っていた空を飛ぶ大きな黒い蛇から降りて俺の前で着地する。その表情は仮面で隠され伺い知る事は出来ないが男は前に立つ悪魔達に対して何かしらの不快感と苛立ちを感じている事だけはわかった。

 

「テメェらが何処の誰かなんて知りたくもねぇし興味もねぇ。だけどその下卑た笑みでガキを嘲笑っているのが全くもって気に入らねぇ」

 

強力な力を感じた。俺を虐待していた父親とは比べ物にならない程の強力な力を。

 

強力な力を感知した悪魔がたじろぐ中、男は死を告げる死神のように冷徹な声で悪魔達を指差す。

 

「だからテメェら全員一人残らず俺がぶっ潰す。ガキ、今すぐ目を瞑って耳を塞げ。見たいのなら構わねぇけどな」

 

その言葉と同時に俺を追っていた悪魔が恐怖を打ち払うように攻撃を仕掛ける。

 

「ナーク=ティトの障壁の創造」

 

だが男がそれよりも早く結界を張ると悪魔達の攻撃は全て結界に受け止められてしまう。

 

 

何発もの魔術を受けても男が作り出した障壁はビクともしない。だが悪魔達はそれでも諦めずに攻撃を仕掛ける。

 

何分経っただろうか。あれほどの攻撃を受けても結界には何の損傷も無く、男もまたそれがまるで当然のように振る舞っていた。

 

「攻撃は終わりか?なら、今度はこっちの番だ」

 

男は手の平を悪魔達に向け、聞いたことの無い言語で魔術を詠唱し始める。

 

 

 

dlgmrgm(小さな黒指)jgmug5auiamug(あらゆるものを透過し)kjadegumlugdng(数多の命を握り潰す)ーーーーニョグタの黒肢!」

 

 

 

詠唱しながら男が手で何かを軽く掴む仕草をすると悪魔達が心臓に手を当て、苦しそうにもがき始める。

 

数秒後、詠唱を終えた男が悪魔達に向けている手で何かを握り潰すような動作をした瞬間、悪魔達の胸が破裂した。

 

辺りに鮮血が舞い、悪魔達は苦悶の表情でその命を散らされ絶命する。

 

「話にならねぇ。ま、いいやユキちゃんボーナスだ、やるよ」

 

絶命した悪魔達を鼻で笑う男の手からはいくつもの湯気だった心臓現れていた。だが男は手に溢れんばかりに現れた大量の心臓に全く興味を見せず、上空を舞う黒い蛇に向かって投げると黒い蛇は放り投げられた心臓の全てを一個も零す事なく喰らい尽くし、満足そうに息を吐いた。

 

強い、強すぎる。俺を追っていた賞金稼ぎどもはそこら辺に転がっている雑魚どもとは違っていた。あの中には上級悪魔と同等以上の実力を持っていた者さえ居たはずなのに目の前で佇む男はそんな事関係無く悪魔達皆を平等に絶命させた。

 

その光景を見た当時の俺は震える程の恐怖と目を逸らさずにはいられない程の圧倒的な強さに対する強い憧れを抱いていた。あれほどの強さがあればもう誰にも傷つけられないで済むと思ったから。

 

「もう終わったぞガキ、目を開けてもいいぜ」

 

賞金稼ぎの悪魔達をアッサリと倒した男がハンカチで手を拭いながら振り返る。振り返った男の顔は闇夜に溶け込むほど黒い黒い仮面で隠されておりその表情を伺い知る事はできない。だがあの時の俺には男が目をつぶっていなかった俺を見て笑っているような気がした。

 

「マジか、目を瞑らなかったのかよ。それに見た感じだと目に恐怖以外の感情がある。スゲェなお前」

 

"グゥ〜〜"

 

「……ん?」

 

危機が去った事による安心と何日も食事を取れてなかった所為もあり俺の腹が大きな音を立てる。

 

ジロジロ俺を見る男だが俺の腹の音を聞くと男は仮面越しでも聞こえる大きな笑い声を上げ、懐から取り出したラップに包まれた三角形の物、おにぎりを手渡してきた。

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!あんだけの血を見て腹の音鳴らすのかよ!面白いなお前!やるよ、食っとけ。安心しろ毒なんざ入ってねぇから。ただメチャクチャ美味いってだけだ」

 

最初はとても食べる気になんてなれなかった。男の言う通り毒でも入ってるのかもと思ったし、あれ程の殺戮を行なった男からおにぎりを受け取る気になんてなれなかったから。だが男は俺が食べようとするまでこちらがうっとおしくなるくらいのジェスチャーでガブッと食えと伝えてくる。

 

男の鬱陶しさに負けて俺はおにぎりを口にした。初めて食べたおにぎり、その味は空腹だった事もあり非常に美味く感じた。程よい温度で塩加減も絶妙、中の具材も米と塩の美味さと合わさり男の言う通り本当に美味しかった。

 

一口食べて中にまだ残ってるのに俺は次の一口を口へ運ぶ。気づけば涙が出てた。人の温もりを感じる暖かい料理、虐待を受けロクに食事も取れなかった俺にとってソレが初めて食べた温もりを感じる料理だった。

 

「美味かったろ?なんせ俺特製のおにぎりだ。美味いのは当たり前、ってな。ほら、お茶だ」

 

涙を流す俺を見ても男は気にせず、水筒に入ったお茶をくれた。ほのかに湯気が立つ暖かいお茶を俺が飲んでいると男は片耳につけている小さなイヤホンに手を当て誰かと話を始める。

 

「……ん、何?……ああ今助けたとこ……へぇ、うんわかったそうするよ」

 

短いやり取りの後、男は立ち上がる。

 

「さて、俺はちょっと用事があるからこれで行かせてもらう。お前は暫く此処で待ってろ。そうすればお前を拾ってくれる奴が来てくれる。それまでは大人しく待ってろ。ついでだ俺の水筒と弁当はやるよ」

 

俺に弁当と水筒を差し出すと黒い蛇を呼び寄せその場を離れようとする男に俺は名前を聞いた。そうすればいつかきっとまた会える気がしたから。

 

俺に名前を聞かれた男は"名前、ねぇ"と呟くと仮面を外した。その顔は東洋のアジア系で、年齢はおよそ10代後半、そしてその表情は何時もそうだと言わんばかりにヘラヘラとした笑みを浮かべていた。

 

「俺の名前はアーミテイジ、しがない魔術師だ。お前を助けたのはただの気まぐれ。別に感謝しなくていいし、俺の事は覚えてなくていい。ガキ、お前の過去がどんなのかなんて知らねぇけど人生始まったばっかりだ。精々楽しく愉快に生きろ、その方がいい人生送れるからな。楽しく愉快に生きていい人生送れてる俺が言うんだ、まず間違いない。それじゃあな未来の白龍皇。ユキちゃん、行こうぜ」

 

あの人はそう言って巨大な空飛ぶ蛇のような怪物に乗って飛び去っていく。俺はその姿をあの人から貰った弁当と水筒を抱えて魅入るように暫くの間眺め続けていた。

 

程なくして俺はシェムハザに拾われ長い間グリゴリで過ごす事になった。そこでの日々は騒がしくも楽しい日々だった。あの人は俺がこうなるのを知っていたのだろうか?いや、知っていたんだろう。何故ならあの人は笑っていたから。

 

今でもあの人が置いてった弁当箱と水筒は大事に持っている。再びあの人に会って、コレを返して、礼を言って、願わくばあの人と闘って、あの人を超える為に。

 

懐かしい夢を見た後の朝、ヴァーリは学園の門に寄りかかっていた。彼は話しかけてくる女子たちを鬱陶しそうに手で払いながら会いたい人物を待っているとようやく待っていた人物の内の一人、定治が歩いてやってきた。

 

ヴァーリから見て一人でのんびりと歩く定治の姿は心無しか落ち込んでいるように見える。

 

だがヴァーリにとってそんなものは些細なものにしか考えられない。

 

その為、ヴァーリの横を通り過ぎようとする定治にヴァーリは定治の心境を無視して定治にしか聞こえない声量で呟く。

 

「……アーミテイジ」

 

「あ、人違いだす」

 

「あ、あぁそうか。すまない」

 

「うぃー」

 

「……待て待て待て!」

 

予想外の返しにヴァーリは一瞬固まるが直ぐに気を取り直して定治の肩を掴む。だが肩を掴まれた定治はというと、あからさまに嫌そうな顔でヴァーリの方へと振り向いた。

 

「えー何だすか?人違いだって言ってるだすやん。俺阿見定治、NOTアーミテイジ、OKだすか?」

 

「いや間違いない!お前がアーミテイジだ!俺はヴァーリ、白龍皇だ!あんたには小さな頃助けられた恩がある!今日はその礼が言いたくて待ってた!」

 

「ほーん」

 

「は、反応が薄すぎるだとっ!?」

 

ヴァーリの言う通り定治の反応は薄く、今も興味無さそうに小指で耳の穴をほじり、取れた耳垢を息で吹き飛ばしていた。

 

「礼を言うのは別にいいだすけど後にしてくんないだすか?俺今日公開授業なんだすよ。それに悪いだすなぁ、今まで結構な数助けたから一々助けた人の顔なんて覚えてないんだすよぉ」

 

「そのだすだす喋りを止めろォ!」

 

「えー面白いのにー」

 

「こ、こいつ……!」

 

礼を言おうとするヴァーリに対して定治は話を聞く気など全く無く、ふざけた口調でヘラヘラ笑っている。この定治の反応にヴァーリが苛立ち始め、掴みかかろうかと思ったその時定治がおもむろにヴァーリの肩に手を置く。

 

「前に言ったろ、気まぐれに助けただけだから別に感謝しなくていいし俺の事なんて覚えてなくていいって。どうよ、楽しく生きてるか白龍皇?」

 

その声と表情は先程まのフザケた態度の定治からは想像出来ない程の優しいものでヴァーリは思わず呆気に取られてしまう。だがそれも一瞬でヴァーリは口角を吊り上げる。

 

「……ああ」

 

頷いて微笑むヴァーリを見て定治は満足そうに小さく頷いてヴァーリの肩から手を離した。

 

「ん、ならいいさ。助けた甲斐があった。そうだ、あの時やった弁当と水筒は返さなくていいぞ。俺もう新しいの買っちゃったし。じゃ、俺は授業があるから」

 

それだけ言って去ろうとする定治だが、ふと言い忘れていた事を思い出し、歩みを止めて振り返りヴァーリを指差す。

 

「あ、待った。言いたい事あるんだった」

 

「何だ?」

 

「お前の性癖なーに?……アッヒャッヒャッ、嘘嘘ジョークだって。あーアレだ、既に禁手化してるお前から見て一誠のヤツはまだまだ未熟かもしんない。お前らが闘う事自体は別に否定はしないけど、あんまり一誠の奴イジメてやんなよ?そうだなぁ、もし仮にお前が一誠の奴にイジワルしちゃったらその時は怖〜い魔術師がお仕置きしに行く事になっちゃうんで、そこんとこ夜露死苦ゥ!」

 

ヘラヘラと笑って冗談のように言う定治の姿を見てヴァーリは言っていることを正直に捉えていいのかわからずに困惑していると定治の表情がヴァーリに悪寒を走らせる程の冷酷なものへと一変する。

 

「あ、コレ冗談じゃなくてマジだから気をつけろよ。あとヴァーリだっけ?お前の中にいる龍にも言っとけ。失礼だからあんま人の魂覗くんじゃねぇよって。割とマジで俺そういうことされるのイヤだから」

 

言いたかった事を口にし終え、定治は表情を冷酷なものから何時ものヘラヘラと笑うものに変え、"んじゃよろしくー"と言って去っていく。

 

あまりの表情の変わり方にヴァーリは暫くの間呆然としてしまう。だが気を取り直し、先程定治が言っていた事を確認する為内に眠る龍アルビオンの名を呼ぶ。

 

「アルビオン、お前あの人の中を覗いてたのか?」

 

「……ッハァ!ッハァ!ば、化け物だ!アイツは本当に人間なのか!?底が知れなかったぞ!?あんなヤツがこの世にいたのか!?ヴァーリ!絶対にアイツを覗き込むな!下手をすれば覗きこんだだけで死んでしまうぞ!」

 

「……何だと?」

 

 

どうも久々にちょっとカッコいい所見せた定ちゃんです。

 

さて、ヴァーリくんに警告した後、僕は教室の扉の前に立っております。

 

あー開けたくねぇなぁ。授業サボりてぇなぁ。母さん風邪ひかないかなぁ。そしたら授業いつでも受けるんだけどなぁ。

 

それと気配でわかったけどドア越しに元浜と松田が待ち構えてるなぁ。

 

ん?何でわかったのかって?

 

ほら、俺ってほら感知系だからわかるんだよ。バックアタックは感じ取れないけど。

 

……んー、よし!うだうだ考えててもしょうがない!開けよう!母さんの事は後で考えよう!気持ちの切り替えは大事!元浜と松田には開けた瞬間にカウンター決めてやればいいや!

 

「おっはざー「定治貴様!」ブベラッ!?」

 

速っ!?俺が思ってたより殴るスピードが速っ!?

 

おいバカやめろ!のし掛かるな!その体制を今すぐやめろお前ら!キャメルクラッチとサソリ固めを同時にやるなイダダダダッ!?お前ら本気で俺を殺しにかかってんの!?

 

痛い痛いッ!折れちゃう!いろんなところが折れちゃうのぉぉぉ!

 

「聞いたぞ定治!お前転入生のゼノヴィアちゃんに迫られたらしいじゃねぇか!お前は熟女好きのはずだろ!?なんでそうなったんだよ!」

 

「俺が知るかボケェ!ゼノヴィアに聞けよイデデデデッ!?」

 

「顔か!所詮この世はイケメンが持てる時代なのかぁぁぁぁ!!」

 

「おのれ定治ゥゥゥゥ!一誠に続きお前までもかぁぁぁ!!」

 

「ギャアァァァァ!?」

 

イダダダダッ!?折れちゃう折れちゃう!チクショウコイツらにプロレス技を教えるんじゃなかった!よくよく考えてみればコイツら俺と一誠くらいにしか技掛けてこないだろうしなぁ!

 

ヤバいシャレにならないレベルで痛い!誰か元浜達を止めてくれる奴はいないのか!?

 

「で、これが定治結構好きなんだよねー。兵藤達とエロ本見てた時こういうの出た瞬間大興奮してたから間違いないよー」

 

「ふむ、なるほど」

 

桐生ゥゥゥゥ!何ゼノヴィアに良からぬこと教えてんだテメェ!マジ何でテメェは女なのにエロ本堂々と取り出してんだゴラァ!しかも俺の細かい性癖ゼノヴィアに教えてるみたいだし!なに人の性癖教えてんだよあのアホ!?マジふざけんなよお前!?テメェそんなんだから影で変態女とかエロの匠って呼ばれてんだよバーカ!

 

「おーし、お前らホームルーム始めっから席つけー」

 

おおその声は我がクラスの担任グレートティーチャー!グレートティーチャーが来たならもう安心だ!さぁ早くこのプロレス技から俺を助けてくれ!頼りの綱はグレートティーチャーだけだ!

 

「定治ー。お前もプロレス技くらってないで早く席つけよー」

 

「軽い!軽すぎんだろグレートティーチャー!この状況見て!止めてくれよグレートティーチャー!」

 

「無理だわー。俺今絶賛格ゲーの新しいコンボ考えてるから無理だわー」

 

「あんたよく教師になれたな!?」

 

クソッ!グレートティーチャー相変わらず適当な性格してるな!でもそんな所が僕は良いと思います!

 

そしてここで衝撃の事実を発表しちゃいます!実は僕、駒王学園全ティーチャーから定治呼ばわりされてます!阿見なんて入学して二ヶ月経つ頃には呼ばれなくなりました!なんでだろうね!

 

「出席とんぞー。定治ー」

 

「ハァイ!助けて下さイダダダダッ!?逝く!逝くから!俺の身体もう逝っちゃうからそろそろ離してくれよ元浜松田ァ!」

 

「「嫌だす」」

 

「クソがぁぁぁぁ!!」

 

「定治ー、他の生徒の声聞こえないから声落とせー」

 

「なら止めてくれよグレートティーチャー!イダダダダッ!?」

 

げ、解せぬ……さっきまでカッコいい俺だったのにどうして数分後にはプロレス技を掛けられているんだ……しかも誰も助けてくれない……なんか悲しくなってきた。

 

こうしてグレートティーチャーは終始俺の状況をスルーし続け、その結果俺はホームルームが終わるまで元浜と松田にプロレス技をかけ続けられるハメになり、俺は腰とか首にかなりのダメージを負うことになるのだった。

 

チャンチャン♪

 

……あ、ヤベ。母さんの対応どうするか全然考えてなかったマジオワタ。

 

 

 

時は流れ公開授業。そこでは9割以上の人が地獄と思うだろう光景が広がっていた。

 

「キャー♡定ちゃーん♡こっちよぉ♡こっち向いてー♡」

 

「(死にたい……)」

 

「「「(うわぁ……)」」」

 

地獄の光景の中心はハンディカメラとイタいうちわを手にしてはしゃぐ矢儀と羞恥心により顔を真っ赤にして涙目でプルプルと震える定治。この光景を見たクラスメイトと保護者一同はプルプルと震える定治の姿に同情し、憐れみの視線を送ってしまう。もし自分が定治の立場ならツラくて仕方がないだろう。定治はよく耐えている、と思いながら。

 

「すみません!ウチの家内が!本っ当に申し訳ない!」

 

「あ、相変わらずですなぁ阿見さんの所は……ハハハ……」

 

「何時もはおっとりとした普通の奥様なのにねぇ……」

 

一同が定治に憐れみの視線を送るいる中、生傷の跡がいたるところにチラホラと見える夢桐が頭を必死に下げ続けると長い付き合いの一誠の両親が苦笑いを浮かべる。

 

定治と一誠が幼い頃からずっとこの光景を見ている一誠の両親だが未だ矢儀の猫可愛がりぶりに慣れる事ができない。

 

一誠の父親と母親もまた一誠とアーシアの公開授業に備えてそれなりに準備し、公開授業当日は年齢の割にはしゃぎ、楽しく参加していた。

 

だがしかし、矢儀のはしゃぎ具合は一誠の両親とはまるで比べ物にならないものだった。

 

もし仮に矢儀のはしゃぎぶりを例えるとしたら、それは好きなアイドルのライブに来た女子高生がライブ中に好きなアイドルが去り際に自分の頬をキスしてくれたレベルのはしゃぎぶり、つまり周りが全く見えてない程のはしゃぎ具合である。

 

クラスメイトと保護者一同が定治に憐れみの視線を送る中、夢桐と矢儀を除いて一人だけ全く違う反応をしている者がいた。イタいハッピを着て、イタいうちわを手にした銀髪の美少女、ニャルラトホテプである。

 

「ング、クヒッ……お、面白すぎる……プフッ……こんな悪趣味なの着るハメになったけど来てよかった……!プフゥっ!もう我慢できないアハハハハ!最高っー!スゴい面白いんですけどアハハハハ!!」

 

周りの保護者達に配慮して必死に笑いを堪えていたニャルラトホテプだがとうとう笑いを抑えきれなくなり吹き出してから大爆笑する。

 

「すみませんすみません!おいニャル!お前も笑ってないで私と謝るんだよォ!」

 

「アハハハハ!すみませんそれ無理です!面白すぎてそれどころじゃないんでアハハハハ!!」

 

 

爆笑するニャルラトホテプに必死に周りの保護者達に謝罪を繰り返していた夢桐が声を荒げるが、ニャルラトホテプは気にせず笑い続ける。

 

「(もう殺して……)」

 

はしゃぎまくる矢儀の存在だけでも恥ずかしいのに謝り続ける夢桐、爆笑するニャルラトホテプというコンビネーションで教室の注目は阿見家に集中してしまい定治は余計に恥ずかしくなり顔をより真っ赤にさせてしまう。

 

そして未だに粘土に手をつけず顔を真っ赤にしてプルプルと震える定治に矢儀が意図せずして更なる追い討ちを仕掛けてしまう。

 

「定ちゃーん何作るの〜♡ママできればママの像を作って欲しいわぁ〜♡ママへの愛がたっぷり見える奴でお願〜い♡」

 

満面の笑みでうちわを振り回す矢儀が言ったこの予期せぬ追い討ち、これがついに耐えに耐え続けた定治の限界を超えさせてしまった。

 

「……ぁ」

 

「あ、やるな」

 

「ああ、絶対やるな」

 

「3、2、1、0」

 

「あ"あ"あぁぁぁぁぁぁ!!もう無理ィィィィ!!」

 

松田が0と言った瞬間、定治が絶叫しながら窓に向かって全力疾走。

 

そしてーー

 

「イヤァァァァ!!母さんのバカぁぁぁぁ!!」

 

"バリィィィィン!!"

 

「さ、定ちゃーーーーん!?」

 

ガラスをぶち破り逃走。

 

「「「(定治……かわいそうに……)」」」

 

何時やるかはわからなかったものの、この結果を予測していたクラスメイト一同は定治の心境を察して心の中で涙を零してしまう。

 

「(マジか……少しでも騒がせないように授業を粘土弄りにしたっていうのに……もうなんでもアリなのかあの人は……悪いな定治……マジメンゴ)」

 

英語担当のグレートティーチャーは過去の経験から問題を出して指すような普通の授業よりかは粘土弄りの方が矢儀が騒がないだろうと判断し、急遽授業内容を変更したのだが結果として定治は耐えきれず逃走してしまった。定治に心の中で謝罪し、頭に手を抑えてため息をつくグレートティーチャー。だが先程からずっと爆笑するニャルラトホテプを目にしてそのため息を更に深いものにしてしまう。

 

「(定治のお姉さんマジでうるせぇ……何で弟相手に愉悦して笑ってるんだよ……)」

 

「アハハハハ!アーハッハッハ!もうダメ!苦しい!お腹痛い!アハハハハ!ヒィーッ!」

 

「すまん定治、本っ当にすまない……ニャルは後で説教な」

 

「なんで!?」

 

 

オマケ

 

"駒王学園ティーチャー達の反応"

 

"バリィィィィン!!"

 

ティーチャーA「んん!?この音は!?……なんだ定治くんですか。みなさん気にしないで授業続けますよー」

 

小猫「(えぇ……)」

 

職員室

 

"バリィィィィン!!"

 

教頭先生「ハハハ、賭けは私の勝ちだねBくん。今日の飲みはキミの奢りね」

 

ティーチャーB「チクショー!これで勝ったら超高級フレンチ奢りで食えたのに!おのれ定治ゥゥゥゥ!!」

 

教頭先生「ハッハッハ、なに居酒屋も悪くないじゃないか。さて、今日はたくさん食べちゃうぞ〜」

 

校長室

 

"バリィィィィン!!"

 

校長先生「Cくん、業者さんに注文書流して下さい。いつも通りガラス一枚で」

 

ティーチャーC「わかりました〜」




人物紹介
グレートティーチャー(男) 適当な性格
ティーチャーA (女) 真面目な性格
ティーチャーB(男) 元ヤン
教頭先生(男) よく笑っている
校長先生(男) 厳しくも優しい、だが話は長い
ティーチャーC(女) おっとりとした性格

色んな先生方が居ますがいずれの皆が定治を阿見くんと呼ばず定治(くん)と呼びます。割と仲が良いので。

ニョグタの黒肢
ニョグタのわしづかみと呼ばれる魔術。この呪文は対象の人物に狙いを定め発動させると心臓麻痺のような症状を起こさせその次に胸を破裂させる。破裂した対象の人物の胸には心臓は無く、術者の手に心臓が現れる。詠唱は本来長いものだが定治はかなり省略させて発動する事が可能だす。

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