艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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倉井元帥はレオス・クラインをモデルにしてますが、中身はV主人公です。


第四十四話_番外編「決戦前夜」

「ひさしぶりだな、主任」

 

「ぎゃははははは、ひさしぶりだね~クライン。どうだい、調子は?」

 

「計画が最終段階に入った。アレを寄越してくれ」

 

「ん~それなんだけどね~、やっぱり無理かな~。キャロりんがさ~……」

 

「ならばいい、やつらだけでやる」

 

「いやいやいやいや、こういう時はもうちょっとさ、駆け引きとか楽しもーよ」

 

「それで」

 

「つれないな~。ちゃーんとあげるよ。ただし質問に答えてくれたらねー」

 

「質問、だと?」

 

「そーだよ、クライン。………貴様はなんのために戦っている?」

 

「秩序を取り戻す為だ。そして贖罪を成す」

 

「それは“倉井”の答えだ。俺が知りたいのは“クライン”の答えだよ」

 

「……酷いな、これはこれで嘘じゃないんだが。言われるがまま戦って、焼いて焼いて焼き尽くして、その未来があれだ。インターネサインが復活しなかったらアイザックの予想通り『評決の日』で人類は滅んでいたよ。……人が人を殺す連鎖は止まらない。だから、人類には天敵が必要なんだ。それによって秩序を作り出す。それが“私の答え”だ」

 

「……うっそだ~。だって「人類のため~」なんて君の柄じゃないよね~」

 

「柄にもないことをやってみたくなる時もあるさ。やるもんじゃないってわかっていてもな。なあ、主任?」

 

「まあね」

 

「……強いて言えば、“俺”は知りたいのかもしれない、自分自身の可能性を……。お前と対決した時も、この時代に生み出された時も、結局ただ戦い続けることしかできなかった。なにも残すことはできなかった。……だから、それしかできないのであれば、それで何を成せるのかを知りたいのだと思う」

 

「だから俺たちの実験に協力すると?」

 

「そもそもそういう契約で今に蘇らせたのは貴様だろうに」

 

「あれれ~そうだったっけ?」

 

「白々しい」

 

「ぎゃははははは。そう怒んないでよ。でも大丈夫~?あの二人、なかなか強そうだけど?」

 

「そうだな、少なく見積もってセサル以上だ。だが『例外が現れても維持できる秩序』、それを確かめるためにはうってつけとも言える。早期に目をつけて煽った甲斐はあった」

 

「楽しそうだねぇ、クライン」

 

「数十年の総決算だ、浮かれもするさ。ああ、主任。これ以上の“お手伝い”も不要だからな」

 

「ええ~、仲間外れはよくないなぁ」

 

「確かにお前らの実験の一つかもしれないが、これは俺の闘争でもある。俺の意思で決めた、俺の闘争だ。結末がどうなろうと、決着は俺が付ける」

 

「……そう。じゃあ、頑張ってね。あ、楽しみすぎて任務忘れちゃ駄目だよ」

 

「わかっているさ。“私”の役割はプログラムの修正だ。イレギュラーは抹殺する、例外なくな……」

 

◇ ◇ ◇

 

 

 装甲空母の格納庫の奥に2体の白い巨人が佇んでいる。その「彼ら」の足元で、本来であれば美しい純白であったろう髪を汚しながら「彼ら」の装甲を磨く少女がいた。

 

「翔鶴、メンテナンスは済んでいる。その行動は無意味だ」

 

 巨人の一体、No.2が自らの体を綺麗にしてくれている少女に呼び掛ける。無駄なことに労力を惜しむ必要はないと。しかし――

 

「そんなことはありません。次の任務、貴方達をみすぼらしい姿で送り出す訳にはいきませんから」

 

【挿絵表示】

 

 翔鶴は強く、そして他の鎮守府の者には見せることのない優しさを見せNo.2の意見を否定した。そしてクスリと微笑むと、再び彼らの装甲を磨き始める。

 

「……もう4年になるか。我らがお前に出会ってから」

 

「そうですね。貴殿方と倉井様が過ごした時間に比べたら微々たる時間かもしれませんが……、私にしたらとても濃密な時間でした」

 

「我らにとっても有意義な時間だったさ。最初はACを輸送するだけしかできなかったお前が、よくここまで育ったものだ。誇っていい」

 

「ありがとうございます、No.2」

 

 翔鶴は彼らにしか向けない満面の笑みを浮かべる。しかし直ぐにその顔に影が差した。

 

「……やはり次で最後になってしまうの……?」

 

「次の相手は十中八九あの“二匹の獣”だろう。無事では済むまい」

 

 No.2は淡々とした口調で翔鶴に答える。その回答を聞いて横にいたもう一機のACのメインカメラに光が灯った。

 

「お前らしくない発言だな、No. 2。いつから敗北主義者になった?」

 

「事実を述べているだけだ、No. 8。それに我らがどうなろうとミッションは完遂する。“勝つ”のは我々だ」

 

「なるほど、確かに。失言だったか」

 

 「分かっていて言っているだろう、貴様」とでも言いたげにNo. 2はNo. 8に視線を向けた――様に翔鶴は感じた。二機のACは先程から微動だに動いていないが、それでも談笑しているように見え、その光景に胸が痛む。

 

「お二方共「無事に帰る」とは言ってくださらないのですね……。倉井様も……。やはり他の道は無いのですか?」

 

 翔鶴が訴えるように彼らを見上げる。暫しの沈黙のあとNo.8のスピーカーが震えた。

 

「お前が生まれるよりも遥か昔に結論は出ている。深海棲艦が現れるよりも前から、我らは戦い続けてきたが……しかし、何も変わりはしなかった。変えることはできなかった。もはや倉井のミッションを成すにはこれより道は無い」

 

「やはり、そうなのですね……」

 

 項垂れる翔鶴にNo.2が声をかける。

 

「翔鶴、己のミッションを忘れたわけではあるまいな」

 

「そんなことはありません!」

 

 翔鶴は顔を上げてNo. 2のメインカメラを見つめる。

 

「生有る限り、この結末を見届けること。それが私に課せられた任務です」

 

「そうだ。……“お前は”それでいい」

 

 翔鶴は何かを言おうとしたが、これ以上の言及は下手すれば彼らへの侮辱にもなりかねないと判断し、語るべきではないと口を紡ぐ。その代わりとでもいうように彼らの清掃を再開した。ゆっくりと、丁寧に、彼らとの思い出を思い返しながら。

そうして丹念に清掃に没頭する翔鶴にいつの間にか近づいていた男が声をかける。

 

「翔鶴、企業から例の兵器を受け取る。済まないが指示されたポイントへ移動を開始してくれ」

 

「ッ、倉井様!?畏まりました」

 

 翔鶴はNo.2とNo.8に申し訳なそうに軽くお辞儀をすると、格納庫の出口へと向かっていった。そちらへ視線を向けたまま倉井元帥は口を開く。

 

「清掃途中にすまなかったな、No.2、No.8」

 

「問題ない、それよりも……」

 

 目を細めているかのようにNo.8のメインカメラから光が漏れる。

 

「いよいよか?倉井」

 

「ああ。始めよう、我らのミッションを」

 




最初は翔鶴をLiV化させるシナリオも考えてましたが、No.2とNo.8がいたらさせないよなって思ってこうしました。倉井元帥含めみんな翔鶴のことはそれなりに大切に思ってます。

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