艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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第二十話「MISSION04_黒い鳥-03」

「もうそろそろですかね?」

 

 元々の任務内容である物資の輸送を済ませ、天龍さん率いる水雷戦隊――といっても、あとは龍田さんと私だけだけど――は追加任務であるリュウジョウさんの護送任務へ移行していた。護送と銘打ってはいるが、巡航する海域は安全が確保された海域であり、実質ただの道案内だ。

 

「そうだな……っと、俺の電探に反応ありだ。小さいのが……五つ、大きいのが一つ、多分龍驤だな」

 

 合流予定海域にて天龍さんがそれらしい反応を掴む。ちょっぴり遅れて私の電探にも同じ反応が映った。

 

「私も捉えたわ~。でも天龍ちゃん、この小さい反応はなに?なんだか大きいのと等間隔で動いてるけれど……」

 

 龍田さんも同じ反応を捉えていたけれど、その反応に疑問を示す。そういえば龍田さんだけ動いているACを見たことがなかったっけ。

 

「ああ、そいつは恐らく龍驤の無人ACだよ。確か、いーのっくちゃん?だっけ?」

 

「UNACですよ、天龍さん」

 

「よく覚えてるな吹雪、そう、それだ。それを護衛がわりに展開してるんだろ」

 

「へ~そうなんだ~」

 

 そんなやり取りをしているうちに龍驤さんとの距離が詰まっていく。暫くすると空母の前方を守っているのであろう無人ACとすれ違った。

 

「あ、天龍さん見てください、この前のと違う形してます」

 

「お、ホントだ。今度のは黄色の……足が変な形してるな」

 

「へ~ACってあーやって動くのね~。あの足、まるで鳥みたい」

 

「確かに龍田の言う通りだ、鳥足だな、鳥足!」

 

「鳥足やなくて逆間接って言うんや!んなダサい言い方せんといてーな!」

 

 突如として通信にツッコミが割り込まれる。その声の主は当然龍驤さんだ。前回の任務で私たちの回線のチャンネルを知られていたのか、先程までの会話を微妙に聞かれていたらしい。

 

「よお、龍驤!水臭せえなぁ、通信繋いでたなら挨拶してくれれば良かったのに」

 

「いやぁ~なんか君らがおかしな話しとるから、こらツッコまなアカンと思ってなー、え~と……」

 

「天龍だよ、天龍!んで隣の軽巡が龍田、駆逐艦の方が吹雪だ」

 

「軽巡の子は初めましてやね。ウチが軽空母の龍驤や!よろしゅうな!」

 

「龍田よ、よろしくねー。それにしても……赤羽元帥から私たちが迎えに行くって連絡は聞いてないのかしら?」

 

 確かに龍驤さんは私たちの名前を満足に覚えていなかった。別にそれが悪いとかいうことではなく、普通は合流相手の情報は事前に与えられるものだ。少なくとも名前ぐらいは聞かされるはずなのだが……。

 

「あ~実はな、夜逃げ同然で来たもんで、そんなん聞く暇無かったんよ。いや~顔見知りが迎えに来てくれてホンマ助かったわ!」

 

 どうやら随分と急いでいたらしい。龍驤さんの甲板を見ると、手土産の深海鉄騎が布と紐でぐるぐる巻きにされ艦載機の発艦に邪魔にならないよう端に括りつけられているだけだった。いかにもただ載せただけといった感じで、よっぽど急いでいたのがよくわかる。天龍さんも「そんなんでよく合流できたな……」と若干呆れていた。

 

「ま、まあええやないか!こうやって無事合流できた訳やし。これからよろしゅうな!」

 

「はぁ、まあそうだな……歓迎するぜ、盛大によ」

 

「おっ、ケーキでも用意してくれてるんか!?」

 

「そうだな、着任祝いに何か奢ってやってもいい」

 

「あら~天龍ちゃん太っ腹~。私はなに頼もうかしら~」

 

「おいっ龍田!?奢るのは龍驤だけだぞ!!」

 

 そう言いつつも、天龍さんはなんだかんだ私たちにも奢ってくれることが多い。帰ったらなにを頼んじゃおうかな、龍驤さんとはどんなお話しをしよう……。

 

――そんな期待で胸を膨らませている時だった。

 

 カチリ……という空耳と共に、突如として心臓を鷲掴みされたような感覚に襲われる。身に覚えのある感覚……これは『恐怖』だ。私たちに今、敵意が向けられている。

 

(そんな馬鹿な!?ありえない!)

 

 私は敵意を恐怖心で感じとれる特技があった。それは普段なら敵が近づくにつれ徐々に『恐怖』が大きくなっていく感覚がするのだが……、まるで"スイッチを切り替えた"ようにいきなり『恐怖』を捉えるのは初めてだった。

 

――きっと気のせいだ、そいいう時もある。きっと……。

 

 確かめるように電探を再確認した。

 

「やっぱりなにも映ってない……」

 

 しかし、恐怖心は大きくなる一方だ。だが、電探には依然として私たちと無人ACしか映って………

 

「ACが……近づいてきてる?」

 

 それに合わせて恐怖心が大きくなっていく。いや、そんな、まさか……。

 

「龍驤さん、すみせん。一度UNACを止めてもらえませんか?」

 

「ん?なんでや?」

 

「確かめたい事があるんです、お願いします」

 

「確かめたいこと?なんやそれ?」

 

「……おい吹雪、無人ACから何か感じるのか?正直に答えろ」

 

 私の様子がおかしいことに気づいたのか、天龍さんも私に確認を取ってきた。天龍さんは私の特技を知っておりその声は真剣そのもので、私はありのままを伝える。

 

「……UNACから、凄く……"怖い"感じがするんです……」

 

「ッ!おい!リュウジョウ!!さっさとACを止めろッ!今すぐにだ!!じゃねーと……。テメーを敵とみなす!」

 

 天龍さんは龍驤さんに主砲を向け、それが冗談でないことを強調する。

 

「な、なんやねん!?君ら急に!わかった、わかったから、そんな物騒なモン向けんといてーな!……ほら、今待機命令だしたで、これで止まるはずや」

 

 しかし電探の反応にはACが止まっている様子は無い。

 

「おい、どういうことだ?龍驤……」

 

「ちゃ、ちゃうねん……おかしいんや……。何度も命令してるんやで!ホンマや!!なのに……UNACちゃん達が……命令を受け付けへん!!暴走!!?……いや、まさか……仕組まれとったんか!!?」

 

 それを聞いた瞬間、天龍さんは私たちに指示を飛ばす。

 

「龍田!吹雪!陣形を整えろ!!『あれ』は敵だ!!!」

 

 私たちは急いで龍驤さんも組み込んだ複縦陣を組んだ。天龍さんは吠えるように龍驤さんにも指示を出す。

 

「おいッ、龍驤!!お前自身は味方なんだろ!!?さっさと艦載機出せ、迎撃するぞ!」

 

「あかん、駄目や……」

 

「なにが駄目だ!?まさか積んでねーとかは無しだぞ!」

 

「ちゃうわ!!艦載機は今急いで準備しとる!ウチが言いたいんは、君らは逃げぇってことや!やつらの狙いはきっとウチや、君らまで巻き込まれることは無い」

 

 しかしその案は龍田さんより却下された。というより無理だったのだ。

 

「そうしたいのはやまやまなんだけどね~。あのお人形さんたち、誰も逃す気は無いみたいよ」

 

 恐らく龍田さんにも同じ様に映っているだろう電探の反応を見ると、まるで私たちを取り囲む様にUNACたちは円を描きながらにじりよって来ていた。これを仕組んだ者がいるとすれば、関係者は全員消すつもりなのだろう。

 

「お互い腹くくるしかねえぞ!」

 

「せやけど……ああッもう!!ウチが何とか隙を作ったるッ。君らでぶちかましたれ!!」

 

 そう叫ぶと、龍驤さんの艦体からありったけの艦載機が発艦していく。それがこの訳のわからないまま巻き込まれた戦の、開戦の狼煙代わりだった。

 

 UNACたちの輪を乱すように龍驤さんの艦載機はACの軌道上に爆弾を投擲していく。UNACは器用に、時にマギーさんが演習の時に見せていた急加速など用いて爆撃を躱していくが、どうやら避ける方向に一定のロジックがあるようで気付くと五機のUNACは二機と三機の固まりに二分されていた。UNACの動きを理解した上で正確な距離、タイミングで爆撃を行う、正に針に糸を通す様な作業をこの土壇場で龍驤さんは行っていたのだ。その練度に舌を巻き、この人が元帥直轄の艦娘であることを実感する。

 

「このまま動きを止めたる!砲撃準備頼んだで!!」

 

 私は慌てて二機に固められている側のUNACに照準を定めた。私のAMS適正では反応が遅く動いている的に当てるのは不得意だが、そうでなければ話は別だ。

 

 照準を定めている間に、二分されたUNACたちに龍驤さんの艦載機が突撃していく。UNACはまるで鳥撃ちをするように次々に艦載機を撃墜させていくが、その撃墜した影から次の部隊が間髪入れずに襲いかかった。

 

「どや!隙の生じぬ二段構えは!!これでもくらいッ!」

 

 反撃の隙も与えず第二航空部隊から投擲された爆弾がUNACに降り注ぐ。

 

「今や!!」

 

 龍驤さんの掛け声と同時にUNACたちは爆炎に包まれた。うっすらとだが、爆撃の衝撃でか確かににその影は動きを停止している。

 

「龍田!吹雪!いくぞォ!!」

 

「砲撃戦始めるね~」

 

「当たってー!!」

 

 黒煙が立ち込めている場所へ畳み掛けるように、私たちはありったけの砲撃を行った。全ての砲頭を向け、放てるものを全て放って……。そして次弾装填までの僅かな静寂が訪れる。

 

「ど、どうだ、こんだけ浴びせりゃひとたまりもねーだろ。……だよな?吹雪…?」

 

 若干すがるように天龍さんは私に確認をとる。私ならこの状況でも"感じ取れる"からだ。だからこそ……私は私自身も言いたくない事実を告げなければならない。

 

「天龍さん……"来ます"……」

 

 心臓を握り潰す様な『恐怖』は消えていなかった……。私たちの砲撃により生じた水煙の中からUNAC達がゆったりと姿を表す。多少表面が焦げ付き、装甲に幾つかへこみが見えるが……どの機体も五体満足で、その挙動にダメージは感じられない。

 

――ACは強固な装甲を持っている――

 どこかで聞いたこと――叢雲から戦艦棲姫との戦いの話を聞いたときだったか?――を思い出すが、まさか戦艦張りだとは思いもしなかった……。そしてその情報は私たちを絶望させるには充分なものだ。

 

「まさか私たちの主砲が通らないとはね~。……どうしましょうか?天龍ちゃん?」

 

「……龍驤はもう一度さっきみたいの出来るか?」

 

「……無理やな、さっきので艦載機の数も減ってもうたし、なにより投下する物がもうほとんどのあらへんよ」

 

 砲弾の装填待ちとは別物の静寂が艦隊を包み込む。

 

――詰みだ。

 

 それが目の前に突きつけられた現実だった。

 

「それでも……それでも私は諦めたくありません!!」

 

 私は主砲の照準を調整し、再びUNACに狙いを定める。

 

「たとえ主砲が数発弾かれたって、だったら百発当てればいい!!もう失うのは嫌なんです……大切な人たちをまた失うのは…死んでも御免なんです……」

 

――諦めたくない。

 

 心が折れたらそこで全てが終わってしまう。例えどうしようもない絶望を突きつけられていても、那由他に一つでも可能性があればそれで十分だ。とにかく赤城さんたちを失ったときのような惨めな自分に戻ることだけは嫌だった。

 心のどこかで「それはただの意地だ、無意味な行動だ」とささやく声が聞こえてくる。それを振り払うように、私は装填が完了した主砲から掃射を始めた。

 

「いっけぇ!」

 

 次々に私の船体から発せられた砲弾は海面にいくつもの水柱を作っただけだった。龍驤さんの支援もなしに、ACにまともに弾など当てられる訳がなかったのだ。

 しかし、それでも諦めず撃ち続ける。すると、私の放った一発の砲弾が奇跡的にUNACに直撃した。

 

「やった!」

 

 だが空しくも弾が跳弾する金属音が木霊するだけで、UNACはびくともしない。それどころか弾が当たったUNACはまるで蹴った石が当たった人の様にこちらを睨み付け、大きな火を吹かして急接近してきた。

 

「あ」

 

――『死』が迫ってくる。

 一瞬の出来事だったのに、まるでスローモーションのように眼前に迫ってくるUNACが見え、恐怖で足がすくみ奥歯がガチガチと音をならす。あまりの怖さに思わず目をつむった瞬間、船体に凄まじい衝撃が襲い掛かった。

 

「きゃあああああッ」

 

 あまりの衝撃に私は操縦席から弾き飛ばされ、艦内を転がりまわる。解体用の鉄球でもぶつけられたような強い力が掛かり、艦体が大きく傾いていた。

 

「吹雪ィッ!!」

 

「!?しもうた、アカン!!!避けられへん!!」

 

 私が体を震わせながらかろうじて身を起こすと、艦橋の窓一杯に軽空母の側面が広がっていた。再び強い衝撃が艦体を襲う。UNACの攻撃により艦の進路が反れ、龍驤さんの軽空母と激突してしまったのだ。

 再び至るとこに体を打ちつけ体はボロボロになり、口の中も鉄の味しかしない。

 

「ん……ン゛ン゛……もどら…なきゃ」

 

 それでも早く体制を立て直さなければとの思いから必死に操縦席へ戻りAMSシステムを繋ごうとする。だがうんともすんとも反応がない。

 

「なんで、どうして!動いてよ!!」

 

 なんども接続をやり直し必死に再起動を繰り返すが、機器は沈黙を保ったままだった。

 

「そんな……」

 

 当然電探も確認できず通信もダメで味方の安否もわからない。

わかることは『怖いもの』が周囲を囲っている感覚と、その『怖いもの』の銃からと思われる発砲音が聞こえるだけだ。

 

「このままじゃ……また……なにか、なにか無いの!?」

 

 ANSの接続を繰り返しながらも、必死に出来ることがないか思考をめぐらす。しかしいくら考えても何も出てこない。

 

――無理だ

 

「そんなことないッ!」

 

――お前は無力だ

 

「そんなこと……そんなこと…」

 

――諦めろ

 

 心が軋む感覚がする。

 "折れる"……そう思った瞬間だった。

 

 

 

  ガシャンッ

 

 

 艦体に三度目の衝撃が走る。私の思考を断ち切るように、何かが落下してきたような衝撃。私は急いで艦橋の外を見る。……布にくるまれた何かが、私の船に落ちていた。

 

「ッッ!!」

 

 『それ』が何であるか答えをはじき出す前に、私の体は『それ』に向かって走り出す。走りながら頭の中で答え合わせをする。

 

(きっと私の艦とぶつかった衝撃で龍驤さんの艦から落ちてきたんだ……)

 

 なぜ『それ』がここにあるのか自分なりの答えを出すが、同時に別の疑問が湧く。

 

(『それ』を私はどうするつもりだ?)

 

 私は『それ』の扱い方など露も知らない。『それ』を目の前にしたところでどうすればいいか分からない。しかし、それでも体は『それ』に向かって走るのをやめなかった。

 

「はあ、はあ……」

 

 私はついに『それ』の目の前にたどり着く。

 

――深海鉄騎……いや、『アーマードコア』の目の前に。

 

 強化人間の膂力に物を言わせ、ACに絡みつく布を引っぺがす。すると落下した衝撃のせいか……ACのハッチがまるで私を招き入れるように開いていた。

 

「……うん」

 

私は覚悟を決めACに乗り込んだ。

 

◇ ◇ ◇

「えっと……どうすれば?」

 

 ACに乗り込んだのはいいものの、ハッチの閉じ方すらわからない。とりあえず片っ端からそれっぽいボタンを押してみた。ほうっておいたらお互い水底へ沈む運命なのだ。だったら「壊れるかも」という心配は考えないことにした。いくつかボタンを押したとき、画面に明かりがつきハッチが動き始める。

 

「やった!」

 

 ハッチが完全に閉じ、コックピット内を照らすものがパネルの明かりだけとなった。

 

<おはようございます、メインシステム、パイロットデータの認証を開始します>

<パイロットデータがありません、新規パイロットデータを作成しますか?>

 

 コックピット内に女性の声が響き渡り、タッチパネルに<yes><no>が表示される。

 

「えと……yesでいいんだよね」

 

 私が<yes>に指を置いた途端、画面内にわけの分からない文字が乱立し始めた。

 

「え、え??」

 

<くぁwせdrftgyふじこlp///……コネクタヲカクニン>

<バトルオペレーション、『ダークレイヴン』ヲダウンロードシマス>

 

 表記を読み上げる声にもノイズが掛かっており、ACのことが分からない私でも何かがおかしいことがわかる。そして突如として首筋にあるAMSコネクタに、まるでスタンガンを押し付けられているような痛みが走った。

 

「~~~~~~~~ッッッ!!!!なにかが……流れッ…こんで…くる!!」

 

 しびれるような痛みで体が痙攣し、頭が煮立っているように熱い。意識が途切れそうになる。

 

――ようやくその激痛から開放されたとき、目の前にはただただ真っ白な空間が広がっていた。まるでホワイトアウトを起こしたようにあたり一面真っ白だ。

 

 

「ほお、パルヴァライザーの作ったシステムにまさか人間がアクセスしてくるとは、しかも君みたいな子が……。これも素養ってやつなのか?」

 

 声のする方を向くと、黒ずくめの服に白いジャケットを着た男の人が佇んでいた。

 

「あなたは……ここは一体……」

 

「ここは君の頭の中だ」

 

 どうやら激痛で意識が途切れそう、と思っていたが本当に途切れてしまっていたらしい。とすれば、これは夢なのだろうか?

 

「ああ、言っておくが夢とはちょっと違うぞ。アナウンスで流れていただろう?今は"ダウンロード中"なんだ」

 

「ダウンロード中……?」

 

「そう、この機体の戦闘オペレーションのな。さっきのもう一つの質問に答えよう。俺はその戦闘オペレーションシステムだ。……そうだな、説明書、と思ってくれればいい」

 

説明書、つまりこの人はACの扱い方を教えてくれる存在……。

 

「お願いです!!だったらこれの使い方を教えてくださいッ、早く!!!じゃないと天龍さんがッ、龍田さんがッ、龍驤さんも……。早く!間に合わなくなっちゃう!そんなの……そんなのもう嫌なんです!!」

 

「……それが君の"答え"か?」

 

「は……?」

 

「焦るのはわかるが、これの確認は大切なんでな。人は、戦うために戦うのではない……自らの"答え"を成すために戦う。"答え"の是非はどうでもいい、重要なのは有無だ。それを違えてしまったら、"人ではなくなってしまう"。だからもう一度聞くぞ?君の"答え"はなんだ。『君は"なんのために戦う"』」

 

――私の戦う理由

 

 当初は、戦うことが当たり前だった。艦娘として生を受けたときから、それが義務付けられている運命だった。だからそれについてあまり考えたことは無い。

 でも赤城さんたちの死を目の前にして、確固としたもの出来上がった。同時に戦場から離れることになり、胸に秘めるしかなかったそれを今この場で吐き出す。

 魂から叫ぶように。

 

「私は……私はもう失いたくないんです。大切な仲間を、かけがえない人たちを……。そして、それを守れない無力な自分が嫌なんです。……強くありたい、力が欲しい!みんなを傷つけるような存在を全て焼き払えるような力が!!……そうだ、私が皆を、皆を……ッ」

 

<『ダークレイヴン』ノダウンロードガカンリョウシマシタ>

<システム通常モードに移行、パイロットデータ『吹雪』を登録します>

 

突如として真っ白の空間にアナウンスが響き渡る。

 

「……どうやら完了したようだ。そして確認させてもらった、君の"答え"を。今この瞬間から、君はレイヴンだ」

 

【挿絵表示】

 

「好きなように生き、好きなように死ぬといい。誰のためでもなく、自分自身の"答え"のために。『コレ』はそのための力だ。……成就しろよ、君の答えを」

 

 励ますように説明書さんに肩を叩かれ、私は目を覚ました。既にACの戦闘システムは起動しており、画面には複数のカメラにより擬似的に作り出された自機後方からの視点が映し出されている。

 

「……えと、あ、そうだ!!」

 

 私は呆けていた頭をたたき起こす。ACに乗り込んでからどれくらいたったのだろうか!?とにかくみんなの安否を確認せねば。ACをスキャンモードに切り替えリコンを飛ばし、周囲を見渡した。目の前の龍驤さんの軽空母も、リコン越しに捉えた天龍さんと龍田さんの軽巡もかなりのダメージを負っているもののなんとか健在している。

 

「よかった……まだ間に合う!」

 

 ここで私はあることに気付いた。

 

――ACの使い方が分かる

 

 ACにどんな機能があるか、この機体にはどんな武装が積まれているか、どう戦えばいいか……。それを理解できている。それが分かると同時に、目から大粒の涙があふれ出てきた。

 

「やれる!やれるんだ!私にも……」

 

 私は今、『力』を握り締めている。焦がれ続けていたものがこの身に宿っている。それがたまらなく嬉しかった。

 

「……泣いてる場合じゃない」

 

 そうだ、『力』はあくまで行使するものだ。言われたじゃないか、「己が答えを成就しろ」と。私は涙を拭い去る。

 

 さあ、成すべきことをしよう。私の大切な人たちを傷つける怖いものは、消してしまえばいい。今の私にはそれが出来る。

 

「……吹雪、"発艦"します!」

 

 ACのブースターに火を灯し、私の名を冠する艦体を思い切り蹴り出す。

――まるで殻を内側から破るように。

 

 

「私が皆を護るんだから!!」

 

 

 

 

 

――雛鳥はその産声をあげ、大海原へと飛び立った。


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