灰と幻想のグリムガル ―孤独な魔戦士―   作:雨宮海人

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感想でも言われましたがフミヤがいてもマナトは救えませんでした。
マナトファンのみなさん申し訳ありません。

そして少しだけあの人が登場します。

最近評価がだだ下がりのこの作品ですがこれからもよろしくお願いします!



第12話 決意

次に俺が目を覚ました時には全てが終わっていた。

 

俺は神官ギルドで倒れてから、すぐに治療を受けて何とか助かったらしい。致命傷ではないせよ重傷の状態で動き続けたのがまずかったらしい。

 

マナトの先生であったホーネン師には

 

『貴様も若き命を粗末にするのか!なぜ、自身の魔法で少しでも治さなかった!』

 

と怒鳴り散らされた。どうやら俺のことを見ただけで魔戦士だと見破っていたらしい……

 

しかし、俺はそれに構わずハルヒロ達がどうしているのかを尋ねた。

 

ホーネン師はすぐに教えてくれて、今回の治療費もマナトに免じてなかったことにするといい俺を案内してくれた。

 

まだ、万全ではない体を引きづりながらも俺はオルタナの外にある火葬場までついた。

 

そこで見た光景は最悪だった。マナトの墓と思われる場所にハルヒロ達はいて、皆なにも喋らず、聞こえてくるのはシホルのわずかな泣き声だけだった。

 

認めたくない現実がそこにあった。

 

だが、俺もこのままというわけにはいかない。歩き出し、ハルヒロ達に近づく。

 

「……フミ、ヤ、君」

 

そんな俺に最初に気付いたのはマナトの墓から目をそむけ続けていたシホルだった。涙を流し続けており、俺の名前さえまともに呼べない。

 

「よかった。フミ君……」

 

その後にユメが俺の方を見て、そういった。しかし、俺にはその言葉が何より辛かった。

 

よかった。その言葉はあまりにこの場には不釣り合いすぎたからだ。

 

そして、残りの男子共もこちらの方を見る。泣いているわけではないがその顔に気力などは一切感じられない。

 

こんな状況で聞くべきではないのかもしれない。それでも俺は――

 

「教えてくれ。俺が気絶してる間と逃げた後にあったことを……」

 

聞かずにはいられなかった。聞かなければマナトが死んだことに納得できなかったからかもしれない。他にも理由は色々あるが聞かなければならないそう思ったのだ。

 

そう言うと、シホルは再び泣き出してしまう。ユメはそのシホルを支え続けている。女子に聞く気は最初からなかなったので俺はハルヒロに視線を向けた。

 

しかし、ハルヒロも思い出したくないのか、何も話してくれない。だが、少ししてからその口を開く。

 

「……フミヤがホブゴブリンにやられた後、マナトがまだ相手は二匹だいつも通りやれば勝てるって言ったんだ。俺の治療も終わってたし、みんなでやれば勝てるそう思ったんだ」

 

マナトがあの状況でそう考えたのか?確かにまだあの時はホブゴブリンと上級ゴブリンしかいなかった。ボウガンのやつは射程にいなければないのも同じだ。

 

でも、だからこそ数の優位で俺を連れてでもまだ逃げれたはずだ。なぜそうしななかった……

 

違う、マナトも俺と同じく油断してたんだ。ハルヒロの言うとおり勝てると思ったんだ。

 

「でも、全然敵わなくてさ。怪我するたびにマナトが治してくれて、何とか耐えてた。だから、諦めてマナトがフミヤを連れて逃げようって言いだしたんだ」

 

「それで、ユメが俺のことを運んでくれて後は俺の知る通りか?」

 

「うん。フミヤのことは心配だったけど、マナトがフミヤは実はすごく強いやつなんだって教えてくれて。それで大丈夫だと思って逃げた。でも、走ってる途中でマナトの様子がおかしくなったんだ。でも、平気っていったから逃げ続けた。思えばあの時にもう矢が刺さってたんだと思う」

 

……おかしい。ボウガンを持っていたはずのゴブリンは俺の方に来ていた。あの状況でマナトを狙えるゴブリンなんて――

 

「……あのゴブリンか」

 

すぐに戦線から離脱した上級ゴブリンは俺ではなく最初からマナト達を狙撃するつもりで逃げたということだろう。武器が剣だったので遠距離の可能性を一切考えてなかったがボウガンを持っていたはずのゴブリンはボウガンを持っていなかった。途中でボウガンを持ったゴブリンから受け取ったのだと考えれば辻褄が合う。

 

冷静に考えればあそこであいつを野放しにするのはまずい、足止めするべきだった。なのに俺は――

 

「俺は……何をしてたんだ!」

 

俺は耐えられず、地面に向かった拳を殴りつけた。

 

今考えれば俺はバカでしかない。マナトが死ななくなるようにすることはいくらでもできたはずだ。それなのに俺は――

 

それ以降は俺も何も言えなくなった。

 

いや、何を言っていいのかわからなくなったの方が正しいのかもしれない。

 

謝らなきゃならない気がした。最初はそう考えたがそこまで考えてなんて謝ればいかわからなくなった。

 

最初から手を抜いて手伝っていたこと?ダムローのゴブリンについてもっとくわしくはなせばよかったこと?不意打ちされる可能性を一切考えていなかったこと?

 

考えれば考えるだけ謝らなきゃいけないことが増えていき、言葉にできない。

 

そうしているうちに時間が経過していった。俺はここにきてからそこまで時間は経ってないが最初からいたハルヒロ達からすればかなり長い時間ここにいたのではないだろうか。

 

「俺もう行くわ」

 

最初に動いたのはランタだった。荷物をまとめて立ち上がる。だが俺はなんて言葉をかけていいかわからず、その場に座っているだけだった。

 

「行くって、どこに?」

 

「どこだっていいだろうが」

 

モグゾーの言葉にランタはだるそうに返す。しかし、その後

 

「いつまでここにいるつもりなんだよ!今更どうにもなんねぇんだよ!」

 

耐えきれなかったのだろう。ランタの気持ちもわからないでもない。だがすぐにユメが立ち上がり、ランタに向かって行った。その時俺はすでに自然と体が動いており、

 

「あほうっ!――っ!?」

 

思いっきりビンタした。ランタではなく割って入った俺の頬をだ。とても痛そうな音が静寂の中で響き渡る。というか本当に痛い。怪我した時なんて比じゃないくらいにユメのビンタは痛かった。

 

「はぁ……はぁ……な、なんで……ぅう」

 

いきなりのことにユメは驚いたが、すぐに涙が込み上げてきたのだろうそのまま泣いてしまう。俺にはそんなユメを抱きしめることしかできなかった。

 

「……ランタ。言葉は選べ」

 

俺はユメを抱きしめながらそういった。何でランタを庇ったのかなんて自分にもわからなかった。もしかしたら贖罪の一つだとでも思っているのだろうか?そう考えた自分に俺は俺自身を軽蔑した。

 

そんな俺にはユメを抱きしめる資格すらなだろう……

 

「くそっ!」

 

ランタはそのままオルタナの街の方に歩き出してしまった。

 

ハルヒロは一瞬止めようとしたが、すぐに立ち上がりランタについていった。モグゾーも同じようだ。

 

ハルヒロが心配そうにこっちを見たが、俺は首を振ってここに残る意思を伝えた。

 

ハルヒロは軽くうなずいたのだろうか。一応俺にはそう見えた後ランタを追いかけるように行ってしまった。

 

ユメは俺に抱きしめられたまままだ泣いている。シホルに至ってはもう涙も声も枯れ果ててしまったのだろう。何も言わずマナトの墓の前に座っているだけだった。

 

ランタの言い方には問題があったが本当にここにこのままいるだけではいずれ倒れてしまう。どんな形でもいい、宿舎に返さなければならない。

 

だが、俺にはどんな言葉をかけていいのかわからなかった。さっきの状態ですら何も言えなかったのだ。当然だろう……

 

「……もうええよ。ありがとな」

 

ようやく落ち着いたユメが俺から離れていき、シホルの方へと向かっていく。

 

少し距離があるので声は聞こえなかったが、ユメが何とかシホルを立ち上がらせたようだ。しかし、その歩き方はふらふらしており、今にも倒れそうである。

 

「フミ君。怪我してたのにいいにくいんやけど、送ってってくれるかなぁ」

 

「ああ、当たり前だろ。シホル、背負ってやるよ。歩くのも辛いだろ」

 

ユメの助け舟で自然と俺からも言葉が出る。シホルも何も言わなかったが俺の背に乗っかってくれた。女の子ということもあって軽い、万全でないので不安もあったが問題なく運べる。

 

「宿舎まででいいんだよな」

 

「うん、お願いな」

 

こうして俺たちもオルタナの街に戻った。すでに日は落ちており夜の活気で街は賑わっていた。

 

 

しかし、そんなのも一瞬で宿舎の前には静寂のみが広がっていた。

 

「もうええよ、シホルもここからならあるけるやろ?」

 

「……ぅん」

 

久しぶりにシホルのまともな返事を聞けたことに俺は安堵した。そしてゆっくりとシホルを下ろす。足取りはおぼつかないようだが大丈夫のようだ。

 

「じゃあ、また」

 

「ちょっと、待って」

 

俺はそれだけ言って去ろうとしたが、ユメに止められてしまう。

 

「本当はみんなで言わなきゃいけないんやと思うけど、ありがとな、ユメやシホルを助けてくれて。そして怪我我慢して私たちのために動いてくれて。フミ君いなきゃうちただじゃすまなかったもん」

 

シホルを支えながら、ユメは感謝の言葉を口にしたのだ。なぜ感謝できる、俺がしっかりしていればマナトは死なずにすんだのに……

 

「その言葉を受け取る資格なんて俺にはない」

 

俺はそこから逃げるように離れた。ユメが何かをいってたかもしれないそれでも俺は聞かずに逃げた。

 

 

 

その後俺はシェリーの酒場に来ていた。席はいつもの場所飲みたいような気分ではなかったがのまなければ罪悪感に押しつぶされそうだったので俺は飲み続けていた。

 

途中、遠くの席で揉めるような声が聞こえた。それもハルヒロ達のものだ。

 

あいつらが酒場まで来ていたことは意外だったが、ここであいつらに話しかける気も起きず俺はただただ酒を飲み続けていた。

 

「おやっさんも一杯」

 

「どうしたんだらしくない。いつものお前さんはこんな飲み方しないだろ?」

 

いつもカウンターで仕事をしているおやっさんに声をかけられる。

 

確かにそうだ。俺はこの席で静かにゆっくり飲むのが好きなのである。でも、今の俺はそんなこと考えていないただ忘れたいのだこの罪悪感を。

 

「何かあったようだな。今日の分はつけといてやるから好きなだけの飲みな。あとでしっかり払ってもらうからよ」

 

「……ありがとう。おやっさん」

 

しばらく俺はハルヒロ達が近くにいることなど忘れてとにかく飲み続けた。店に入った時間が早かったこともあり、俺は日が変わる頃にすでに酔いつぶれてしまい。カウンター席でうつ伏せになっていた。

 

「一杯下さい」

 

すでに意識が混濁して、うつ伏せなので会話しか聞こえないがとても綺麗な女性の声が隣で聞こえてきた。

 

「はいよ、悪いね。そっちのやつ今日色々あったらしくてな。大目に見てやってくれ」

 

「別にいいです。酒場で酔いつぶれるなんて珍しい光景でもありませんし」

 

どうやら俺の事は一切無視で飲むようだ。俺なら隣に酔いつぶれたやつがいたら面倒そうで近寄らないものだが、変わった人もいるようだ。

 

「でも、何があったんです?私も何度か見かけましたがこんな酔いつぶれるまで飲むような人には見えなかったんですが」

 

「そりゃ、わからねぇよ。客のプライベートにずかずか入り込むのは俺の仕事じゃねぇ。愚痴なら聞いてやるがな。お前さんも少しは変われたか?」

 

「……明日、新しいパーティーに参加することになりました。でも、まただめだと思います」

 

「諦めるのがはやいねぇ。嬢ちゃんのような若い子はすぐに諦めるなんてもったいないとおもうぜ。それに嬢ちゃんはやりたいようにやればいいさ。いずれうまの合うやつが現れる」

 

「マスターはほんとにおだてるのがうまいですね。ありがとうございます。いつも励ましてもらって……」

 

「気にするな。それは俺の仕事だからよ」

 

どうやら、おやっさんは人の相談に乗るのがうまいらしい。たまに話す程度でそこまで親しくないが俺も相談してみようか。そう思い俺は酔って重くなった頭を上げると、先に隣の女性が目に入った。

 

そこには絶世の美女がいた。正直この街に来てから何人もの女性を見てきたがここまで綺麗な人を俺は知らない。もちろんユメやシホルも可愛いでもこの女性はそのワンランク上の存在に感じた。なんというか人間離れした美しさといったところだろうか……

 

「何見とれてるんだ。酒に酔って女に手でも出したくなったか?やめとけ、一瞬で断られるぞ、はははっ!」

 

「……違いますよ。すいません、見とれちゃって」

 

「別に、私に変なことしようものなら叩きのめすだけだから」

 

さっきまでの口調とは違いかなりトゲトゲしい。俺も似たようなものだから何とも言えないがこの人は人によって口調を使い分けるタイプなんだろう。

 

「まぁ、落ちつきな嬢ちゃん。それで、坊ちゃん話でも聞こうか?」

 

「人のプライベートに入り込まないんじゃなかったのか?」

 

「辛いことは抑え込むより、話した方が楽になるぜ。特にお前らみたいに何でも一人で抱え込みそうなやつらわな」

 

お前らということは隣の女性もそうだったのだろうか?しかし、それは俺の知るところではない。

 

普通なら簡単に話したりはしないだろうけど、馴染みのあるおやっさんぐらいに言っても罰は当たらないだろうか?そう思ったところで、

 

「今日は帰ります。あんまりそういう話は聞きたくないので」

 

「そうかい、じゃあ、うまくいくことを願ってるよ」

 

「ありがとうございます」

 

綺麗な女性はお金を置くとすぐに店を去ってしまった。でも、見知らぬ人に話せる内容でもないしちょうどよかっただろう。

 

「ほら、話してみな。まぁ、聞いてやるだけだけどさ」

 

おやっさんの笑顔に少し救われつつ、俺は酔った勢いで今回あったことを全部話した。怒り、悲しみ、様々な感情をとにかくおやっさんにぶつけた。

 

そして、あらかた話し終わる頃には大分楽になっていた。

 

「どうだい、楽になったろ?」

 

「まぁ、そうですね。俺、どうしたらいいんでしょう?」

 

「知らん」

 

あまりのおやっさんの即断に俺は飲んでいたジョッキを落としそうになる。

 

「こんだけ聞いてそれですか……」

 

「甘えてんじゃねぇぞ。お前らは義勇兵だ。一々口出さなきゃ何もできねぇようじゃやっていけねぇよ。俺の仕事は愚痴を聞いてやることだ。まぁ、可愛い女の子にはサービスするがな」

 

このおやじ、意外に現金な奴であった……

 

でも……なんでだろう。さっきよりはすっきりした。このまま立ち止まってなんかいられない。止まったらダメなんだ。

 

「ありがとう、おやっさん。俺どうしていいか全然わからないけど、このままうだうだするのはやめる」

 

「そうそう、男ってのはそうでないとだめだ。せいぜい頑張るんだな。今日の分はつけじゃなくて俺の奢りって事にしておいてやるよ。今日はもう帰りな」

 

「何から何までありがとうございます」

 

「別にいいってことよ、これからもうちの店にガンガン貢いでさえくれればな」

 

そう言っておやっさんは笑っていた。あの女性がいった通り本当におだてるのがうまい人だ。

 

そう思いながら俺は店を出て、宿舎まで歩き出した。

 

明日からどうなるかわからないが俺なりに前に進まなければならない。

 

「約束……絶対に守るからな」

 

俺はそう決意して宿舎に戻るのであった。

 

 

 

 




オリジナルモブ おやっさん=酒場のマスターですごくいい人(女に甘い)

というわけでフミヤあっさり復活。これからは前を向いて進んでいくでしょう。
(その道が正しいとはいっていない)

ハルヒロはマナトの頼むという言葉を俺には無理だよと最初は諦めてしまいます。
なのでフミヤには逆にマナトの言葉を重荷として背負ってもらうことにしました。

感想などあったらよろしくお願いします!

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