Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S 作:オールドタイプ
『ご機嫌如何かな? 栄えある監視員諸君。今日は君達に重大なお知らせがあるのだよ』
監視者専用の通信機に奴から通信が入る。つい先日に見つけたもう一人のクライアント。まぁ、一種の保険みたいなものだ。
私のクライアントが万一にも金を払わなくとも構わないようにな。
その男もU.B.C.S.の中に紛れ込む監視員の一人。だが、彼だけは他の隊員のように集団で行動することはない。否、行動はしていたのだが、【今は】彼一人だけである。
『会社は正式にB.O.W.の投入を決定した。既に遭遇している者もいるかもしれないが、そんな偶発的なものではなく、意図的にだ』
どうやら会社は完全に株主側にコントロールされたようだ。面倒なことになった。状況が状況なだけに少々分が悪いな。
彼自身何体かのB.O.W.とは交戦済み。だが、それらは今回のアウトブレイクが生んだ代物に過ぎない。そのため、対処法などは決まっておらず、撃退できるかは個人の力量に左右される。
『戦闘レベルは最高で調整されている』
Чёрт!
つまり、研究所とラクーン大学に存在する【あの個体】も動くということか。ますます面倒だ。この程度の装備で奴らと遭遇すると流石の私でも対応しきれない。
あの個体。それはアンブレラが誇る最強の生物兵器。人間が素体ではあるが、度重なる実験により、T-ウイルスに強い免疫を持つ人間を選別し、手を加え完成させたもの。
一体を生み出すのに掛かるコストが莫大なものであるため、大量生産は叶わないが、あのハンターをも凌ぐ知能を持ちながら戦闘力は他の追従を許さない。
一体で軍の師団とも渡り合えるとも言われている。それらが投入及び、始動したのは信じ難いことであった。
あの個体のデーターは最高の価値で売れるが、私自身の命の保証もしかねる。どうにかして手を打たねばならないな。
彼は迷っていた。その個体のデータを入手するか、このままちまちまと雑魚のデータ回収して脱出するかを。
『まぁ、この通信を聞いている監視員がどれだけ残っているかは分かりませんが、特にあの個体のデータを持ち帰った者には更に特別報酬を支払います』
特別報酬。その言葉を聞き彼は決心した。
そうだ。まだこの街には【奴等】がいるではないか。あの洋館を脱出したあの人間ならば投入されるB.O.W.とも互角に渡り合えるだろう。
つくづく私はついている。
私の周りにはこんなにも金に成る木が生え揃っているではないか。
『それでは健闘を祈りますよ』
彼にとって生存者は戦闘データを計る道具でしかないのだ。U.B.C.S.であってもU.S.S.であっても同じ道具にしか見えていないのだ。
すると、彼が立つステージの向かいのステージの扉が勢いよく開かれた。中に入ってきたのは以前に出会ったU.S.S.のメンバーであった。
「あはははははは!」
これが笑わずにいられるものか! 金は全て私のものだ。
「貴様っ! 何故自分のチームメンバーを殺した!」
嘲笑う彼の姿を見たU.S.S.は彼にそう問いかけた。その言葉には怒りが込められている。
「奴らは実に役に立った! 奴らのお陰でデータ回収が捗った!」
「そんなことのために殺したのか!」
頭上で何かが、無数の何かが蠢く音に彼は気がついた。U.S.S.のメンバーの怒号がそれらを呼び寄せたようである。
役者は揃ったようだな。観客である私はステージ外から安全に眺めさせてもらおうか。
「お前達もそうさ!」
奴らの足元に向かって私は拳銃を発砲する。傷付いたメンバーを護りながら戦う姿を見るのも余興としては素晴らしいことだが、悠長に構えてはいられないのでね。
まぁ、遊びの道具はいくらでもある。
拳銃の発砲を皮切りに、天井を蠢いていた音の持ち主達が一斉に通気孔から現れる。
姿を現したそれらは、この世のモノとは思えない世にもおぞましき容姿であった。
剥き出しの脳。異常に発達した爪。時折口元から伸びる驚異的な長さの舌。顔に眼はないが、それらはステージに立つU.S.S.のメンバーを確かに感知し、獲物を前にした肉食動物のように舌なめずりをする。
「それでは健闘を祈るよ」
彼は静かにその場を立ち去る。
ここで死ぬようなら所詮はその程度の実力。だから簡単にくたばらないでくれよ。まだまだ君達には私の役に立ってもらうのだから。
それはそうとして、彼女とも接近しておく必要があるな。つい最近まで警官だった彼女の行き先は恐らく警察署。
今の私の現在地からはかなり離れているが、致し方ない。回収のまでまだ時間はある。半日もすれば警察署付近には辿り着けるであろう。
そうと決まると彼は足早に警察署へと向かい始める。
お目当ての人物にも賞金が掛かっており、彼女の賞金と戦闘データによる報酬も全てを手に入れるつもりなのだ。
......銃声が止んだな。
彼は足を止める。先程まで銃声がしきりなしだったが、今はもう聞こえてこない。U.S.S.達が死んだ若しくは出現したB.O.W.を全て撃退したのどちらか。
早いな。流石は精鋭のU.S.S.。道具を仕掛けておくか。
私は無人のトラックに詰め込んでいたバックを引き摺り出し、中身を取り出す。
バックの中身は私自作の小型の簡易爆弾。一定の時間が立ったり、衝撃が加わると爆発する仕掛けだ。
顔が綻ぶのを止められない。奴等は任務を遂行しつつ私のことも追ってくるだろう。
このまま進めば奴等は病院につくだろう。ラクーンシティにある病院の内、最大規模の中央病院に次ぐ大きさの病院。
そこに仕掛させてもらおう。
バックを背負い、私は寄り道のため進路を変更し、第2病院へと向かう。病院付近は、幾つもの救急車両が潰れた状態であった。恐らく事件当初に搬送に駆り出されたのだが、中で感染者が暴れたのだろう。
......それだけではないか。
救急車両の他にも乗用車も何台か見受けられる。救急車両を待ちきれずに病院へ家族や恋人等を運ぼうとしたのであろう。
病院前に着いた私は、一先ず外回りの安全確認する。仕掛けをしている最中に大勢押し掛けられのであってはたまらないからな。
外回りの安全が確保されると、彼はゆっくりと入り口に近づき、壁にもたれかかると、ポーチからマグライトを取り出す。
室内を少し確認し、流れるように病院内へと突入。ローライトテクニックをを駆使し、ロビーを見回す。
荒れてるな。これだけの荒れようを見ればここでどんな悲惨なことが起きたのかは一目瞭然。
割れたテレビ。無造作に倒れている棚やテーブル。不規則に点灯する蛍光灯。至るところに転がる死体。欠損が激しく、食い荒らされた跡は痛々しい。
グジュ......グジュ......。
私から見て左手の方向。受付の中から聞き慣れた音が耳に入る。
肉を引きちぎる音とそれを噛み砕き租借する音。死臭とうめき声と共に音はやってくる。
「ふん......」
拳銃とライトを構えながら足音を立てないようにゆっくりと近づく。
受付の中を除いてみると案の定、ゾンビ共が死体に群がり一心不乱に肉にありついていた。
食われているのは恐らく若いナースであろう。恐らくというのは、年齢が分からないほど食い荒らされているが、残った皮膚の肌の質から見てそう見えただけのこと。
ナースの死体は手足が千切られており、腹部は捌かれ内蔵が露出。はだけた胸元から乳房も見えているが、片方は食い千切られている。
ナースの周りにいるゾンビは5体。肉に夢中になっているのか、彼の存在には気付いていない。
「不愉快だな」
ゾンビの頭を銃口でなぞりながら射殺していく。撃ち抜かれた脳は射出口から飛散しながら飛び出す。床にぶちまけられた脳將は腐りかけなのか酷い臭いだ。
しかし、悲鳴の一つも挙げないとは。やはり死体を嬲ってもつまらんな。ソ連時代にしていた拷問のほうが遥かにましだ。
ウー......。
またあのうめき声だ。銃声に引き寄せられたか。振り替えると、診察室、ロビーに横たわっていた死体や病院の奥からもゾンビ共が此方によろよろと近づいてきている。
マグライトをポーチにしまい、代わりにサバイバルナイフを抜く。ソ連時代から使い込み、多くの人間の血を吸ってきたナイフ。
手始めに一番距離が近かったゾンビに接近し、顎からナイフをつく。ただの人間相手ならば、何度も小刻みに切りつけた後に急所をつくのだが、回避動作をとらないゾンビには不要。
力一杯突き刺したナイフを抜き取ると、血がゆっくりと流れ落ち、膝から崩れたゾンビは起き上がることはなかった。
病院の奥へ奥へと走り出す。通り過ぎざまにゾンビ共が掴みかかろうとするが、私のスピードの方が遥かに速く、掴みかかる手は何も掴めず空をきる。
全てを相手にしていたはキリがない。進路の邪魔をするヤツだけ始末する。
拳銃とナイフの両方の武器を使い分けながら、彼はゾンビの大群の中央を突破していく。
その動きに恐れや迷いはない。
彼は一つの扉の前で立ち止まる。扉を開き次の部屋に侵入。彼を追ったゾンビ達は閉められた扉を何度も叩くが、頑丈な扉は破壊されることも開かれることもない。次第に諦め散っていくゾンビを達。
彼が侵入した扉ら診察室に続く通路になっていた。やはりここにも死体は幾つも転がっていた。この病院には生存者はどうやら皆無のようだ。
先ずはここだな。
私は一旦銃とナイフをホルスターに収め、背負っていたバックを下ろし、爆弾を目の前の死体に仕掛ける。
ゾンビに襲われ死んだ人間がゾンビ化するのは個人差がある。早い者は死んですぐにゾンビ化する。外傷がなくとも空気感染や汚染された水場にいても感染し、ゾンビ化する。
空気感染者の変異は共通して遅い。もっとも初めから死んでいたり、よっぽど死にかけていなければゾンビ化はしない。もし、健常者が空気感染するのならば、私もとっくにゾンビ化している。
この場所であらかた仕掛けが済むと、彼は次の部屋へと進む。
奴等がどのうな反応をするのか楽しみだな。仕掛けた中には子供の死体もあった。目の前で見てみたかったが、あくまでも寄り道。
最後の爆弾を仕掛け終えると私は奴等が来たときにアナウンス出来るよう、ナースセンターへと向かう。
室内は荒れてはいるものの、ゾンビの姿はなく、死体もない。
アナウンス用のマイクの前に仲間から剥ぎ取った無線機の一つを置く。周波数は変えてある。
さて、これで全ての準備が終わったな。屋上で奴らが来るのを待つこととしよう。
病院内の地図を頼りに前に進む。ある程度進み非常階段を発見。階段から屋上へと外へと出る。
外は天候が悪化し、雲がかってきた。期限まであと1日と少しか。
「動くな!」
病院の屋上にある貯水タンクの影から、黒いつなぎにタクティカルベストを着用した男が一人現れる。手に持つのはMP5短機関拳銃。
銃を構え、近寄る男。その傍らには狙撃銃が置かれていた。
「その格好......貴様はU.B.C.S.だな?」
「そちらはU.S.S.と見受ける。こんなところで何を?」
「その質問に答える必要はないな。貴様こそここに何のようだ?」
どうやら私はあまり人に好かれる質ではないようだ。初対面だというのに冷たいものだ。
彼は自然に振る舞っているが、その眼は狂気に満ちており、U.S.S.の隊員に気付かれぬよう、いつでもナイフを抜ける準備をしている。
「チームが全滅してしまってな。生存者がいそうなところをしらみ潰しに回っているのだ」
「ここに生存者はいない。とっとと去れ」
何かの任務中であるようだな。何にせよ、U.S.S.にこそこそ動かれても今度は此方が動きづらくなる。
「あぁ、そのようだな」
『こちらヘリパイロット。病院が見えてきた。間もなくそちらにつく。
無線の通信に気をとられたU.S.S.の男の一瞬の隙を私は見逃さなかった。即座にナイフを抜き、投剣術でナイフを投擲。コンマ何秒の出来事に男は対応できない。
ナイフが喉元に刺さり、短いうめき声を挙げ、棒のように前方に倒れると男は動かなくなった。
「確かに生存者はだれもいないな。私を除き」
私は倒れた男に近づき死んでることを確認。その後、使えそうな装備を剥ぎ取る。
『どうした? 応答せよ』
無線機を奪い、死んだ男の代わりに応答する。
「配置に着いた。問題ない」
返答すると同時に銃声が鳴り響く。どうやら何事もなくたどり着けたいたみたいだな。奴等がヘリから何を受け取るかは知らないが、プレゼントは受け取れないだろうな。
『お忙しいところすいません。少しよろしいでしょうか?』
あの男から再び通信が入った。
「何のようだ?」
『あなたは現在ラクーンシティ第2病院にいますね?』
「なぜわかる?」
『街の監視カメラからあなたがたの位置は把握済みですよ』
私を見張るつもりか。見くびられたものだ。
病院の屋上の監視カメラは確かに作動しており、ずっとこちらを捉えている。
「それで用件は?」
『今U.S.Sが街の通信機能をダウンさせるための任務で動いています。そしてその病院のヘリポートでEMP装置を輸送ヘリから受け取ることになっています。しかし、私達からすれば彼等の任務が成功してしまうと困ってしまうのですよ。あなた達の監視は勿論のこと、各施設で眠るB.O.W.が全て解き放たれてしまう』
「B.O.W.は全て投入するのではなかったのか?」
『全てではないですよ。一部のB.O.W.をこんなところで使い捨てるわけないじゃないですか。B.O.W.の回収のための別動隊もそろそろ到着するはずです。なのであなたにはU.S.S.の行動を妨害してもらいたいのです。勿論この件にも謝礼は出しますよ』
「その言葉を忘れるなよ」
奴からの通信が切れる。私は頃合いを見計らい、携帯で爆弾を起動させる。
「こんにちわ。U.S.Sの諸君。私を覚えているかね?」
所持している無線機のスイッチを押し、送話を開始する。生憎、送話専用であるため、向こうの言葉は聞こえてこない。
「不運なことに私のクライアントは君達に計画を邪魔されることをご所望ではないようだ」
送話を続けながら私は、男が用意していた狙撃銃に弾を装填し、スコープ越しにヘリを捜索する。
「私が直接相手をしてあげたいのだが、私にも色々あってね。代わりと言ってはなんだが、ちょっとしたオモチャを用意させてもらった。存分に楽しんでくれたまえ」
見つけた......
間違いない。あれがEMP装置を積んだヘリだろう。ご丁寧にアンブレラのロゴマークが付いている。しかし、まだかなりの距離がある。もう少し引き付ける必要がある。
私は更に狙いやすい位置に移動すべく、隣のビルへと飛び移った。幸いにもビルどうしの距離があまり離れていないこともあり、上手く飛び移れた。
その際に邪魔になった余った爆弾のバックは置いてきた。あれも、いいタイミングで爆発させればU.S.S.の妨害となろう。
狙撃銃の二脚を広げ、ビルの縁に立て射撃姿勢を取る。勘で大まかな距離を計り、スコープを3クリックほど右に回し、像を移動させる。
安全装置を解除し、ゆっくりと引き金に指をかける。
12.7mm弾の発砲の衝撃がストックを通して私の体に掛かってくる。衝撃緩和材が組み込まれているとはいえ、ある程度の衝撃は体にくる。
膨大な発射ガスはピストン環を通り遊底を後退させ、マガジン内の弾はバネの力で薬室に送られ、後退した遊底のバネの戻る力で薬室に装填される。
ヘビーバレル内から発射された弾はライフリングしながらヘリに着弾。そのまま操縦席のガラスを突き抜け、パイロットに命中。パイロットを失ったヘリは回転しながら街の中に墜落。
ヘリの爆発を目視で確認すると私は、残った爆弾のスイッチを入れ爆弾を起動させた。火柱が上がり、病院の屋上が崩れていく。
それを見届けながら私はヘリの墜落現場へと向かうこととした。