Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S   作:オールドタイプ

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Mission report 07 AM08:00i Racoon mall

 September 27th. AM0800 Raccon mall(ラクーンモール).

 

 事件発生から一夜明けた9月27日。舞台はラクーンシティ内のモールへと移る。

 

 ラクーンモール。本来のあるべき姿は家族連れや、色恋馳せるカップルで賑わう場所である。

 種類豊富な、市民のニーズに答えるべく完成されたばかりのモールでは連日、多数の顧客で埋め尽くされていた。そう、事件当日も。

 天井から地上まで吹き抜けになっているモール。各階ごとに店舗の系統が異なり、一階は主に食品群。二階~4階までは女性服。五階から六階は男性、紳士服。7階~八階はレストラン。

 ラクーン市街の中腹部に位置するモールの立地条件は恵まれていた。また、近年稀に見るラクーンシティの発展に際して、市外からも多くの店舗がラクーンシティに進出していた。

 

 開店初日から大いに賑わっていたモールは幸先の良いスタートを切ったと言えよう。収益は常に黒字。年間の売り上げは街の発展へと繋がる。一、二年経ってもそれは変わらなかった。

 そんなモールの最初にして最後の不幸が、今回の事件である。

 

 ガラス張りの奥に陳列されているはずの商品棚。そこにあるのは乱暴に、滅茶苦茶に荒らされた商品が転がっている。

 破壊された窓ガラス。破壊痕には血糊がこびり着いており、それは至る店舗にも見受けられる。

 無惨に砕け散ったガラスの破片を掃除する者は誰もいない。荒らされた店内には"人影"もない。

 それでも、店そのものは開店時間から変わらない。今も館内アナウンスとBGMが淡々と流れ続ける。

 

 人の代わりにモール内を闊歩するのは人ならざるモノ達であった。

 

 血肉を求め、いつまでもさ迷い続ける。決して満たされることのない欲求に付き従い続ける。何時までも.....何時までも.....

 

 そんな異形のモノ達を除き、閑散としたモール内で活動する者達がやってきたのは、事件から数時間経った前日の事だった。

 

 変わり果てた、市民の憩いの地にショックを受ける生存者達。モール内を蠢くモノ達にしろ、モールその物にしろ、生存者達の存在はそれはそれは大歓迎するべき存在であった。

 

 逃げ込んだ先が安全とはかけ離れた危険な場所であるにも関わらず、生存者達がモールから逃げ出さなかったのは、外がそれ以上に危険であったからである。

 

 死人とは別の"恐るべき存在"。そんなモノが野放しにされている外よりも、建物に閉じ籠る方が余程安全だと思ったのであろう。ここは、他に比べれば、幾分も隠れる場所も、水や食料もある。籠城するにはうってつけだったのだ。

 

 迷い混んだ生存者は、顔見知りであるものもいれば、全くの他人であるものもいる。どちらかと言えば、そのほとんどが初対面である。

 偶然逃げ込んだ先で鉢合わせた生存者達。それぞれが、それぞれの思想や価値観を持っているため、意見の不一致や、衝突は致し方がないこと。

 

 しかし、不条理の現実が生存者達を結託させる。一人一人が力を合わせ、懸命に生き残るべく協力をするようになった。

 

 スポーツ用品店や工具点から道具を拝借し、極力危険を避けながら生存者達は一階から7階まで移動し、その階全体を避難場所として確保していたのだ。

 

 7階に居座る先客を排除した生存者達は7階に続く階段のシャッターを閉鎖し、完全に孤立させる。

 

 十数名の少人数であれば、七階一つだけでも広すぎるスペースである。足りない物品等はその都度シャッターを上げ、その階に赴き、物品を頂戴し、また七階に戻ってくる。そうしながら、生存者達は初日を凌いだのだ。

 

「~~~♪」

 

 the force floor toy department(4階玩具売り場).

 

 現状の惨劇に似合わない鼻唄を交じえながら、キックボードを走らせるのは10歳ぐらいの年齢の少女。

 少女は玩具売り場の隅から隅まで、空いたスペース上を思う存分にキックボードを走らせている。

 既にこのフロアは生存者達によって安全が担保されており、少女の遊び場として機能していた。

 少女が走らせるキックボードは売り物であるが、少女を咎める大人は誰一人としていない。

 

「サラ、そろそろ戻るぞ」

 

 玩具売り場の入り口から少女に声を掛ける一人の男性。少し腹が出ているのが特徴な男性は両手に衣類を入れた袋をぶら下げている。

 

 サラと呼ばれた少女は床を蹴る足を止め、声を掛けてきた男性の元に駆け寄る。

 

 朝日に照らされる通路を歩く少女と男性。安全が確保されたとはいえ、ここは惨劇の最中にあった場所であり、その時の惨状を物語る血痕等は残されている。

 

 生存者達の手により、遺体等は極力丁重に扱われたが、全てを綺麗にすることは叶わない。

 

 何かを思い伏せる気難しい、思い詰めるような表情をする男性。少女も男性の太股付近にしがみつき未だに怯える姿を見せる。

 

「俺だ、開けてくれ」

 

 上階に続く階段の前に着いた二人は、固く閉ざされたシャッターの前で立ち止まる。男性が軽くシャッターを小突きながら声を上げると、ゆっくりとシャッターが内側から上げられていく。

 

「無事か?」

 

 シャッターの奥には小銃を構える二人の男性がいた。一人はチェック柄の服に身を包んだ30代後半の眼鏡を掛けた男性。もう一人は帽子を深く被り、黒色のTシャツに緑色の迷彩ズボンを履いた日系の若者である。

 

「必要なモノは持ってきた。俺もサラも異常はない。だから銃を下ろしてくれ」

 

 顔を見合せ銃を下ろす二人。二人の間をすり抜け男性と少女は階段を上がっていく。その二人を追うようにして銃を持つ二人も階段を上がっていく。上がる前にチェック柄の服を着た男性が、再びシャッターを下ろし、道を封鎖する。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 the seventh floor restaurant area(7階レストランエリア).

 

 戻ってきた4人はある一つのファミリーレストランの中に入っていく。

 室内は当初の面影を残すことなく改造されており、一軒家のリビングのようになっている。

 家電販売店から借用したテレビと電線ケーブル。長く添長された電線ケーブルに繋げられるテレビ。その画面に映るのは、愛くるしい姿をした動物のキャラクター。

 悪戯好きのネズミを追い掛けるネコのアニメ。国内でも有名なアニメである。

 それを映し出すテレビに釘付けにされているのは当然幼い子供だ。

 先程の少女よりも幼い男児と女児。幼いが故に事件の全体図が把握出来ていないのか、映し出される映像を前にキャッキャしている。或いは、幼いが故の幸いなのかもしれない。

 

「戻ったぞ」

 

 戻ってきた4人に反応するテレビの前の子供達。少女がテレビ画面に気づく。少女も映し出されるアニメのファンである。

 

「ずるい!」

 

 一目散にテレビの前に居座る少女。その両脇を挟むようにして二人の子供もテレビへと視線を戻す。

 微笑ましそうに子供達を見る男性。彼はしばらくもしない内にレストランの奥へと、厨房へと足を運ぶ。

 奥に居たのは、毛布の上に寝かせられた手足を怪我した兵士達と、その看病をする年老いた男性と女性達であった。

 

「薬はあったかね?」

 

 初老の男性が小太りの男性に歩み寄る。小太りの男性は厨房のテーブルにぶら下げた袋を置き、中身を無造作に広げる。

 

「市販の薬だが、無いよりはましだろう」

 

 衣類の他にも男性は医薬品を集めていた。負傷した兵士達の治療の為に。

 

「あぁ、充分だ」

 

 広げられた医薬品の中から消毒液と包帯を持ち出し、慣れた手付きで巻かれている包帯を変えていく。

 初老の男性の趣味は登山。その一環で応急処置の講座を受講していたのだ。

 

「命に別状はないのだが、血が止まらない。傷も深くないから出血も浅いが、一刻も早く血を止めなければ命に関わってくる」

 

 応急処置の知識はあっても、詳しい医学の知識はないため、簡単な処置しか出来ない。残念なことに生存者の中に医者はいない。

 

「すまない.....助ける側が助けられる側に回るとは.....」

 

 手当てを受ける兵士の一人がそう呟いた。

 

 彼等は深夜になってこのモールへとやって来たのだ。その時既に手傷は追っていたものの、何とかここまでやって来れたのである。

 それよりも前にやって来ていた生存者達の手助けを得て初日を乗り越えることが叶った。

 

「こんな非常事態だ、気にすることはない」

 

 作戦開始から休む暇もなく行動していたU.B.C.S.にとって、僅ながらであるが、休息を取れるのは願ってもいないことだった。

 

「困ったことがあれば何時でも頼ってくれればいい」

 

 正直なところU.B.C.S.の隊員達は市民の生存に対して絶望的に捉えていた。まともな訓練を受けてきた自分達でさえ、危機的状況に陥らざる得ないでいる。となれば、軍事的な訓練を何一つ受けたことのない一市民が生き残れているはずがないと。

 しかしながら、現実に市民達は少数であるが生き残っている。もしかすれば、ここにいる者達と同様に生き残っている市民が多数いるのかもしれない。

 どちらにせよ、彼等は類い希な市民の生存能力を高く評価している。

 

「ふん、そいつらの言う通りだ。私達を助けに来た軍隊がこの体たらくでどうする。こいつらも余り期待できないな」

 

 生き残るためには協力しなければならない。しかし、中には余り協力的でもない者も存在する。隊員や他の生存者と同じく厨房に居合わせていた老人がU.B.C.S.の隊員に対して軽口を叩く。

 

「じいさん止めろ。こんな非常事態に場を乱すような軽率な発言は止してくれ」

「いや、そこの老人の言う通りだ。我々は失態を重ねた。信用出来なくて当然だ」

 

 自らを自虐する隊長格の隊員。彼の部隊は彼を含めた3名しか残っていなかった。

 その上、部下が死んでいくのを自分のせいだと思い詰めているのだ。

 

『なぜヘリを戻さん!』

『これ以上は無理だ! 諦めろ!』

『隊長.....私達は見捨てられたのですね.....』

 

 そこまで思い詰めるのには理由がある。

 

 それはかつて、その隊長自身が経験した苦い過去が原因なのだ。

 ベトナム戦争後期。とある作戦に従事していた彼は、戦闘地域から脱出するためにヘリを要請するするべく、通信可能地域に数名の部下と行動。他に行動していた部下は安全なエリアで待機させていた。

 戦闘地域近辺であることから、大人数での行動は控え、少人数で行動する必要があった。

 そして到着したヘリに乗り、護衛のヘリと共に仲間を迎えにいく算段だった。ところが、現実は違った。

 彼の部下が待つ目的地周辺にゲリラが多数移動していた。そのことを掴んだ軍の上層部により、全員ではなく、その場での可能な限りの人員のみを脱出させることにしたのだ。

 結果、不本意とはいえ、彼は部下を置き去りにすることになってしまった。残された部下の結末は見るも無残。彼の中で、最悪な出来事として刻み込まれてしまった。

 

 今回のラクーン事件でもそうである。彼は傷ついた仲間を置き去りにしていた。それは部下の方から「自分は足手まといになるから置いていってくれ」と懇願されたのだ。

 

 まだ健在な仲間もいた。苦渋の決断だった。

 

 彼は部下を置き去りにした。

 

 だが、結局のところ部隊は壊滅。自身も傷つくことになる。しかし、彼は現在手厚い扱いを受けている。その事がより一層彼を苦しめる。

 

 "決して救えなかったわけではない。自分は救おうとしなかっただけである"

 

 当時、彼の中に渦巻く心情はそれだけだった。

 

 そして、それはこの街でも再び起こってしまった結果であった。

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

  .....悲鳴と銃声の音が減ってきている。恐らくこの街にもう安全な場所はほとんど残ってはいないのかもしれない。

 

 私は"あの日"以来忠告し続けた。だけど、誰も"私達"の言葉に耳を傾ける者はいなかった。まとめ上げた書類も署長に棄却された。

 

 ラクーンシティはアンブレラと共に繁栄した街。運命共同体とも言えるアンブレラに不利になることを取り上げられるのは目に見えていた。

 

 この街での新たな調査が望めなくなった仲間達は、それぞれ、アンブレラと所縁のある地へと旅立ち独自に調査を始めた。

 

 そんな中、私ともう一人の仲間はこの街に残り続けている。残念ながらもう一人の仲間は調査目的ではなく、あの日の出来事を忘れたくて仕方がなく、残る理由も安全でいたいからである。

 

 だが、この街は安全ではなくなくった。事が大きくなる前からそれは解りきっていたこと。その仲間も当然その事は解っていた。けれども、彼はすっかり臆病になっていた。メンバーの中でも気が弱い方ではあったが、あの日がそれを更に増進させた。結果、彼は踏ん切りが着かずに街から逃げそびれてしまった。

 

 

 直接的ではないとはいえ、"あの体験"をした彼が易々と死ぬとは思えない。きっと今も生き残っているはず。

 

 

 私達との関わりを絶った為、連絡手段はないが、私はそう信じている。

 

 ではなぜ、私がこの街にしがみ続けているのか....勿論アンブレラの調査の為ではあるが、自分が生まれ育った街に差し迫る脅威を無視して脱出することが出来なかった。調査を続ける中で一人でも多くの人に真実を訴え、街から脱出させたかった。

 

 しかし、それも叶わぬ夢と化した。

 

 そして、調査を続ける私達に署長は事前通告無しの調査取り止めと、休暇の下令を下した。

 

 メンバーのほとんどが"あの日"の"あの洋館"で死去したため、チームは解散。生き残った私達は別の科へと配属された。科の仕事をこなしながら独自に調査をしていたわけだが、とうとうそれも出来なくなってしまった。

 

 休暇とは名ばかり。事実上の停職。それも無期限の。大方アンブレラからの指示であろう。それを証拠に見張りらしき者達が私の下宿周りを彷徨いていた。

 

 だが、今はもういない。状況が状況なだけに、私の見張りどころではなくなったのだ。

 

 

 普通の限られた生活の中でも私は僅かな手掛かりを求めた。国際ニュースや医療雑誌。はたまたは政治までに。

 

 その中で私はアンブレラとのパイプの幅広さを突き付けられた。政治家の議員の中にはアンブレラの株式を保有する者がいた。医療関係は言わずもがな、軍事においてもアンブレラの息は掛かっていた。個人装備品の医療器具をはじめとした武器の研究。

 

 私は改めて自分が相手にしている敵の強大さを痛感した。世界を取り巻くアンブレラを数名の個人が歯向かうのは正に自殺行為である。

 

 だけど、私は、勿論仲間達も諦める訳にはいかない。例え敵がどれほど強大であれど、戦い続ける覚悟は出来ている。死んでいった仲間や、これまでに犠牲になった者達の為にも。

 

 

 

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

  September 27th. Racoon Park(多目的公園)

 

 ラクーンシティ中心街に位置する公園。付近のラクーン動物園近辺にあることから、カップルや親子連れ、老夫婦など幅広い年齢層が利用する。公園の北側には穏やかな河川と桟橋が掛かっており、川に生息する水性生物や水鳥等が見られる。南側にはアスレチック遊具などの子供に人気の遊び場。西側にはローラースケートや、スケートボード用のエリアがある。そして東側には種類豊富な花等の植物が生い茂っている。

 

 現在の利用者が口にするのは、ランチバスケットの中のサンドイッチではなく、人間だったであろう肉塊。

 

 一心不乱に死体に群がっては生肉を貪る死者達。

 

 そんな数体の死者の頭にできる風穴。痛みを感じることもなく、死の恐怖を感じることなく、死者は死体の上に重なるようにして倒れる。

 

「.....今ので弾が切れた」

 

 スリングに繋がれた小銃M16を芝生へと捨てるU.B.C.S隊員。

 

 弾が無ければ銃は只の鉄の塊でしかない。訓練を積んだ彼ならば銃床打撃による接近戦は容易であるが、死者相手にその効果は薄い。

 

「もう何体殺したかわからん」

「スコアは同点といったところか?」

 

 スコア稼ぎ。作戦を続ける中で次第に焦燥しきった彼らはそう称して死者を葬る遊戯に更けていた。

 

 たった、2日であるが、最早彼らにとって『死』はありきたりの日常と化していたのであった。それは兵士として戦場にいたときよりも。

 

 そんな日常に慣れた彼らであっても、やはり生きた人間。知らぬ内に疲労は蓄積されている。

 

「結局たどり着けたのは俺とお前だけか」

 

 彼らの小隊は市庁舎近辺に降下。ところが予想外の死者の群れに部隊は散り散りに。最後に無線で通信した際に小隊はこの公園に後日集合する予定となっていた。

 

 その集合時間を過ぎても他の隊員が現れない。つまりはそういうことなのだ。

 

「......どうする?」

「ダメ元で仲間に呼び掛けてみるか?」

 

 何度無線での通信を試みても、誰からの応答がない。単なる無線の故障ではない。U.S.Sによる妨害工作。生存者の脱出させるつもりなどないアンブレラ側による工作である。

 当初の予定よりもU.B.C.Sが生き残っていることに驚いたアンブレラ上層部の策。

 

「結果は変わらんさ」

 

 チェストリグのポーチから取り出した煙草で一服する隊員。無線を持つ隊員は溜め息をつきながら通信を試みるのであった。

 

「『こちら市庁舎降下チームE小隊の生き残りだ。現在公園にて休息中。付近に生存者がいれば合流されたし、オーバー』」

 

 暫くの間無言で交信を待つが、やはり無線機からは返事が返ってこない。肩透かしを受けた隊員は無線を定所のポーチに格納。もう一人の隊員はケースから新たに取り出した煙草に火を着けるのであった。

 

「『......ちら......小......。無線を......確......た』」

 

 煙草を吹かす隊員が無線を持つ隊員の元に飛び付いたのは言うまでもない。

 

「繋がったぞ!」

「あぁ! どうやら他にも生存者はいるようだ」

 

 生存者の仲間の存在を確認できただけでも、僅かながらも二人に希望の兆しが見えてきたのである。

 

「『感度不良。再送願う。オーバー」』

「『此方は現在3人だ。現在地はラクーン大学近辺だ。そちらからどれぐらいの位置かは不明だ』」

 

 二人は観光案内所で入手したラクーンシティの全体図を広げ無線越しの仲間の位置を特定する。確認が取れた所でお互いの位置をペンでマーキングし、進路を幾つかピックアップする。

 幸運なことにラクーン大学から二人のいる公園までは10km圏内の位置であり、徒歩での合流はそう難しくはない。

 

「『此方は二人だ。ほんの数分前まではもう一人いたがな。お前達のいるところから、約8km程度の距離だ。大学を出たら南東に真っ直ぐ向かえばいい。途中で障害が発生したら言ってくれ、此方でナビする』」

「『準備が整い次第そちらに合流する。それまで無事でいろ』」

「『期待して待ってる』」

 

 通信終えた二人の前に、通信中の声に呼び寄せらた死者が集まりつつあった。仲間の生存という希望を得た二人にとって、10弱の集団は大した障害ではないと言えよう。

 小銃を失った隊員はホルスターからCZ75を抜きスライドレールを引く。もう一人の隊員もG3小銃の古いマガジンを抜き、新しいマガジンへと入れ換えるタクティカルロードを済ませる。

 

「仲間を迎える前の掃除といくか」

 

 わかっていることかもしれないが、この無線の交信は偶然ではない。行われるべくして行われた必然。彼らは気づいていない。公園内に設置されている監視カメラに自分達が映されていることを。また、映されているモノを誰が見ているのかを。

 

 

 コーヒーを啜りながら大画面に映し出される映像を見つめるアンブレラ上層部の重役達。映し出さている映像は公園内のU.B.C.S.隊員だけではない。街全体......今現在の判る範囲の全ての生存者の動向が彼らの瞳に写り込んでいる。

 彼らは今後投入されるB.O.Wの性能及びデータ採取の為に生き残っているU.B.C.S.を集結させようと目論んでいた。生き残っているU.B.C.S.隊員の戦闘力を基準とする実地テスト。それだけ生き残りの隊員の戦闘力は十分であるということである。

 

 

 そんな彼らは、さも映画鑑賞のように、高見の見物というわけだ。フィクションではない本物の生死を賭けた攻防、逃走劇。フィクションであったとしても常人にしてみれば質の悪い内容。それを平然と見続ける重役達はラクーンシティの死者達以上の怪物とも言える。

 更に質が悪いのは、この映像元のラクーンシティにはアンブレラの工作員が何名も潜り込んでいる。その気になれば、彼らが気に入らなければいつでも遠巻きから介入することが出来るのだ。

 何もかもがアンブレラの掌の出来事。主導権を掴み続けるアンブレラにしてみれば何もかもが問題なく、滞なく進むはずであった。

 

 

 だが、彼らには先の"洋館事件"がある。そして、その生存者が未だにこのラクーンシティ内にいるのである。

 伊達に洋館から生存したわけではない。今も尚平然と一人であろうが生き延びている。早めに手を打つべきだったと内心後悔しているが、アンブレラには幾つもの切り札があり、既にそれは投入が決定されていた。

 そんな安心感を得ながらも、彼らは一抹の不安を拭いきれずにいた。

 しかしながら、アンブレラ上層部は見逃していた。洋館の生存者以外にもアンブレラの存続を脅かしかねない複数の生存者達の存在を。

 だが、その本人達も自分達がそのような存在になるとはいざ知れず、ラクーンシティでのサバイバルに明け暮れている。

 

 

U.B.C.S.生存者30名 死亡者90名


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