Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S 作:オールドタイプ
Mission report 06 AM08:00i Expectance
ラクーンシティにおけるU.B.C.S.の救助活動は建前である。
アンブレラとの繋がりが根強いラクーンシティ。アンブレラは事件が本格化する際に、警察消防関係各所に「私設部隊の導入」を伝えていた。
全ての原因、元凶は明るみに出ていない。アンブレラとしては事件以後のイメージダウンを避ける名目としてU.B.C.S.を派遣。
しかしかながら、アンブレラ上層部ですら事態の深刻化は予見できていなかった。
事態の収拾が早期に困難と判断したアンブレラ上層部は全てに見切りを付けた。そしてラクーンシティを一つの実験施設として見ることにした。
『B.O.W』の投入並びにU.S.S.による証拠の消去と隠蔽。
B.O.W。バイオ・オーガニック・ウェポンの略称であり、アンブレラが研究開発した生物兵器である。
表向きは大企業の製薬会社。健康食品、美容品、医薬品の中にアンブレラのロゴマークが無いものはないほど、内外に絶大なシェアを誇る。
だが、それも表の顔。アンブレラ創始者は表の顔ではなく、生物兵器の研究を主軸に置いた裏の顔をメインとしていた。
内外に絶大なシェアを誇る大企業。そんな大企業が裏で生物兵器等を研究開発しているなど誰も思わない。その為の隠れ蓑として、世界のアンブレラは必要であった。
更にアンブレラは政府との癒着も根強かった。裏で行っている実験、研究を政府は黙認していたのだ。その見返りとしてアンブレラは政府に自らの研究成果を送っていた。
世界の警察としてアメリカは常に他国よりも有利に立つ必要があった。
生物兵器。人知を越えた兵器はアメリカに取っては喉から手が出るほどの代物。
しかし、アンブレラは株式から成り立つ企業。常に利益を求めている。一定の顧客よりも、大多数の市場を求めていた。
アンブレラの株を握る人間は世界中にいる。その中には良からぬことを考える人間も当然いる。アンブレラとしては"そちら側"の人間の方が望ましい。
◆ ◆ ◆
27th September.08:00
アンブレラ本社。経営権を握る筆頭株主を始めとし、各部署のトップを朝早くから召集し、緊急の株主総会が開かれていた。
彼等はこの先の会社の方針並びに事件の全貌を机上で見据えようとしていた。
「既に承知のことかと知れませんが、ラクーンシティは既に機能を失っている。投入したU.B.C.S.では事態の解決は不可能」
「全く.....先の洋館といい、今回といい面倒事ばかり起こる」
ラクーン事件が起きる少し前からラクーンシティでは奇妙な事件が頻発していた。10人前後のグループが民家に押し入り人を食い殺す猟奇殺人。
犯人の身元、詳細全てが謎の事件。その他にもアークレイ山地と呼ばれるラクーンシティに近接する山道でも行方不明者が続出していた。
ラクーン市警は二つの事件に繋がりを見出だせていなかったが、アンブレラ上層部は二つの事件を繋げていた。
ラクーン市警特殊部隊。通称"S.T.A.R.S"の投入に際して、アンブレラは以前から潜ませていた工作員を使い、アンブレラの研究所の一つでもあった"洋館"の捜査を指示し、裏で支援もしていた。
だが、その結果はアンブレラの思い通りにはいかなかった。
工作員が失敗しただけではなく、洋館の全貌とアンブレラの事情を知った生存者を出してしまったのだ。
洋館は自爆装置により跡形もなく消え去り、物的証拠は全て消えたが、生存者を出してしまったことに上層部は懸念を抱ていた。
その後、生存者達は各地方に飛び、独自にアンブレラの調査を始めていた。小さな小蝿だが、アンブレラとしては不穏因子を孕んだ生存者の存在は疎ましかった。
その内の二人がラクーンシティに残っていることを掴んだ上層部は二人の始末を次いでに計ることにした。
「この二人が街に残っているとの情報がある。全ての生存者を始末する余裕はないが、この二人だけは何としてでも始末しなければならない」
ホワイトボードに大きくアップされた二枚のの写真が貼られる。二人の男女は洋館を生き残ったS.T.A.S.の隊員である。
二人の写真が貼られた途端に、会議室内の全員の顔が曇る。
「そこで我々はB.O.Wの投入を決定した」
二人の生存者を始末する為に、上層部は投入可能な限りのB.O.Wを投入し、抹殺を計ることにした。
「U.S.Sはアンブレラ施設の証拠の隠蔽と街の機能を混乱させる裏工作を指示している」
ラクーンシティにもアンブレラの研究施設は幾つもある。だが、どの施設とも音信が不通である。当然研究施設には知られたくない情報の宝の山となっている。その施設の処遇について迷うことはない。
街にはU.B.C.S.とは別の集団が別のタイミングで投入されている。
アンブレラ・セキュリティ・サービス。略してU.S.S。
U.B.C.S.をバイトと称するならば、U.S.S.は正社員と言える。U.B.C.S.とは違い、U.S.S.は常に会社を第一とし、その活動内容もU.B.C.S.と似て非なるものである。
「生き残っているU.B.C.S.はどうする?」
「放っておけ。所詮はならず者。死んだところで誰も悲しまない。安い命だ」
人命軽視。非人道的な実験も数多く行っているアンブレラにとって命の価値は非常に低い。アンブレラの実験対象となるのは金に釣られた人間や、アンブレラにとって邪魔となった人間や、社会的地位の低い者で占められている。
そのようなもの達は、アンブレラにとっても非常に都合がよいと言える。誰にも気にされることもなく、知らぬまま、闇へと葬られる。
「だが、只で散らすには惜しい。どうせ散らすならば、少しは此方の役に立って貰おう」
「U.B.C.S.にもB.O.Wをぶつけるのか?」
「少しでも研究の役には立つだろう。何よりもならず者集団が誰かの役に立つのだ。感謝してもらいたいものだ」
B.O.Wの投入はU.B.C.S.隊員は勿論、U.S.S.隊員にも知らされていない。これは上層部による独断である。彼等にとってU.S.SだろうがU.B.C.S.だろうが関係は無かったのだ。
「せめてU.S.S.には報せてやっても良かろうに」
「そんなことはどうでもいいことだ。重要なのは今後のアンブレラだ」
会社と自らの保身に走る彼等は企業の上層部の器に相応しい。いつの世も自らの保身と他者に容赦しない人間だけが、上へと上り詰める。当然ながらそんな者達の最期はそんな者達に相応しいが。
「そのことだが、おそらくアンブレラはここまでかもしれない」
「何だとっ!」
声を荒々しくし、机を叩きつける一人の重役。長くアンブレラに貢献してきた古手の一人だ。彼にとって会社は命と同等であるのだ。
「事件の全てを隠しきれない。U.S.S.からは政府の部隊と思える集団の目撃情報もある。我々としては会社の存続ではなく、我々がどう生き残るかを検討した方がいい」
アメリカ政府は事件の規模に鑑みて、アンブレラと縁を切ることにしたのだ。その上で事件の全責任をアンブレラへと押し付け、政府はこれまでのアンブレラとの繋がりを否定する気であるのだ。
「最悪の事態は、事件の全貌が明るみに出て、我々も消されることだ」
今アンブレラ上層部内では意見が二つに割れている。重役達の"アンブレラ存続"派と株主達からなる"アンブレラ切り捨て"派。
株主達はこの場に召集され、事件の説明を受けた段階でアンブレラを切り捨てることを思い付いていた。
アンブレラの実態が暴かれれば彼等の持つ株は只の紙切れとなる。事件の規模が規模である。到底隠しきれるものではない。
株を売却するのもそうだが、彼等は少しでも手元に残るモノが欲しかった。
「ラクーンシティ内の監視カメラの映像をハッキングさせてある。B.O.Wの映像を顧客達に見せつける。前々からB.O.Wを欲しがる客は多い。映像を見せ、有用性を示した上で、逃げ道とするべきだ」
株主の一人はハッキングに長けている者を抱き込み、ラクーンシティの監視カメラを掌握し、その映像を獲得。それらをB.O.Wを欲しがる者達にリークする準備をしていた。
全ての元凶である"T-ウィルス"がもたらすモノだけでさえ、欲しい者達からすれば莫大な価値のものとなる。その上オマケしてB.O.Wが付くのだ。欲しがる者達は益々釘付けになる。
「迷っている暇はない。今は一度身を引き改めて再建すべきだ」
株主達の主張に重役達も揺れ動いている。株主達が態々そんなことを言うのは、利益のためだけである。アンブレラのためではない。
現物を握っているのはアンブレラであり、それらの研究をしているのもアンブレラ。利益を生み出すためにも彼等は株主達には必要であるのだ。
「反対するものがいなければこれで決まりですな。私はさっさと帰らせて貰う。仕事があるのでね」
真っ先に会議室を去る30台半ばの男性。黒色のスーツ姿にオールバックに固められた金髪。つり目に角が丸い黒眼鏡をかけ、知的な雰囲気を出しつつ、やり手のイメージも抱かせる。
この人物が切り捨て派の代表であり、株主達は彼を主体としていた。
若くして経営コンサルタントとして手腕を発揮し、多くの企業の経営を起動に乗せ、資産を気づきあげてきた。そんな彼が目をつけたのがアンブレラであった。彼の手によりアンブレラは市場を拡大することも出来た。
「.....私だ」
迎えの車に座る彼の携帯に着信が届く。画面を開き通話ボタンを押す。携帯の先から怒鳴り声が響く。
『おい! 金なんかどうでもいいから俺をとっととここから出せ!』
怒鳴ってはいるが、声からは焦りと恐怖が滲み出ている。男は動じることなく、平常心で受け答えを始める。
「何を今さら。前金は十分に払った。報酬も魅力的だといったのはあなたの方だ。それをみすみす捨てると?」
『ふざけんじゃねぇ! こんなことだと知っていたら誰が首を振ったものか!』
「それは事態の予測が出来なかったあなたの思慮の浅さが原因。私のせいではない」
通話の相手はU.B.C.S.の監視員の一人である。彼はU.B.C.S.の監視員を買収し、彼等が集めた戦闘データーを会社とは別に独自で集めることにしていたのである。
ハイウェイを静かに走る車。車内も広々とし、ゆったりとした空間となっている。ラクーン事件の中心にいるU.B.C.S.とは違う。
男は機械的に淡々と会話を続ける。その言葉には監視員への情は見られない。
「良いですか、これはビジネスです。あなたは十分に納得し、私も十分に説明した。途中での放棄は出来ないと予め伝えてもいましたよ」
『ご託はいい! 早く出しやがれ!』
バカの一つ覚えのように駄々をこねるように街からの脱出を望む画面の先の監視員。そんな監視員に男は内心呆れていた。
「金に目が眩み、軍人としての生き方をすて、傭兵へと身を落としたにも関わらず、その金さえも捨て、傭兵としての生き方まで捨てるとは.....」
通話をしながら男は自前のパソコンを開き、ある画面を映し出す。その画面には異形の姿をした、多くのB.O.Wの詳細なデーターが乗せられている。
「あなたはまだほんの序の口しか見ていない。本番はこれからだと言うのに」
『ヘリを寄越せと言ってるんだ!』
「画面の奥から怒鳴られても何の脅しにもなりませんよ」
『ならば私が引き継ごうではないか』
携帯の先からは聞こえたのは会話相手の監視員の声ではなく、別の何者かの声だった。
『.....っ! 貴様.....一体なにし.....ぐぁっ!』
一発の銃声と監視員の悲鳴が男の耳に入る。暫くの間無言が続いた。そして、銃声を放ったであろう男が言葉を発する。
『あいつは腑抜けだった。あいつが集めたデーターは私が引き継ぐ。異論はないな』
「あなたですか.....仲間にも容赦はしない。噂通りですね」
男は先程の監視員の男以外の監視員と契約していた。男だけではなく、他の株主も同様に監視員を買収している。
『返答を聞きたいのだが?』
「えぇ、構いませんよ。相手が誰であれ目的さえ果たしてくれれば私は一向に構いません」
戦闘データーさえ手元にくれば、誰が持ち帰ったとしても男にとっては些細なことでしかない。正直なところ男は駄々をこねる監視員をどうしようか悩んでもいた。見捨てるのは簡単だが、監視員の男が集めたデーターを惜しいからである。
その矢先に別の監視員が現れ、彼を始末し、そのデーターを引き継いだ。男としてはそのことが有り難かった。
『それと提案なのだが、他の監視員ともあんたは契約しているのだろ? その監視員を始末し、そのデーターを私が回収。他の連中に支払う筈だった金を私が頂くというのはどうだ?』
常人からすれば悪魔のような提案だが、別の監視員の男の提案は株主の男の心を掴んだ。他者を平気で蹴落とす。協力しなけらば生き残れない惨劇の最中でそんなことが平気で言える監視員の男。
「構いませんよ。あなたが望む見返りを用意しておきます。あなたが私に相応のモノを渡せばね」
『契約成立だな』
「あぁ、あとそれからそちらに送る写真の人物を始末したら追加の報酬も支払いますよ」
株主の男は先程の会議でも話題に上がった二人の人間の写真を転送。洋館の生存者は株主の男にとっても邪魔者でしかない。
『了解した』
通話が途切れる。
その時を境に、ある監視員による監視員殺しが始まったのである。
U.B.C.S.生存者39名。死亡者81名。